イベント
[GDC 2016]「Downwell」を特徴づける「ガンブーツ」はいかにして生まれ,磨かれたか。開発者のもっぴん氏が語った日本産インディーズゲームの開発事例
そんな「Downwell」のデザイナーであるもっぴん氏が,GDC 2016初日のインディーズサミットに登壇。この個性的なゲームがどのようにして生まれてきたのかを語った。想像以上に個性的な経緯をたどった「Downwell」のゲームデザインの秘密をレポートする。
「Downwell」公式サイト
「Spelunkyのようなゲームをスマホで遊びたい」
もっぴん氏がゲーム制作を始めるにあたり,最初の目標としたのは,「Spelunkyのようなゲームをスマートフォンで遊びたい」ということだったそうだ。もっぴん氏はこの理由を,「Spelunkeyが大好きなので」と実にシンプルに語った。
かくして最初に作られたプロトタイプは,
- 2Dのモバイル向けプラットフォーマー
- 縦長のステージを有する
- スマートフォンは縦持ち
- ランダム生成の要素を持つ(Spelunkyのように!)
……という,これはこれで分かりやすいゲームだった。
無論,Spelunkyをリスペクトして作られているので,難度が極めて高い即死ゲーである。この段階で氏は,「縦方向にスクロールしていく(降りていく)プラットフォーマーって,まぁまぁ面白いんじゃないの」という手応えを得たという。
だが興味深いことに,この段階ではまだ,「Downwell」を特徴づけるガンブーツ(もっぴん氏曰く「ガンとブーツが合体したもので,下方向に弾が撃てるアイテム)というアイデアは,どこにも存在していなかった。
ガンブーツというアイデアは,縦スクロールプラットフォーマーという形式に自信を得たもっぴん氏が,これを「ほかとは違うゲームにするために,どうすべきか」を考え始めたことが,そのスタート地点だった。
まず,もっぴん氏はこのゲームのUIについて考えた。氏は数多くのアクションゲームをスマートフォンで遊んできた経験から,「バーチャルボタンを使うゲームにおいて,操作ミスを防ぐためには,ボタンの数を絞る必要がある」と考えていたという。加えて「Downwell」はスマートフォンを縦持ちする関係上,同時に利用できるボタンの数も少なくするしかなかった。
このため初期の「Downwell」は,左右に移動するボタンとジャンプボタンの合計3つで構成された。そしてこのジャンプボタンに何かもう一つ機能を持たせられないかと考えたときに,初めて「ガンブーツ」のアイデアが登場したのである。
ガンブーツを実装してみると,これが想像以上に素晴らしいプレイフィールをもたらした。以下,氏が示した「良い所」を列挙してみよう。
- 面白い
- ほかのゲームにない差別化要素
- UIを妨げない
- 攻撃に使えるだけでなく,反動を利用することで移動にも活用できる
ガンブーツというアイデアの素晴らしさに氏は興奮し,すっかり魅了された。この楽しさは,氏が尊敬する任天堂の宮本 茂氏の「良いアイデアとは,1つの問題を解決するものではなく,複数の問題を同時に解決するものだ」という言葉にも合致する。もっぴん氏は確信を持って,このガンブーツというアイデアを中心に,ゲームのすべてを作り直すことを決意したのである。
ガンブーツを「磨き上げる」
さて,まず最初にもっぴん氏が考えたのは,「ガンブーツの弾数を制限するか,しないか」という問題だった。
弾丸が無制限に発射できれば,ゲームは必然的に縦スクロールシューティングゲームのテイストが強くなる。制限があれば,プレイヤーは弾を大事に使おうとする(使い惜しみする)ようになる。
もっぴん氏にとって,前者はあまり望ましい方向性ではなかったが,かといって後者も喜ばしい状況ではないと考えた。そこで,「この間を取ることはできないか」と考えた結果,「連射していると弾が尽きる」「射撃せずにいると弾が回復する」というメカニズムを採用することにしたのである。
だがこれでもまだ,ガンブーツは完全に満足できるものにはならなかった。今は弾が撃てるのか,あるいは再装填中なのかを,激しいアクションの中で見極めるのは難しい。結果としてプレイヤーは,「安全なところで再装填を待ってから,しかるに先に進む」という行動を取ることになる。これではプレイのテンポが著しく悪化してしまう。
この問題に対し,氏は再装填時間を短くするのではなく,そもそも再装填時間を0にしてしまう形で対策を行った。かくしてリリース版のような,「地面に着地したら再装填される」という,テンポの良いゲームシステムが完成したのである。
さて,かくしてゲームシステム側のデザインがほぼ完成したところで,今度はレベルデザイン(ステージの設計)が問題となった。
ステージがランダムに生成されるというのは当初からのアイデアだったが,そうやってランダム生成されるステージは,1画面内にたくさんの障害物が配置されるデザインだった。「Downwell」が「Spelunky」をリスペクトして作られていることから鑑みても,これは当然だ。
だがガンブーツが完成し,そのダイナミックな挙動が楽しめるようになった今,当初想定したようなオブジェクトの密度が高いマップでは,ガンブーツが持つダイナミックさを妨げてしまう。
かくして,もっぴん氏は画面に存在するオブジェクトの密度をぐっと減らすことにした。これによってプレイヤーは,自機を大きく機動させるに十分な空間を得ることになる。また「どこに次の床があるのか分からない」くらいに空間が広がったことで,プレイヤーは「ガンブーツを使って落下速度をコントロールする」という形で,ガンブーツで「機動すること」に積極的にもなるというわけだ。
同時にもっぴん氏は,自機を追尾する敵も実装する。これによってプレイヤーが自分から積極的に動く必要性も生まれたのである。
そして最後の仕様として設けられたのが「コンボ」の概念だ。
実はコンボというシステム自体は,ゲームのかなり早い段階で存在はしていた。だが,ガンブーツの調整やガンブーツに適したレベルデザインを考えているうち,その存在は長らく忘れられていたという。
だがゲームも完成が近づいてきた段階で,もっぴん氏は再び「コンボ」のギミックに注目する。敵を踏みつけることによってコンボ数が延びていくというシステムは,ゲームに慣れたプレイヤーにとって,「敵を踏みつけ続けるとコンボ数が延びる」「床に着地するとコンボ数は0に戻る」「しかし床に着地しないとガンブーツは再装填されない」というジレンマを内包した,良いチャレンジとなった。
と,実にうまく計算されたようにみえるコンボ要素だが,そもそも氏が「Downwell」にコンボ要素を取り入れたのは,「アクションゲームにおいて爽快感がある楽しいシステムといえば,自分にとってはコンボ」だったからだとか。このあたり,なんともインディーズゲームらしい動機と言えるかもしれない。
「Downwell」は,こうして約10か月をかけて一旦の完成を見た。しかるに,それから5か月ほどかけて,エリアの追加や武器の種類の充実,BGMといった要素が整備されていったという。
このように,「Downwell」を決定的に個性付ける「ガンブーツ」という要素は,「Downwell」の開発当初から存在したコンセプトでは決してなかった。だが制作途中で見出されたアイデアを中心にゲームを再構成したことによって,「Downwell」は世界的に高い評価を集めるタイトルとして完成したのである。
GDCにおけるほかのインディーズゲームの講演でも,「1つのアイデアにフォーカスする」というノウハウは,多くの講演者が口にしている。だがそのアイデアは,必ずしもゲームを作り始めるコンセプト段階にのみ存在するわけではない。
こと小規模な開発においては,プロトタイプを作っていくなかで,今までにないゲームの源となる「1つのアイデア」が生まれてくることもある。これは明らかに,インディーズゲーム制作における「強み」である。もっぴん氏の講演は,その強みが大きな成功へとつながっていった道筋を,浮き彫りにしたものと言えるのではないだろうか。
良い作品を「良い」と認めることの意味
だが中でも最も会場が盛り上がったのは,「日本でインディーズゲームを作る人があまり多くないのはなぜか」という質問に対し,「日本ではインディーズゲーム制作で大成功を収めた若いデザイナーがおらず,結果として若手がインディーズゲームで勝負しようという目標を抱きにくいのではないか」と返答したときに,会場から「あなたはインディーズゲームで成功を収めた若いデザイナーじゃないか!」というツッコミが飛んだときだろうか。
この「素晴らしいゲームを作ったデザイナーを,真正面から評価し,賞賛する」という姿勢は,GDCのほかのセッションでも普遍的に見られるものだ。そして,もしかしたらそういった,ゲームとゲームデザイナーに対する真摯な姿勢こそが,海外においてこれまでになかったような優れたゲームが次々に生まれている原動力なのではないか――そんなことも感じさせられたセッションだった。
「Downwell」公式サイト
キーワード
(C) 2015 Ojiro Fumoto. All Rights Reserved.
(C) 2015 Ojiro Fumoto. All Rights Reserved.
(C) 2015 Ojiro Fumoto. All Rights Reserved.