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AMD,新型ミドルクラスGPU「Radeon RX 5500」シリーズを発表。Navi世代初のノートPC向けGPUも登場
本稿では,AMDによる事前ブリーフィングで明らかとなった情報を整理してレポートしたい。
ミドルレンジクラスのNavi,Radeon RX 5500シリーズ登場〜ノートPC向け5500Mも同時に発表へ
Radeon RX 5500シリーズは,2019年7月に発売となった開発コードネーム「Navi 10」こと「Radeon RX 5700」シリーズの下位モデルに相当するGPUとなる。
製造プロセスは,Radeon RX 5700シリーズと同じTSMCの7nmプロセスだそうだが,Radeon RX 5700シリーズの製造に使った7nmプロセスよりも改善されたものとなっているとのこと。詳細は明かされなかったが,より高クロックかつ低消費電力で駆動できるプロセッサを製造できるように,進化しているという。
Radeon RX 5500シリーズは,開発コードネームが「Navi 14」で,総トランジスタ数は約64億個,ダイサイズは158mm2となっている。Radeon RX 5700シリーズは,それぞれ約103億トランジスタで,251mm2なので,だいぶコンパクトなGPUになっていることが分かる。
グラフィックスコアのデザインは,Navi世代ということもあり,いわゆるGCNアーキテクチャではなく,Radeon DNA(以下,RDNA)アーキテクチャとなる。なお,
なお,デスクトップPC向けのRadeon RX 5500も,グラフィックスカードメーカーが独自のオーバークロック機構を備えて製品化する場合もあるとのこと。このあたりは毎度のことなので改めて言うまでもないだろう。
以下のスライドは,デスクトップPC向けリファレンスカードと,標準的なノートPC向け版のスペックをまとめたものだ。
両GPUとも,Compute Unit(CU)数は22基で,総シェーダープロセッサ(SP)数も同じ1408基である。Radeon RX 5700は,CU数が36基でSP数は2304基,Radeon RX 5700 XTはCU数が40基,SP数は2560基なので,演算ユニットを大幅に縮小したわけだ。加えて,レンダーバックエンド(ROP)も半減しており,ROP数はRadeon RX 5700シリーズ(※32基)の半分である16基になる。
たしかにSP数は少ない印象を受けるが,7nm製造プロセスの採用で高クロック動作を実現していることもあり,5 TFLOPS前後の演算性能を発揮するのは重要な点だろう。5 TFLOPS前後というと,Polaris世代の「Radeon RX 570」くらいの性能をイメージするといいかもしれない。
ただ,5 TFLOPSの性能で4K/60fpsのゲーム体験は難しい。AMDも,Radeon RX 5500シリーズを「プレミアムなフルHD(1080p)ゲーム体験を提供するモデル」と説明している。
採用するグラフィックスメモリは,Radeon RX 5500,Radeon RX 5500Mともにメモリクロック14GHz(1.75GHz×8倍速)のGDDR6メモリを採用している。これはRadeon RX 5700シリーズと同一だが,メモリバスインタフェースがRadeon RX 5700シリーズ(※256bit)の半分しかない128bitなので,メモリ帯域幅も当然半分の224GB/sとなってしまう。
- 128bit×1.75GHz×8倍速(GDDR6)=224GB/s
スペックのスライドをよく見ると,グラフィックスメモリ容量はRadeon RX 5500Mが4GBで,Radeon RX 5500が8GBとなっており,2倍も開きがあるのに気付く。ただ,GPUコアそのものは同一なので,理論上はRadeon RX 5500Mでも8GBメモリの搭載は可能である。Radeon RX 5500Mのスペックは,あくまで一例のようだ。
ところで,スペックのスライドに書かれていない情報を質疑応答で確認したところ,Radeon RX 5500のTotal Graphics Power(以下,TGP),いわゆるグラフィックスカード全体の消費電力は150Wとのことだ。一方,ノートPC版Radeon RX 5500Mのほうは「各ノートPC製品によってまるで違う」と前置きをしつつも「目安としてのTGPは85W」とのことだった。
競合のGeForce GTX 1650を30%上回る性能
Radeon RX 5500シリーズは,Radeon RX 5700シリーズと同時に発表となったゲームプレイ時の入力遅延を軽減する機能「Anti-Lag」と,ゲームグラフィックスを低負荷で鮮鋭化する「FidelityFX」にも対応する(関連記事)。もっとも,これらの機能は,Vega世代以前のRadeon GPUでも利用できるので,Navi世代固有の機能というわけではない。
事前ブリーフィングでAMDが最も時間をかけたのは,Radeon RX 5500シリーズの性能紹介であった。
比較対象は,Polaris世代のGPUである「Radeon RX 480」と,NVIDIAの「GeForce GTX 1650」。Radeon RX 5500シリーズは,比較対象と比べておよそ30%増しの性能を発揮するという。
Radeon RX 5500Mも仮想敵としてノートPC向けのGeForce GTX 1650を想定しており,競合を最大30%上回る性能を発揮できると,AMDはアピールしていた。
1080pゲームはもちろん,PCIe 4.0&Radeon Display Engineが生きる映像制作向けにも
先述のとおり,AMDは,Radeon RX 5500シリーズをフルHD解像度を想定したGPUと説明しているように,最高の性能を目指したGPUではない。そうであるなら,どんなユーザーがRadeon RX 5500シリーズを選ぶべきなのか。
AMDとしては,「価格対スペック比を重視するユーザーに訴求したい」ということなのだが,今回は価格帯が明らかにされなかったので,実際の国内における製品価格がどうなるのかは判断出来ない。とはいえ,Radeon RX 5700系より安価であることは確実なので,性能面ではどのゲームでも1080p/60fpsが出れば十分であり,できるだけ価格対スペック比の高いグラフィックスカードを求めるというユーザーにとっては,適当な選択肢になるのではないか。
一方で,非ゲーム用途以外にも,Radeon RX 5500シリーズが適当な選択肢になりそうなケースも考えられる。たとえば,PCI Express(以下,PCIe) 4.0ベースの環境を構築したいユーザーだ。
大量の映像データをメインメモリとグラフィックスメモリ間で往来させるビデオ編集用途では,PCIe 4.0環境が効果的に機能するという。とくに4Kや8Kなどの高解像度映像編集における恩恵は大きく,実際にAMDは,PCIe 4.0関連のデモでは8K映像編集環境を披露するのが常で,PCIe 3.0環境とのレスポンスの違いを見せているほどだ。比較的安価なRadeon RX 5500シリーズでも8Kビデオ編集の用途には対応できるわけで,PCIe 4.0ベースのビデオ編集環境をなるべく安価に構築したいという人には歓迎されそうだ。
Radeon RX 5500シリーズを歓迎しそうなもう1つの例は,Navi系の最新ディスプレイエンジン「Radeon Display Engine」を利用したい場合であろう。
Navi世代GPUが備えるRadeon Display Engineは,VESAの映像信号圧縮規格「Display Stream Compression」(以下,DSC)の最新版「DSC 1.2a」に対応しており,DisplayPort経由での8K/60fps出力が可能だ。
Radeon RX 5500シリーズは,GPU 1基で最大5画面に映像を出力できるので(※実際のグラフィックスカードで出力端子をいくつ装備するかは,カードメーカー次第),8K/60fps出力を含めたマルチ画面出力用途に,Radeon RX 5500シリーズはおあつらえ向きと言えよう。
そう考えると,映像制作用途にも,Radeon RX 5500シリーズは一定の引き合いがあるのではないだろうか。
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