連載
「あんぷらぐど☆げーまーず」第10回:火の発明からインターネットまで。文明の進歩を一気に駆け抜ける歴史ボードゲーム「ヒストリア」
海外のアナログゲームには歴史をテーマにしたものが非常に多い。ある国の特定の時代を描いたものから,世界各国の時代の移り変わりを扱うものまで,システムもコンセプトもさまざまだ。
今週の「あんぷらぐど☆げーまーず」で紹介するのは,アークライトが5月に発売した,その名もズバリ「ヒストリア」。1万2000年もの長きにわたって文明を育て上げていくという設定の,スケールの大きい歴史ボードゲームだ。
「ヒストリア 日本語版」製品情報ページ
アクションカードを駆使し,自在に文明を発展させよう
冒頭でも少し触れたが,本作の目的は「1万2000年前の過去から近未来へと至る,文明の歴史を作る」という壮大なものだ。プレイヤーは用意された7つの文明から,それぞれひとつを担当し,ほかの文明に戦争を仕掛けたり,技術力を伸ばしたりしながら文明を発展させていく。
ゲームでは,まずプレイヤーに10種類の「アクションカード」が配られる。各プレイヤーはその中から1枚を選んで裏向きに場に出し,全員が選んだ時点で一斉にオープンして,手番順に処理していく。アクションの中には,同時に「パワーキューブ」の使用を要求するものがあるので,好きなアクションを必ず実行できるわけではない。
また,一度使用したアクションカードは,特定のカードを使用するなどして手元に回収するまで再度使用することはできない。
このアクションの選択と実行を繰り返すうち,誰かが「革命」アクションを使用すると,そのターンが終了。4ターンをひとつの時代とし,3つの時代(合計12ターン)が終了した時点で最も勝利点が高いプレイヤーが勝者となる。
プレイヤーはゲーム中に入手した,各文明固有の「アドバイザーカード」を,共通アクションカードに加える形で使用することができる。効果はさまざまだが,基本的に通常のアクションカードよりも強力で,中国ならば軍事に秀でているなど,文明ごとの傾向があるのが特徴だ。ちなみにアドバイザーカードには各文明の偉人が描かれており,中国の場合は孔子,老子,孫子,鄭和,そしてブルース・リー。なぜ……。
各プレイヤーの文明の発展度合いを示すのが,ボードの面積の多くを占める「文明発展表」だ。この発展表は軍事力を示す縦軸と,技術力を示す横軸から成り立っており,それぞれ主に「軍事」「技術」のアクションを使用することで上昇していく。
軍事力がほかのプレイヤーを上回ると,「略奪」や「戦争」といったアクションで勝利点を獲得できるようになる。また,軍事力を上昇させることで,使用済みのカードやキューブを回収できる。一方,技術力が高まると,一度に複数枚のアクションカードが使えるようになったり,各アクションを実行する際,より強力な「進歩アクション」を選択できるようになったりする。
軍事力や技術力を伸ばす以外にも,「浸透」アクションで自文明の領地を拡大(ボードに描かれた地図上の各地域には勝利点が設定されており,ターン終了時に領土としている地域の点を獲得できる)したり,「芸術」アクションでワンダーカード(カードに書かれた条件を満たすとさまざまな効果を得られる,エクストラアクションカード)を獲得したりできる。ほかプレイヤーの動向をうかがいつつ,自文明の強みをしっかり生かして発展を進めることが勝利への近道だ。
駆け引きは熱いが,テンポもいい
アクションカードは回収しない限り再使用できず,また多くのアクションでパワーキューブが必要になるので,いかにカードやキューブを回収し,望みのアクションを使用できるようにするかがこのゲームの重要なポイントだ。
カードやキューブを回収できるワンダーカードを早めに取っておくのもひとつの手だし,積極的に軍事力を伸ばし,発展ボーナスや略奪アクション(勝利点を得るとともに,キューブを回収できる)を狙うのもいい。革命アクションを使うと好きなカード1枚を回収できるので,使いたいカードがなければさっさと革命を起こしてしまうのもいいだろう。いつ,どのタイミングでどのアクションを実行し,どうやってそれを回収していくかがプレイヤーの腕の見せどころになるわけだ。
だが,それ以上に気を配っておきたいのが手番だ。前述のとおり,アクションは手番順に実行されるので,これを意識せずにプレイしていると,選んだアクションが無駄になってしまうこともありうる。たとえば芸術アクションを選んでも,ほかのプレイヤーが先に芸術アクションを実行してしまったら,自分の手番が回って来たときには取れるワンダーが無い……ということにもなりかねないのだ。
ワンダーの中には「技術力が単独トップ」などといった条件を満たさないと効果を発揮しないものもあるので,その効果を得るためにもやはり手番が早いほうがいい。ターンごとの手番は勝利点が少ないほうが先になるので,序盤はあえて点数を低く抑えるのもありだろう。
一方で浸透アクションは,手番が遅いほうがほかのプレイヤーの行動を確認したうえで,浸透を行う地域を選べるようになるので,あらゆる場面で先の手番が有利というわけでもない。手番が遅いプレイヤーは,遅いなりにほかプレイヤーの手を読んでカードを選び,逃げ切りを狙う必要がある。このあたりの駆け引きが悩ましくも実に楽しい。
気分は歴史の創造主
しかしいざプレイしてみると,各時代の最初にひとり1枚ずつ配られる「指導者カード」(カードに示された条件を満たすことで大きな勝利点が得られる)のおかげで方針を定めやすく,序盤でもカード選択に悩む場面は意外なほど少なかった。さらに,一度に出せるカードには限りがあり,個々のアクションカードの効果もシンプルなので,各プレイヤーの手番は短く,テンポ良くゲームが進む。終了までにある程度時間はかかるものの,だれることはそうそうないはずだ。
ほかプレイヤーとの駆け引きや,自文明を育てていく楽しさなど,さまざまなおもしろさを内包しつつも遊びやすいゲームになっている。何より,人類が火の使い方を覚えたところから,インターネット技術が生まれるまで,1万2000年の歴史を一気に駆け抜けるダイナミズムはこのゲームならではのもの。プレイが終わったあとは,それぞれの文明の歴史をしみじみ振り返ってみるのもいいだろう。
ちなみにアドバイザーカードや指導者カードは実在の歴史上の人物から,ワンダーカードは実在の芸術作品や歴史的遺産,観光地などから題材が採られているので,その“元ネタ”を探すのも面白い。
文明を発展させるこの手のゲームは“重い”ものが多いが,この「ヒストリア」の軽さは特筆に値する。興味を覚えたらぜひ一度触れてみてほしい。
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