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東京レトロゲームショウ2015:第12回 「テーマホスピタル」で人間のドラマがあちこちで繰り広げられる病院経営に挑みたい
今は健康でも,人間,誰しもいずれは病院のお世話になるもの。あらかじめ,その準備をしておこう。というわけで,今週の「東京レトロゲームショウ2015」は,Bullfrog Productions(以下,ブルフロッグ)特集の第1弾として「テーマホスピタル」(原題「Theme Hospital」)を取り上げてみたい。第2弾以降があるのかどうかは,予断を許さないところだ。
GOG.com「Theme Hospital」紹介ページ
Origin「Theme Hospital」紹介ページ
1980年代後半から1990年代前半にかけて活躍したブルフロッグは,カリスマ的ゲームデザイナーであるピーター・モリニュー氏がイギリス南部のギルフォードに設立したゲームメーカーだ。約30年前,緑豊かなギルフォードのオフィスへ行って,モリニュー氏にインタビューした記憶がある筆者は,もう彼とはツーカーの仲といっていいだろう。
ブルフロッグの設立は1987年のことで,1995年にElectronic Artsに買収され,1997年には創始者のモリニュー氏が退社してLionhead Studiosを立ち上げたりなど,さまざまな変転を経てきた同社だが,2001年に解散するまで「Populous」や「Dungeon Keeper」など,個性的なタイトルを次々に開発した伝説のメーカーである。
「テーマホスピタル」は1997年にリリースされた作品で,タイトルどおり病院経営に励むというものだ。ちなみに,この「テーマなんとか」シリーズの第1弾は,いうまでもなく1994年に発売されて世界的に大ヒットした「テーマパーク」だ。さまざまな機種にも移植され,日本語版も出ているので,プレイした人も割といるはず。
こうした経営シミュレーションとしては,1990年の「Sid Meier's Railroad Tycoon」や1994年の「Pizza Tycoon」など,当時すでにいくつかあったが,テーマの選択やゲームの進め方など,現在の基礎を築いたのはなんといっても「テーマパーク」と「テーマホスピタル」ではないだろうか。そういうことにしておいてほしい。さすがはピーター!
ゲームを立ち上げると,そこは病院。とはいえ,壁だけあって中はすっからかんという倉庫みたいな建物で,プレイヤーは,そこにさまざまな部屋を作り,医師や看護師などを雇い,やってくる病人に医療を施すことで治療費を得て,病院を大きくしていく。
ゲームの進め方については,右下に現れるオジサンが説明してくれるのである程度安心だが,簡単に説明すると,まずは受付の机を購入して受付の女性を雇おう。もちろん,彼女には給与を支払う必要があり,多数の患者をさばいてくれる腕のいい女性になれば,給与も高くなる。これは,どのカテゴリーの従業員でも共通だが,受付嬢の場合,誰を雇ってもあまりゲームに影響はない印象もある。
続いて,GPの部屋を用意する。GPとはGeneral Practitionerの略で,「総合診療医」という訳語があるようだが,つまり最初に患者に接する医師で,問診や身体的所見などから病気を素早く診断するという役目を持っている。初診でも再診でもまず患者が訪れる場所であるため,病院の規模が大きくなると複数のGP部屋が必要になるだろう。もちろん,雇う医師も,能力が高いほうが患者の受けがいい。
さらに,診断室(General Diagnosis),精神科(Psycguatric),院内薬局(Pharmacy)などを作っていくのだ。日本の病院の場合,内科や外科などの診療科に分かれているのが普通だが,「テーマホスピタル」はそうではなく,いいアンバイに巧みに抽象化されているという感じだ。
このほか,忘れてはいけないのがトイレだ。病院のお客様は基本的に病気なので,廊下で順番待ちしているときに具合が悪くなり,トイレがないとその場で嘔吐したり,廊下で用を足してしまったりする。そして,それを見たほかの患者達が連鎖反応的にオエーっとなることもある。この場面,話で聞けばすごい状況だが,リアルなグラフィックスではないので,むしろイギリス的な妙なユーモアを感じたりもする。
このほか,消火器やゴミ箱,廊下のベンチなども必要だ。ベンチがないと,立って待たされる患者の不満が高まるし,ゴミ箱はもちろん,ゴミの量を減らしてくれる。また消火器には医療機器の故障を減らすという意外な役割があったりするので,片っ端から買って備えておきたい。それほど高いものでもないしね。
また,医師や看護婦などの従業員もある意味,「数で勝負」みたいなところがあるので,予算の許す限り雇っておこう。待遇が気に入らないと,勝手に辞めていったりするので注意が必要だが。
以上のように,テーマは病院なのだが,治療そのものにはあまり重きは置かれてはおらず,あくまで病院経営がメインとなる。そこは人の生と死が交錯する場所だが,本作はそういう方面の重さはない。やってくる患者のほとんどは架空の病気にかかっており,例えば,頭が膨れ上がった患者や,透明になってしまった患者,自分をエルヴィス・プレスリーだと思い込んでいる患者など,それぞれ個性的で,このへんのセンスもイギリスっぽい。
もちろん,頭上にドクロマークの浮かんだ末期ぽい患者さんもいらっしゃいますが,院内で倒れられると病院の評判が落ちるので,こういう人にはなるべく早く帰宅してもらおう。って,ひどすぎる!
こうして経営を続け,所定の条件を満たすと,ステージクリアとなり,次のより大きな病院の経営に進めるというシステムだ。病院のレベルが上がると,手術室や研究室など,新しい部屋が作れたり,救急患者に対応できたりするようになるので,さらに忙しくなる。
ゲームの難度はあまり高くない,というか,かなり易しい。ちょっとしたコツはあるのだろうけど,序盤のレベルではあまり深く考えることなく割と行き当たりばったりで進めても,なんとかなってしまう場合が多いようだ。
短時間でプレイできて,つい何度も遊びたくなってしまう本作。小さなキャラクターがちょこちょこと動き回る様子を見ているだけでも面白いのだが,個人的な希望を言えば,日本語版が欲しい,欲しすぎる! というところ。以前は日本語版がリリースされていたが,PCで遊びたいと思っても現在は絶版状態※。割とテキスト量も多いし,なにより,頻出する医学用語がやっかいなので,なんとか日本語版にならないかなと思う。約20年前に出たようなゲームでそれは無理ですか。残念。「シカゴ・ホープ」とか「ER緊急救命室」「梅ちゃん先生」などが好きな人は,ぜひ試してみよう。
※初出では,「コンシューマ機で絶版」としていましたが,現在,PlayStation Storeのゲームアーカイブスで購入できるという指摘をかなり多くの人から受けてしまいました。リンクは「こちら」。すみません。お詫びして訂正いたします。というわけで,PlayStationユーザーで興味のある人はぜひ病院経営に挑んでみよう。
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