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AMD,Carrizoベースの組み込み向け新型SoC「Embedded R-Series」を発表
組み込み向けということで,直接ゲーマーが選ぶような製品ではないが,その概要を簡単にまとめてみたい。
Excavator+第3世代GCN搭載のSoC
R-Seriesは,AMDが擁する組み込み向けプロセッサの中でも,とくに高性能が要求される用途――カジノで使われる業務用ゲーム機や通信機器,医療機器やデジタルサイネージ――を狙った製品だ。これまでAMDは,この市場に対して,Trinityコアをベースにした第1世代R-Seriesと,Kaveriをベースにした第2世代R-Series(開発コードネームは「Bald Eagle」)を市場に供給してきた。
一方,今回発表されたMerlin Falconは,前述のとおり,第6世代APUであるCarrizoをベースとしており,CPUコアには,Bulldozer系マイクロアーキテクチャの最新世代である「Excavator」(エクスカベータ,開発コードネーム)コアを,GPUコア部分にはGraphics Core Next(GCN)アーキテクチャの第3世代である,GCN 1.2ベースのGPUコアを統合したプロセッサとなっている。
発表時点のラインアップは以下の5製品。「RX-421ND」と「RX-216TD」はGPUを統合しない組み込み向けCPUだ。
5製品とも,従来のR-Seriesと同様に,BIOS側でTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)の設定が可能な「Configurable TDP」(cTDP)をサポートしており,組み込み機器に必要な性能とTDPのカスタマイズを行える。
- RX-421BD
12 Compute Cores(Excavator Module×2+GCN Compute Unit×8),L2キャッシュ容量 2MB,TDP 12〜35W, CPUコア定格動作クロック 2.1GHz (TDP 15W時), CPUコア最大動作クロック 3.4GHz, 統合型GPUブランド「Radeon R7」, GPUコア定格動作クロック 800MHz, デュアルチャネルDDR4-2400/DDR3-2133
- RX-418GD
10 Compute Cores(Excavator Module×2+GCN Compute Unit×6),L2キャッシュ容量 2MB, TDP 12〜35W, CPUコア定格動作クロック 1.8GHz (TDP 15W時), CPUコア最大動作クロック 3.2GHz, 統合型GPUブランド「Radeon R6」, GPUコア定格動作クロック 800MHz, デュアルチャネルDDR4-2400/DDR3-2133
- RX-216GD
6 Compute Cores(Excavator Module×1+GCN Compute Unit×4),L2キャッシュ容量 1MB,TDP 12〜15W, CPUコア定格動作クロック 1.6GHz (TDP 15W時), CPUコア最大動作クロック 3.0GHz, 統合型GPUブランド「Radeon R5」, GPUコア定格動作クロック 800MHz, デュアルチャネルDDR4-1600/DDR3-1600
- RX-421ND
4 Compute Cores(Excavator Module×2),L2キャッシュ容量 2MB,TDP 12〜35W,CPUコア定格動作クロック 2.1GHz (TDP 15W時), CPUコア最大動作クロック 3.4GHz, デュアルチャネルDDR4-2400 /DDR3 -2133
- RX-216TD
2 Compute Cores(Excavator Module×1),L2キャッシュ容量 1MB,TDP 12〜15W, CPUコア定格動作クロック 1.6GHz (TDP 15W時), CPUコア最大動作クロック 3.0GHz, デュアルチャネルDDR4-1600 /DDR3 -1600
なお,AMDはこれら5製品のほかに,「iTemp APU」という製品バリエーションも,2016年第1四半期に市場投入予定だそうだ。今回発表された5製品が,チップ内部の温度である「ジャンクション温度」を0〜90℃としているのに対して,iTemp APUはー40〜105℃と,より広い温度領域での動作に対応した製品になるという。主な用途としては,過酷な使用環境に置かれる工業機械や通信機器が想定されているとのことだった。
サウスブリッジの統合で省スペース化を実現
Merlin Falconで最大の特徴は,冒頭で触れたようにサウスブリッジが統合されて,Serial ATAやUSBなど,主要なI/Oに1チップで対応できるようになった点だ。サウスブリッジが統合されたことにより,前世代のBald Eagleと比べて,マザーボード上でプロセッサが占める面積を30%縮小したとAMDは主張している。つまり,より小型の機器にもMerlin Falconなら搭載できる可能性が出てくるというわけである。
第2の特徴は高性能化だ。まず,Excavatorコアの採用によって,CPUコアのクロックあたりの命令実行数(IPC:Instruction Per Clock)は4〜15%向上したという。
また,統合されたGCN 1.2ベースのGPUは,HSA 1.0に対応するほか,H.265のハードウェアエンコードとデコードも可能だ。組み込み向けSoCながら4K解像度の表示やビデオ再生が可能なMerlin Falconによって,カジノのゲーム機や医療分野に新たなグラフィックス機能をもたらすことが可能になると,AMDは主張している。
AMDはグラフィックスベンチマークテストの結果も公表しており,Merlin Falcon世代の最上位であるRX-421BDは,Bald Eagle世代の最上位モデル「RX-427BB」に対して,「3DMark 11」で22%の性能向上を示したとのことだ。
Linux版のグラフィックスドライバをオープンソースに一本化
やや地味なネタだが,Merlin Falconでは,Linux版グラフィックスドライバをオープンソースに一本化するという,興味深い発表が行われた。
これまでAMDは,Linux向けのグラフィックスドライバには,オープンソースのものとプロプライエタリ(ソースコードが非公開)のものという,2種類のグラフィックスドライバを提供してきた。オープンソース版ドライバソフトは,ソースコードがすべて公開されている一方で,最新のGPUをサポートしなかったり,3Dグラフィックスのサポートが弱かったりという問題点がある。一方,プロプライエタリ版ドライバソフトはそのような問題がない一方で,ソースコードが公開されていないので,ドライバソフトのカスタマイズを必要とする用途では使いにくい面があった。
それがMerlin Falconでは,オープンソース版ドライバソフトに一本化されたうえ,性能面でのデメリットもなくなって,最高の性能が発揮できるとAMDは説明している。
ドライバソフトをオープンソースに一本化するのがMerlin Falcon以降だけなのか,既存のAPUやGPUも同様に一本化していくのかは,とくに言及されなかった。いずれにせよ,こうした試みによって,Linuxを使用する機器で,AMDのSoCやAPU,GPUの採用にはずみが付く可能性はあるだろう。
ノートPC向けAPUからスタートしたCarrizoは,2015年9月に発表された「AMD PRO A12」シリーズとして,ビジネス市場向け製品にも展開されている。そして今回のMerlin Falconで,組み込み向けにも展開されることになったわけで,AMDのAPU&SoCラインアップは,Carrizo一色になりつつあるといえよう。
ただ,デスクトップPC向けAPUには,Carrizoベースの製品は存在しておらず,2014年1月に登場したKaveriベースの製品が販売され続けている状態だ。そろそろデスクトップAPUにも,新しいアーキテクチャを採用した製品が登場してもいい頃だと思うのだが,AMDが動くのはいつになるのだろうか。
AMD 公式Webサイト
- 関連タイトル:
AMD A-Series(Carrizo)
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