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「Radeon R9 Fury X」レビュー。GeForceの上位モデルと戦えるRadeonが,唯一無二の特徴を武器に戻ってきた
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印刷2015/06/30 13:01

レビュー

GeForceの上位モデルと戦えるRadeonが,唯一無二の特徴を武器に戻ってきた

Radeon R9 Fury X
(Radeon R9 Fury Xリファレンスカード)

Text by 宮崎真一


R9 Fury Xリファレンスカード
画像集 No.002のサムネイル画像 / 「Radeon R9 Fury X」レビュー。GeForceの上位モデルと戦えるRadeonが,唯一無二の特徴を武器に戻ってきた
 すでにお伝えしているとおり,2015年6月24日,AMDのGPU新製品「Radeon R9 Fury X」(以下,R9 Fury X)を搭載するグラフィックスカードの販売が始まった。
 R9 Fury Xは,「Tonga」(トンガ)ベースの拡張版コアとなる「Fiji」(フィジー,開発コードネーム)を採用したGPUで,その最大の特徴は,グラフィックスメモリとして,積層メモリ(Stacked Memory)技術に基づく「High Bandwidth Memory」(以下,HBM)を採用する点にある。

 世界初採用となったこのHBMで,Radeonのゲーム性能はどれだけ向上したのか。標準で簡易液冷仕様となるリファレンスカード――AMDによれば,R9 Fury Xはリファレンスデザインのものしか流通しないとのこと――をAMDから短時間ながら借りて使う機会が得られたので,そのポテンシャルを探ってみたい。


グラフィックスメモリにHBMを採用した史上初のGPU

GPUアーキテクチャそのものはTongaを踏襲


FijiのGPUパッケージ。中央の大きなチップがFijiで,その周囲に4つ見える小さなチップが積層メモリとなる
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 R9 Fury XがどんなGPUかという話は西川善司氏による解説記事が詳しいのだが,それを踏まえながら,数字メインで要点をまとめ直してみると,まず,R9 Fury Xが採用するHBM技術「HBM1」では,1スタック1024bitという,非常に広いメモリバス幅を持つ積層メモリを,GPUと同じパッケージに4スタック搭載。これにより,4096bitという強烈なメモリバス幅を叩き出しているのが最大の見どころとなる。
 「メモリチップを積層させる」と聞くと,熱が気になるかもしれないが,動作クロックは1GHz相当(実クロック500MHz)と非常に低く,問題ないどころか,Fijiチップ側の発熱を受けてヒートスプレッダとしても機能しているというから,これまた衝撃的だ。

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 ちなみに,計算すれば分かるが,そのメモリバス帯域幅は512GB/s(4096bit×1GHz)。HBM1において,1スタックあたりの容量は1GBとなるため,R9 Fury Xとしては4GBのグラフィックスメモリが組み合わされる計算になる。

 一方のGPUコア側だが,ものすごく簡単にまとめると,Fijiというのは,「Radeon R9 285」で採用されたTongaコアをベースに,“ミニGPU”たる「Shader Engine」(シェーダエンジン)あたりの「Compute Unit」(コンピュートユニット。「GCN Compute Unit」ともいう)数を増やし,さらにメモリコントローラを従来のGDDR5対応版からHBM1対応版へ変更したものだ。

Tongaのブロック図
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 ここでTongaのアーキテクチャを振り返っておくと,Tongaでは,Shader Engineを4基搭載し,Shader Engineあたり,8基のCompute Unitを搭載していた。演算ユニットとして機能するCompute Unitには,AMDが「Stream Processor」と呼ぶシェーダプロセッサ16基がひとかたまりになった実行ユニットが4基と,キャッシュやレジスタファイル,スケジューラ,テクスチャユニットなどが統合されるため,総シェーダプロセッサ数は64(16×4)×8×4で2048基という計算になっていた。
 それに対しFijiでは,Shader EngineあたりのCompute Unit数が16基に倍増している。なので,総シェーダプロセッサ数も倍の4096基となるわけである。

Fijiのブロック図
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 Shader Engineは,Compute Unitの束と,「Geometry Processor」(ジオメトリプロセッサ)と「Rasterizer」(ラスタライザ)各1基に,「Render Back-End」(レンダーバックエンド)4基がセットになったもので,この点でFijiとTongaの間に違いはない。なので文字どおり,Fijiというのは,Shader EngineあたりのCompute Unit数がTonga比で倍増したGPUという理解でいいだろう。
 なお,Tongaと同じということで,Tongaで初めて実装された,Render Back-End側のピクセルデータ可逆圧縮機能「Lossless Delta Color Compression」は,HBM対応を果たしたFijiからも利用可能だ。AMDでデスクトップGPU部門のシニアプロダクトマネージャーを務めるDevon Nekechuk(デヴォン・ネケチャク)氏によると,Lossless Delta Color CompressionによるFijiとHBM間におけるデータ転送速度の最適化は,性能面だけでなく,消費電力面のメリットも生んでいるとのことだった。

 そんなR9 Fury Xの主なスペックを,前世代のハイエンドGPUである「Radeon R9 290X」(以下,R9 290X)と,そのデュアルGPUモデルとなる「Radeon R9 295X2」(以下,R9 295X2),それにAMDが「R9 Fury Xの競合」と位置付ける「GeForce GTX 980 Ti」(以下,GTX 980 Ti)とともにまとめたものが表1となる。

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全長は20cm弱! ミドルクラス並みの

カードサイズとなったR9 Fury X


R9 Fury Xの公称カード長は7.5インチ(≒190.5mm)
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 AMDは,HBMの採用によって,Radeon R9 Furyシリーズのカード長が従来比で圧倒的に短くなることをアピールしているが,実際,入手したR9 Fury Xリファレンスカードの長さは実測約196mm(※突起部含まず)しかない。リファレンスデザイン版「Radeon R7 260X」カードの同174mmより20mm強長いだけというのは,強烈なインパクトがある。サイズが問題でハイエンドGPUを搭載できなかったようなPCケースでも,3D性能に妥協しなくてよくなる可能性があるというのは,夢が膨らむところだ。

カードの後方側からホースが伸び,その先にラジエータユニットが用意されている。ご覧のとおり着脱は不可だ。一方,カード側にファンは用意されていないため,ほとんど箱に見える
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 ただし,R9 Fury Xの場合,標準で簡易液冷ユニットが用意され,取り外し不可になっているので,その点は注意が必要だろう。R9 295X2に取り付けられていたのと同じ,120(W)×63(D)×154(H)mmという大きさの,120mm角ファン付きラジエータユニットが,(見えている部分で)実測約370mmある2本のホースでつながっている。
 ラジエータユニットを本体背面側や天板部の120mm角ファン用スペースへ取り付けるにはおおむね問題ないと思われるが,それほど長くはない。ラジエータユニットの大きさとホースの長さは取り付けのハードルとなり得るので,R9 Fury Xの購入にあたっては,ラジエータユニットをどう設置するかを,事前に検討しておく必要があると思われる。

ラジエータユニットは端的に述べて大きい。とくに写真左の上下方向が大きく,PCケース内でさまざまなものに干渉しかねないので,その点は十分に気を付けたい
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 PCI Express補助電源コネクタは8ピン×2。カード自体の公称典型消費電力は275Wなのに対し,カード側はPCI Express x16コネクタも含めて375W(75W150W150W)もの電力供給が可能になっているが,これはひとえに,ユーザーレベルのオーバークロックを想定した仕様とのことである。

R9 Fury Xに埋め込まれたLEDの説明。GPU Tach,ZeroCoreインジケータとは別に,「RADEON」ロゴ部が赤く光るようにもなっている
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 そのコネクタ近くには,9個のLEDが用意されているが,このうち後方寄りの8個は,GPUコアの負荷状況インジケータ「GPU Tach」(Tach:Tachometer,タコメータ)になっている。カードの背面側には別途2系統のDIPスイッチが用意されており,その組み合わせにより,赤か青,紫の3色で光らせることが可能だ。
 残る1個はAMD独自の省電力機能「AMD ZeroCore Power Technology」(以下,ZeroCore)が有効か無効かを示すもので,有効時には緑色に光る……はずなのだが,今回のテストではZeroCoreがうまく効かなかったのか,それとも入手した個体のLED側に問題があったのか,この緑色が点灯することはなかった。

カード背面(左)と,背面カバーを外したところ(右)。いずれも本体背面側,矢印で示したところにDIPスイッチがあり,ここでGPU Tachの色を変更できる
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GPU Tach点灯の模様。左から赤,青,紫で,紫は明るいためか肉眼だと白っぽく見えた
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 DIPスイッチといえばもう1つ,カード背面,RADEONロゴマーク部の近くに1系統用意されているのだが,これは2つあるグラフィックスBIOS(以下,VBIOS)を切り替える「Dual BIOS Toggle Switch」だ。R9 290Xだと,設定の異なる2つのVBIOSが用意され,このスイッチによって動作モードを変更できるようになっていたが,少なくとも,筆者が入手したR9 Fury Xカードだと,2つのVBIOSはどちらも同じものだった。オーバークロックで万が一の事態が生じたとき,2番めのVBIOSから起動できるようにしてある,ということなのだろう。

クーラーの側面,穴の空いたところの奥にDIPスイッチが用意されている。右の写真で矢印の先に見えるのがそれだ
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AMDが示している分解イメージ
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 なお,カードの分解は許可されていないので,ここまで紹介してきた「クーラーを取り外した状態の写真」は,6月24日に開催された国内発表会のときにNekechuk氏が披露したものとなるが,電源部は6+2フェーズ構成なのが確認できよう。氏にも6+2フェーズで間違いないことは確認済みだ。
 R9 290Xと比べると電源周りのスペースも小さくなっており,カードサイズの縮小に一役買っているのが分かると思う。

キャパシタにはチップ型コンデンサを採用することで電源部の集積度を引き上げており,電源部だけを見てもR9 290Xより小さい面積になっている
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従来製品および競合製品と比較

テスト解像度は4Kがターゲットに


 GPU,そしてカードの概要を押さえたところで,テストのセットアップに入ろう。
 今回,テストにおける比較対象には,表1でその名を挙げたR9 295X2とR9 290X,GTX 980 Tiを用意した。R9 Fury Xが性能面で前世代からどれだけ進化し,競合製品と戦えるようになったのかを見極めようというわけである。なお,R9 290Xでは,より高い性能が得られるよう,Dual BIOS Toggle Switchを「Uber Mode」に設定している。

Catalyst Control Centerから15.15-150611a-185474Eのドライバ情報を確認したところ
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 R9 Fury Xのテストに用いたグラフィックスドライバは,AMDから全世界のレビュワーに対して配布された「15.15-150611a-185474E」だ。6月18日に公開された「Catalyst Software Suite for AMD Radeon 300 Series Graphics」だと,「Display Driver」のバージョンは15.150.0.0000(1506171205-15.15-150611a-185474E)なので,若干の違いはあるが,おおむね同系のドライバと述べていいだろう。

 ただこのドライバはR9 Fury XおよびRadeon R9/R7 300シリーズ専用となるため,R9 295X2とR9 290Xのテストにあたっては,「Catalyst 15.6 Beta」を用いるので,この点はお断りしておきたい。なお,GTX 980 Tiでは,テスト開始時点の最新版となる「GeForce 353.30 Driver」を用いる。

 そのほかテスト環境は表2のとおりだ。

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外部出力インタフェースはDisplayPort 1.2×3,HDMI 1.4×1。なので,ディスプレイ出力にあたってはDisplayPortを用いている
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 テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション17.0準拠。解像度は,AMDがR9 Fury Xを4K解像度で利用するのを想定していることから,まず3840×2160ドットを選択し,その1つ下のサイズとして2560×1600ドットもピックアップした。
 なお,テストに用いたCPU「Core i7-4790K」の自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によって挙動が変わる可能性を排除すべく,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。


R9 290X比でざっくり30〜70%速いR9 Fury X

対GTX 980 Tiでは「勝ったり負けたり」


 順にテスト結果をチェックしていこう。グラフ1は「3DMark」(Version 1.5.915)の結果だ。R9 Fury XはR9 290Xから43〜48%スコアを伸ばし,対GTX 980 Tiでは,テスト解像度が2560×1440ドットとなる「Extreme」でこそ後塵を拝するものの,4K解像度のテストである「Ultra」では逆転を果たしている。AMDは,4K解像度でR9 Fury XはGTX 980 Tiに対して優勢であるというメッセージを出しているのだが,それを裏付けるデータが出ているといえるだろう。HBMによる広いメモリバス帯域幅が高解像度環境で“効いて”いる印象だ。

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 グラフ2,3は,4Gamerのハードウェアレビュー初登場となる「Far Cry 4」のスコアである。
 「MEDIUM」プリセットの2560×1600ドットではCPUのボトルネックによるスコアの頭打ちが迫るためか,R9 Fury XとR9 295X2,GTX 980 Tiのスコアに大きな違いは見られないものの,それ以外だと,R9 Fury Xのスコアは極めて景気がいい。対R9 290Xでは56〜73%程度,対GTX 980 Tiでも13〜21%程度高いスコアなのだから,文句なしだ。とくに,「ULTRA」プリセットの3840×2160ドットだと,R9 290Xはもちろんのこと,GTX 980 Tiですらレギュレーションで規定される合格ラインとなる平均40fpsをクリアできていないのに対し,R9 Fury Xが余裕を持って上回っている点はポイントが高い。

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 「Crysis 3」では,R9 Fury XとGTX 980 Tiのスコアが拮抗している(グラフ4,5)。ただ,解像度別に見ると,2560×1600ドットにおける対GTX 980 Tiだと92〜96%程度に留まるR9 Fury Xが,3840×2160ドットでは100〜102%程度のスコアを示しており,ここでもHBMの効果は見て取れる。
 対R9 290Xのスコアは127〜135%程度,対R9 295X2のスコアは81〜90%程度だ。

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 Crysis 3と同じCRYENGINEベースながら,描画負荷がぐっと低くなっている「EVOLVE」でも,R9 Fury Xは良好なスコアを示した。グラフ6,7を見ると,R9 Fury Xはすべてのテスト条件でGTX 980 Tiに対して15%以上高いスコアを示した。GTX 980 Tiのレビュー記事で筆者は,EVOLVEに対するGeForce Driver側の最適化不足を指摘したが,それがまだ尾を引いている可能性もありそうである。

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 続いてグラフ8,9の「Dragon Age: Inquisition」(以下,Inquisition)だが,ここでのスコア傾向は,Crysis 3と比較的近いものになっている。R9 Fury Xは,R9 290Xに対して31〜39%程度高いスコアを示す一方,GTX 980 Tiに対しては,「高負荷設定」の3840×2160ドットでようやく約1%高いスコアを示すのみに留まった。

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 現在のところ,Radeonファミリーには分の悪い「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)だが,対GTX 980 Tiでは案の定という結果になっている(グラフ10,11)。R9 Fury Xのスコアは91〜97%程度で,頼みの綱の4K解像度においても,GTX 980 Tiには届かなかった。
 ただ,対R9 290Xでは144〜167%程度という,景気のいいスコアになっているのも確かだ。とくに,最高品質の2560×1600ドットで,スクウェア・エニックスの示すスコア指標で,R9 290Xが上から4番めの「やや快適」レベルなのに対し,R9 Fury Xが最上位の「非常に快適」となっている点は評価できる。

グラフ画像をクリックすると,平均フレームレートベースのグラフを表示します
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 グラフ12,13の「GRID Autosport」でも,R9 Fury Xのスコアはパッとしない。描画負荷がそれほど高くないとはいえ,GTX 980 Tiにはすべてのテスト条件で10%以上のスコア差を付けられてしまった。GRID Autosportは,ハイエンドクラスのGPUからすると負荷の低いタイトルで,グラフィックスメモリ容量の違いがスコアを左右することはあまり考えにくいことからすると,R9 Fury Xが真価を発揮しづらいタイトルということなのかもしれない。

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消費電力はそれ相応に高い

簡易液冷ユニットの冷却性能は優秀


 公称典型消費電力が275Wながら,電力供給自体は375Wまで可能で,200mm未満という長さの割には“凶悪”な8ピン×2の補助電源コネクタを持つR9 Fury Xだが,実際の消費電力はどの程度だろうか。今回も,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみよう。
 テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。

 その結果がグラフ14だ。
 アイドル時の消費電力がR9 290XやGTX 980 Tiより10W高いのが気になる人もいるだろうが,おそらくこれは,簡易液冷ユニットに搭載されるポンプの消費電力だと思われ,アイドル時におけるR9 Fury Xの消費電力が無駄に高いということにはならないだろう。
 ちなみに,アイドル状態が続いたとき,ディスプレイ出力が無効化されるよう設定したところ,R9 290X搭載システムの消費電力は75Wまで下がったのに対し,R9 Fury Xは87Wに留まった。前述のとおり,ZeroCoreが有効になったことを示す緑色LEDが点灯しなかったので,今回のテスト環境では,ZeroCoreが十全には機能していない可能性がありそうだ。

 続いてアプリケーション実行時だが,R9 Fury Xの消費電力は,R9 290X比で27〜60W,GTX 980 Ti比で45〜73W高い,という結果になった。このスコアをどう評価するかは難しいところだが,ネガティブに表現するなら,「HBMの採用にによる電力効率の引き上げをもってしても,TongaコアのCompute Unit増強版であるFijiコアの省電力はいかんともしがたく,第2世代MaxwellアーキテクチャベースのGPUにはまったく歯が立たない」ということになるだろう。一方,ポジティブにいくのであれば,「R9 290X比の消費電力増大率は最大でも約15%に留まっており,ゲームベンチマークにおける性能向上率と照らし合わせれば,HBMの効果は明らか」といったところになる。

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R9 Fury Xで採用されるクーラーの概要。TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)500Wクラスに対応でき,動作音32dBA未満で,GPU温度を50℃未満に保てるとされる
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 3DMarkの30分間連続実行時を「3DMark時」として,アイドル時ともども,「GPU-Z」(Version 0.8.4)からGPU温度を追った結果がグラフ15となる。テスト時,システムはPCケースに入れることなく,いわゆるバラックの状態で室温24℃の環境に置いている。

 今回用意した4枚のグラフィックスカードは,言うまでもなくクーラーがすべて異なり,また,温度センサーの位置も異なるため,横並び比較には向かない。その点は注意してほしいが,簡易液冷クーラーを搭載するR9 Fury XのGPU温度はアイドル時,3DMark時ともに低く,とくに3DMark時のスコアは,AMDの言い分よりは高めながら,十分に魅力的な値だ。
 ただ,ここで誤解しないでほしいのは,R9 Fury XのFijiコア自体が低発熱というわけではないことである。少なくとも,ラジエータユニットから排出されるエアーはかなり温かく,AMDがR9 Fury Xで簡易液冷ユニットを標準搭載した事情はよく分かる。R9 Fury Xでは相応の熱が発生しており,それを優秀な簡易液冷ユニットが何とかしている,という理解をすべきだろう。

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 ちなみに気になる簡易液冷クーラーの動作音だが,フルロード中でもハイエンドグラフィックスカードの冷却機構としては十分に静かといえる。比較対象となるカードだと,限られた空間で口径の小さいファンを搭載するしかないのに対し,R9 Fury Xではラジエータユニット側で口径の大きなファンを搭載できるのは,大きなアドバンテージになっている印象だ。
 少なくとも,R9 290Xのリファレンスクーラーよりは圧倒的に静かだった。


GTX 980 Tiの対抗馬として,十分な存在意義がある

このカードサイズに惹かれるならアリ


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 以上のテスト結果を顧みるに,R9 Fury Xは,AMDが主張するとおり,GTX 980 Tiといい勝負ができるGPUと述べていいだろう。テスト結果を見る限り,「HBMの広いメモリバス帯域幅を活かせる4K解像度ならR9 Fury Xで決まり!」とまでは言えそうにないが,少なくとも(今後,NVIDIAがことあるごとにR9 Fury Xの弱点として主張してきそうな)「2015年夏の時点のハイエンドGPUであるにもかかわらず,グラフィックスメモリ容量が4GBに留まる」ことは,4K解像度におけるスコアを見る限り,それほど大きな問題ではないと言える。また,なんといっても,GTX 980 Tiと戦えるレベルの3D性能が,20cmにも満たないカード長で実現されたことは,とてもインパクトが大きい。このサイズでこの性能というところに惹かれる人にとっては,唯一無二の選択肢になるのではなかろうか。

 北米市場におけるメーカー想定売価が649ドル(税別)というのは,GTX 980 Tiと同じ。それが日本だと揃って税込10万円超えの値付けになるのは解せないが,シングルGPU仕様のRadeonが,久しぶりに,(特殊な存在である「GeForce GTX TITAN X」はさておき)一般PCユーザー向けの最上位GeForceと真っ向から勝負できるようになったこと,それ自体は大いに歓迎できるところだ。

Radeon R9 Nanoは6インチ(≒152.4mm)という非常に短尺なグラフィックスカードとなる予定
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 一方で,「このサイズでこの性能」を実現するために,簡易液冷ユニットを搭載することとなり,せっかくの取り回しやすさが少なからずスポイルされている点は,指摘しておく必要があるだろう。出てもいない製品の話をするのもどうかとは思うが,カードベンダーオリジナルデザインの製品が投入される予定の下位モデル「Radeon R9 Fury」や,15cm強というカード長で登場予定となっている「Radeon R9 Nano」のほうが,日本市場ではことによると人気になるかもしれない。

AMDのRadeon R9シリーズ製品情報ページ

  • 関連タイトル:

    Radeon R9 Fury

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