インタビュー
TSUTAYAのゲームプラットフォームは,個人制作にも支援アリ?ーーーTポイント消費プラットフォームに留まらない新たな構想を聞く
2015年4月28日に発表された,CCCグループでネット事業を行うT-MEDIAホールディングスのゲームプラットフォーム「TSUTAYAオンラインゲーム」。その発表から遡ること1か月ほど前に,「TSUTAYAがオンラインゲームプラットフォームに参入するらしい」という話を聞きつけ,インタビューを申し込んでみた。
正直なところ,当初は単なるTポイント施策の一環なのだろうと思っていたが,いざ話を聞いてみると,それだけではない規模に仕上げようとしていることが感じ取れた。そもそも,約5300万人を超える会員数を誇るTカードや,それにひも付くTポイントと強く連携しており,ファミリーマートなどの実店舗とも深く連携できるのがこのプラットフォームの最大の特徴であり,この時点ですでに他社にはマネができない。
内容も,単にカジュアルゲームを並べて終わりというものではなく,ミッドコアゲームを重要視したり,法人や個人への投資案件なども考慮に入っていたり,その姿は,CCCがグループをあげて取り組むプロジェクトであるように思える。その一環を聞くことができたので,ここに掲載しよう。
「TSUTAYA オンラインゲーム」公式サイト
T-MEDIAホールディングス 執行役員 / エンタテインメント事業本部 本部長 山内智裕氏 大学生時代にTSUTAYAにアルバイトとして入店,その後,ゲーム担当,ゲームユニット長,執行役員と登り詰めてきた,生粋の叩き上げ。T-MEDIAホールディングス執行役員 / CSマーケティング 代表取締役社長と多忙な生活を送る |
4Gamer:
よろしくお願いいたします。本日は,なにやらCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)さんがオンラインゲームに参入すると噂を聞いて*インタビューを申し込んだ次第です。
山内智裕氏(以下,山内氏):
よろしくお願いします。どこから聞いたのか知りませんが耳が早いですね(笑)。
*2015年4月28日に発表された(関連記事)
4Gamer:
何をいまさらという感じではありますが,結局のところ広義の意味での“ゲーム”というものはこの先どんどん生活に密着したものとしてコモディティ化していくと思ってるんです。そうなるとO2O*などを絡めて“リアル”の土台を持っている会社が相当強くなるんじゃないかと常々考えてました。
そんなさなか,TSUTAYAやファミリーマート,ENEOSなどと提携しているCCCさんの噂なので,これはもう話を聞いてみるよりほかないな,と。
*O2O=Online to Offline。言葉どおりオンラインでの行動がオフライン(実店舗などの“リアル”)に影響を及ぼす場合や,オンラインとオフラインが連携する場合など,広義の意味を持つ言葉
山内氏:
なるほど。正確に言うとオンラインゲームの事業を行うのは「T-MEDIAホールディングス」(以下,T-MEDIA)という会社でして,我々の,いわゆるCCCグループの中の位置付けとしては「インターネット事業を統括している会社」です。映像配信だったり宅配レンタルだったり店舗情報だったり,色々なオンラインサービスを展開しているのが,我々T-MEDIAです。
4Gamer:
インターネット事業全般ということはTポイントも事業の範疇に入りますか?
山内氏:
そうですね。CCCグループのTポイントとか,TSUTAYAの店舗とか,そういったところのネットの受け口をやっている感じです。
4Gamer:
ネット事業という枠で,横串を刺して活動している感じなんですね。
山内氏:
はい,そうなります。
ですので,CCCグループが持ついろんなアセットを利用させてもらっていて,今一番大きい事業でいうと宅配レンタル事業の「TSUTAYA DISCAS」です。後は通販事業なんかで展開をしているというのが,今までの流れです。
4Gamer:
そのT-MEDIAが,なぜこのタイミングでオンラインゲームの世界へ? 正直に述べると「あぁTポイントを減らさなきゃダメだからかな?」とか,せこい打算的推測をしていたんですが(笑)。
山内氏:
では順番にお話しますね(笑)。
まずCCC全体として,今約5300万人くらいの会員がいらっしゃってですね……。
4Gamer:
ちょっと待ってください。5300万人,ですか。
日本の人口が大体1億2000万人として,1/2弱……くらい?
山内氏:
そうですね,半分弱……4割強くらいですね。ともあれそれくらいの規模数の会員さんがいらっしゃって,その方達にお店に行っていただくとか,あるいは逆にネットのサービスに来ていただくとか,いろんな仕掛けをやっています。
4Gamer:
なるほど。そこはよく見かけるサービスですね。
Tカードと連動する街づくりゲーム「Tの世界」 |
それで3年位前のことなんですが,簡単なゲームプラットフォームを実は立ち上げました。*「もっとお店に来てもらえる仕掛けを,ゲームを使って作れないものだろうか」ということから始まったプロジェクトなんですが。
それでさっそくチャレンジをしてみたところ,ゲームを遊んだ人とそうでない人では,実際に店舗に行くという行動に出る人の割合に大体2倍近くの差が出たんですね。
*「Tの世界」という,一種の街作りゲーム。筆者は不勉強で遊んだことがないのだが,相当多くの人に使われたサービスとのこと。プログラム改修のため,現在はサービス一時休止中だ。
4Gamer:
そんなに! その人達は,どんなメリットがあって実店舗に行ったんでしょうか。
山内氏:
お店に行くと新しいアイテムをもらえますとか,そういうのですね。例えばファミリーマートを利用するとこういうアイテムがもらえますとか,TSUTAYAに行くとこういうアイテムをもらえます,とか。
4Gamer:
ベタだけど効果ありますよね,そういうのって。
山内氏:
ええ。そんな仕掛けをやってみたところ,ゲームそのものにも長く滞留してもらえるし,ちゃんとお店にも行ってくれるんです。そんな興味深い事実が,立ち上げて2年くらいで見えてきたんですね。
これはちょっと面白いなと思って,もう少し本格的にやろうというのが去年の決定です。そこから1年くらいかけてプラットフォームを作っていたわけです。
4Gamer:
“ゲームそのものでの収益”以外のところにも力点が置かれているのが特徴ですね。
山内氏:
そうですね,そこは確かに。
キャッシュの収益のみならず,グループ全体の利益に貢献すればそれでよい
いまどきのオンラインゲームっていうと,課金をしてそこで収益をあげるのが一般的ですし,もちろん弊社としても事業としてそこは考慮されてるんですが,CCCグループ全体で見たときには,ポイントの利用が増えるですとか,お店の利用が増えるですとか,そういったこともゲームの収益以上に重要なわけです。
ゲーム単体での収益を追い求めるだけではなく,ちゃんとした事業シナジーが出せるということが見えたので,今回イチからチャレンジしてみようとなったわけですね。
4Gamer:
例えばほかのオンラインゲームのプラットフォーム……最近の大きいところだとDMMさんであったりとか,O2Oという意味で似たような感じだとヤマダゲームさんとか,なんかそのどちらともちょっと立ち位置が違う感じがしますね。それはやはりグループが大きくて,全体の利益に貢献すればよいというそういう雰囲気が反映されてるんですかね?
山内氏:
はい,そうだと思います。
4Gamer:
新規の事業として,そういう思想がちゃんと生きているのであれば,結構な冒険やチャレンジもできそうな気がしますね。……例えば極論として,収益がキャッシュとして上がってこなかったら?
山内氏:
いやさすがにそれは勘弁してください(笑)。
4Gamer:
まぁそうですよね(笑)。
山内氏:
でも真面目な話として,収益をあげないと絶対にダメなんだということではなくて,収益以外の,例えばちゃんとお店とやりとりができてるとか,Tカードの利用が増えているとか,そういった結果を出すほうが,グループとしては重要性が高いんですよね。
4Gamer:
プロジェクトのミッションがほかとはちょっと違うという感じですね。
山内氏:
単にCCCグループだけに留まらず,Tポイントの提携先の会社さんも含めての大きな枠組みとして,そこにどれだけ貢献できるかを重要なミッションとして持っているという形でしょうか。
4Gamer:
そうなると,グループ全体で実店舗をこれだけ持っているプラットフォームじゃないとちょっと難しそうですね。
山内氏:
例えば今までにも,“閉じた”中でのチャンネル展開とかO2Oとかって,皆さん結構やっておられたかと思うんですが,今回のようにTSUTAYAとかファミリーマートさんとか含めたいろんなTポイントの提携先の中での取り込みっていうのはまだないんじゃないかと思ってるんですね。なのでぜひチャレンジしてみたかったんです。
そしてもう1つ,Tポイントの提携先の中にはいろんな実店舗があるわけで,ゲームというかなりバーチャルなエンターテイメントの中で,リアルの店舗を使うことでゲームの内容に変化が及ぼされるというのがすごく強いですよね。そういう部分で,ブランドを持っている強みを生かしていきたいと思っているところです。
ファミリーマート(公式サイト) |
4Gamer:
ちなみにファミリーマートって何店舗くらいあるんですか?
山内氏:
ええと……国内で約1万1千店舗(15年3月末時点)ちょっとだと思います。
4Gamer:
今度サークルKサンクスとも合併するようですし,さらに店舗数は増えますね。コンビニなら日本全国津々浦々,ほとんどのところになにかしら店舗がありますし,Ingressみたいなことが1社で出来るようになりますよね。*
Ingressって,都心部を離れるとポータル申請くらいしかやることがないに等しいので,正直なところまったくやる気が起きませんし,ぜひコンビニあたりを主軸で何かお願いしたいですねえ。
*すでにローソンが手をつけている分野だが,まだまだやれることは多いはず。
山内氏:
そういうのも確かに面白そうですよね。でもちょっといきなりやるのは厳しいかな……(笑)。
4Gamer:
重々承知しております。では,最初はどのあたりからいきますか?
山内氏:
まぁ今回は移動を強制するようなことはなくてですね,基本的にはリアルでのアクティビティを反映させようと思っています。お店で何か購入してもらったら,それに応じてゲーム内アイテムが付いてくるとか。
完全にリアルでのアクティビティを中心に設計されたようなゲームも今後考えていきたいとは思っていますが,さすがにちょっと時間が必要ですね。
4Gamer:
なるほど。このあときっと発表会なりをやると思うんですが,プラットフォームを名乗る以上は何タイトルかは揃えてあると思います。そのあたりって,どんな感じでしょうか。
山内氏:
発表会当日になってみないと分かりませんが,現状ではローンチタイミングで大体30タイトルくらいでしょうか。チャネリングを含めた数値ですが。
4Gamer:
もしかしてその30タイトルは,すべて「アクティビティ」が反映されるようになってるんですか?
山内氏:
それらのタイトルには「履歴」と呼ばれるものーーO2Oの肝となる部分ですーーが反映されるので,それぞれのゲームにログインしてもらうと,履歴に対してそれぞれのアクションが起きるようになっています。
4Gamer:
30タイトル全部に入ってるのは割とすごいですね。
山内氏:
はい。タイトルについては,必ずリアルなアクティビティとの連携はお願いをしています。
そこが,他社さんのゲームプラットフォームのタイトルとのちょっとした差別化になると思っていますし,例えば我々が自前で作っていくものは,そのアクティビティがかなり活用されるようなものを考えています。
ファミマでの買い物が,毎回ゲーム内アイテムになる日も近い?
4Gamer:
しつこくてすみません,それって例えば,ファミリーマートに行って何か商品を買うと「Tの世界」にファミマの何かが出てきたり,TSUTAYAで「ドリフターズ」の新刊を買うと武将のカードが付いてきたり,そういった感じのものを想定しているんですが,合ってますか?
山内氏:
はい,そうですね
4Gamer:
……それが全30タイトル分全部に入っている?
山内氏:
あ,なるほど。なんとなくおっしゃってることが分かりました。
そこはちょっと違います。各ゲームごとに,1つの履歴(アクション)に対して起こるものなので,どれか1つを選ぶわけではなく,1つの履歴に対してすべてのタイトルで起こります。何月何日に,どこそこのお店で買い物をした,というデータに対して,30タイトルすべてで何かが起こるんです。
4Gamer:
確かに少し勘違いしてました。
……でもそれはそれで,さらにすごくないですか? つまり,言い方がちょっと変ですが,30タイトルすべてを遊んでたら得(?)だということですよね。
山内氏:
そうなりますね。
もちろん全部のタイトルに凝ったものを付けるのは難しいので,チャネリングタイトルとか既にあるタイトルの場合は,ちょっとしたアイテムがもらえたりとか,ちょっとしたコインとかがもらえたり程度のものになると思います。しかしそれが弊社のパブリッシングタイトルですと,もう少し豪華な感じになります。
実店舗と「TSUTAYAオンラインゲーム」がどう連動するかを紹介するスライド(関連記事) |
4Gamer:
いやでもゲームごとにもらえるのはちょっとすごいですね。そこまでやっているプラットフォームはたぶん……ない……かなぁ。「何かをすればゲーム内で何かがもらえる」という連携であればそれこそ山のようにありますけど,それをプラットフォーム全体の機能として持っている例はない気がします。
山内氏:
はい。プラットフォームですのでAPIもご用意させていただきましたし。
4Gamer:
1つ気になったんですが,その配布アイテムを考えるのは誰の仕事なんですか?
山内氏:
開発会社さんの方のディレクターさんだったり,プロデューサーさんですね。
4Gamer:
大変だなぁ……。
山内氏:
(笑)
でも,確かにそこが難しいので(プラットフォームに)載せるのが難しい,という会社さんもいらっしゃいました。
4Gamer:
4Gamerもメディア用アイテムを作ってもらったりすることがありますが,あれって開発会社さんに結構負担かけちゃうんですよね。
山内氏:
そうなんですよね。そこの工数的負担が大きいのは認めます。
しかし,その部分にうちが深く関与してあれやこれやと要望したり勝手に作ったりしてしまうと,ゲーム性に問題を生じさせる可能性もありますし,迂闊には動けません。
4Gamer:
確かにそうですね。
山内氏:
ですので,そういうところも含めてプロデューサーさんにお願いをさせていただいています。
4Gamer:
ところでそれらのアイテムって期間限定ですか?
山内氏:
いえ,基本的にはずっと効力があります。
4Gamer:
ええと,例えばの話ですが,2015年4月1日からファミリーマートでおにぎりを買うとアイテムがもらえるようになったとして,それは3か月経っても効果がある(=もらえる)ということですか?
山内氏:
そうなります。
例えば,6月末に初めてログインしていただいたユーザーさんでも,4月に買ったときのおにぎりのアイテムをもらえることが可能です。
4Gamer:
なるほど。アクティビティに対するリワードの紐付けがそうやって長いこと生きているものなのであれば,「あれもらってなくて損した気分……」とかにあまりならなそうでいいですね。
山内氏:
そうですね(笑)。
4Gamer:
ゲームのログインするためのIDは……いつもどおりな感じですか?
山内氏:
はい。基本的に,Yahoo! JAPAN IDと弊社のログインIDですね。
4Gamer:
しかしそういうことでしたら,ますます買い物のときにTカードを忘れるわけにはいかないわけですねえ。「いま関係ない」ものでも将来何かにつながるかもしれないという。
山内氏:
そうですね,ぜひそういう感じで書いておいてください(笑)。
とはいいましても,正直なお話をさせていただくのであれば,Tカードをお持ちでないユーザーさんからすると,うちのプラットフォームの面白さはまったく無価値なんですけどね……。
4Gamer:
それはまぁ確かにそうですが,とはいえ約5300万人も持っているカードですし……。
「ポイントの使い道」をキチンと提案したい
4Gamer:
いわゆるカジュアルでシンプルなゲームと,割とゲーム性の高そうなミッドコアのようなゲームと,どちらを主軸にしていく感じなんですか?
山内氏:
両方ですね。
4Gamer:
おや,意外な返答が。
4月30日に配信が開始された,Tカードと連動するゲーム 「にゃんこプレジデンッ!」 |
入り口としてはむろんカジュアルな物がいいかな,と思っています。弊社としてそこで課金を意識するというよりは,毎日の行動がゲームの中にこうやって影響しますよ,というものを見てほしいといいますか。
一方のミッドコア系というか,ゲーム性の強いタイトルに関しては,SAPさんと協業していく感じになります。
4Gamer:
なるほど。
……にしても最初にお話を聞いたときは,先ほども述べたように,TSUTAYAさんはTポイントを消費させたいだけなんだろうなぁ,とちょっと思っていたんですね。それでまぁなんか適当なポータルみたいなものを立ち上げて,うまいことマイクロトランザクションで小銭(=小さいポイント)を使わせて減らしたいのかな,と。でも実際には,割と気合いが入ってるようで……。
山内氏:
ありがとうございます(笑)。
4Gamer:
しかしポイントって,普通はあれを抱えて持っていたいわけじゃないですよね。発行する側としても,ひたすらに溜めて一気に使ってもらったりすることを想定してるわけじゃないでしょうし。
事業の話をするならば,当然そこも“取りに行きたい”ところではあります。
ただ違う側面の話として,Tポイントが貯まっているということは,つまりは使い道がなくて持ってしまっているだけだと思われるので,その“使い道”をいろいろ提供したいなぁ,とは思っています。
4Gamer:
確かにそうかもしれませんね。使いたくないわけじゃなくて,使い道がない。
山内氏:
ですので,「どこで使えるのかよく分からない」みたいな疑問も,ネット上で「こんなお店で/こんなときに使えますよ」と分かってもらう必要があるんです。そういう意味でも,今回のような仕組みがとても重要になってくるんです。数十ポイントみたいな少量のTポイントを持っている人に対しても,「このお店で使えるよ。このゲームで使えるよ」というのを提示していきたいですね。
PC-98時代からの叩き上げが語る「8割はミッドコアゲームですよ」
4Gamer:
いま「数十」とおっしゃいましたが,割と少額ポイントでも使えたりするんですか?
山内氏:
そうですね。Tポイントに関しては「1ポイント=1ゴールド」で等価交換が可能なので,例えば10ポイント分のアイテムを買う,といったことも可能です。
TSUTAYA オンラインゲーム内の通貨「ゴールド」とTポイントの連動イメージ(関連記事) |
4Gamer:
意外と親切な仕様ですね。
山内氏:
そういう目的ですから(笑)。
4Gamer:
ポイントっていうと私は最初にヨドバシカメラを思い浮かべるんです。ヨドバシもヤマダ電機も電子書籍を始めたりペット用品を始めたり,何でも売るようになってAmazon化しているわけですが,あれもきっとポイント消費の促進という意味があると思うんですよね。ヨドバシで100円とか200円のものってそうそう売ってないですしーー電球とか電池とかですかねえーーほかに売ってるものになると,3万円とか20万円とか。
Tポイントはどうするのかな,と思っていたんですが,ちょっと違う方向に来ましたね。さすがにリアルとのつながりが桁違いというか。
山内氏:
リアルもそうですが,そもそもポイント付与の規模感自体が家電量販店さんと全然違うので,単価が違いますよね。貯まるポイントも,何千・何万ポイントというよりは,少量なポイントが多いと思います。そういうポイントの消費先という意味では,ゲームはすごく良いかな,と思っています。
4Gamer:
発表会前なので詳しいことまでは分かりませんが,普通にお話だけ聞いてると「ゲームはオマケかな?」というイメージが正直ぬぐえません。そのへんの,ゲームとしてのクオリティに関しては何か注目すべき点はありますか?
山内氏:
外部のゲームプロデューサーを採用して自前で作ったりもしますし,割とがんばってる……と思います。その30本は,発表会でも何本かご紹介させていただきますが,その後にも続々とタイトルを予定しています。
4Gamer:
30本。結構ありますねえ。
4Gamer的には,その30本のうちミッドコアと呼ばれるものがどれくらいあるのか気になるんですが。
山内氏:
8割くらいはそれに該当すると思います。
4Gamer:
8割!
残り2割ぐらいのものが,「Tの世界」なども含めた,お客様にどんどん遊んでいただくためのコンテンツになります。今後,多少は比率が変わることもあるかもしれませんが,できるだけ長く遊んでいただきたいので,簡単なカジュアルゲームに特化させて似たようなものをどんどん追加するというよりは,しっかりとゲームとして作り込んで,ゲーム性で勝負するものをご提供していきたいなと考えています。
4Gamer:
そうなんですね。てっきり,いいとこ半々くらいかな,と。
山内氏:
やっぱり私としても,ゲームとして面白いものを作りたいんです,この事業をやってるメンバーって,ずっとゲームを作ってきたようなメンバーも多いですし。まぁそもそも私も,コンシューマーのほうでずっとゲームに関わっていましたので。
4Gamer:
あれ,そうなんですね。
山内氏:
ここに来る前は,ずっとTSUTAYAの店舗のゲーム担当をしてました。
4Gamer:
ということは,いわゆる「叩き上げ」?
山内氏:
そうですね。大学生時代にバイトで入ってそこからずっと……。
4Gamer:
叩き上げどころじゃなかったですね(笑)。
山内氏:
(笑)
元々,PC-98時代からずっとゲームをやってまして。
4Gamer:
失礼ですがおいくつなんですか?
山内氏:
37歳です。
4Gamer:
あー,なるほど。若いころ直撃のPC-98世代ですね……。
山内氏:
そうですね。20年くらい前ですしね(笑)。
そんなバックボーンなんかもあり,ちゃんとしたゲームを作ってはいきたいと思ってはいるんですけど,もちろんいま弊社にそこまでの技術があるわけではないですし。このあといろいろな会社さんと協業しながら,面白いものを作っていきたいですね。
TSUTAYA オンラインゲームで楽しめるミッドコア向けタイトルの一部(関連記事) |
“5300万人”を誇るTカードの年齢分布
4Gamer:
いましがたの年齢の話でふと思ったんですが,Tカードを持ってるユーザーさんって,その約5300万人の年齢分布はどんな感じなんですか?
数としては30代,40代の層が一番多いです。その下の20代も割合としては結構多いですね。50代も普通に多くいますし,それこそ幅広くかなりのボリュームになってると思います。
4Gamer:
僕は今40代半ばなんですが。
山内氏:
40代だと5割くらいはいますね。
4Gamer:
5割!?
山内氏:
あ,説明不足ですみません。日本の人口に対する割合の話です。20代だと7割超えてますよ。
4Gamer:
ユーザー分布を日本の人口比で聞いたのは初めてです……。
ということは,今は割と若者に寄った感じのタイトルラインナップで考えてるんでしょうか。
山内氏:
いえ,そこは幅広く捉えています。ライトユーザーという意味では,確かに若者だったり女性層を狙ったりしていますが,ミッドコアのゲームって30〜40代の男性をターゲットにしているとは思うので,そこはうまいことタイトルをプロットしていきたいと思っています。
4Gamer:
まぁでも確かにそれだけ幅広くいたら,いっそ全部やっちゃうのが一番いいのか……。
しかしそれだけのユーザー層の幅を捉えたゲームのプラットフォームってほかにあんまりない気がしますね。
山内氏:
そうですね。
……そういう話で言いますと,今の「Tの世界」のユーザーっていうのは,実はコア層が30代〜50代の方なんですね,
4Gamer:
50代?
山内氏:
はい,引っ張られるように20代がちょっと少なめなんです。
Tカードが元になったプラットフォームですので,ソシャゲとかを今まで楽しんできた20代の方中心……というよりも少し年齢層が高いかなと考えてまして,今度のプラットフォームに関しても,メイン層が30代〜40代後半くらいになるんじゃないかなと予想しています。
4Gamer:
ゲーム畑出身の方なので釈迦に説法ですけど,ゲームのプラットフォームって結局のところ本当に幅広いユーザー層を取って維持するのが本当に難しいですよね。その悩みがないというのは相当に強いですね。……そのぶん“回す”のが難しそうですが。
山内氏:
最初の入り口は,あえてゲーム感を出さないほうがお客さんを取りやすいと思ってます。TSUTAYAに行った。帰りにファミリーマートに行った。Tポイントはどれくらい貯まったかな,っていうレベルの行動といいますか。それと同じくらいの感覚で,ゲームに入ってくるような。
4Gamer:
いいですねえ。
山内氏:
「こんな面白いゲームがあるのか」っていうのはそのあとでいいと思うんですよね。
「Tの世界」をやってみて実体験になってるんですが,まったくゲームに触れていなかったような30代から50代の層の方までが実際にとても遊んでくださったわけですし。
4Gamer:
“日常の延長”ですね,ゲームをそうやって楽しむって概念って業界にはそんなになかったものですし。「なかった」っていうか,そういう風に楽しむような物じゃないって煽ってるのが4Gamerみたいなゲームメディアなわけですけど……。
山内氏:
(笑)
決まった姿は考えていない。ユーザーの求めに応じて姿を変える
山内氏:
やはりO2Oというフックは重要でして,普段の生活の中でTカードを使って買い物した時に「ここでTカードを提示したら,あのゲームで何か動きがあるかな」とつながっていただけるわけで。家に帰ったあとだったり,移動の時間とかにちょっと入っていただくというのが理想的ですよね。
4Gamer:
ゲーム業界がずっと取り組んでいる「ゲームに興味のない人を引き込む」が出来そうな感じがとてもいいですね。いままで,初代プレイステーションだったり,ニンテンドーDSだったり,最近ではパズドラだったり,ゲーム業界を大きな意味で変えた大きなエポックメイクは何度かありましたけど,それと並ぶものになれるのかもしれません。
オープン後には,こういう風にグレードアップさせていこうとか,最終的にこんな姿になるといいなとか,何かそういうものって現時点でありますでしょうか。
山内氏:
オープン後にはいろんな道筋があって,それはお客様が使っていく中で結果的に答えを出していただけると思っています。オープン当初は,ブラウザでの立ち上がりになりますけど,もしかしたらあとあとアプリの世界で成り立っているかもしれませんし。
ユーザーさんがもっとコアなゲームを遊びたいという感じになってきたら,もっとコアなゲームを作っていくかもしれないですし,それもまたブラウザなのかアプリなのかは分かりません。もしかしたらもっと違う方法での提供かもしれませんしね。
4Gamer:
つまりは,ユーザーの動向によって姿が変わる可能性がある?
山内氏:
あります。
最初はあくまでも“日常の延長線”という方向でいきたいので,実店舗だったりTポイントだったり,そういうものと近しいサービスの提供方法がいいと思ってます。それが4Gamerの読者のみなさんから近いかどうかは分かりませんが……。
4Gamer:
確かにそうですね(笑)。
ところでチームは何人くらいで動かしてるんですか?
山内氏:
ゲームのプロデューサーも入れて,今は10名ですね。
4Gamer:
割と少数ですね。
山内氏:
そうですね,確かに。
でも今はゲーム制作を協業という形でやらせていただいているので,その人数でもなんとかなってます。今後内製化をしていく段階になったら増えていくとは思うんですけど。
4Gamer:
まぁでも10人くらいが一番いいですよね。10人超えると,だんだん動かしづらくなってきますし。
山内氏:
内部に話を通すのとかが楽ですよね(笑)。
4Gamer:
ともあれ,最初から決まったマイルストーンがあって,最終目的地が設定されていて,「CCCグループとしてここを目指していこう」というものではなく,あくまでもユーザーの求めに応じて,動向にどんどん姿を変えていく可能性があるプラットフォームである,と。
ええ。先ほど話に出ましたが,最初は本当にTポイントの利用を増やそう,ということから始まった試みなんですね。そしたら,どうもゲームがかなりいいらしい,と。じゃあいっそゲームプラットフォームを作ってみようじゃないか……というそういう変容を遂げているわけです。
なので,ここから先どう変わっていくのかは,我々にもちょっと分からないですね。
4Gamer:
そんな変容を許すグループなんですね。
山内氏:
まぁそのへんはかなり自由です(笑)。いろいろなところで新たなチャレンジをやっていこうって。
つまりそれって言い換えますと,グループ内でほかにまた新たなサービスが立ち上がってくることもあると思うんですけど,その新しいサービスとどう組み合わせようか,みたいなところで,我々が形を変えなければいけなくて,それがお客様にとって一番良い形なのであれば,変えればいいじゃないか,ということにもつながっていきます。
4Gamer:
変えればいいじゃないか,って,この規模の会社でそれを言われるとは。
山内氏:
作り手の方達が「あのプラットフォームに出したい」と思えるようなものを目指していきたいと思っています。それが結局のところお客様のメリットにもなるわけですし。
個人制作のゲームを発表できる場にもしたい
4Gamer:
聞いてて思ったんですが,そんなに自由度高く姿を変えていけるのであれば,個人で作った作品を公開できるような場所になるとかそういう方向性はどうなんでしょうか。
いやいっそ,例えば小規模投資案件であったりとか,そういうものまで考慮に入れて動くとかはどうでしょう。資金も潤沢にありそうですし(笑)。お金出すからウチに出さない? みたいな。
山内氏:
ぜひやりたいですねえ。そんな偉そうな感じじゃないとは思いますけど(笑)。
真面目な話,クリエイターさん向けのプログラムみたいなものはちょっと立ち上げたいなと思っています。主に専門学校さんとか,いっぱいゲームを作っているんだけど世に出すタイミングと場所がない,みたいな人達もいらっしゃるわけで,企画やモックが出来ているんだったら,それを持ってきていただいて一緒に具現化していくとか,それこそ今お話に出たようにそこに投資したりとか,そういうことは考えていますし,具現化させるべく動いていこうという話は内部でしています。
TSUTAYA オンラインゲームのコンテンツ拡充を目指したクリエイター支援施策(関連記事) |
4Gamer:
お? すでに織り込み済みでしたか。
山内氏:
あと,今作っているパブリッシングタイトルに関してなんですが,実は出てくるタイトルの企画の内容ってうちが考えたものではないんですよ。今回は企画から募集させていただいて,その企画に対してうちが開発費を負担させていただいて協業,という形を取らせていただいています。
T-MEDIAホールディングスとレッド・エンタテインメントが共同開発する「東京ハーレム」(関連記事) |
4Gamer:
もうすでに動いていた話なんですね。というかそれって完璧に“プラットフォーマー”ですね。
山内氏:
随時企画は募集させていただいているので,SAP様からそういうお問い合わせをいただけると非常に嬉しいですね。うちが作りたい物をどんどん投下していくというよりは,プロデューサーさんであったり,ディレクターさんだったり,そういう方達がうちのプラットフォームでO2Oなどを活用することで,いままでにない使い方だったり,いままでにないゲームだったり,そういうものを提供できるんだ,と思っていただければ。
それを,先ほどのお話のように,学生さんだったり,少数メンバーのチームだったり,そういうエリアにまで広げていく考え方だと思っています。
4Gamer:
素敵じゃないですか。
山内氏:
CCCグループとしては,ほかに映像と音楽,書籍と,そういうエンタテインメントを展開しているわけで,そのどれも同じなんですね,根っこは。映像も音楽も,書籍も。クリエイターさんや作家さんがいて,それぞれ自分の目指すものを作りたいんだけど,お金もないしそれを表現できる場所もない,というのがそのすべての共通する悩みなんです。
CCCグループとしてそれを表現できる場所を作ろうと思っているわけでして,その全体感の中でゲームも同じです。表現のアイデアがある人とタッグ組んでいきましょう,と。
随時企画は募集中とのことなので,興味があるデベロッパはこちらからどうぞ |
4Gamer:
しかしさすがに,まず最初は法人からですよねきっと。
山内氏:
そうですね。大変申し訳ないんですけど,そうなります。
もちろん,個人やチームに対するプロジェクトは,法人とはまた別の企画として立ち上げようと企画している段階です。
4Gamer:
なるほど。ではちょっと期待しておきます。
山内氏:
ゲームだけでなく,ほかの我々グループがやっている事業ーー映像,音楽,書籍ーーの全部でやるかどうかはまだ分かりませんが,そういう支援プログラムをやりますというのは,どこかでいずれ発表すると思います。
4Gamer:
5300万人のプラットフォームですからねえ……。
今後のますますの発展に期待しております。ぜひ頑張ってください。本日はありがとうございました。
「TSUTAYA オンラインゲーム」公式サイト
T-MEDIAホールディングス 公式サイト
ーー2015年4月7日収録
- 関連タイトル:
TSUTAYA オンラインゲーム
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(C)T-MEDIA HOLDINGS Co.,ltd.