インタビュー
プロも思わず楽しくなるツールの使い心地とは。RPG制作ソフト「SMILE GAME BUILDER」のサンプルゲーム「グランブーム国物語」制作者インタビュー
「グランブーム国物語」は単体でプレイできるだけでなく,「SMILE GAME BUILDER」で読み込めば内部データを書き換えることも可能だ。つまり,これからRPG制作を始める初心者や,より凝った使い方をしたいと考えているプレイヤーにとっての「参考資料」としての価値を持つゲームでもあるのだ。
グラフィックスや音楽といった素材は,プリセットとして用意されているものだけを使うという制約の中で,「グランブーム国物語」を作り上げたのは,数々のゲームソフト開発に携わってきた2人のベテランクリエイターだ。今回の配信開始にあたり,制作中のエピソードや「SMILE GAME BUILDER」の使い心地についてインタビューを実施した。
「グランブーム国物語 スマイルと目覚めし力」
グランブーム城の若き兵士・スマイルは,最年少で師範昇格試験に合格した剣の実力者。幼なじみの魔法使い・アリスとともにさまざまな人の頼みごとを引き受けていくうち,竜族の古代文明に潜む謎の核心へと徐々に近づいていく……。総プレイ時間が3時間前後で楽しめる正統派ファンタジー作品。
「SMILE GAME BUILDER」公式サイト
「グランブーム国物語 スマイルと目覚めし力」ダウンロードページ
3Dマップが簡単に作れる,レゴ感覚のRPG制作ソフト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
さっそくですが,「グランブーム国物語」の制作期間を教えていただけますか。
ざっくりと3か月間ですね。僕がお話をいただいたのが今年6月で,イベントの仕掛けなどで何ができるかを,吉村君に探ってもらうところからスタートしました。
4Gamer:
意外に短期間ですね。
折尾氏:
「ドラゴンクエスト」シリーズのときは,僕達がシナリオを書いてイベントを作ったら,そのためにイチからプログラムを組んでもらうという流れでしたが,今回はツールや素材に合わせて,何ができるか,何ができないか。それを知らないことには,書き出せないのが決定的に違う点でした。
4Gamer:
「SMILE GAME BUILDER」を使ってみた感想はいかがでしたか。
折尾氏:
僕はこういうソフトには慣れていないんですけど,ちょっと触ってみたら,何の説明も受けなくても簡単にマップを描けました。これまでの仕事だと,マップの仕様書を作成する際には,方眼紙に手書きしたり,のちに画像編集加工ソフトを使ったりしたものですが,「SMILE GAME BUILDER」ではツールで作ったものをそのまま渡したほうが早いということが分かりました。
吉村氏:
最初は機能が全部入っていなかったので,ちょっと大変でしたけど,途中からどんどん実装されたので,かなり楽になりました。
「SMILE GAME BUILDER」は3Dモデルを扱うツールですが,ゲームの開発経験がない人でも適当にいじっているだけで,それらしいマップができあがりますね。経験者だったら,すぐに「使えるマップ」が作れると思います。
こんな町(1枚目)を作ってくれと頼まれたので、こんな町(2枚目)を作ってみた。 #SMILEGAMEBUILDER pic.twitter.com/8mJTLr2cQN
— よっし〜 (@yossy_44) 2016年8月7日
折尾氏:
主観モード(主人公キャラクターの一人称視点)は途中で実装された機能でしたが,プレイ中に切り替えられるのがすごいですよね。同じゲームでも視点を切り替えると,まったく違う印象で遊べると思います。
吉村氏:
最初は「いい機能だな」って喜んでいたんですけど,イベントによっては主観モードだと,こちらが意図した演出を見せられなくなってしまうことがあるんです。
一切の視点切り替えをできないようにしようとも考えましたが,高い場所から主観モードで周囲を見回すだけでも楽しいんですよ(笑)。それをなくしてしまうのはもったいないので,「ここはどうしてもダメ」という場面だけ主観モードをオフにしました。
折尾氏:
以前からこの手のソフトを使っている人だと,もっと深い機能も欲しくなると思いますが,「SMILE GAME BUILDER」がターゲットにしているユーザーが望んでいるのは,そういう部分ではないのかなと。レゴブロックを積む感覚で作っては壊し,作っては壊しと,気軽にゲームを制作できるという意味では,初心者に最適だと思います。
もちろん,開発側には悩みもあると思うんですよ。簡単に制作できるのはいいけど,僕自身,マップを作り始めたら「こうしてほしい」という欲求が出てきたので,そういうものにどこまで応えるのか。
あとは,グラフィックス系ツールには共通の操作がありますよね。「Ctrl+C」(コピー)みたいなショートカットコマンドなど,そういったものが適用されるだけでも,ソフトの第一印象が良くなると思います。感覚的な部分が練り込まれていくことを,今後のアップデートに期待したいです。
“国民的RPG”の制作メソッドに準じたサンプルゲーム作り
4Gamer:
「グランブーム国物語」のシナリオ制作について,具体的にはどのような手順で進められたのでしょうか。
折尾氏:
中世ヨーロッパ風の世界に魔王がいるのか。その目的は世界を滅ぼすことなのか,自分のものにすることなのか,といったシンプルなところから入りました。今回に関しては「RPGのお手本」を作るわけですから,あまり奇をてらってもしょうがないと考えて,オーソドックスな作りにしています。
ただ,「魔王の存在」というところで,少しひねりを入れました。
吉村氏:
僕から折尾さんにお願いしたことは,「よくあるベタな仕掛けだけで作りましょう」と。ゲームとして楽しく遊んでもらうのも大事ですが,プレイヤーが中身を覗いたときに,どういう風に作られているかが分かるものでないと,お手本として参考にできないですからね。
プロのテクニックを駆使して,すごい仕掛けを用意しても,プレイヤーがそれを使おうと思わなかったら意味がありません。最初に「こういうことができます」というシンプルな例を提案して,そこから選んで組み立ててもらいました。
……それにしても,折尾さんのお尻になかなか火が点かなかったので大変でした(笑)。こちらは(折尾さんの)シナリオがあって,ようやく動ける立場なので。
折尾氏:
最初にプロットをざっくり作ってから,それに沿ってシナリオを書き始めるんですが,プロットの時点ではいいと思っていたところで,全然つじつまが合わなくなることがあります。経験上,こうなることは避けられないと分かっているのですが,今回は机の前でかなり手が止まってしまいました。ちゃんと考えてはいたんですよ(笑)。
吉村氏:
いざ折尾さんからシナリオを受け取ると,プロットの段階で「ここは簡単に作れそうだな」とあたりをつけておいたシーンに,まったく新しいエピソードが入っていることがありましたね。しかも,いろいろなキャラクターが動き回るようなシーンがいっぱいで。
4Gamer:
それは,ある意味で「共同制作の醍醐味」と捉えていいのでしょうか(笑)。
吉村氏:
シナリオを読んでいるうちは「面白いなあ」でいられるんですけど,自分が実装する段階になって「これは大変だぞ……」と我に返ったり。でも,楽しかったですよ。
折尾氏:
マップ作りも操作に慣れてきたあたりから楽しくなって,どんどん手を入れたくなっちゃいました。「このままではシナリオを書く時間がなくなる」と思って,街だけはシンプルな仕様で我慢しましたけどね(笑)。
もちろん,難しいことはできません。パーツのパターンを選んで,塗りつぶして,壁を縁取ったり,その高さを変えたり。それくらいですけど,パーツを並べること自体が楽しかったですよ。
4Gamer:
今回はマップ作成の比重が大きかったようですが,基本的な制作スタイルは従来と変わらなかったという感じでしょうか。
折尾氏:
RPGの場合は,「ドラゴンクエスト」シリーズに携わっていたときから,ずっと同じスタイルです。逆に言えば,この方法でしか作れない(笑)。
4Gamer:
そもそも,折尾さんはどういった経緯でシナリオライターになったのでしょうか。
もともとはゲーム業界とまったく関係ない仕事をしていました。その仕事を辞めることになって,次はどうしようかというときに,堀井さん(「ドラゴンクエスト」シリーズの生みの親であるゲームクリエイター 堀井雄二氏)がゲーム雑誌でアシスタントを募集していたんです。
「ドラゴンクエスト」は初代から「III」まで,それこそ寝る間を惜しんで遊んでいました。それで,「堀井さんに会ってみたい」という気持ちで,応募課題のダンジョンマップ,モンスターデザイン,当時の最新作だった「III」の感想文を送ったんです。すると,3か月後に連絡があって,いきなり「IV」のシナリオスタッフとして,毎週課題を与えられてはそれをクリアする日々が始まりました(笑)。
4Gamer:
なんとも家内制手工業的というか……。国民的RPGのシナリオは,そのようにして作られていたんですね。
折尾氏:
その当時から,一つ一つのエピソードを積み重ねて,大きな山に向かっていくという,僕のシナリオのスタイルはいまだに変わっていません。
ただ,今回の「グランブーム国物語」では現代的なRPGを意識して,冒頭の展開をデモ風に処理しています。キャラクターがオートで動いて,主人公の立場や人間関係を一気に見せているんですね。
かつては,ゲーム世界のキャラクターと話すことをプレイヤーが楽しんでいたので,ゆったりとした進行速度でも許されていました。今はセリフを飛ばしてゲームを進めたい人が多いですから,世界設定を伝える情報を最低限に抑えています。
制約の中でいかに理想を実現していくか
4Gamer:
「グランブーム国物語」の制作中は,データのスリム化や実行速度に関する最適化をどの程度まで考慮されましたか。
折尾氏:
シナリオの段階ではあまり考慮していませんね。あえて重くしたつもりはありませんが,とりあえず,やりたいことはすべて入れました。もし快適に動作しないのであれば,「SMILE GAME BUILDER」でゲームデータを読み込んで,住人を移動しないように設定するのも,一つの手です。住人を歩かせているのは,「立っているより,動いているほうがいい」という,あくまでも雰囲気作りなので。
4Gamer:
オーサリング担当の立場としては,いかがでしょうか。
吉村氏:
ものすごく意識しました(笑)。以前,とあるRPG制作ソフトのサンプルゲームを手がけたことがあるのですが,いまだに「動作が重い」と言われ続けていて……。
4Gamer:
そのときもスリム化や最適化を考慮しなかったわけではないですよね。
吉村氏:
もちろん! 事前の動作確認では問題がなかったんですが,いざ製品版がリリースされたら……。
4Gamer:
それは,確かに悔いが残りますね。
吉村氏:
しかも,今回は3Dモデルを使っているので,とくに気を使いました。たとえば,木が多くなると重くなるので,そのシーンの必然性と全体のバランスを考慮しつつ,なるべくまばらに配置するといった努力をしています。
折尾氏:
森のマップはフィールドを分割することで,不自然に見えない形での工夫もしています。木のパーツをたくさん並べたマップを吉村くんに渡したら,「重くて動きません」と言われました(笑)。
4Gamer:
それでは,ツールの標準的な機能を超えた処理という,逆の意味での最適化が行われたケースはありますか。
吉村氏:
「はい」「いいえ」のメッセージを選択する際に,「はい」を選ぶまで延々とループするという処理がありますが,標準のイベントテンプレートには用意されていません。これは「高度なイベントモード」でイベント配列をカスタマイズして処理していますので,ぜひ参考にしてもらいたいと思います
折尾氏:
街の住人の動きでは,初期配置を中心とした縦横3マス(周囲の9マス)しか動かないように指定したかったんですが,ツールにはその機能がありませんでしたので,別の方法で疑似的に処理していますね。
吉村氏:
最初は「無理だろう」と思ったんですが,重歳さん(「SMILE GAME BUILDER」ディレクターの重歳謙治氏)からアドバイスをいただいて解決しました。ただ,その方法は簡単です。
折尾氏:
それぞれの住人の周りに「見えない障害物」を配置して,囲っておくんです。その障害物を主人公が通過できるように設定すれば,事実上,住人の移動範囲を限定できるというわけです。
4Gamer:
非常に裏技的です。
折尾氏:
本来であれば,もっと簡単に移動範囲を指定できたほうがいいので,今後の機能拡張に期待しています。
4Gamer:
プレイヤーの創意工夫やアイデアにも期待できそうですね。
折尾氏:
「グランブーム国物語」の中身を見て,「こう作っているのか」「俺だったらこうするのに」という感想が生まれ,ツールを使いこなしていくうちに自分なりの工夫や要望が出てくるのが,最も望ましい形ですね。
ファミコン時代はメモリ容量が全然足りなくて,グラフィックスをシンプルにしたうえで,同じパターンを使い回すことでやりくりしました。開発側に「この仕様は入りません」と言われたら,その制約の中で実現する方法を探すしかない。これが大変なんですけど,ゲーム制作の中で一番楽しいことでもあるんですよ。
完成させる秘訣は「捨てる勇気」と「過程を楽しむこと」
4Gamer:
「SMILE GAME BUILDER」のようなソフトの登場によって,個人でも簡単にゲームを作れるようになりましたが,どのような感想をお持ちですか。
折尾氏:
僕がシナリオ制作に携わるより,ずっと以前のPCゲーム黎明期にまでさかのぼれば,たった1人の開発者がゲームを作り上げるのは普通のことでした。そこから徐々に1つの作品に関わる人が増えていき,分業制が定着していったわけですが,個人で気軽にゲームを作れるなら,大いに歓迎すべきですよ。
個人的には,短編集のようなシリーズ作品を定期的に作りたいと以前から思っていたのですが,昨今の制作ソフトはそういうニーズに応えているのかもしれませんね。
4Gamer:
規模の大小にかかわらず,1つの作品を完成させることは,個人開発者にとって大きな目標であり,かつ大きな壁となって立ちはだかっているのも事実です。
最後に,ゲームを完成させるコツというか,アドバイスをいただけないでしょうか。
ゲーム制作の現場では,楽しいことだけを考えていればいいわけではありませんが,こうしたツールが地味な作業を楽しくしてくれるのなら,クリエイター志望者の底上げにつながるでしょうね。
いきなり大作を作ろうとすると,おそらく挫折することになると思うので,まずは小さい街を1つ。そこに人を配置して,とりあえず会話できるようにすれば,そこからいろいろと広げられると思います。
面白いアイデアはもちろん大事ですが,何でもかんでも無理やり入れてしまえばいいというものではなくて,「この場面,この作品にそぐわない」と感じたら思ったら,きっぱり捨てる勇気も大事です。欲をかいてはダメですよ。捨てたネタは,次に使えばいいんです。「もったいない」という気持ちを消化できないと,作品が締まらないですし,完成しないんじゃないかな。
4Gamer:
なるほど。
吉村氏:
僕は,完成しなくてもいいと思っています。
4Gamer:
と言いますと。
吉村氏:
折尾さんがそうだったように,「SMILE GAME BUILDER」はマップを作っているだけで楽しいんです。だから,作ったマップのスクリーンショットをTwitterにアップして,みんなに見てもらう。それで「嬉しい」と感じたら,もう十分なのかなと。
さらに余裕があれば,もっと地形を作ったり,キャラクターを配置したり,それを動かして動画にしたり。そのうち,だんだんとゲームの形に近づいていくこともあるでしょうし。その過程が楽しめるのであれば,完成しなくてもやってみる価値はあると思います。
折尾氏:
「SMILE GAME BUILDER」に関しては,そのとおりですね。マップをイチから作るのも大変だと思ったら,「グランブーム国物語」の街をそのまま使い,キャラクターやセリフだけを入れ替えて,小さな物語を作ってみるのもいいでしょう。サンプルゲームには城,街,村が1つずつ用意されているので,それらを増改築していくのも創意工夫の一つだと言えるかもしれませんね。
4Gamer:
貴重なお話をありがとうございました。
「SMILE GAME BUILDER」公式サイト
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