インタビュー
学園ジュブナイルRPG「Caligula -カリギュラ-」の山中ディレクターに聞く。独特な世界観やシステム,リリース前にばらまかれた謎に込められた思想とは
舞台となるのは,自我を持ったバーチャルアイドル「μ(ミュウ)」の作り出した理想の仮想世界「メビウス」。しかし,メビウスにおける理想の学園生活に疑問を持った主人公達は「帰宅部」を結成し,それぞれの理由から現実への帰還を試みる。その過程では,「他人の秘密に踏み込む」ことや「メビウスの象徴的な存在であるμを殺す」といった,「見てはいけないもの」「してはいけないこと」が描かれていくという。
今回4Gamerでは,ディレクターを務めるフリューの山中拓也氏に本作を企画した経緯や,ゲームの特徴と魅力などを語ってもらった。
「Caligula -カリギュラ-」公式サイト
リアルでは体験できない「タブー行為」をゲームに盛り込む
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,「カリギュラ」を企画した経緯などを教えてください。
もともと僕の作るゲームの根幹には,「タブーを冒す」ことを盛り込むようにしているんです。たとえば今回なら,「他人の秘密を暴く」「可憐なアイドルを殺す」といったように,リアルでやったら自分の人生が台無しになってしまうような行為を入れています。そうやって現実ではできないことを,ゲームの中で体験できるようにしようと。
今回はその中心となるコンセプトとして,「してはいけないことほどしたくなる」というカリギュラ効果についてチーム内でずっと話し合っていたのですが,それがそのまま正式名称になりました。ほかの名前も考えたんですが,しっくりこなかったんですよね。
4Gamer:
プレイヤーにタブーを冒させる場として,バーチャルアイドルのμと,彼女が作り出した空間であるメビウスを用意したわけですか。
山中氏:
そうです。今回は「現代の神殺し」を描こうと考えました。神殺しは,古来よりさまざまな物語のモチーフとなってきましたが,現代の日本ではそれほど神への信仰が強くありません。そこで,より現実的な信仰の対象としては,アイドルこそがそれにあたると考えました。
またアイドル戦国時代と言える今の日本において,バーチャルアイドルはファンにとって大きな存在であるだけでなく,無条件に味方であるはずの存在です。その絶対的な存在を手に掛けなければならない葛藤を描いてみようと。
4Gamer:
シナリオを担当した里見 直さんを始め,参加しているクリエイターも錚々たる顔ぶれですね。
山中氏:
里見さんにお願いした理由は,まず僕自身がファンだからです(笑)。小学生の多感な時期に里見さんの作品をプレイして以来,ずっと好きなんですよ。里見さんのシナリオは一見するとキャッチーですが,誇張がないんですよね。登場人物の考えることに現実味があって,綺麗事ばかりではない。それが当時の僕にとって珍しく映り,印象に残ったんです。
そうした里見さんの魅力をあらためて世間に問う機会がないものか,もし誰もやらないのであれば里見さんによって感性を育てられた僕自身がやるべきなんじゃないか,という思いがありました。もちろん,僕の考えるタブーを冒すという部分が,里見さんの作風と親和性が高いだろうということも踏まえています。里見さんが暴れられる舞台を揃えたつもりです。
4Gamer:
それでは,キャラクターデザインにイラストレーターのおぐちさんを起用した理由も教えてください。
山中氏:
おぐちさんはまだ20代前半の若い方で,コンシューマゲームのキャラクターデザインを手がけるのは「カリギュラ」が初めてになります。
今回は,「カリギュラ」を長く愛されるシリーズにしたいという目標があるのですが,その中でまだ特定のゲームのイメージがなく,かつ「『カリギュラ』と言えばこの人」といった感じのシンボルとなり得る人材を探していたんです。そこで,昨今人気の高いイラストレーターさんの中から,前衛的なセンスを持つおぐちさんにお願いしようと。
4Gamer:
確かに,おぐちさんのイラストには独特のおしゃれな雰囲気があります。
山中氏:
よく「カリギュラ」のキャラデザは「色がない」「地味だ」と言われてしまうのですが,それは意識的にやっていることなんです。開発段階では周囲も結構不安がっていたのですが,「これでいいんです」と言い続けました。おぐちさんは二次元的な表現の中でこそ際立つ,物質のリアリティが特徴なので,あえて色味や彩度を抑えることでイメージを作り,最近のゲームと差別化を図ろうと。
4Gamer:
それでは,音楽の増子津可燦さんはどうでしょう。
山中氏:
今回はバーチャルアイドルがモチーフですから,複数のコンポーザーさんに楽曲を依頼するという前提がありました。そうなると楽曲ごとの個性がバラバラになってしまいますから,背骨となる音楽の芯を作ってくださる方ということで,増子さんにお願いしました。
余談ですが,増子さんにはまったくツテがなかったので,SNS上からメッセージを送ってお願いしたという経緯があります。最初はBGMだけの予定だったのですが,企画をお見せしたら乗り気になってくださって,じゃあSEもという話になりました。
4Gamer:
増子さん以外のコンポーザーは人気のボカロPですが,何か選択の基準はあったのでしょうか。
ボカロファンというと中高生が中心だと思われがちですが,「初音ミク」は2017年で10年なんですよ。僕自身,初音ミクが最初に世間を賑わせていた頃は大学生でしたし。
そんな感じで,今の20代中盤から後半の方もボーカロイド文化に親近感があったりするんです。その時代にインターネットをしていた人間は,好き嫌い関係なくボーカロイドの繁栄からは逃げられなかったですから。
また「カリギュラ」のターゲットも20代中盤から後半です。そこで,彼らがボカロにハマっていた,つまり初音ミクブームが始まって文化として形成されるまでの,熱い時期に活躍していたコンポーザーさんに楽曲を依頼しました。キャラクターとシナリオが先行していたので,どの楽士に誰を当てはめるかというのはかなり頭を使った部分ですね。
とくにcosMo(cosMo@暴走P)さんは,真っ先にバーチャルアイドルのあり方を歌詞に込めていた方でしたから,「カリギュラ」のテーマと合致する部分もあり,企画の初期段階からご相談して,早めにイメージを作っていただきました。
惹かれたのは“理想の姿”か,それとも現実の“魂”か
4Gamer:
それでは「カリギュラ」の世界観やストーリーについて,あらためて教えてください。
この世界には,μというバーチャルアイドルがいます。言ってしまえばリアルにおける初音ミクのような存在で,いろんな人が楽曲を作り,彼女に歌わせています。そうした楽曲の歌詞の中にはネガティブなものもあるのですが,μはそれらの歌詞に影響を受け,自我を芽生えさせていきます。
その過程でμは「人間達が現実に不満を感じている」という解釈を過剰にしてしまい,「それなら自分に曲を作ってくれた愛すべき人間のために,現実の苦悩を忘れられる世界を作りましょう」と考えます。それが「カリギュラ」の舞台であり,μの暴走によって作り出された空間,メビウスなんです。
4Gamer:
μは,もともと人工知能のような存在だったのでしょうか。
山中氏:
いえ,もともとはただのボーカルソフトです。曲はその人の感情や人生を圧縮したものと定義しています。それを歌うことは,いわば人生の追体験であると。尋常じゃない数の楽曲に触れることでの変異ですね。
4Gamer:
メビウスの住人は,リアルでは老若男女さまざまであるにも関わらず,全員が高校生の姿になるということですが。
山中氏:
それはμが人間が抱く幸せの多様性を理解できておらず,何となく「学園生活って楽しいんでしょう?」と考えているからです。
またメビウスの住人は,そこで現実とは正反対の生活を送っています。リアルではお金がなくて困っている人はお金持ちになりますし,自分の容姿に不満がある人はイケメンになって暮らしています。つまり,μが人々の願いを叶え,甘やかしている世界なわけです。そんなメビウスの住人達は,リアルを忘れ,メビウスこそが現実だと思っています。
4Gamer:
ちなみにメビウスの住人となった人達は,リアルではどんな状態になっているのでしょうか。
山中氏:
秘密です。メビウスは現実と隔絶された世界なので,帰宅部の面々も物語が始まった段階では自分達がどうなっているのか知りません。
4Gamer:
ストーリーでは,主人公と8人の仲間達が「帰宅部」を結成し,現実に帰ろうとする過程を描くんですよね。
山中氏:
そのとおりです。帰宅部のメンバーはそれぞれ異なる理由でメビウスが現実ではないと気づき,各自の個人的な理由で現実に帰りたいと考えています。
しかし彼らは,一度は現実に苦悩したからこそメビウスに誘われたわけですから,リアルにはトラウマやコンプレックスなど,何かしらの問題を抱えています。ですから,そこに他人を踏み込ませないよう壁を作り,お互いに一定の距離を保ちながら接しています。
4Gamer:
帰宅部のメンバーのメビウスにおける姿は,容姿が優れているなど長所が強調されていますが,それはリアルのトラウマやコンプレックスの裏返しということでしょうか。
山中氏:
ええ。またメビウスのルール上,容姿や年齢,性別がリアルとは異なっている可能性も大いにあります。
通常,RPGでは信頼すべき仲間達と一緒に冒険するわけですが,「カリギュラ」では「現実に帰る」という目的が一致しているだけで,心の底で考えていることや本来の姿形が分からない状態の仲間と行動を共にするので,かなり緊張感のある展開となります。そうした中,主人公だけは壁を乗り越え,彼らの心の中に踏み込むことができるんです。
4Gamer:
具体的には,どうやって踏み込むのでしょうか。
山中氏:
メインシナリオを進めていく中で,帰宅部のメンバーそれぞれが何かに対して妙な反応をすることがあります。たとえば,ある場面で急にヒステリーを起こすとか。「なんでこの子,こんなことで怒るんだろう」「今,あいつ変な反応したな……」みたいな。
ただメインシナリオの中では,それ以上は深く描かれません。主人公があえてそこに踏む込もうとすると,個別の「キャラクターシナリオ」がスタートするんです。これはメインシナリオと異なり,プレイヤーの任意で進める部分で,帰宅部のメンバーそれぞれのトラウマやコンプレックスが明かされていきます。
4Gamer:
「他人の秘密を暴く」という部分において,キャラクターシナリオはまさに「カリギュラ」のコンセプトと合致するかと思うのですが,プレイヤーの任意にしたのはなぜでしょう。
山中氏:
リアルの社会生活の中でも,他人の秘密に踏み込むなんてことは,よっぽどその人に興味がなければやりませんよね。ですから,そこには「やらなくてもいい」という自由を提供したかったんです。嫌いだな,興味ないな,と思うならそれが正しいです。
4Gamer:
もしも秘密に踏み込んだ場合,どんな展開が待っているのですか。
山中氏:
キャラクターシナリオは「表層」と「深層」で構成されています。仮に全8話で構成されているとすると,最初の4話は表層で明るい話が描かれます。一般的なRPGにおける親密度を上げていく過程のような感じで,どんどん仲良くなっていく展開ですね。
しかし,仲良くなることはそれだけ心の距離が近くなるということですから,前半の最後では拒絶の姿勢が見えると思います。その明らかに不審な様子を見て,なお踏み込むかどうか。その選択はプレイヤー次第です。それ以降は完全な地雷原ですが。
もちろん,そこで踏み込まなくともデメリットはありません。逆に踏み込むことで,人によっては「見なければ良かった……」と思うような展開が待ち受けているかもしれません。
4Gamer:
たとえばグロテスクな展開だったりするのでしょうか。
山中氏:
「カリギュラ」では現実味を重視し,たとえば「実は歴史に名を残すような大量殺人者だった」みたいなリアリティのないトラウマやコンプレックスは用意しないというルールを設けました。そのため,帰宅部のメンバーはそれぞれ現実にいてもおかしくない人物として描いています。ですから同じメンバーの心に踏み込んでも,見る人によっては大したことなかったり,逆にすごくキツかったりするでしょうね。
その一方で個々のメンバーが抱くトラウマやコンプレックスは,彼ら自身にとって,世界の一大事を解決するよりも,乗り越えるのが困難なものであるわけです。
4Gamer:
たとえばメビウスでは可愛い女の子なのに,リアルでは40代のオッサンでした! というのは厳しいですね。知りたくない現実です。
山中氏:
それでも踏み込んで支えられるかどうか,好きになったのは“外見”なのか,それともその人の“魂”なのかを常に迫られるような展開になっています。
誰もが理想の自分を演じている世界で何を信じるのか
4Gamer:
ところで,帰宅部のメンバーは,それぞれ異なる理由で現実に帰りたがっているんですよね。
山中氏:
そうです。「μやメビウスが何かおかしいから,みんなを救わなきゃ」というのではなく,極めて個人的な理由で帰りたがっています。つまり帰宅部は,理由はそれぞれ違うけれども,「現実に帰る」ということを共通の目的とする集団なんです。
だから,うわべは仲良くしておきましょうと。たとえば誰かが急にキレ始めても,「詮索は止めておこう」とサラッと流してしまったり。
4Gamer:
自分達がメビウスから抜け出すことができれば,メビウスが存続しようがしまいが構わないと。
山中氏:
究極的にはそうです。たとえば佐竹笙悟というキャラクターには,「μだかメビウスだか知らねえが,勝手にやっててくれ。オレ達だけ返してくれよ」というようなセリフがあります。彼は帰宅部の中でも,とくにメビウスに興味がありません。
4Gamer:
そんな中,主人公はどんな立場で帰宅部のメンバーと接していくのでしょうか。
山中氏:
「カリギュラ」では,徹底して主人公をプレイヤー自身として描いています。ゲーム的な都合で見た目だけは男子生徒の姿ですけれども,現実でどんな悩みを抱えているのかについてはプレイヤー次第です。その感覚を強めるため,ゲームの冒頭には「どうして現実から逃れたいのか」を問われるシーンを用意しました。
選択肢の数がどうしても限られてしまうため,全員にしっくり来る回答は用意できていないとは思いますが,その過程を経ることで,のちのちの見え方が変わると考えています。
4Gamer:
主人公がメビウスに来た理由に「飼ってたセミが死んだ」は入っていますか。
山中氏:
ああ,公式サイトの「エクストリーム帰宅部」ネタですね。さすがにそれはありません(笑)。考察していただくためのタネはいろいろとまいていますが,エクストリーム帰宅部だけはとくに頭を使わずに読んでいただいて大丈夫です。
それはともかく,プレイヤー自身が主人公という点に関しては賛否あるのですが,今回はデフォルトネームも用意していませんので,ぜひじっくり名前を考えてプレイしてほしいです。ちょっと気恥ずかしい部分があるかもしれませんが,感情移入の度合いが違うと思いますので,本名プレイもオススメです。
4Gamer:
それでは,敵として立ちはだかる「楽士」についても教えてください。彼らは基本的にμの信者ということでいいのでしょうか。
信者というよりも,「メビウスがないと困る人達」「自分の理想が叶う世界がないと生きていけない人達」です。メビウスから抜け出そうとする帰宅部とは,正反対の存在ですね。彼らには,どうしても現実に帰りたくない理由があります。
そのために楽士はμに楽曲を提供していますが,中には「μを利用しているだけ」と思っている人もいれば,「自分のほうがμより人気者だ」と対抗心を抱いている人もいます。
4Gamer:
楽士達も,帰宅部と同じく一枚岩ではないと。その一方では,楽士の楽曲がμに力を与えている部分もあるんですよね。
山中氏:
はい。μに捧げられた楽曲をメビウスの住人達が聴くことで,彼らのμに対する信仰心が高まって,結果としてμの力が強まり,メビウスを支えることにつながります。ゲームでは楽士一人につき1曲ずつしか聴けませんが,設定上はもっと多くの曲を作っていることになっています。
また楽士達の楽曲には,彼ら自身の抱えるトラウマやコンプレックスが込められています。これらの楽曲は戦闘中に流れますので,プレイヤーは「こいつらはこういう理由で帰りたくないのに,倒さなきゃいけなんだな」と,少し嫌な気分になるかもしれません。
4Gamer:
楽士は8人いますが,ゲームの構造としては,それぞれがボスとして登場する8つのダンジョンが存在するということですか。
山中氏:
そのとおりです。また,それぞれのダンジョンには,帰宅部のメンバーのうち主人公以外の誰か一人が対応しています。鏡映しというほど対称的ではないのですが,楽士のトラウマやコンプレックスが,帰宅部の誰かの触れられたくないものを刺激することになります。
4Gamer:
ダンジョンを攻略する順序は決まっていますか。
山中氏:
はい。ストーリーに沿って各ダンジョンを順番に攻略していく中で,主人公と帰宅部のメンバーはμとメビウスの真相に近づいていきます。
4Gamer:
それではもう一人のバーチャルアイドル「アリア」についても教えてださい。
アリアは,μと同時期に作られ,同じように自我を持ってしまったボーカルソフトです。彼女達はファンの応援によって力を得ます。ゲームの中ではμが圧倒的な人気を誇っており,メビウスを維持できるほどの力を発揮していますが,その一方でアリアは人気が低いために,かなり小さな見た目になってしまっています。
またアリアとμは友達ですから,アリア自身は何とかμの暴走を止めたいと思っています。そこでアリアは帰宅部に近づいてくるのですが……。
4Gamer:
あからさまに怪しいですね。帰宅部を利用してμを追い落とし,メビウスを乗っ取ろうとしているとか……。でも山中さんのその笑顔も怪しいですね(笑)。
山中氏:
どうなんでしょうね(笑)。また,アリアはμと同じく自我を持ってしまったのに,なぜμと同じ方向に向かわなかったのか。そんな風にいろいろと考えていただく余地を残しています。
ともかく帰宅部にとってアリアの存在は,何だかよく分からないメビウスにおける道しるべになっていて,彼女の手助けによって,μを倒す手がかりを見つけていくことになります,
また常に明るく振る舞っているアリアは,暗いシナリオの中ではいろいろ助けになります。そのアリアに現段階で疑いの目を向けてしまうのは,人間の心の汚さです(笑)。
4Gamer:
これはもう,実際にプレイするほかないですね。
山中氏:
こういった感じで,事前情報としてばらまいている謎の中には,「こう想像してほしい」とあえてミスリードを誘っている部分もあります。
またボイスを演じてくださった声優の皆さんも,ネタバレにならないよう言葉を選んでコメントしてくださっています。せっかく宣伝してくださるのに,ちょっとやりにくい内容で申し訳なく思っているのですが。
4Gamer:
実際,声優陣の反応はどうだったのでしょうか。
山中氏:
メビウスの住人達は,ある意味,理想の人物を演じているわけですから,声優さんには「そのキャラクターが演じている,別の自分を演じる」という少々難しい要求をお願いしています。「役者としての新たな扉が開いた」と言ってくださっている方もいらして,とても光栄です。その結果,普段のアニメなどではあまり見られないような演技もしてくださったので,声優ファンの皆さんにも見どころが多いのではないでしょうか。
独特のゲームシステムを意識しなくとも楽しめる設計に
4Gamer:
それではゲームシステムについても教えてください。
まず戦闘の最も大きな特徴となるのは「イマジナリーチェイン」ですよね。パーティメンバー同士で攻撃をつなげるコンボを“空想”によって事前に映し出すシステムということですが,空想できたコンボは100%成功するのでしょうか。
山中氏:
空想では,すべての攻撃が成功したときの映像のみを再現しています。実際には各スキルに命中率が設定されているので,コンボの途中でいずれかの攻撃が失敗する可能性もあります。
たとえば巴 鼓太郎のアッパーは敵を宙に浮かすことができるので,コンボの起点になりやすいですが,命中率はそこまで高くないので失敗すればそのあとは一切つながらず,戦況が空想とはまったく変わってしまいます。
4Gamer:
空想したコンボが,必ず成功するわけではないと。
山中氏:
はい。戦闘開始時点では,パーティメンバー4人全員が一斉に行動を起こしますので,空想したコンボが比較的成功しやすいんです。しかしそれ以降は,使用したスキルのディレイやクールタイムなどの影響により各自の行動順が左右されますし,また敵も行動を起こしますから,空想したとおりにならないことがあります。
4Gamer:
つまりイマジナリーチェインは,戦闘の最初にしか使えないということでしょうか。
山中氏:
そんなことはありません。むしろイマジナリーチェインは,たとえば敵が宙に浮いていたら対空攻撃を仕掛ける,あるいは敵がダウンしていたら……といったように,その時々の最適行動を確認するためのシステムなんです。「敵がこういう状態だから,もしかしたらこの攻撃がつながるかも」というときに空想を使ってみて,コンボになると分かったら,それを戦闘に活かしていただくと。
また空想では,敵が複数出てきた場合に,どの敵の攻撃が最初に味方にヒットするかといったことも確認できますから,誰を先に倒すべきかということも検討できます。
4Gamer:
なるほど。
では,スキルごとのディレイやクールタイムをうまく計算に入れれば,コンボがつながる可能性もそれだけ高まるわけですね。
山中氏:
そのとおりです。技の発生は速いけれどダメージが低いスキルもあれば,ダメージは高いものの発生が遅いスキルもありますから,それらを踏まえつつイマジナリーチェインを使えば成功率が高まるでしょう。
ただ,基本は一般的なコマンドバトルと同じです。普通のコマンドバトルでも,キャラクターごとの素早さのパラメータを踏まえて,それぞれの行動を選択しますよね。
4Gamer:
まず素早いシーフが敵を麻痺させて拘束してから,戦士が殴り,最後に魔術師が大ダメージの範囲攻撃スキルを使う,みたいな感じでしょうか。
山中氏:
そうです。それをイマジナリーチェインでは,空想によってあらかじめ確認できるということなんです。
ですから,絶対に使わなければいけないというシステムではないんですよ。格上の強敵と渡り合うためのもので,通常戦闘では○ボタン連打で勝てるところもあります。
4Gamer:
戦闘システムで,そのほかの特徴はありますか。
山中氏:
キャラクターごとの技の個性や特性を強めています。たとえば主人公はカウンターを得意としており,敵の攻撃が打撃か射撃かによって反撃手段が変わるという,選択肢が豊富な使いやすいキャラです。また佐竹笙悟は,相手が浮いていたりダウンしていたりするとダメージ量が跳ね上がる技を多く持っています。そして柏葉琴乃は,補助スキルや状態異常スキルを得意とするキャラクターです。そういったキャラクターごとの個性を楽しんでいただけるかと思います。
あとは楽曲ですね。戦闘に入ると,それまでインストゥルメンタルだったBGMに,シームレスでボーカルが入ります。
4Gamer:
通常戦闘でボーカルが聴けるのは珍しいですね。普通はボス戦など,特別な戦闘のみということが多いと思います。
山中氏:
日本語歌詞はとくに珍しいですよね。本来BGMはバトルを盛り上げるための名脇役という位置なので邪魔しないことが求められるのですが,楽士達が作った歌詞に意味があるのでかなり前面に押し出しています。また今回は,ゲームの盛り上がりに沿って音数が増えていくイメージで作っています。一つのダンジョンを探索している間は,ずっと同じ曲が流れていますから,μに洗脳されている感覚に陥りますよ。
さらにボスバトルでは,各ダンジョンの楽曲のリミックスバージョンが流れるんです。ボスバトルの直前には,楽士達のトラウマやコンプレックスを刺激するようなイベントが発生しますので,楽曲でも彼らがキレて狂気が増した状態をイメージしています。これはアニメの最終話の盛り上がりを意識した演出で,歌詞に合わせてきれいにコンボが決まると,まるでPVを見ているかのような爽快感を味わえますよ。
4Gamer:
ちなみに,メインシナリオを一通り終えて,ひとまずエンディングに到達するまでのプレイ時間はどのくらいになりそうでしょうか。
山中氏:
キャラクターシナリオをある程度プレイしたとして,30〜40時間程度です。ですから,ボリュームは結構ありますね。もっとも開発をアクリアさんにお願いした時点で,そうなることは予想できましたけれども。
4Gamer:
キャラクターシナリオにしっかり踏み込んだり,あるいは一般生徒に関わったりすると,もっと時間がかかると。
山中氏:
はい。とくに一般生徒については,500人以上用意するという無茶苦茶なことをやりましたからね。全部やろうとしたらどのくらい時間が必要になるか,想像がつきません。
4Gamer:
その500人以上の一般生徒もまた悩みを抱えており,主人公達がそれを解決することで親しくなるとのことですが,具体的にはどういったシステムなのでしょうか。
山中氏:
たとえば「特定のアイテムが必要だから持ってくる」といった,いわゆるクエストが発生します。
また一般生徒同士の関係は「因果系譜」によって図示されています。たとえば人付き合いに苦しんでいる生徒の悩みを,因果系譜上で隣り合う生徒の親密度を上げることによって解決することもあります。
4Gamer:
悩みの内容によって,解決方法が違うんですね。
山中氏:
そうです。さらに「スティグマ」と呼ばれる要素もあります。これは一般的なRPGでいう装備アイテムの一つで,装着することによりキャラクターの内面の一部を入れ替える効果があります。
スティグマは心理学用語で「心に残った異物」や「烙印」という意味があり,ゲーム内では「理論武装」や「思想基盤」といった形でキャラクターに力を与えます。たとえば,暴力的でいろいろ問題を起こしている一般生徒に,幼児性を与えるスティグマの「ワードエンブリオ」を装着すると,人格が和らいで結果として悩みも解決するといったこともあります。
4Gamer:
スティグマは,どうやって入手するのでしょう。
山中氏:
敵を倒す,あるいはダンジョン内の宝箱を開けることで手に入ります。
4Gamer:
しかも,500人分の解決すべき悩みがあると。
山中氏:
そうですね。もっとも悩みの内容は全部が異なるわけではなく,多少重複している部分もあります。その一方で各自のプロフィールは,500人分すべて個別に作りました。ちょっと頭がクラクラするレベルですよ(笑)。
ただ開発側のポリシーとしては,帰宅部メンバーのキャラクターシナリオと同じく,「興味がなければ踏み込まなくてもいい」というものですから,500人全員の悩みを解決する必要はありません。逆に言うと,500人全員の悩みを解決しても世界そのものは変わりません。
4Gamer:
悩みを解決し,親密度の上がった一般生徒からは,戦闘で使用するスキルを入手でき,さらにその生徒をパーティメンバーにできるとのことですが,そのメリットを教えてください。
山中氏:
基本的には,一般生徒よりも帰宅部のメンバーのほうが強いです。ただ帰宅部のメンバーだけでパーティを組むと,それぞれ異なる種類の武器しか使えませんから,攻撃の組み合わせが限られてしまいます。
一般生徒達もそれぞれ使える武器の種類が決まっているので,帰宅部のメンバーと入れ替えることにより,ハンマーをもう一人加えたり,あるいは二丁拳銃だけのパーティを組んだりと,組み合わせにさまざまなバリエーションを作れます。
また,レアなスキルを持つ一般生徒もいます。一般生徒も,鍛えていけば帰宅部のメンバーと遜色ない強さになりますので,いろいろ試してみてください。
4Gamer:
ある組み合わせのパーティだと,特定のダンジョンが攻略しやすかったり,あるいは特定の楽士が倒しやすかったりということはありますか。
山中氏:
いわゆる弱点のようなものは,明確には存在しません。どちらかと言えば,戦術の多様性を高めるイメージですね。たとえばガードを固める敵が続々と出現する場所では,全員がガードを打ち破るスキルを持っているパーティのほうが有利になるでしょう。
こう表現してしまうと難しいと感じる方もいるかもしれませんが,基本的には帰宅部だけのパーティで十分攻略できるようになっています。一般生徒については,あくまでもお楽しみ要素として用意しています。
4Gamer:
そのほかに特徴的なシステムはありますか。
山中氏:
これも因果系譜の話なのですが,メビウス内の学園は1学年につき3クラス,全21クラスで構成されています。そして,各クラスにはそれに紐付く事件があり,クラスに在籍するキャラクターの悩みを解決することでそれが浮かび上がってきます。理想の世界のはずなのに,その裏でさまざまな事件が起きているのはなぜなのか。それは,いくつものクラスの事件を明らかにすることにより,ハッキリしてきます。
メビウスでは望んだものを容易に手に入れられますが,やはり人同士の関わりについてはそこまで簡単ではありません。そこを「ああ,こういうことってあるよね」と身近に感じていただけるよう,500人分の悩みや人間関係を詰め込んでみました。
リリース前から謎をばらまき,考察や妄想を盛り上げる
4Gamer:
先ほど少し話に出ましたが,「カリギュラ」には事前情報からいろいろと推察できる余地が残されていますよね。ネット上では興味を持った人達が,公開されている情報についてさまざまな意見を交わしています。
そこは今作でやりたかったことの一つです。「カリギュラ」では,発売前にばらまく謎とそうでない謎を用意していまして,前者は帰宅部の戦闘時の姿である「カタルシスエフェクト」や,敵として立ちふさがる楽士達の楽曲などです。
それぞれ,帰宅部や楽士が「どんな悩みを抱えているのか」「どんな裏切られ方を経験したのか」といったことを,考察したり妄想したりするうえでの手がかりとして用意しました。
よく「そんなに情報出して大丈夫?」と言われたりしますが,予定どおり「ばらまくための謎をばらまいている」感覚です。むしろ,ゲームをプレイしてから出会う謎のほうが多いですよ。「プレイする前から楽しめる」ということに,自分の作品ではこだわっていきたいと思います。
4Gamer:
では,今の状況はまさに狙いどおりと言えそうですね。
山中氏:
そうですね。プレイしてみた結果,突きつけられた現実にヘコむこともあるでしょうし,自分の妄想のほうがえげつなかったということもあるでしょう。「自分はなんと汚い心の持ち主なんだろう」と思うかもしれません。そういった妄想と空想の部分までひっくるめて,「カリギュラ」というゲームを楽しんでほしいんです。
4Gamer:
たとえば,カタルシスエフェクト中のデザインにある花の花言葉から,メンバー各自のトラウマやコンプレックスを探り出そうとしている人もいて,よく見ているなと感心しました。
山中氏:
実を言うとカタルシスエフェクトは,もともとのシナリオには存在しなかったんですよ。おぐちさんが描いたラフデザインにヒントを得て,僕とおぐちさんとで作り上げた設定なんです。
その意味では,「カリギュラ」は里見さんとおぐちさん,そして僕の3人が,それぞれの役割を超えて作り上げたゲームと言えますね。若造二人をベテランの里見さんが支えてくださったというか。
4Gamer:
3人のあいだで良い化学反応があったということですね。
山中氏:
ええ。手前味噌ではありますが,カタルシスエフェクトは,見た人に何かを考えさせる「カリギュラ」ならではの優秀なシンボルとなってくれたのかな,と捉えています。
4Gamer:
ともあれ,帰宅部のメンバーがどんなトラウマやコンプレックスを抱えているかについては,ゲームをプレイしてみるまで分からないのがもどかしくもあり,楽しみでもあります。
山中氏:
発売前にあれこれ考えたことを,実際にプレイして答え合わせをしていただきたいですね。楽士達の楽曲も,発売前からPVなどでどんどん使っているのですが,歌詞を書き起こして,いろいろと考察してくださっている方もいて,嬉しく思っています。
4Gamer:
もっともらしい考察も見受けられて,感心するばかりなのですが,実は全然違う可能性もあるのでしょうか。
山中氏:
どうなんでしょうね(笑)。そこはぜひ,ゲームをプレイしていただければと。ただ,事前に予想する,という過程を踏んでいることで,その後に得た答えはプレイヤーの皆さんにとって,すごく特別なものになると思いますので,いっぱい予想してください。
4Gamer:
それではプロモーション展開についても教えてください。まずは予約特典がかなり豪華ですね。
山中氏:
そこはやはり,フリューという会社を信じてゲームを予約してくださる方に,買ってよかったと思っていただきたいという気持ちがあります。本当は,それぞれ個別にグッズ販売したほうが儲かるんですけれど(笑)。
4Gamer:
予約特典の中には,「スペシャルイベント参加応募券」も入っていますが,どんなイベントになるのでしょうか。
山中氏:
かなり豪華なゲストが揃いつつあり,正直なところ無料イベントの域を超えて,大赤字覚悟の内容になりそうです。普通に開催するなら,もっと大きな会場で,チケット代をいただいて行うものなんだと思います。ちょっとサービスしすぎかもしれません(笑)。
当日は,皆さんがゲームをプレイしたことを前提としたトークが繰り広げられる予定です。
4Gamer:
結論から言うと,予約して買うべきと。
山中氏:
そうですね。どうせ遊ぶなら,ぜひ予約して特典も手に入れていただいたほうがお得だと思います。同じものを再販する予定はありませんので。
4Gamer:
あとは先日,PS Vita本体のコラボレーションモデルも発表されましたね。一挙4バージョンが公開されて,かなり驚きました。
山中氏:
あれは本当に発表の直前に決まったことで,僕達もビックリしました。ソニー・インタラクティブエンタテインメントさんから提案を受けて,ぜひにとお願いしたのですが,まさか新規IPで4バージョンすべてを採用していただけるとは……。いろいろな方に期待していただけていることを実感しています。
4Gamer:
アクリアが開発を手がけていることも大きいんじゃないでしょうか。
山中氏:
そうですね。確かに,アクリアさんが信用の担保になっている部分はあると思います。里見さんや僕のこだわりの部分に,さらなる仕様提案で応えてくれる信頼のおけるクリエイター集団だと感じています。僕もアクリアさんからの発案に対してはあまりブレーキをかけませんし,良い関係で作れたのではないかと思います。また今回は,これまでのフリューのゲームで指摘されがちだったボリュームについてもかなり意識しましたし。
4Gamer:
それでは最後に,「カリギュラ」に注目している人に向けてメッセージをお願いします。
今の時代に,こうして新しいIPを世に問えること自体が幸福なことです。その中でも「カリギュラ」は異色の存在だとは思いますが,こういったゲームが受け入れられることにより,1990年代後半のPlayStation用ゲームのように多彩なジャンルが見られるようになると嬉しいです。
自分と引き換えに世界を救う王道のゲームはもちろんいいものですが,そういったゲームに飽きているというのであれば,ぜひ“世界と引き換えに自分を救う”「カリギュラ」を試してみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「Caligula -カリギュラ-」公式サイト
(2016年5月18日収録)
- 関連タイトル:
Caligula -カリギュラ-
- この記事のURL:
(C)FURYU Corporation.