連載
結のほえほえゲーム演説:第142回「かつて『ぼくのなつやすみ』だった僕たちへ」
……と思う。
なぜ自信がないかというと,それを確かめる術がなく,私の妄想が作り上げた架空の存在なんじゃないかと不安になるからだ。
私の通っていた幼稚園は,小学校受験をする子供が多かった。例に漏れず私も塾通いをして,礼儀作法やら,工作やら,図形の仕組みやらを学んだ気がする。私の小学校受験は失敗だった。初めての受験会場や,初めての面接官に緊張して,片っ端から落ちた。受験自体をちっとも理解していなかったけれど,両親が残念がっていたので申し訳がなかった。仲の良かった幼稚園の同級生は私立の小学校へ入学し,一斉に引っ越して街から去ってしまった。
そんな中,まだ一緒に遊ぶことができた唯一の存在が,ある男の子だった。幼少期,男の子とは一番仲良かったわけじゃないけれど,男の子が引っ越した先が祖父母の家の近くだったので,夏休みにたくさん遊ぶことができた。ビニールプールで遊んだり,家でかくれんぼしたり,カレーを作って食べたりした。
家の中を走ると怒られるけど,大人とは追いかけっこができないから,嬉しくてつい走ってしまう。祖父母がかき氷機を買ってくれた日は,二人で一生懸命にハンドルを回した。子供の力では一杯分も作れず,結局のところ,祖父母や両親に頼って作ってもらった。
そんな理想的な夏休みに,その男の子はいた。確かにいた。しかし突然会えなくなってしまった。また夏休みが来れば当たり前のように会えると思っていた。
実を言うと,私と男の子が小学生になったとき,男の子の家庭の事情で,お父さんと突然二人きりで暮らすことになったらしい。住むあてがなかったようで,ちょうど空き屋だった我が家の離れを貸していた。しかし突然いなくなってしまったらしい。そんな事情を私が知ったのは,中学生になってからだった。
幼い頃の私にとって“祖父母の家の近所”という認識だったが,あれは我が家の離れだった。おそらく男の子も,そういった特殊な状態について,まったく理解していなかったと思う。二人とも,夏休みに友達とたくさん遊べることが,ただただ嬉しかっただけなのだ。
「夏休みは●●君のところに遊びに行こうよ!」と言ったとき,母親がちょっぴり複雑そうな表情をした意味を,ようやく理解した。親切にしていたはずの家族が突然どこかへ消えてしまったのだから,それはとても悲しいことだと思う。
子供の私には分からなかった。男の子の家庭の事情も,男の子の気持ちも,もう二度と会えないということも。大人になっても,想像はできるけれど,やっぱり分からなかった。子供の夏休みは,急速に仲良くなった人と,突然お別れすることがある。
主人公のボク君は,夏休みの間だけ,田舎のおじの家で過ごすことになる。おじの家は民宿を営んでいるので,さまざまな宿泊客がいる。その中でも,谷口という謎のおじさんとの出会いが一番好きだ。元潜水夫の不愛想で無口なおじさんは,日中は海で探し物をしている。実は,おじさんの正体は,金塊強盗事件の犯人だった。初めのうちは話しかけても無視されるが,ボク君がしつこく話しかけるうちに,谷口さんの一人称は「おじさん」になり,徐々に心を開いてくれる。
幼少期,旅行先で出会った子供と仲良くなるのが得意だった。宿泊先で暇そうにしている子供を見つけると,一緒に遊ぼうと即座に誘った。そしてすっかり別れづらくなり,チェックアウトの日はわんわん泣いていた。
ボク君が,田舎の子供達と仲良くなっていく様子を見ていると,なんだかそれを思い出してしまう。
子どもの頃の夏休みって,思い出すだけで泣けてくるのはなんでだろう。きっと幸せの中にいすぎて,幸せだって気付きようがなかったことを,大人になって理解するからなんだろうな。
最近プレイしているゲーム(2021/8/7)
Steam:「Among Us」
PlayStation 4:「GUILTY GEAR -STRIVE-」
PC:「インペリアル サガ エクリプス」
iOS:「ロマンシング サガ リ・ユニバース」
iOS:「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」
■■結(女優・タレント)■■
女優・タレントとして活動中。国内映画祭にて主演女優賞を多数受賞。幼少期からのゲーム好きが高じ,数多くのゲーム番組でMCを務め,イトキチ(糸吉)の愛称で親しまれている。
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