インタビュー
なぜ今,マルチプレイなのか。そして“ゼルダのリアリティ”とは? 「ゼルダの伝説 トライフォース3銃士」,青沼英二プロデューサーと,四方宏昌ディレクターに聞いた
3人のプレイヤーが互いに力を合わせ,4コース×8エリアの全32コースで,シリーズ定番のアイテムを駆使し,さまざまな謎に挑むことになる。
そんな本作の気になるポイントについて,プロデューサーの青沼英二氏,ディレクターの四方宏昌氏に話を聞いた。後半,「ゼルダはなぜゼルダなのか」といった,やや観念的な話題になっているが,シリーズのファンにはそこも含めて目を通していただけると幸いだ。
「ゼルダの伝説 トライフォース3銃士」公式サイト
タイトル決定の決め手は,
略称が「トラサン」になることだった!?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
いきなり素朴な疑問なんですが,「ゼルダの伝説 トライフォース3銃士」というタイトルに決まった理由を教えてください。3人でプレイするゲームだから「3」が付くのは分かるんですが,なぜ,「3剣士」などではなく「3銃士」なのか,とても気になるんです。
これはいろいろと議論があったところなんですよ(笑)。
そもそも海外でのタイトルである「トライフォースヒーローズ」が,今年のE3の時点で決まっていました。「トライフォース」というのは英語圏だと,ゼルダの中に出てくるものとはちょっと違うニュアンスでも受け止められている言葉なんですよ。軍隊の中のチーム名を「○○フォース」なんて呼ぶじゃないですか。
4Gamer:
「タスクフォース」とか「デルタフォース」といった。
青沼氏:
ええ。それと似たような感覚で,「トライフォース」というのは3人のグループ名みたいな形で認識できると。そこに勇者達のイメージである,ヒーローズをくっつけた形なんです。
じゃあ日本はどうする? という話になって,最初は難航しましたね。「ヒーローズ」では,ちょっと格好良すぎるし,ゼルダはもう少しダサい感じのほうが相性がいいんじゃないかって(笑)。
4Gamer:
ダサい感じですか。
青沼氏:
ええ。候補としては,「3勇士」なんていうのもあったんですけど,これまでのゼルダのイメージとはちょっと違うものにしたいという思いもあったんです。
それで「3」という数字を聞いたときに,一般的に思い浮かべるのはやはり,あのフランスの有名な小説の題名でもある「三銃士」だろう,と。これなら,今までのゼルダとは違うイメージにもなるし,今回のタイトルにとってはいいんじゃないかということで決まったんです。
最終的な決め手は,略すと「トラサン」になるというところでしたけどね(笑)。
4Gamer:
リンクが腹巻きでもしてそうな(笑)。
青沼氏:
いつもタイトルを決めるときって,宮本(茂氏)と「こんなのどうでしょう?」ってメールでやりとるするんですけど,最終的にオチがあるものに落ち着くというところがあるんです。
最初は真面目に考えていくんですが,だんだん「俺もお前も今年でサンジュウシ」とか,おかしな方向になったりして。でもそういうやりとりをしながら決まった,オチのあるもののほうが愛着が沸くというか。
4Gamer:
な,なるほど(笑)。
ちなみに,今回の企画や開発はいつ頃から始まったんでしょう?
マルチプレイのゼルダを作りたいというのは,前々から思っていたことなんですが,実際に作りましょうと動き始めたのは,「ゼルダの伝説 神々のトライフォース2」(以下,神トラ2)ができあがってからです。
4Gamer:
つまり,実質的に開発期間は2年に満たないわけですね。
では,どうして3人でのマルチプレイという形になったんでしょう。「ゼルダの伝説 4つの剣」(以下,4剣)では4人でしたが。
四方氏:
「ゼルダの伝説 大地の汽笛」で,リンクとファントムを切り替えながら遊んでいくシステムがあったんですが,僕はあれを2人で同時に遊べたら面白いだろうと思っていました。
でも青沼さんが以前,「マーヴェラス 〜もうひとつの宝島〜」というゲームを作っていて,あれが3人だったんですよね?
青沼氏:
確かに3人のゲームは作ったことがありますけど,僕は今回の立ち上げ時点では,ゼルダのマルチなら,4剣からの流れで4人だろうと思っていました。ところがある日,「3人がいいんですけど」ってスタッフから言われたんですよ。
4Gamer:
スタッフからの発案だったんですね。
青沼氏:
ええ。神トラ2のときに,トップビューの画面で裸眼立体視を活用して高さ方向にアプローチした遊びを作ったんですが,今回はそれを別の形に発展させて,「トーテム」という,縦に積み重なって高いところにアプローチする形にしたんですね。
ところがこれ,4人重なると画面から見切れちゃうんですよ。画面内に収めるためには,カメラをどんどん引かなきゃいけなくなりますし,そうするとキャラクターも小さくなってしまう。これでは遊びにくいという話になって,そこで3人という形に落ち着いたんです。
四方氏:
裸眼立体視をしたときに4人が重なると,視差が強くなりすぎるという問題もありましたね。
高さにアプローチするにしても,2段で持ち上げるというのは,4剣などの過去のシリーズでもありましたし,ネタ的にも3段がちょうどいいだろうということになったんです。
青沼氏:
あとね,ゼルダシリーズの25周年のときに4剣をリメイクしたんですが,4人で遊んでいるとどうしても2人と2人に分かれちゃうというのもありました。4人そろわないとダメなところでは4人が集まるんだけど,それ以外はペアで遊ぶみたいな形になりがちで。そうなると,4人で協力して遊んでいる感じがあんまりないような気がして。
4Gamer:
ああ,その経験はあります。
青沼氏:
でも今回,開発中に実際に3人で遊んでみたら,ちょうど良かったんですよ。1人と2人に分かれたとき,こっちが1人だとほかの2人に追いつこうとしますし,こっちが2人だと1人がはぐれているから探しに行かなきゃいけないような気がして。
だから3人だと,適度な仲間意識みたいなものが自然と生まれてくるのかなって。
四方氏:
うまく説明できないんですけど,4人で遊んでいると何だか雑な感じになるんですよね。でも3人だと周りを意識するんです。どうしてなのか分からないんですけど……。
3人だと,歩いているときも常に多数決で進む方向が決まっていく感覚があって,マルチプレイに適した人数なのかなって,実際に作りながら感じていました。
青沼氏:
結果として今回,紫のリンクはいなくなっちゃったんです。紫さんには非常に申し訳なかったんですけど。
それとまあ,ガノンとゼルダとリンクみたいな構図も昔からありますし,「3」という数字をずっと意識してやってきたところもあって,「3人にしたい」と言われたときに,妙に納得できたというのもあります。
四方氏:
デザインにも落とし込みやすかったですね。トライフォースの上に3人で乗ってワープする演出も。
それぞれが不自由だからこそ,
仲間の意志を汲みたくなる「トーテム」
4Gamer:
では,トーテムというシステムを採用した理由について,もう少し詳しく教えてください。
誰が最初に言い出したんだっけ?
四方氏:
システムディレクターの毛利さんですね。
青沼氏:
そうか。トーテムをやりたいから,マルチのゼルダを作らせてくれって言われた記憶がありますね。
最初のうちは,3人が重なるというだけで遊びにバリエーションを作れるのか,ちょっと不安だったんですよ。今回,神トラ2のような壁に入れる要素をやめちゃったので,トーテムだけでどれだけ遊べるんだろうか? と。
4Gamer:
初めは懐疑的だったんですね。
青沼氏:
ところが,2段で重なったり3段で重なったりのバリエーションもありますし,下にいる人が意志を持って動いて,上の人がそれに攻撃を合わせたりとか,息を合わせる必要のある遊びになっているんですよね。しかも,同じようなことをやっていても,毎回ちょっと違った手応えみたいなものが得られて。そこで,トーテムって3人が1個になるってことなんだなって理解できたんです。
だから先ほどもお話ししたとおり,高さへのアプローチという意味はもちろんあるんですけど,3人が完全に協力することが大事だという,とてもシンプルな構造でもあるんですよね。
4Gamer:
協力型マルチプレイのだいご味そのものというか。
青沼氏:
ええ。しかも毎回手応えが変わるから,これだけを軸にしても十分に面白いものを作れるなっていう確信が,開発の中盤ぐらいに得られました。トーテムを考えた人間が,最初からそこまで計算していたのかは分からないですけどね。
4Gamer:
トーテムって,一番上の人しかアイテムを使えないですよね。だからそれぞれが異なるアイテムを持っているとき,トーテムになっても順番を間違えると使いたいアイテムを使えないという,あの辺のもどかしさも,楽しさにつながっていると感じました。
四方氏:
それも最初から決まっていたものですね。
青沼氏:
誰が方向をコントロールするかっていうのは,いろいろ試したよね。一番上の人も向きをコントロールできるようにしたりとかも試したんですけど,やれることを多くしすぎると一体感が出なくなるんですよ。
持ち上げられたら身を委ねるしかないぐらいの感覚って,自分が主体的に動いているときと違うものなんです。そこが妙に楽しいっていうか,不思議な感じがあって,これを採用しようという話になりましたね。
4Gamer:
けっこう思い切った仕様ではありますよね。一番下の人しか移動はできなくて,攻撃は一番上の人任せで,真ん中に至っては一番上の人を投げることしかできないという。
青沼氏:
上の人を投げるタイミングっていうのも重要なポイントなんですよね。上の人は降りたくても,自分じゃ降りられないわけで。それも最初は議論になりましたね。
四方氏:
かなりの議論でしたね。
青沼氏:
降りたいときに降りられないのはイヤだと思ってたんですけど,いつでも降りられるわけではないからこそ,降りたいときに降ろしてもらえた瞬間には,「やった!」っていう手応えがあるんです。やっぱりある種の縛りがあって,それをうまくクリアできたときに,人って手応えを感じるのかなと。
だから,自由に何でもできるというのが,必ずしも楽しさにつながるわけじゃないんだなっていうことは,そのときに感じました。
4Gamer:
それぞれが不自由であるからこそ,3人が力を合わせて一つの目標に挑んでいく必要がある,と。
青沼氏:
そうなんです。仲間の意志を汲もうという気持ちになってくるんです。
四方氏:
実際,真ん中の人も「何かをするべき!」という話も出たんですよね。方向を決めるべきとか。でも,作り込んでいくうちにそういう意見もなくなって,真ん中になると一息つけるとか,応援のスタンプを使いやすいとか。そういうことも大事なのかなと思っています。
4Gamer:
プレイに緩急が付くわけですね。
青沼氏:
そうやって,トーテムのどの位置に入るかによって役割分担が変わってくるところも,面白いところだと思いました。
マルチプレイと同じ遊びを,
1人プレイでも採用した理由
4Gamer:
最初のうちは,思い通りにならないことへの違和感やいらだちもあるんですけど,遊んでいるうちにそれらが絶妙なスパイスになっていることが分かりますね。
青沼氏:
マルチで遊んでこそ,その辺が分かってくるんですよね。
1人プレイも入れましたけど,1人プレイはとにかくストイックに,全部を自分でやらなきゃいけないというものになっていて。
4Gamer:
1人プレイでもマルチプレイと同じことをしなきゃいけないんですよね。
1人で遊ぶときには2体の「まねビト」を連れて行って,操作するキャラクターを切り替えながら遊ぶことになりますが,切り替える形を採用したのは,なぜでしょう?
青沼氏:
先ほども名前の出た,僕が昔作ったマーヴェラスというゲームが,キャラクターを切り替えて遊ぶものだったんですよ。
四方氏:
そうそう。これの言い出しっぺは青沼さんでしたね。
青沼氏:
うん。で,最初に,マーヴェラス方式で1人で遊べるかどうか試してもらって。
四方氏:
「えーっ! そんなのクリアできないに決まってますよ!」って言ったんですけど。
青沼氏:
実際に試してみたら,意外といけるという感じになって。
どうせできないだろうなと思いながらやってみたら,けっこうできたんです。で,違うコースもやってみたら,あれ? これもできるな……って。最終的には全部を1人でクリアできることが分かったんです。
1人で遊んでみると,マルチとはまた違う形で世界に引き込まれるような感触があるんですよね。
青沼氏:
自分で言い出しておいて何ですが,正直,途中で何度も「これ本当に1人でできんの?」って思いました(笑)。
普通は1人用に別のゲームシステムを用意するとか,例えば速度も変えるとか,そういうことをやってみたくなるものなんですけど,まずは何も変えずに解けるかどうか試してみようということでやってみたら,意外にもギリギリで解けたんですよね。
それに,できるわけがないと思っていたことができたときに,めちゃめちゃ嬉しかったりして。あ,この感覚はやっぱりゼルダだなっていうのがあって,このままいこう,と。
4Gamer:
ゼルダならではの感覚を味わえる,と。
青沼氏:
ええ。さらに言うと,1人用を遊んだあとでマルチを試してみると,コースの解き方みたいなものも変わってくるんです。自分なりの正解があって,それをどうやって一緒に遊んでいる仲間に伝えようか,みたいな感覚も含めて。
だから最終的には,1人用,ローカルプレイ,インターネットプレイで,同じコースであっても,違う遊び方ができるようになりました。
4Gamer:
インターネットプレイは体験していないんですが,ほかのプレイヤーとのコミュニケーション手段がスタンプしかない分,ローカルプレイとはまた違うもどかしさと喜びが味わえそうですね。
ちなみに1人で遊ぶとき,まねビトがある程度,自律的に動くような仕組みは考えなかったんですか?
青沼氏:
1人で切り替えながら遊ぶというのがもしもダメだったら,そういうことも考えるつもりでした。でもそれをやってしまうと,1人がリーダーとして残りの2人を連れて歩くみたいになって,すごくイヤだったんです。
やれないことはなかったと思いますし,そのほうが簡単なものになったかもしれないんですけど,そっちに行かずに済んで良かったと思っています。
四方氏:
それに,操作も複雑になってしまうんですよね。ここに来てほしいってときと,待っていてほしいとき,誰を待たせるのかとか。1人には付いてきてほしいけど,もう1人は置いておきたいとか。
せめて,自動的に後から付いてくるぐらいはありかな? というのも考えていたんですけど,それもやっぱり何か違うなって。
青沼氏:
「付いてくる」だと,3人っていう意識じゃなくなるんですよね。ゲームでよくある「オプション」みたいに,ただ三つの物体を同時に1人で動かしているだけになってしまって,マルチプレイのゲームを1人で遊んでいる感覚とは違うんです。
四方氏:
付いてくるってなると,トーテムの良さもなくなってしまいますし。
青沼氏:
そうそう,僕,4剣の25周年リメイクのときに,1人プレイでほかのキャラクターが付いてくるというのをやってみたんですよ。
マーヴェラスにもそういうシステムがあったので,同じような形にしてみたんですけど,自分で遊びながら「これってマルチで遊ぶものを1人で遊んでるとは言えないかもな」って,実はちょっと思ったんですよね。
4Gamer:
なるほど……。
でも今回はちゃんと,3人で遊ぶところを1人で遊べるっていうことに対する,別の答えがあって,それがゼルダの新しい遊びになったんです。そこは,やってみた結果として目から鱗だったような部分ですね。
もっと世界が広くて,いろんなところに行かなきゃいけないゲームだったら,こうはいかなかったと思いますし,3人じゃなくて4人だったら,もっと手間になってしまうので,ダメだったと思うんですよね。
4Gamer:
いろんな意味で,3人であることが功を奏しているわけですね。
四方氏:
ただ,1人で遊んでるほうが簡単なときもあるんですよ。例えば,トーテムの状態で矢を当てなきゃいけないときなんかは,方向を決めるのも矢を撃つのも1人でできますから。
だから1人でやると難しいときもあれば,1人のほうが簡単なときもあって……。
4Gamer:
このゲームを味わい尽くそうと思ったら,1人も,マルチも遊ぶというのが理想なんですね。
青沼氏:
ぜひ,まんべんなく遊んでもらえると嬉しいですね。
4Gamer:
ところで,まねビトという名称は何に由来しているんでしょうか。ちょっとダークな臭いを感じたのですが。
四方氏:
過去にゲームキューブで作っていて,発売に至らなかったタイトルが,「マネビト」だったんです。
青沼氏:
ムービーを作れるものでね。そのときに作れるアバターみたいなものを,マネビトって言ってたんだっけ?
四方氏:
ええ。その構想が今のMiiの元になっていて。
青沼氏:
パーツを組み合わせて自分のアバターを作り出すみたいな形で。だから僕らの頭には,マネビトという言葉が,アバター感覚のものとしては残っていたんですよ。
で,「マネビトって呼んじゃっていいですか?」って僕が聞かれたんですけど,「そんなの,マネビトを作った人に聞いて」って答えるしかなくて。
四方氏:
そこで当時,マネビトを作っていた人に聞きに行ってみたら,OKをもらえたんです。
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ゼルダの伝説 トライフォース3銃士
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ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
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