連載
東京レトロゲームショウ2015:第2回「Shadow Warrior」で味わう,もう1つの日本の姿
しかし,1つのジャンルが作り上げられるには,それだけでは足りない。誰かがそれを真似しなければならないのだ。例えば,H・G・ウェルズの「宇宙戦争」のヒットを見て,誰かが同じような内容の小説を書き,たぶん英国紳士に「宇宙戦争の真似じゃん!」とか言われながらも,そうした作品が増えていくことで,侵略モノSFというジャンルが確立したと考えている筆者なのだが,そのへん,どうですかね?
つまらない前置きが長すぎたのでそろそろ本題に入るが,先週スタートした超人気連載「東京レトロゲームショウ2015」で今回取り上げるのは,いきなりの洋ゲー「Shadow Warrior」だ。
そんな前作の成功を受けての新作であるため,「Shadow Warrior」も妙なテイスト満載の,忘れられない作品に仕上がっているのだ。
主人公は日本の忍者マスター,ロー・ワンで,アメリカ人はどうなのか分からないが,日本人ならここで「日本人の名前じゃなくない?」という最初のツッコミを入れるはずだ。忍者のマスターである彼の姿は,上半身裸でタトゥー入れまくりの老人というもので,ゲーム開始後,部屋の鏡で自分の姿を初めて見た日本人プレイヤーはのけぞったという。私のことですけど。
ちなみにジラの社旗には「神Zilla Enterprises」と書いてあり,無理に英語で読むと“ゴッドジラ”という世界的に有名な巨大生物の名前を思い出させるものになる。これもまた,「神」がGodを意味するということを知っている漢字圏の人しか分からないという気がしないでもないけど,どうなのだろうか。
そんなワンはある日,ジラ・エンタープライゼスのCEOであるマスター・ジラが異世界のクリーチャーを使って日本を征服しようと企んでいることを知って職を辞するのだが,ワンの力を恐れたマスター・ジラはワンを亡き者にするため,次々と刺客を送り込むというのがゲームの設定だ。クライマックスの決戦は,富士山に作られた秘密基地を舞台に行われる。もっとも,当時のFPSはたいていそうだったが,ストーリーを説明するカットシーンなどはなく,どういう物語なのか知らなくてもゲーム進行に差し支えないという親切設計になっている。
そんなワンはゲーム中,日本語らしい日本語を話さないが,「Duke Nukem 3D」の主人公Duke Nukemと同様,笑えない冗談を飛ばしては自分でガハハと笑うタイプだ。リアルタイムで本作を遊んだ筆者は当時,知らなかったけど,こうしたキャラクター造形やゲーム設定についてはさすがに「やりすぎではないか」という批判もあったらしい。個人的には,ここまでファンタスティックにぶっ飛んでいると,もはや気にならないですが。
ゲームシステムは,次々に出てくる敵を銃でバリバリ撃ったり刀でザクザク切ったりして倒していき,敵の攻撃を受けて体力が減ったら,そのへんに落ちているヘルスパックを拾って復活。武器はあらかじめいくつか持っているが,ゲームが進むにつれ,敵が落としたり隠してあったりしたものを手に入れることで,次第にバリエーションが増えていく。弾丸類はマップのあちこちに落ちており,以上,全体的に当時のFPSそのものだ。
最初のほうは,たまに出てくる日本語の看板や,似せようと頑張っている日本風マップなどが興味深いが,作っているほうも疲れてきたのか,中盤以降は無国籍な雰囲気になり,敵クリーチャーの種類もそれほど多くはないという印象だ。
だいたいそんな感じだけど,どう? 遊びたくなってきた? 筆者はかつて,すっかりハマッて何周もしたのだが,どこがそんなに面白かったのかと18年ぶりに考えてみると,まずはFPSというシステムそのものが魔術のように魅力的だったことが挙げられる。フライトシムやアドベンチャーばかりだった海外ゲーム界に突如として出現した新ジャンル,FPS。うわー新しい。そんな新しいモノを遊んでいるオレもカッコいい,という感じかしらね。うふふ。
さらに,「Wolfenstein 3D」の5年後に登場したタイトルだけあり,「DOOM」「DOOM II」などの疑似3Dに比べて,グラフィックスレベルが向上していたこともポイントが高い。まあ,現在の視点で見れば「しょぼい」としか言えないグラフィックスだが,上下の概念があったり,マウスにも対応していたりなど,先進的なシステムも持っていたようだ。さらに,シリアスなものだというイメージの強かったFPSに(あまり笑えないけど)お笑い要素を混ぜ込んだ,おそらくバカゲーFPSとしては「Duke Nukem 3D」に続く史上二番めの作品であるところも憎い。
「Shadow Warrior」が海外でどのくらい売れたのかは,残念ながらよく分からない。追加コンテンツが2つほどリリースされたものの,続編が作られることもなく,いつしかデベロッパの3D Realmsも表舞台から姿を消してしまった。ちなみに,1996年から制作中と言われていた「Duke Nukem Forever」は紆余曲折を経て,15年後の2011年,Gearbox Softwareからようやくリリースされた。とはいえ,「Duke Nukem」シリーズの権利問題は,相変わらずすったもんだしているようだ。
本作は,ポーランドのCD Projektが運営するダウンロードサイト「GOG.com」のほか,おなじみの「Steam」で入手可能だ。Steamでは,当時のままのバージョンが「Shadow Warrior Classic」という名称で無料プレイできるほか,リマスター版の「Shadow Warrior Classic Redux」が購入可能になっており,そちらは,いろいろな設定が現代風になっているので,より簡単にプレイできる。記事に掲載したスクリーンショットは,リマスター版で撮影したものだ。というわけで,興味のある人はぜひ試してみよう。
Steam「Shadow Warrior」紹介ページ
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