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[GDC 2016]事情聴取の映像から真相を推理する革命的なインディーズゲーム「Her Story」のセッションをレポート
「Her Story」は,プレイヤーが購入した中古PC内で,1994年に発生した殺人事件について,1人の女性が事情聴取を受けている映像のクリップを発見するという設定で始まるゲームだ。死亡した男性の妻であったハンナ・スミスという女性が7回にわたって受ける事情聴取の様子が,271ものクリップに分けられてバラバラに保存されており,さらに警察側からの質問はカットされているという状態なので,プレイヤーは同時に見つけた聞き取り調書のテキストとにらめっこしながらクリップを並び替え,何があったのかを推理していく。
バーロウ氏は元々Climax Studiosというイギリスのデベロッパに在籍し,「SILENT HILL-SHATTERED MEMORIES-」などの開発にも関わっていたが,2014年に独立してからは殺人事件に絡む“ディテクティブ”(探偵)もののゲームを作るという構想のもと,警察の事情聴取やその手法に関する資料を半年ほど読み漁り,企画を練っていたという。
そうするうちに動画サイトに投稿される事情聴取の映像などを見る機会も増え,2008年にアメリカで発生したトラビス・アレクサンダー殺人事件で逮捕された元恋人についても詳しく研究することになった。事件当初,彼女は最愛の人を失った悲劇の女性として報じられていたものの,事情聴取中の休憩時間に,さっきまで泣いていたのと打って変わって,突然逆立ちを始めるなどの奇行がセキュリティカメラに映し出され,その様子がアメリカでもセンセーショナルに報じられた。
バーロウ氏は,「アメリカでの女性による殺人は全体の10%程度。そうした“非正常”とも言える事件が起こる理由に魅力を感じた」と話し,女性を殺人に駆り立てる動機や,それを隠そうとする事情聴取での芝居をヒントに,「Her Story」の骨格を作り上げていったという。
「Her Story」においては,必ずしもハンナが事情聴取で真実を語っているとは限らない。なのでセリフだけでなく,彼女の仕草,もしくは言葉の選び方や使い方といった,文字やセリフだけで語られない部分も,受け手側の需要な判断材料になる。事情聴取は文字化されたものだけを事実と認めるが,そのあたりもプレイヤーが受ける印象との乖離を生んでいくわけだ。
英語では,文章の背後に隠された意味を“subtext”(サブテキスト)と呼んでおり,古くはアーネスト・ヘミングウェイが考案した「氷山の理論」(The Iceberg Theory)にまで遡れるとバーロウ氏は話す。この理論は,「氷山で見えているのは8分の1のみ」という事実にストーリーを照らし合わせたものであり,作家は直接的なストーリーテリングだけでなく,見えない大きな部分を読者の想像に委ねることによって,より偉大な文学が作られるというアプローチだ。
余談だが,筆者はこれを映像論としても活用できると思う。例えば,厳しい演技指導で知られた昭和を代表する名映画監督の溝口健二氏は,女優の泣くシーンで「泣かない」演技を要求していたという。映画の観衆は,感極まって泣きそうになりながら,嗚咽がこぼれるのを必死でこらえる役者たちの内なる感情(サブテキスト)を想像し,そこに1つのストーリーを作り出せるというわけだ。
バーロウ氏は「Her Story」を作るにあたって,「プレイヤーの感情的な知性(Emotional Intelligence)で,サブテキストを想像させる」ことを意識したという。事情聴取の様子から“氷山で見えている部分”を読み取り,いかに見えていない部分まで想像するか。「Her Story」は,英語版しか用意されていないこともあって,日本のゲーマーにはハードルが高いかもしれないが,そのユニークなゲームシステムを体験してみてほしい。
会場では,バーロウ氏のデザインコンセプトに大きく感銘を受けている人達も見られた。分かりやす過ぎて記憶にさえ残らないストーリーデザインのゲームが少なくない中,「Her Story」の挑戦する姿勢が評価されたということなのだろう。
「Her Story」公式サイト
- 関連タイトル:
Her Story
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(C) Sam Barlow 2015