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[GDC 2018]XCOM2の自動生成マップに隠された物語とは? 小さな痕跡を使って物語を語る方法
そんなXCOMシリーズだが,ストラテジー部分以外にもさまざまな魅力が詰まっている。GDC2018ではそんな魅力のうち,「マップに隠されたストーリー」に焦点をあてた講演が行われた。とくに「XCOM2」においては,自動生成されるマップのどこに,どのようなストーリーが潜んでいるのだろうか? 「EXPLORING HIDDEN STORIES IN THE WORLD OF 'XCOM 2'」と題された講演の模様をレポートしよう。
まずは「パッと見て印象深い」マップを作る
前述の通り,「XCOM2」の戦闘マップは自動生成される。非常に雑に言えば「ランダムに生成される」と言い換えることも可能だ。従って「マップを通じてストーリーを提供する」と言っても,肝心のマップがどんなマップになるかは,作った側ですら分からないということになる。
この条件において「マップを通じて物語を提供する」ため,Rodriguez氏はいくつかの工夫を凝らしている。
まずそもそも,マップの多様性は絶対に担保されねばならない。「なんだかまた見たことがある感じのマップが出てきたなあ」と感じられてしまったら,「隠された物語」も何もあったものではないだろう。
これを踏まえて,「XCOM2」ではマップのオブジェクトに天候や季節の要素が加味されるようになっているという。同じ建物が並ぶ住宅街でも,秋は紅葉が見られるし,冬になれば雪景色になる(ちなみに「雪景色化」は手作業で行ったとか)。
また,データ的に言えば同じ「ファミリーレストラン」であっても,内装を変えることによって異なる印象が発生するような工夫も成されている。
もっともファミレスごとに内部構造が違うということになると,これはこれで戦闘のバランス調整が大変なことになる。同じ構造であっても「違う建物だ」と感じられるように,大量の試作が行われたという。
また,古くからのファンにウインクすることも忘れてはいない。
例えば下の写真に見える「SHOPF PAPER INC.」だが,これはXCOMシリーズの過去作にも登場している会社だ(ちなみに余談だが,この会社の名前は以前XCOMシリーズを作っていたデザイナーから取られているとか)。
これ以外にも,シリーズの過去作においてプレイヤーに強い印象を残したマップが自動生成で作られるよう,「仕込み」が成されているという。
「ここにはどんな人間がいて,何をしていたのだろう?」
さて,ここまでが「大きな仕組み」である。
だがこれだけでは,「隠された物語」とはとうてい言えないだろう。「SHOPF PAPER INC.」や過去作マップの再登場といったものは,悪く言えば内輪ウケであって,これを「隠された物語」と言うには無理がある。
では実際に,XCOM2のマップに隠された物語の実例を見てみよう。まずは下の写真から。
お分かりいただけるだろうか。スライド右上に拡大表示されているが,屋根の上にフリスビーが引っかかっている。と,なると,「これが物語?」と思う方も少なくないかもしれない。だがこれは,あくまで最初の一歩でしかないのだ。
上の写真もまた,自動生成されたマップの一部だ。左の壁沿い,蛍光灯の下を見ると,毛布と枕が転がっているのが分かる。そう,間違いなくここではかつて,人が寝起きしていたのだ。
Rodriguez氏はこの毛布と枕をもとに,さまざまな想像を語る。「ここに誰かがいて,何かをしていた。ここを拠点にして活動していたのかもしれない。ここに避難してきたのかもしれない。ここからさらにどこかへと逃げていったのかもしれない。あるいは,ここは誰かにとって終焉の地だったのかもしれない」。
確かに,これはちょっと想像を膨らませ過ぎかもしれない。けれどもXCOM2のマップには,これに似た痕跡――あるいは小さな物語の破片が,大量に隠されているのだ。
このようにしてマップに「物語」を埋め込んでいくにあたって,Rodriguez氏はくつかの指標を提示した。以下,重要なものを抜粋する。
・新しいものを作る
ありがちな記号ではなく,「そこで何が起こったか」を考える。
・キャラクターを作る
マップ上にあるもののほとんどは,人間が作ったものだ。従って,その人間がどんな人物だったのかをしっかりと作りこまないと,マップから物語は見えてこない。
・小物は友達
小さな植木鉢があれば,「ガーデニングが好きだったのかな」といった想像が可能となる。痕跡を小さく残し,そこに物語を仮託する。
以上に基いて,再びXCOM2のマップを確認してみよう。
この建物は,一階が商店で,二階が住居になっている。二階のベランダには,プランターがあったことがうかがえる。
同じ建物の屋上には,たくさんの植木鉢と,水やり用の各種設備が残されている。間違いなく,この家に住んでいた住人は,小さな植物を育てるのが趣味だったのだ。
ちなみに,「こんな細かいところを作っても,プレイヤーは気づかないのではないか」という印象を受けるかもしれない。だが実際には,「意外とそうでもない」という。
というのも,XCOM2はターン制のゲームであり,またカメラは攻撃する・されるといったタイミングでズームインとズームアウトを繰り返す。そして敵が行動する間には,プレイヤーにできることは「攻撃が命中しませんように」と祈るくらいのことだ。結果,プレイヤーは想像以上にこういった細かなディテールを目にすることになる。
また,Rodriguez氏は「(この手の仕込みをするにあたって)屋上はとくに好きだ」と語った。XCOM2では高所からの攻撃にボーナスがつくので,多くのプレイヤーは高いところにキャラクターを登らせたがる。必然的に,建物の屋上はより多くのプレイヤーの目につきやすくなるというわけだ。
プレイヤーの想像力が語る「物語」
もう2つほど,事例を見てみよう。まずは「ある家族の物語」である。
左の画面は,物語性の強いシーンと言えるだろう。壁に張られた家族の大きな写真の上に,小さな張り紙がたくさん張られている。床には毛布と枕がセットで置かれていて,ここは何らかの拠点になっていたのだろうと考えられる。
その上で,別のマップには「張り紙に汚染されていない家族の写真」(写真右)が残っていたりもする。いったいこの家族に――おそらくは引き裂かれた家族に――何があったのだろうか。
少なくとも1つだけ言えるのは,張り紙が大量に張られているほうの家には,不思議な十字架めいたオブジェが壁に架けられているということだ。そしてこのオブジェはエイリアンが宣伝用に作った十字架であり,同じものは教会にすら残っている。
この風景は,「エイリアンによって占領された未来の地球」というXCOM2の舞台背景を考えれば,おそらくは「ありふれた景色」のひとつだ。そしてこのありふれた景色には,小さな物語がひっそりと眠っている。
次は,「眼科医の物語」を見てみよう。
XCOM2世界は,近未来SF世界でもある。このため,一部のテクノロジーは現代より進んでいる。左の写真を見ると,この眼科医は,患者の視力を測定した後,3Dプリンタ(画面右の一番手前)を使ってメガネを作っていたようだ。
また,この眼科医はなかなか洒落者というか,どちらかと言えば「かぶく」傾向があったようで,クリニックにはバーを居抜きで使っているようだ(写真右)。
けれども,かといってこの眼科医は,必ずしも遊び人だったというわけではなさそうだ。バーカウンターの右端に乗せられた3Dプリンタでは,車の玩具が作られている。
屋上に登ってみると,塗装している最中の車の模型が見つかる(写真左)。そしてそれ以外にも,たくさんの玩具が見つかる(写真右)。おそらくこの眼科医は,自分の仕事に使う3Dプリンターで玩具を作っては,恵まれない子供たちに配っていたのだろう(ただのプラモデルマニアだったと考えるには,あまりにも対象年齢が低い玩具が多すぎる)。
エイリアンによって占領された地球において,この心優しい伊達者がどうなったのか――そして子供たちがどうなったのかは,まったく分からない。
これ以外にもさまざまな「物語」が感じられる画面写真を,いくつか以下に並べておく。
小さなこだわりの積み重ねとして
Rodriguez氏は,こういった「小物の配置」は,マップ制作のかなり早い段階から行っているという。ゲームバランスを調整する側としては,「プレイヤーに進んでいってほしい方向」に向かって大量の「あまり前に進みたいとは思えない小物」を置かれてしまうと困ってしまうから,これは仕方のないところだろう。
逆に,これを踏まえてレベルデザインと「マップに対する物語性の付与」を融合させたり,あるいはヒートマップを用いて小物の配置を分析したりといったことも進めているという。
講演の最後にRodriguez氏は「もしかするとこういった作業は無駄に思えるかもしれない。けれども,このような小さなディテールを通じて,プレイヤーはゲームそのものに対する好感度を上げていく傾向がある」と語る。
現実問題として言えば,遊んでいるさなかにこれらの小物の存在に気づくことはあるだろうが,そこで「ここにはこんな物語があったに違いない」とまで思いを及ばせられるほど,XCOM2は気楽なゲームではない。
けれど人間の「気づき」というのは不思議なもので,鍛え上げた精鋭部隊が生きるか死ぬかの瀬戸際で戦っているそのど真ん中において,突如として隠された小さな物語に思い至ることもある。
そういった小さなこだわりが集まった作品であればこそ,XCOMコミュニティの熱狂があるのではないか――そんなことを思わせる講演であった。
「XCOM 2」公式サイト
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