レビュー
カード長31cm超で3スロット仕様。超大型の空冷R9 Furyは買いか
Sapphire NITRO RADEON R9 FURY 4G HBM PCI-E HDMI/DL-DVI-D/TRIPLE DP TRI-X OC+(UEFI)
「NITRO」はSapphireのフラグシップ製品に与えられる冠だけに,その性能は大いに気になるところだが,果たしてその実力はいかほどか。実機を入手できたので,R9 Furyの高付加価値モデルをテストにかけてみたい。
コアクロックはリファレンス比で5%増し
オリジナル設計の基板で性能を最適化
R9 FuryがどんなGPUかという話は発表時のレビュー記事を参照してもらうとして,さっそく,NITRO R9 FURYを見ていこう。
冒頭でカード長が堂々の300mm超えという話は紹介済みだが,基板長自体は実測約231mm(※突起部除く)と,ハイエンド市場向けカードとしては短い。ただ,この基板はSapphire独自設計のものになっているそうで,実際,R9 Fury Xのリファレンスカードや前出のR9 FURY 4G HBM PCI-E HDMI/TRIPLE DP TRI-X OC VERSION(UEFI)が同196mmなので,35mmほど長くなっている計算だ。今回,GPUクーラーの取り外しは許可されていないため,Sapphireの製品資料を参照するしかないのだが,それによれば,
- リファレンスデザインだと1フェーズあたり50Aの6フェーズVDDCなのが,NITRO R9 FURYでは1フェーズあたり60Aの6フェーズVDDC構成となっている
- 1フェーズのVDDCIはリファレンスデザインの20A仕様からNITRO R9 FURYでは30A仕様になっている
- 1フェーズのMVDDはリファレンスデザインが「High Side MOSFET+とDown Side MOSFET」構成で40A仕様なのが,NITRO R9 FURYでは60A仕様のPower Stageとなった
- リファレンス仕様だとフェライトチョークを採用するのに対し,NITRO R9 FURYでは「Black Diamond Choke」を採用し,いわゆるコイル鳴きを最小化した
とのことである。いまどきMOSFETはモジュール化されているのが普通なので,MVDD(※グラフィックスメモリ用電源回路)の表現が変わっているのはよく分からない。コンデンサに関するスライドで一番奥に見えるチョークのところがメモリ用の電源回路だとすると,多段MOSFETになっているような気配がないでもないので,それをSapphireはPower Stageと呼んでいるのかもしれない。ただこのあたりは,リファレンスカードもNITRO R9 FURYも基板を見ることができない以上,想像の域を出ないというのが本音だ。
「Aerofoil Fan」と名付けれたファンは2ボールベアリング仕様で,従来のファンと比べて製品寿命が80%長く,冷却効率は20%高いという。
このプッシュスイッチは押すと青く点灯するため,「いまどちらのモードなのか」は視覚的に分かりやすい。
なお,R9 Fury XのリファレンスカードやR9 FURY 4G HBM PCI-E HDMI/TRIPLE DP TRI-X OC VERSION(UEFI)にあった,GPUコアの負荷状況を示すLEDインジケータ「GPU Tach」(Tach:Tachometerの略)は省略されている。これも「ならではの特徴」とはいえるだろう。
GTX 980 TiやGTX 980との比較を実施
テストにはFallout 4のテストも追加
NITRO R9 Furyの動作モードはStandardを選択した。
テストに用いたグラフィックスドライバは,Radeonが「Radeon Software Crimson Edition 15.12」,GeForceが「GeForce 361.43 Driver」で,いずれもテスト開始時点の公式最新版だ。そのほかテスト環境は表のとおりとなる。
Fallout 4のテスト方法は,GPU全28製品で一斉検証を行ったときと同じ。なので,詳しくは当時の記事を参照してほしいが,簡単にいえば,「Corvega Assembly Plant」で実際に1分間プレイし,その間の平均フレームレートを「Fraps」(Version 3.5.99)で計測するというのを3回繰り返し,その平均値をスコアとして採用するというものになる。テストに用いるグラフィックス設定が「Ultra」と「Medium」で,Mediumではアンチエイリアシングと異方性フィルタリングを無効化するのも当時と同じだ。なお,今回はよりユーザー数が多いであろう日本語版exeを用いている。
テスト解像度は,R9 Furyが4K解像度での利用を想定していることもあり,3840
なお,これはいつものことだが,テストにあたっては,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」を,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。これは,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除するためだ。
R9 Fury XとR9 Furyのほぼ中間的な性能を示すNITRO R9 FURY。多くの局面でGTX 980を上回る
テスト結果を順に見ていこう。
グラフ1がその結果で,NITRO R9 FURYはR9 Fury比で約4%高いスコアを示した。今回テストに用いているR9 FuryはNITRO R9 Furyからのクロック変更である,GPUクーラーなどの条件が同じなので,このスコアは妥当といったところだろう。対R9 Fury Xで94〜95%というのも違和感のないところだ。
気になる対GTX 980では17〜19%程度と,有意なスコア差をつけている。とくに4K解像度でスコアが開きがちなのは「らしい」といえるだろう。
次にグラフ2,3はFar Cry 4におけるテスト結果だが,ここでNITRO R9 FURYはR9 Fury X比で92〜97%程度というスコアに落ち着いた。最も描画設定の低いMEDIUM設定の2560
ただ,ここではむしろ,UITRA設定でGTX 980 Tiの98〜99%程度に迫り,GTX 980には27〜29%という圧倒的大差を付けていることのほうに注目したいところだ。R9 Fury X,そしてR9 Furyともども,HBM(High Bandwidth Memory)を搭載することのメリットがはっきり感じられた。
Fallout 4のテスト結果がグラフ4,5である。
Fallout 4におけるNITRO R9 FURYは対R9 Fury Xで94〜97%程度に迫り,Far Cry 4と比べて相対的に描画負荷が低い条件においては,高い動作クロックを維持できるほうがメリットが大きいということを示している。
スコア全体ではGTX 980 Tiの高いスコアが目立つものの,Ultra設定の3840
グラフ6,7がFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチの結果だが,NITRO R9 FURYは,3DMarkと同じように,R9 Fury XとR9 Furyのほぼ中間の位置に収まっている。
本ベンチマークソフトはGeForceシリーズへの最適化が進んでいるため,Radeonは不利になるが,それでもNITRO R9 FURYがすべてのテスト条件でGTX 980を抑え,とくに3840
R9 Fury Xより消費電力が高いNITRO R9 FURY。GPUクーラーは冷却性能より静音性重視か
カスタム基板採用のクロックアップモデルというと,消費電力が気になるところだが,実態はどうだろうか。ログの取得が可能な「Watts up? PRO」をいつものように用いて,システム全体の消費電力を測定,比較してみたい。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ8のとおりだ。
まずアイドル時だが,NITRO R9 FURYのスコアは57Wで,GTX 980 TiやGTX 980とほぼ同じスコアとなった。ちなみに,アイドル状態が続いたとき,ディスプレイ出力が無効化されるよう設定したところ,NITRO R9 Furyは3Wほどしか下がらなかった。アイドル時,NITRO R9 FURYはIFC 2によってファンが停止するわけだが,ちょうどその分といったところだろうか。省電力機能の「AMD ZeroCore Power Technology」は有効になっていない可能性が高い。
なお,R9 Fury Xが高めなのは,簡易液冷ユニットのポンプの消費電力が加算されているためと思われる。
一方,各アプリケーション実行時を見てみると,NITRO R9 FURYがR9 Fury Xより18〜33W高いのが気になったが,これは,上位モデルに迫る性能を得るべく,カード上の部品点数を増やし,さらに動作クロックを高めに維持しているからだろう。NITRO R9 FURYは,高い性能を得るために,相応の代償を支払っている印象だ。
続いてはGPUの温度チェックである。ここでは3DMarkの30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともども「GPU-Z」(Version 0.8.6)からGPU温度を取得することにした。テスト時の室温は24℃で,システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラックの状態に置いてある。
それぞれのカードにおいてファン回転数の制御方法や温度センサーの位置が異なるため,横並びの比較にあまり意味はない。なので,あくまでもNITRO R9 FURYのスコアを知るためのものだと理解のうえグラフ9を見てもらいたいが,ファン回転が止まる割に,GPUクーラーの大きさを生かして低めのスコアに落ち着くアイドル時と,にもかかわらず劇的に低いスコアにはならないアプリケーション実行時という,面白い結果になっている。
これはなぜかだが,分かってしまうと答えは簡単で,NITRO R9 FURYの搭載するTRI-X Coolingクーラーが静音志向なのか,高負荷時にもファンの回転数が1300rpm前後にしか上がらないためだ。
録音開始後1分間はファンが停止しているため,聞こえるのはそれ以外の動作音のみだ。それに対し,ベンチマークの開始後30秒くらい(≒再生開始後1分30秒前後)からファンの回転が始まるが,その音量は比較的小さく,かなり静かなのが分かるだろう。
ただ,サウンドファイルを聞いてもらうとこれも分かると思うが,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチの実行中には,高周波ノイズとしてのコイル鳴きを確認できた。コイル鳴きは個体差によるところが大きいが,「コイル鳴きを最小化した」と謳われている製品だけに,ここは懸念材料だと指摘せざるを得ない。
※再生できない場合は,Waveファイルをダウンロードのうえ,手元のメディアプレイヤーで再生してみてください。
費用対効果を考えるとGTX 980 Tiには及ばないが,R9 Fury Xにあと少しに迫る性能は魅力的
ただし,ここ数年のRadeon搭載モデルが抱える「価格面の課題」は,NITRO R9 FURYも避けては通れない。日本における実勢価格だとR9 Fury無印搭載カードが7万5000〜8万5000円程度,R9 Fury搭載カードが9万〜10万円程度(※価格はいずれも2016年1月15日現在)ので,予約受け付け中となっているNITRO R9 FURYの価格は8万9000円前後(※同)というのは妥当といえるのだが,競合のGTX 980 Tiカードは,安価なものなら8万5000円前後(※同)から購入できてしまうわけで,純粋に費用対効果を考えた場合,NITRO R9 FURYを強く勧めることはできそうにない。
ただ,R9 Fury Xと比べ,買い得感があるのは確かだ。国内事情を考えると,Fijiが気になる人により向くのは,安価なものなら8万円前後から購入できるようになってきたR9 Nano搭載カードではないかという気もするが,“ハイエンドらしい面構え”のRadeonを試してみたい場合に,NITRO R9 FURYは選択肢となり得るように思う。
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