連載
「あんぷらぐど☆げーまーず」第9回:海底都市で繰り広げられる高度な情報戦。報酬隠匿型入札ゲーム「フラムルルイエ」
近年,日本のアナログゲームデザイナーが海外から注目を集めている。以前4Gamerで紹介した「惨劇RoopeR」の作者・BakaFire Partyも,そうした日本人クリエイターの一人。ループものというアニメやゲームなどで人気のテーマを,うまくボードゲームに落とし込んだ同作は,ボードゲームファンの間で大きな話題となり,BakaFire Partyの代表作となった。「Tragedy Looper」の名前で英語版が発売されており,海外でもその人気は広がっているようである。
今回はそのBakaFire Partyが「ゲームマーケット2015春」でリリースした新作「フラムルルイエ」を取り上げる。その筋の人ならタイトルからピンと来るだろう,クトゥルフ神話をモチーフとしたタイトルで,入札ゲームという伝統的なゲームメカニクスにアレンジが加えられ,独自のプレイフィールを生んでいる。
BakaFire Party「フラムルルイエ」紹介ページ
見えない財宝をめぐる,狂気に満ちた“競り”が幕を開ける
太平洋の海底で奇妙な遺跡が見つかった。プレイヤーの目的は,そこに眠る宝物を手に入れ,富を得ること。だがその遺跡こそは,かの邪神を封じた忌まわしき都であり,宝物に目がくらんだ愚かな人間を狂気へと引きずり込む,恐るべき罠なのであった……。
本作のプレイヤーが扮するのは,まさにそんな宝に目がくらんで恐ろしい場所に足を踏み入れた,愚かな探索者だ。手にしているのは,最初に配られる4〜15までの数字が書かれた12枚のカード――「パワーカード」のみである。
各ラウンドでは,まず親がそのラウンドで取り合う「宝物カード」の表側をこっそりと見たうえで,自分の手札からパワーカードを一枚選んで表向きに出す。そのあとは,残るプレイヤーがパワーカードを裏向きに出す。全員が出し終わったらすべてのパワーカードを表向きにして,最も数字が大きかったプレイヤーが宝物を獲得する。競りが終われば,宝物を獲得したプレイヤーに親に移ってラウンドが終了。
……いってしまえば,本作はただそれだけのゲームだ。
宝物カードの表面には,その宝を獲得したときに得られる勝利点が書かれていて,もちろんカードによってその価値は異なる。できることなら,点数の高い宝物を手にしたい。この1ラウンドを宝物の山がなくなるまで繰り返し,最終的に得た点数が最も高かった者が勝利となる。
仕組まれた狂気の罠と,勝利への手がかり
しかしながら,本作がそう単純なゲームではないことは,実際にプレイしてみればすぐに分かる。デザイナーによって仕組まれたさまざまな補足ルールが,本作を一筋縄ではいかないゲームにしているのだ。
まず,パワーカードは使い捨てなので,一度使えば同じカードは二度と出すことができない。高得点の宝で数字の大きいカードを出し,そうでないときは小さな数字を出して競りから降りてしまいたいところだが,そうは問屋が卸さない。宝物の価値が分かるのは,そのラウンドの親だけなのだ。ほかのプレイヤーは親が出したカードを見て,その宝の価値を推測するのだが……それがブラフである可能性は十分にある。
それに加えて恐ろしいのは,「宝物を獲得した場合,その時に使ったパワーカードの数字が得点から引かれる」ことだ。たとえば16点の財宝を手に入れたとしても,パワーカードの数字が15だったとしたら,トータルではたった1点のプラスにしかならない。親のブラフに騙されて大きな数字のパワーカードを出してしまったとき,宝物の価値が低かったとしたら……あなたはとんでもない借金(マイナス点)を背負うことになるだろう。
恐ろしい事態はまだある。それが本作が「フラムルルイエ」であるが由縁――クトゥルフファンお待ちかねの「狂気」の登場だ。
パワーカードがマイナス得点となるのは,なにも競りに勝利したときだけではない。宝物を手に入れられなかった(=ラウンドで敗北した)プレイヤーは,使ったカードを裏向きにして自分の前に置かなければならない。それらは「狂気カード」となり,それぞれが−1点の価値を持つようになる。敗北し続けば,狂気カードはそのぶんどんどん積み重なっていく。
ただし溜まった狂気カードは,宝物カードを獲得することでまとめて「祓う」(=消滅させる)ことができる。どれだけ狂気カードが溜まろうと,ラウンドに勝てば一気に帳消しになるのだ。一方で,勝てなければ狂気は着実に溜まっていく。序盤に運良く高得点を得ても,その後まったく勝てなければ,せっかく得た得点は目減りし,それどころかマイナスになってしまうことさえありえる。
なお,ゲーム終了時に全員の得点がマイナスだった場合は,邪神が復活したことになって勝利条件が変更。この場合は,最も得点が高かったプレイヤーではなく,最もマイナス点が大きかったプレイヤーが勝者となる。そう,最も深く狂気に陥った者が,邪神の寵愛を得られるのだ……。
「奪い合うカードの正体も分からないのに,いったいどうやって勝ちにいけばいいのか」――そう思う人もいるかもしれない。だが,このゲームのポイントはまさにその「カードの正体をいかにして予測するか」にある。
ヒントは残されている。宝物の裏面に書かれている数字がそれだ。この数は「そのカードが属する階層で,出現する可能性ある勝利点」を示している。例えば「浅層」のカードであれば,「7,10,11,13,14」という具合に。
つまり,このカードの勝利点は,この5つの数字のいずれかであることは間違いない。しかも階層ごとにカードは5枚しかないとなれば……ゲームが進むにつれ,自ずと狙いが絞られてくるのは明白だ。
また,あるラウンドで勝てば,次のラウンドの親になれるルールも,本作においては貴重な情報源の一つといえる。そのラウンドで獲得したカードと,次ラウンドで取り合うカード,都合2枚分のカードの正体を知ることができるからだ。その情報があれば,さらにカードを絞り込み,親のブラフを見抜くことも不可能ではない。そのためには,ときに得点ではなく,情報を得るために親を取りにいく,といったプレイも必要になってくる。ここでは詳しい説明を省くが,各プレイヤーにランダムに1枚ずつ配られる「切札カード」の使いどころも重要だ。
確かに,親でなければ宝物の価値を知ることはできない。だが,親の出したカードや狂気カードのたまり具合などから,カードの正体を予測することはできる。本作のキモは,そういった情報と心理の駆け引きの中にこそ,見出すことができるのだ。
肌がひりつくような駆け引きを制し,情報戦を戦い抜け
「全員が同じ手札を持ち,その中から1枚を選び,最も大きい数字を出したプレイヤーが得点カードを得る」というシステムからは,パーティゲームの名作「ハゲタカのえじき」が連想されるが,プレイフィールにはかなり違う。とくに「獲得に使ったカードの数字がそのままマイナス点になる」という要素が大きく,これがじりじりとした心理戦を生み出す要因になっているようだ。そのため,パーティゲームと呼ぶにはやや難しいゲームだが,ブラフをかけたり,他人の心理を読んだりするのが好きな人にはぜひプレイしてほしい一作といえる。
なお,この「フラムルルイエ」は,アナログゲーム制作サークル・ゾック神社が2013年に頒布した「見滝原は狭すぎて」を元に,BakaFire Partyがアレンジを加えたタイトルとなっている。オリジナルはアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」をモチーフとしたゲームだったが,本作ではそれがクトゥルフ神話に置き換えられ,リメイクが図られている。こうしたクリエイター同士の交流から,新たなゲームのアイデアが生まれ,いずれまた,世界に羽ばたく作品が生まれてくるかもしれない。そうした意味でも本作は注目すべき作品だといえるのではないだろうか。
BakaFire Party「フラムルルイエ」紹介ページ
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