連載
東京レトロゲームショウ2016:第35回 エピソード3がどこへ行ったのか気になって仕方がない「Half-Life 2」で,大ヒットFPSを再体験してみる
1998年のヒット作「Half-Life」の続編として制作され,今から12年前の2004年にValveからリリースされた「Half-Life 2」は,未完の大作FPSだ。Valveの発表によれば,2004年12月の段階で約650万本のセールスを記録しているが,これには「Steam」での発売分は含まれておらず,実売本数はさらに増えるはず。
さらに,2011年にはセールスが1200万本を超えたという報道もあり,これにはコンシューマ機版も含まれるようだが,いずれにせよ,大ヒットしたタイトルであることに間違いはない。
Steam「Half-Life 2」紹介ページ
というわけで,今週の「東京レトロゲームショウ2016」は,そんな「Half-Life 2」を紹介したいと思う。大ヒットタイトルだけにプレイした読者も多そうだが,12年前はまだ子供だったのでよく知らない,という人も少なくなさそうな気もするので,ぜひチェックしてほしい。
本作の主人公は前作に引き続き,無口な,というかまったくしゃべらない素粒子物理学者ゴードン・フリーマンが担当している。前作のブラック・メサ研究所で起きた大事件から約15年,地球は異世界「Xen」(ゼン)から来襲した謎の勢力「コンバイン」によって完全に支配され,人類の一部が彼らと結託して傀儡政権を樹立し,恐怖政治を行っている。
多くの人間が改造され,コンバインの兵士になったり奴隷として働かされたりしており,また,異世界から来た不気味な生物も地球にすっかり定着し,人々に危害を加えているという状況だ。例えばその1つ,ヘッドクラブ(Headcrab)に寄生された人間は,やがて脳ミソを乗っ取られてゾンビになってしまうというアンバイで,まさに夢も希望もないディストピアだ。
彼が今までどこで何をしていたのかはまったく知らされないが,それに限らず全般的に背景説明は最低限で,何も分からないままゲーム世界に放り込まれるという演出になっている。ここどこ? この人誰? とか思っていると,いきなりコンバイン兵やクリーチャーが襲ってくるので,そいつら撃退していくうちにゲームが自然に進んでいくというアンバイだ。
前作にも登場したバーニィ |
右がアイザック・クライナー博士 |
主要キャラクターやNPCも思わせぶりなことばっかり言うので,そういう点からは,人気作の続編とはいえ,前作をプレイしていなくてもあまり問題はないだろう。どうせ,よく分かんないし。みたいな。
駅の構内でいきなり不審人物として捕まったフリーマンだったが,コンバイン兵士になりすましたバーニィ・カルフーン(Barney Calhoun)によって救い出され,やがてブラックメサ時代の同僚だったイーライ・バンス(Eli Vance)博士らと再会,彼の娘,アリックス(Alyx)と共に活動を開始する。前作にも登場したキャラクターが多くて懐かしいが,彼らはコンバインに対するレジスタンス活動を始めており,どういうわけだかフリーマンは「人類の英雄」として彼らから尊敬を受ける身だ。この15年間,知らないうちにいろいろあったらしい。
シングルプレイキャンペーンは,いわゆるオールドスクールと呼ばれる昔ながらのシステムが採用されている。仲間と一緒に戦う場面もいくらかあるが,ほぼ1人で移動し,敵を倒し,銃や弾丸やアイテムを拾っていくというスタイルだ。体力回復はヘルスキットを拾って行い,ルートは基本的に一本道。マルチプレイがメインになった最近では,あまり見かけなくなったタイプのFPSともいえるが,そりゃそうだ。だって,レトロゲームだもの。
それだけに,シングルプレイは盛りだくさんの内容で,ロケーションも多彩だ。いかにも東欧という雰囲気(行ったことはないが)のCity 17は,緻密なグラフィックスで描かれた陰鬱な雰囲気が魅力的。また,美しい海岸や森など,アウトドアの広い場所も出てくる。
全16章構成だが,各章に明確な区切りは存在せず,すべてのマップがシームレスにつながっている。カットシーンもなく,キャラクターが会話しているのをフリーマン(つまりプレイヤー)が黙って眺めているという感じになる。これらはいずれも,フリーマンの視点でゲームを進め,プレイヤーの没入感を高めるためと説明されている。ただ,飛ばせないので2周目以降はちょっとだるい。また,プレイの途中で頻繁にロードが発生するのも,そのへんも興を削いでしまうところだ。
移動は徒歩だけでなく,高速エアボートに乗って水路を駆け抜けつつ戦ったり,バギーでハイウェイを突っ走ったりなど,単調にならないような工夫が随所に施されている。敵の種類も豊富で,最初はコンバイン兵やゾンビ,弱めのクリーチャーが多いが,やがて,ハンターチョッパーやガンシップ,ストライダーなど大型の強敵が次々に登場して,休むヒマもなくなる。
武器の種類もそれなりに多いが,本作で特徴的なのはなんといってもグラビティガン(Gravity gun)だ。これは,遠くにある物体を引きつけたり,反対に手元の物を遠くへ飛ばしたりできる銃で,丸鋸の刃を飛ばしてゾンビを真っ二つにしたり,地雷を敵にぶつけて爆発させたりと,使い道はいろいろだ。武器としてだけでなく,脱出・移動のための簡単なパズルを解くことに使ったりもする。弾丸もエネルギーも消費しないので便利で,ゲームの終盤,パワーアップしたグラビティガンでは,敵を引きつけて遠くへ飛ばすという荒技も使えるようになる。これは最高に楽しい。
こうした武器類をとっかえひっかえしながら,敵を倒して進んでいくわけで,普通に遊んだ場合,終わらせるまでたぶん20時間近くかかるだろう(当社比)。発売当時は「長すぎる」という意見もあったようだが,たっぷり遊べることについては太鼓判を押しまくれる。
話は変わるが,冒頭にも書いたように「Half-Life 2」は,未完の大作だ。どういうことかというと,本編に続いて,さまざまなエピソードがValveのデジタル配信システム「Steam」でリリースされていく予定だったのだが,2006年のエピソード1,そして2007年のエピソード2の発売以降,新たなエピソードが登場せず,話が中途半端な形で終わっているのだ。
ちなみにエピソディック形式と呼ばれるこうした販売方法は,小さなエピソードを短期間で作って安価に売ることで,次のエピソードの開発資金を回収していけるため,資金力の乏しいデベロッパでも大きなタイトルが作れるという利点がある。「Steam」との相性も良いため,一時期,Valveが積極的に推し進めていたビジネスモデルだったのだが,結果として,Telltale Gamesの一連のエピソディックアドベンチャー以外,あんまり成功例を聞かない。
エピソード3が出ない理由としては,本編がディストピアものだけに,物語の落としどころも難しいということもあるのかもしれない。フリーマンの大活躍で地球に平和が戻りました,めでたしめでたしでは,21世紀のプレイヤーは納得しづらいだろう。そんなわけで,今のところエピソード3については何の音沙汰もない,という状況がかれこれ9年ほど続いているが,個人的には,「Steam」の普及に「Half-Life 2」が大きな役割を果たしたように,Valveが何か新しいことを始めようとしたとき,再び姿を見せるのではないかと淡い期待を抱いたりしている。どうでしょう?
Steam「Half-Life 2」紹介ページ
(C)2019 Valve Corporation.All rights reserved.
(C)2004 Valve Corporation. All rights reserved. Valve, the Valve logo, Half-Life, the Half-Life logo, the Lambda logo, Counter-Strike, the Counter-Strike logo, and Source are registered trademarks and/or trademarks of Valve Corporation in the U.S. and/or other countries. Sierra and the Sierra logo are registered trademarks or trademarks of Sierra Entertainment, Inc. in the U.S. and/or other countries. Vivendi Universal Games and the Vivendi Universal Games logo are trademarks of Vivendi Universal Games, Inc. in the U.S. and/or other countries. All other trademarks are property of their respective owners.