連載
東京レトロゲームショウ2015:第5回「ロボクラッシュ2」で太陽系外惑星を舞台にロボットを作ったり壊したり
筆者が高校生の頃だろうか,ライトノベルつながりの知人であった同級生・Sくんの家に招かれたとき,腐臭の漂う彼の部屋で,カーテンの裏にずらりと並んだ「メガストア」を発見した。メガストアは当時,一世を風靡した大人向けゲーム雑誌であり,その購読者であることが発覚した場合,真面目だと思われていたSくんの学校での立場は危うくなる。というわけで,「この件を内密に処理してくれるなら」との交換条件のもとでSくんが筆者に遊ばせてくれたのが,何を隠そう「ロボクラッシュ」であり,今回の「東京レトロゲームショウ2015」で紹介するのは,その続編となる「ロボクラッシュ2」というわけだ。
「戦う」ではなく「戦わせる」ゲーム
「ロボクラッシュ」シリーズは,システムソフトがMSXやPC-9801に向けて1990年代に展開していたシミュレーションゲームである。プレイヤーが自機たるロボットを操作して戦うのではなく,自律して動くロボットを作り上げてほかのロボットと“戦わせる”というタイプの,アクション要素を完全に排したゲームだ。
一般的なロボットゲームでは,自機を自分の手で操作する。アムロや泉 野明みたいなパイロットが,ウィーンガシャウィーンとやるわけだ。
一方ロボクラッシュは,ボディや武装など自機のハードウェアを決めてある程度の“動き方”を指定したあと,プレイヤーはバトルに一切介入しない。育てたクワガタやカブトムシを囲いの中で戦わせるように,ただ観戦するだけだ。
この「観戦するだけ」という点がすごい。当時の筆者も,メガストアの一件などすっかり忘れる程度に驚いたことを記憶している。まともな教育を受けていないせいか,誇張抜きで「一生遊べるやんこれ……」と思ってしまったほどだ。数年後,アートディンクが世に放った「カルネージハート」に遭遇したときも,「まじで一生遊べるやんこれ……」と驚愕したのだが,それはまた別の話である。
えーとなんの話だっけ。そうそうロボクラッシュ。
ロボクラッシュはもともと,雑誌「コンプティーク」で行われていたプレイバイメールライクな読者参加型ゲームとして展開されていた。そのPCゲーム版をシステムソフトがリリースして――という話なのだが,筆者は当時PCを持っていなかった関係もあり,「コンプティーク」時代の詳しいことはよく知らない(福袋を開くのは得意だった)。
ロボクラッシュシリーズの作品としては,MSX向けの第1作「ロボクラッシュ」のあと,PC-9801に向けて「ロボクラッシュ98」「ロボクラッシュ2」という2作品がリリースされている。当時Sくんの家にあったPCはエプソンの98互換機(386シリーズ?)だった気がしており,計算すると時期的に筆者が遊んだのはロボクラッシュ98な可能性が非常に高い。
ちなみに,ロボクラッシュの上記3作品は,いずれもD4エンタープライズが運営する「プロジェクトEGG」でダウンロードして遊ぶことができる。20年ぐらい前のゲームなので,お手頃価格で入手できるのも高ポイント。
ロボットで銀河を転戦するというものすごい競技
ロボクラッシュ2の舞台は,21世紀という,20世紀のゲーム発売当時からすれば近未来。人類は太陽系外の諸惑星を開拓しており(21世紀だからしているのだ),開拓者の間で開拓用ロボット「ワーカーマシン」を戦わせる競技「ロボクラッシュ」が人気を集めていた。そんなロボクラッシュはアンダーグラウンドな娯楽だったが,ブラックと呼ばれる謎の権力者が掌握する「CORD」が組織的な大会運営を行った結果,秘めたるスポーツ性が脚光を浴び,全銀河に浸透していったのである。
プレイヤーはロボクラッシュ競技者の一人となり,ロボットを作り,それを操作するパイロットや,整備士たるメカニックをとりまとめて,銀河を転戦する銀河GP「パニッシャーサーキット」へ参加する。そして銀河GPを制した者に与えられる呼び名「熱波の王者」を獲得するべく戦うのだ。なんともスケールの大きな話だ。
まずプレイヤーは,整備ボタンからマシンコンストラクション画面へ移動し,マシンを作って闘技場で戦う。そして戦った結果を基にワーカーマシンを最適化していく。これが基本的なルーチンだ。現在プレイヤーのいる惑星の闘技場で敵が物足りなくなったら,別の惑星へ,さらなる強敵を求めて移動するわけである。こうして説明すると,プレイヤーのやることがかなりシンプルであることが分かるだろう。
さて,ここまでの説明で「パイロット」という言葉が出てきたことに「おまえ操作せえへんいうたやん」と思われた人もいることだろう。ふふふ,バレたか!
いやいや。本当にプレイヤーが直接操作することはない。しかし,実はワーカーマシンそのものは有人機という設定なのだ。
パイロットやメカニックにはそれぞれ能力があり,戦いや修理の経験を積むことで,それが高まっていく。強いワーカーマシンを一度作ればそれで終わりというわけではないということだ。
要するに,スタッフが成長すること,そして惑星ごとに異なる武器が売っていることなどで,ワーカーマシンのセッティングが煮詰まってもゲームを進めるモチベーションが維持される仕組みなのである。なるほどな。
ワーカーマシン作りはこんな感じ
意外にも作ること自体のハードルは低めだ
リアルファイト(バトル)では,相手の頭部/胴体の完全破壊,腕部/脚部の完全破壊を行った側が勝つ。互いに燃料切れとなった場合は,その段階で残った耐久力で判定が下る。これを考えて,ワーカーマシンの装備や動作を決めるわけだ。
ワーカーマシン作りは,ソフトウェアがある程度固定されていることから「勝てるかどうか」はさておき,そんなに難しくはない。プレイヤーは,以下の8カテゴリの装備をどのように組み合わせるかを考える。
- コンピュータ:価格/性能が高いものほどキャパシティが大きい。キャパシティが大きいほうが,プレイヤーの決めた行動を忠実に反映してくれる模様
- ボディー:武装/アイテムの搭載量や装甲が決まる。大きく分けて機敏なスプライト,オールマイティなナイト,搭載量が高く重装備が可能なケンタウロスの3タイプがある
- エンジン:ワーカーマシンの運動性能と燃費が決まる。肉弾戦での攻撃力も変わってくるみたい
- 燃料タンク:試合をどれだけ継続できるかが決まる。燃費の悪いエンジンを使う場合は,大型の燃料タンクが必要
- 通常武器:近/中/長/遠距離で使用する武器を決める。距離以外にも「突き」「打撃」「刃」「光線」などの属性が存在するが,ややこしいので割愛
- 特殊オプション:追加装甲や,トーナメントの途中でワーカーマシンのダメージを大きく回復する「リペアパーツ」などがある
- 禁止武器:一撃で強力なダメージを与えるなど大きな効果を持った武器。トーナメント開始前に見つかれば取り締まりの対象となる
- アイテム:キャラクターの「魅力」を高めたりする“その他”チックなアイテム群
大雑把にいうと,搭載できる装備はボディーの持つ「搭載量」というパラメータが規定する。たとえば,スプライトなら機動力を生かした遠距離攻撃や一撃離脱,ナイトなら近/中/長距離で持久戦,ケンタウロスは重装備で破壊力重視,といったアンバイで,胴体を決めれば,ある程度戦い方は決まってくるわけである。
その戦い方を決定付けるのが,この画面。
この画面では,まずメインとなる攻撃距離を決め,そのほかに,敵のどの部位を優先的に攻撃するか,戦闘中にどの行動をとるかを,いずれも割合で決めることができる。アルゴリズムは省略した形でマニュアルに掲載されているが,「現在の敵との距離を計測して,その距離で使える武器を装備していたら攻撃。そうでなければ設定した距離まで移動する」といった形で処理されると考えていい。
カルネージハートなどと比べるとソフトウェア部分はシンプルな作りで,これがプレイのハードルをグッと下げている。
まあ,実際にここで設定した動きが忠実に再現されるかというと,どうやらそうでもなさそう。コンピュータのキャパシティや,パイロットの戦闘技能なども行動判定に加味される模様である。
それでも,ある程度戦略を立てて行動を決め,それに即した装備を考え,実際に戦ってみて問題点を洗い出し,それをワーカーマシンにフィードバックするというトライ&エラーはやはりやめられない。一度セッティングがバシッと決まると愉快に敵を破壊し続けれ,お金は貯まるし名声も高まる。
ほかの惑星に行けばまた新たな武装も見つかって,さらにワーカーマシンを改良したくなる。多くのプレイヤーが「おお,おれは今ロボットシミュレーションの醍醐味を味わっている! イエーイ!」と感じられるはずだ。
ドローンブームにあやかろう!
現実世界では,火星で無人探査機が地を這い,無人攻撃機が飛び回り,地上でも武装したキラードローンなどが活躍の場を広げている。一般向けのドローンも良きにつけ悪しきにつけ目立っているし,ロボクラッシュが出た頃のロボットファンが,というか筆者が夢に見た光景が,ほぼ現実のものとなっている。
残念なことにこの手の作る系(サンドボックス系とでも言おうか)ロボットゲームはプレイする人を選ぶようで,「リリースしたら超売れました」みたいな話をあんまり聞かない。うーむ。
しかし,ドローンブームにあやかってロボクラッシュやカルネージハートのような自律型ロボットゲームが再び脚光を浴びないものかとこっそり期待しているのは筆者だけではないはずだ。とりあえず本稿を読んでしまった人は,ロボクラッシュを手にとって,こういったジャンルのゲームがどのようなものかを試してみてくれると嬉しい。
今回,「面白かったなあ」と懐かしんでいたロボクラッシュを久しぶりにプレイしたわけだが,なんというか,やっぱり面白いなーこれ。Sくんは元気かなあ。(ゲームの中で)リベンジしたいなあ。
プロジェクトEGG「ロボクラッシュ2」紹介ページ
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