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ハロー!Steam広場 第333回:バラバラの映像から事件の真相を解き明かしていく推理ADV「Her Story」
「すちーむ」ってなぁに?というよい子のみんな集まれー! 「ハロー! Steam広場」は,PCゲームのダウンロード販売サイトSteamで公開されている気になるタイトルを,筆者が独断と偏見でピックアップして紹介する,とっても有意義なコーナーだ。毎週欠かさずチェックすれば,怪しいところにはとりあえずネジを投げつける上級Stalkerにジョブチェンジできるかも。
バラバラの映像から事件の真相を解き明かしていく推理ADV「Her Story」
今回は,「サイレントヒル」シリーズのクリエイターの一人であるサム・バーロウ氏が手がけた,推理アドベンチャー「Her Story」を紹介しよう。リリースされたのは2015年とそれなりに古い作品だが,その斬新さは今も色あせることなく,単に“アドベンチャーゲーム”と聞いて想像するものとは,かなり違ったプレイが楽しめるはずだ。また,バーロウ氏の新作「Immortality」が先日のE3 2021で発表されたこともあり,今,過去作に触れておくのも悪くないだろう。
ゲームを開始するとまず,かなり古めかしいPCのデスクトップと思われる画面が表示される。データベースと書かれたウィンドウには,検索ワードとして「殺人」と入力されているが,それ以外にはまともな情報がなく,これを見ただけでは何のことやらさっぱりだ。オープニングムービーもなければ,導入部の説明やチュートリアルすらないので,この時点でプレイヤーは,これが一体何なのかすら分からない。
とりあえずそのまま「殺人」で検索すると,女性が映ったサムネイルがいくつか表示される。クリックすると動画が再生され,その女性が“何か”について事情聴取を受けていることが分かる。だが,それぞれの動画は30〜40秒くらいで,それぞれの関連性も薄い。通して見ても,何のことやらさっぱり理解できない。明確に分かるのは,右上に表示されている撮影日時ぐらいだ。
とはいえ,実はこの“動画を再生する”という行為こそが,本作の核となっている要素だ。プレイヤーは,作品のタイトルどおり「彼女の物語」を,それぞれ異なる映像をもとに体験・推理していくことになる。
やることは簡単で,動画の内容をヒントに新しい検索ワードを入力し,さらに別の動画をチェックしていくだけ。最初から明確にプレイヤーに提示される情報はほとんどなく,まさに五里霧中からのスタートだが,この「手探り感」こそが,このゲームの醍醐味だろう。
具体的な進め方としては,まず動画を確認し,字幕から気になる名詞や単語を見つけていく。そうして,言葉を検索にかけ,見つかった関連動画からまた次のワードを見つけ出していく,といった感じだ。
探すワードは「人名」あたりが取っかかりとして分かりやすいが,別にそれにこだわる必要はない。それぞれの動画は短めだし,必ずしも次のヒントを明示しているわけではないが,とりあえず一通り見れば,何か気に掛かるワードは見つかるはずだ。
そして繰り返し動画をチェックしくうちに,本作のヒントが言葉だけではなく,彼女の表情や身振り,そして映り込む小物さえもが,情報収集の手がかりになることに気づくだろう。
ここで注意したいのは,見つけた単語の検索結果が何十件とあっても,画面に表示されるのは5件までということ。その5件をより有用なものにするため,検索ワードにスペースを挟んで複数の単語を組み合わせ,絞り込んでみよう。
どういった動画が見つかるかは,単語のチョイス次第なので,なかなか重要な証言を見つけられない場合もあれば,前半にあっさりと真相に迫るような話が出てきたりもして,十人十色の展開になる。
ネタバレを避けたい作品なので最低限の説明に留めるが,PC内にわずかに残されたテキストや,映像の女性が語る内容から,この動画はある殺人事件の取り調べ映像であり,画面には一切写らない主人公(プレイヤー)が,情報公開法に基づいて見ているものであることが明らかになる。プレイヤーの目的は事件の真相にたどり着くことだが,実はそれさえも明確にゲームの目的として組み込まれているわけではない。
何せ一般的な推理ADVなどでよくある「証拠の検証」や「証言の答え合わせ」などが,本作には一切ないからだ。なので当然,自分でメモを取るなどして情報をまとめておかないと,事件の経過や関係者の詳細すら理解が難しくなる。おまけに証言している女性が常に真実を語っているとは限らない点も,プレイヤーを惑わせる要因の一つとなっている。
この“プレイヤー任せ”なところは徹底されており,本作はいちおうのゲームクリアこそあるものの,犯人の名前をどこかに入力して正解を得る機会すらない。プレイヤーが見ているのは過去の“終わった事件”の映像であり,真実にたどり着いたからといって,過去が変わるわけではないからだ。一応は用意されているエンディングも,プレイヤーが望んだ時点で区切りをつけるためのものであり,真実まで(プレイヤーが)たどり着いたかどうかには一切関係なく見ることができる。もちろん逆に,すべての動画を見るまでやり込むことも可能だ。
個人的に本作で一番面白かったのは,新しい動画を見つけるたびにおぼろげだった全体の構図がどんどんハッキリしてきて,手元のメモの内容がどんどん充実していく瞬間だ。彼女が発する言葉を頼りに動画を探していくのが正攻法だが,検索するワード自体は自由なので,“自分で推測したヒントが眠っていそうな言葉”から事実に迫ることもできる。
もちろんこういった推測は外れることも多いが,そうしてまた一歩確信に迫るような動画を見つけられたときは,自分の推察力を褒めたくなる。
ローカライズに関しては音声(会話)こそ英語であるものの,すべてきっちりと日本語字幕が振られており,ワードも日本語でちゃんと検索できるので,アドベンチャーゲームや推理ものが好きな人は安心して,ぜひ本作を体験してみてほしい。
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