企画記事
特集「バルダーズ・ゲート」。D&D最新アドベンチャー「地獄の戦場アヴェルヌス」から,発売待たれる「Baldur's Gate III」までを一挙解説
「バルダーズ・ゲート:地獄の戦場アヴェルヌス」をAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
同作は世界最初のRPGであり,世界で最も遊ばれているテーブルトークRPGでもあるD&Dを,継続して遊ぶための情報が詰め込まれた――いわゆるキャンペーンシナリオ集にあたる製品だ。また同時に,D&Dの主要な背景世界の一つである“フォーゴトン・レルム”(忘れられた領域の意),そして,その中でもこれまでも多く冒険の舞台となってきた大都市・バルダーズ・ゲートの設定資料集という側面も持っている。
そしてまた,「バルダーズ・ゲート」といえば1998年に発売されたPC向けRPGのタイトル名でもある。2000年には続編となる「バルダーズ・ゲート2 シャドウ オブ アムン」が登場していることから,4Gamer読者にもなじみ深い地名であるに違いない。さらに2019年6月には最新作「Baldur's Gate III」も発表されており,同作は2020年後半にアーリーアクセス版のリリースが予定されている。
本稿では,このバルダーズ・ゲートについて掘り下げるべく,
- 間もなく発売となる「アヴェルヌス」の紹介
- そこへと連なるフォーゴトン・レルムとバルダーズ・ゲートの歴史
- 「Baldur's Gate III」の公開情報をベースにした予想
以上の3トピックについてをお届けしてみたい。アナログとデジタル,双方のファンが楽しめるよう紹介していくので,ファンタジー好きの読者に,読み物としてもお楽しみいただけたら幸いだ。
もう一つの関連作「バルダーズゲートの伝説」
ちなみにこのミンスクとブーは,PCゲーム「バルダーズ・ゲート」および「バルダーズ・ゲート2 シャドウ オブ アムン」に登場する名物キャラクターだ。両作の時代からは100年ばかり経っているはずなのだが,なんと彼はわけあって石に変えられ,“愛すべきレンジャー像”として街の広場に飾られていたのだとか。その魔法が解け,今の世に復活を遂げたというわけだ。
実は今後発売される「Baldur's Gate III」にも,このミンスクとブーが登場するという噂もある。ジャンルを超えたクロスオーバーを予感させる,こちらも注目の関連作だ。
「ダンジョンズ&ドラゴンズ 第5版」公式サイト
「Baldur's Gate III」公式サイト
1. D&D長編アドベンチャー「地獄の戦場アヴェルヌス」
「アヴェルヌス」は,1〜13レベルを対象とした4〜6人パーティに向けたアドベンチャーだ。これはつまり,1レベルでスタートしたキャラクター達がキャンペーン終了時には13レベルかそれ以上まで成長することを意味する。D&Dの最大レベルが20であることを考えると,なかなかの大作と言っていいだろう。
タイトルにもあるように,舞台はもちろんバルダーズ・ゲート……から始まるのだが,プレイヤー達はほどなく副題となっている地獄の戦場・アヴェルヌスへと誘われることとなる。ではこのアヴェルヌスとはどこなのか。そもそも“地獄の戦場”とはなんのか。疑問が湧くことだろう。何かの比喩なのか? いや,そうではない。冒険者達にとって,これは“比喩ではなくて現実”なのだ。
地獄とは,文字どおり悪魔――デヴィルが住まう九層地獄のことであり,アヴェルヌスはこの第一層を指す名称だ。フォーゴトン・レルムの世界は,さまざまな形でほかの次元界とつながっており,そうした次元界の一つが地獄である。地獄,ことにアヴェルヌスではデヴィル(“秩序にして悪”のずる賢い悪魔)とデーモン(“混沌にして悪”の獰猛な怪物)が絶えず争っており,さらにこのどちらにも与さない群小勢力まで加わって,終わりのない戦い――流血戦争が繰り広げられている(このあたりの事情はサプリメント「モルデンカイネンの敵対者大全」に詳しい)。
冒険者達はバルダーズ・ゲートの街を振り出しに,大きな正義,ちっぽけな因縁,あるいは純粋に金を求めてアヴェルヌスに足を踏み入れることになるだろう。激しい対立のある街,バルダーズ・ゲートでの綱渡りから,もっと激しい反目と対立にまみれたアヴェルヌスでの綱渡りへと物語は展開し,地獄の悪魔達との闘争に巻き込まれていくことになるのだ。
その闘争とは単なる武力闘争だけではない。バルダーズ・ゲートの悪党どもが大きな権力を背景にしているのと同様に,アヴェルヌスの大悪魔達もまた,(戦闘力については言わずもがな)強大な権力を有しているからだ。なのでこの地獄においても,冒険者達は「すべての敵と戦わない」「相手の求めるものは何か,交渉は可能か」といった見極めが重要になるだろう。ゆえに,この冒険はD&D第5版で強調される「戦闘」「探険」「社交的やりとり」のすべてが問われるものとなる。
充実のバルダーズ・ゲート都市ガイドも
本書の魅力はアドベンチャーのみに止まらない。第5版用の長編アドベンチャーでは定番の,豊富な設定資料は今回も健在だ。「ウォーターディープ:ドラゴン金貨を追え」付属の“ヴォーロのウォーターディープ旅行ガイド”はとくに充実していたが,「アヴェルヌス」に付属する“バルダーズ・ゲート都市ガイド”はこれに引けを取らないでき映えである。
そこにはバルダーズ・ゲート各地区の情報や,各地区における“ランダム遭遇表”があり,この町で日々を送る魅力的なNPCが紹介されている。これはDM(ダンジョン・マスター)がアドベンチャーの最中に話を膨らませたくなったとき,また同じ土地を舞台にした別のアドベンチャーを自作するときに,必ず役立ってくれるはずだ。
そして,本作のアドベンチャーをプレイするにあたっては,キャラクターに「バルダーズ・ゲートを守る動機」を設定するのに使うのが筆者のオススメだ。プレイヤーと相談のうえで,プレイヤーキャラクターをバルダーズ・ゲートの出身にしたり,街の住人をプレイヤーキャラクターの友人・知人に設定したりすれば,物語への没入感がよりいっそう高まる。
あるいは設定資料を参照しつつ,このアドベンチャー用の“尊ぶもの”や“関わり深いもの”を作ってもいい。例えば「レイヴンガード(後述)は私の命の恩人だ。彼を助けるためなら何でもする。もし彼が死んだなら仇は必ず討つ」などとすれば,ロールプレイもかなり捗るのではないだろうか。
このほか“悪魔と契約して利益を得るための追加ルール”や各種追加データを収録。さらには地獄の風景やメカなどが描かれたコンセプトアート集も付いていて,ビジュアル面からもセッションを盛り上げてくれる。まさに荒んだ街・バルダーズゲートにふさわしいコンテンツが満載の一冊といえる。
既存アドベンチャーから移行するには(DM向け)
これは端的に言えば,序盤の敵が弱いのは構わないものとして,各章の頭に書いてある想定レベルに達するまではレベルアップなしで進めるというもの。むしろこの方法なら,長編アドベンチャーを高レベルから開始するケースに大抵流用できるだろう。
なお代案として,「アヴェルヌス」における序盤の遭遇(酒場のごろつきとか“死せる三者”のカルト教団員とか)を一部スキップし,例えばNPCから怪しい屋敷の地下の捜査を依頼される〜などの手法で,プレイヤーを速やかに地獄行きにする手が考えられる。ただしこの場合,アドベンチャー全体におけるバルダーズ・ゲートの比重が下がり,アヴェルヌスの比重が上がることは頭に置いておこう。
2. 関連作に見るバルダーズ・ゲートの歴史
さてここまで紹介してきた「アヴェルヌス」の前半における舞台であり,後半では“守るべきもの”となるバルダーズ・ゲートとは,いったいどんな都市なのだろうか。ここからはゲームのジャンルを跨いで,さまざまな媒体で語られてきたバルダーズ・ゲートの歴史を,作中の時系列で振り返ってみたい。
D&Dの背景世界であるフォーゴトン・レルムだが,その中でも冒険の舞台となるのは惑星トリルにある大陸・フェイルーン,その最西端に位置するソード・コースト地方が主である。ここでは都市国家が海岸に沿って北から南へ連なっており,北にネヴァーウィンター,中ほどにウォーターディープ,そしてその南を流れる大河を少しばかり内陸へさかのぼったところにバルダーズ・ゲートがある。
ずっと昔のバルダーズ・ゲートは,海賊やならず者の集まる小さな集落でしかなかったが,その中からやがてバルダランという英雄が現れ,西海の果てへの航海の末,巨万の富を持ち帰った。そして集落を守る大きな壁を築き,この壁に設けられた門の一つに,バルダランにちなんでバルダー門という名が付けられた。この門の名前が,やがて街全体の名になったわけだ。
街は海陸の交易によって富み栄え,大きな戦争にも巻きこまれることなく発展を続けた。街はどんどん大きくなり,そのうち昔の城壁の外にもう一つの城壁ができた。バルダーズ・ゲートには諸国から人が集まり,各々の国の神々――ときにはほかの土地では許されない邪神すら――の崇拝が許される,多国籍都市になったのである。
と,ここまでが昔話だ。そしてデイル歴(DR)の1368年,邪神ベハル(バール)の力を受けつぐベハルの落とし子の一人,サレヴォクが街を乗っ取ろうとする事件が発生する。これに対し,同じくベハルの落とし子の一人ではあるが,正しい心を持った英雄が立ち上がった。サレヴォクを倒し,街を救ったこの英雄こそが,PCゲーム「バルダーズ・ゲート」の主人公である。その英雄の名前は当然プレイヤーがめいめいに付けるものだが,後年の歴史ではアブデル・エイドリアンの名で語られる。
アブデルはやがてバルダーズ・ゲートの街を治める4人の公爵のトップである大公爵となる。神の血を引くゆえか驚くほどの長寿で,その治世の元で街はいっそう栄えたが,栄える街にあって,内部の権力争い,そして住民の貧富の差に根ざした反目は,つねに厄介な問題でありつづけた。古い城壁の内側にある上層地域,新しい城壁の中にある下層地域,近年急速に拡大しつつある貧民街の門外地域とで,住む人も分かれるようになったのだ。
そしてDR1482年,ベハルの落とし子の最後の一人であるヴィーカングがアブデルを襲った。これによって双方が命を落したことで,邪神ベハルの魂は,先の3つの地域を代表する3人の有力者に食い入って,再び街の征服を企てた。
この顛末を描いたのが,D&D第4版後期から第5版移行期に発表されたアドベンチャー「殺戮のバルダーズ・ゲート」だ。3人の有力者のうち,誰が“ベハルに選ばれし者”――つまりはラスボスとなるかはゲームの展開次第なのだが,後の歴史では公爵の一人であったシルヴァーシールド公とされている。
……そして今,バルダーズ・ゲートを新たな脅威が襲う。またかよ! と思う向きもあろうが,ファンタジー世界で繁栄し,かつ内部に反目を抱えている都市国家を脅威が襲わないハズがないのである。
発端となるのは,バルダーズ・ゲートから川をさかのぼったところにあるエルターガルドの都・エルタレルだ。エルタレルといえば,精強な騎士団を抱え,高尚な文化の担い手としても多くの国の手本とされる,輝かしき信仰と秩序の都である。つまり寛容と悪徳の都であるバルダーズ・ゲートとは,まさに正反対な街なのだ。
この2つの街は,バルダーズ・ゲート側がエルタレルの交易船を襲って略奪した過去から長らく反目していたのだが,そのエルタレルが,ある日レイヴンガード大公を「外交交渉のためエルタレルへお越しください」と招いた。レイヴンガードはしぶしぶエルタレルへ出かけて行ったが,そのエルタレルはレイヴンガードもろとも,地上から消え去ったのである。……これが「アヴェルヌス」のことの起こりである。
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3. トレイラーから読み解く,「Baldur's Gate III」の物語
バルダーズ・ゲートを襲う脅威はこれだけではない。2020年後半にアーリーアクセス版のリリースが予定されている「Baldur's Gate III」でもまた,再び災禍に襲われることとなる。
その物語は,現在公開されている情報から推測するしかないが,2本のトレイラーを見る限り「アヴェルヌス」とはまったく別の,マインド・フレイヤーによる脅威であるらしい。
マインド・フレイヤーとは,おおむね人に似た体型とタコに似た頭部を持ち,高い知性でサイオニック(超能力)を操る,D&D世界に固有のモンスターだ。のみならず知的生物の脳をすすったり,脳にマインド・フレイヤーの幼生を入れて操り,果ては新たなマインド・フレイヤーを生み出したりするなど,恐るべき相手でもある。
トレイラーでは,バルダーズ・ゲートとおぼしき街をマインド・フレイヤーの巨大宇宙船が襲う様子が描かれており,このマインド・フレイヤーが主要な敵“の一つ”であることは間違いないと思われる。どうやら主人公は脳にマインド・フレイヤーの幼生を植え付けられてしまい,それによって不思議な力が使えるようになったようだ。
また途中で次元の門を開きマインド・フレイヤーを攻撃する謎の第三勢力が登場するが,これはマインド・フレイヤーの宿敵であるギスと呼ばれる種族だろう。骨に皮の張りついたような容姿と赤い竜を乗騎としていることから,ギスの中でもギスヤンキと呼ばれる種族と思われるが※,主人公の,そしてプレイヤーにとっての敵となるか味方となるかは不明だ。
※ギスヤンキの騎士は,鎧姿に銀の大剣を帯びているのが通常だが,トレイラーに出てくる者達はそうでない点に疑問が残る。なお種族としてのギスの詳細は,これまた「モルデンカイネンの敵対者大全」に詳しいので,こちらを参照のこと。
さてここからは筆者の妄想だが,バルダーズ・ゲートでマインド・フレイヤーとくれば,D&D好きとして思い当たることが一つある。「殺戮のバルダーズ・ゲート」および「アヴェルヌス」にはアドベンチャーの本筋に関係しないバルダーズ・ゲートの街ネタが無数に収録されているのだが,その中に現在の4人の公爵の一人,ベリンヌ・ステルメイン公の話がある。そしてこの女公爵は「殺戮〜」でも「地獄〜」でもまったく活躍“しない”キャラクターなのだ。
活躍しないのは道理で,彼女は今,病に伏せっている。かつては手ごわい政治家であり,活動的でしかも美しかった彼女だが,ある日突然発作を起こして昏睡。なんとか目を覚ました今も完全回復には至らず,顔の一部が麻痺し,左手は自由に動かせず,ゆっくりとしか話せない。そして公にはされていないが,この病の原因こそ1体のマインド・フレイヤーなのだ。彼女の精神を支配しようとするマインド・フレイヤーとの戦いは,今も続いているのである。
となれば,「Baldur's Gate III」の主人公が彼女と出会うことで,物語が大きく展開するこということは十分にあり得る。彼女をマインド・フレイヤーから解放するため,マインド・フレイヤーの地下迷宮に挑むだとか,あるいはステルメイン公の精神世界に乗り込んでいくなど。そして最後の部屋にいるマインド・フレイヤーは,ステルメイン公と精神の戦いを続けているため椅子に寄りかかったまま動くことができず,かろうじて指を動かして周囲のおぞましいモンスターどもに「侵入者を殺せ」という合図を送るわけだ。……まあそうでなかったとしても,テーブルトークRPGでそういうアドベンチャーを自作したっていいんじゃないだろうか。
なお「Baldur's Gate III」はターン制のRPGとなる予定で,実際のプレイシーンを収めた動画も公開済みだ。今のところローカライズについては明らかとなっていないが,これまでのシリーズも日本語版のリリースが行われているので,こちらも期待したい。また権利元であるWizards of the Coastによれば,2025年までに「Baldur's Gate III」を含むD&Dフランチャイズのデジタルゲームが毎年リリースされることも明らかになっている。アクション強めが好みな向きには,「Dungeons & Dragons: Dark Alliance」も発表済みなので,こちらもお楽しみに。
Wizards of the Coastが「ダンジョンズ&ドラゴンズ」シリーズの今後の展開を発表。2025年まで毎年1作品をリリース
Wizards of the Coastを傘下に持つHasbro(ハズブロ)は,北米時間の2020年月22日から25日までニューヨークで開催された「New York Toy Fair」で投資家向けのイベントを開催し,「ダンジョンズ&ドラゴンズ」関連のゲームを2025年まで,毎年1作ずつリリースする予定であることを明らかにした。
アナログとデジタル双方からバルダーズ・ゲートに注目の集まるこの2020年,双方の関連作を知ることで,より作品が楽しめる楽しめることは間違いない。普段はデジタル中心,あるいはアナログが中心という人も,この機会に今回挙げたタイトルに手を出してみるのも一興ではないだろうか。
「ダンジョンズ&ドラゴンズ 第5版」公式サイト
「Baldur's Gate III」公式サイト
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ダンジョンズ&ドラゴンズ 第5版
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Baldur's Gate 3
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