インタビュー
日本語版のリリースも決定した,チーム対戦型FPS「Overwatch」のゲームデザイナーにインタビュー
スクウェア・エニックスからPS4向けの日本語版リリースも決定した本作だが,現時点では,北米と一部ヨーロッパ圏でクローズドβテストが行われているという段階にも関わらず,会場では多くのファン達がTracer(トレーサー)やHanzo(ハンゾー),さらにはWinston(ウィンストン)のコスプレを披露しており,参加者にもっとも注目されていたタイトルといっても過言ではない。
今回インタビューのお相手をしていただいたKaplan氏は,2002年にBlizzard Entertainmentに入社して以降,「Warcraft III」や「World of Warcraft」シリーズに関わってきた人物であり,元々は「EverQuest」の人気クランの幹部でもあった。高校生だった17歳の頃に,日本の三重県に留学していた経験を持ち,その時にホストブラザーと一緒にファミコンで遊んでいたのが,彼がゲームに関わるようになったルーツであるという。
そんなKaplan氏は,2009年に「World of Warcraft」チームを離れて,同社の新作MMORPGとして知られた「Project Titan」に中心的な開発メンバーとして関わることになるが,2013年にはそのプロジェクト自体もキャンセルされている。Kaplan氏は,それ以降「Overwatch」の開発で陣頭指揮を執っているというわけだ。
ゲームの焦点となるのは,個人技ではなくチームを勝たせるためのプレイ
―― 本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが,「Overwatch」はBlizzard Entertainmentでは初めてのFPSにも関わらず,すでに多くのファン層を獲得しているようです。その理由はどうお考えでしょうか。
本作に登場する21体のヒーローキャラクターは,外見や背景などに多様性を持たせているので,誰がプレイしても好きなヒーローを見つけやすい形になっています。
Symmetra(シメトラ)の美女っぷりに魅了されたり,Reinhardt(ラインハルト)の力強さに憧れたりと,キャラクターに感情移入しやすいのが「Overwatch」の特徴であると言えます。
――キャラクターベースのチーム対戦型FPSは最近増えていますが,どのように差別化を図っているのか教えてください。
Kaplan氏:
「Overwatch」で焦点を当てているのは,いかにしてチームの勝利に貢献できたかという部分です。そのため,本作ではチーム対戦であることを意識させるために,試合中にスコアボードの確認ができません。これは,試合中に個々のスコアが見えると,結局は個人プレイに走るプレイヤーばかりになってしまうからです。
また,Zarya(ザーリア)がタンクとして周囲の敵を惹きつけつつ,Hanzoがを通り抜けるDragonstrikeのアルティメットアビリティを使うといった,キャラクターの個性がチームプレイにつながるようなゲームデザインにもなっています。
――6人対6人というプレイヤー人数は,コンシューマ機を念頭において決定したのでしょうか。
Kaplan氏:
そういうわけではありません。2人対2人から12人対12人まで,さまざまな人数でテストプレイをしましたが,その結果,6人対6人がもっともチームベースのFPSとしての楽しさが感じられると確信したので,このプレイヤー人数になりました。
具体的に言うと,熟練のプレイヤーと初心者のレベル差が突出しないのが12人なのです。また,少ない人数のほうが連携感が高まりますし,マップの隅でのちょっとした小競り合いも体験できます。1対1で戦っているとき,どちらかに1人の助っ人が飛び込んできただけで,その局地的な戦いの勝敗が決まりますし,そうしたチームプレイを意識できる人数が,6人対6人というわけです。
――6人対6人よりも多い,あるいは少ない人数でプレイするモードを発表する予定はありますか?
Kaplan氏:
6人対6人はチームベースとして最善の人数であると確信していますので,現段階でそれを超えたり下回ったりする専用のゲームモードを発表する予定はありません。
――今あるのは2種類のゲームモードですが,このほかにもモードは用意されるのでしょうか。
Kaplan氏:
現時点で発表されているのは,ペイロードと呼ばれる車両を運ぶ「Payload」と,拠点の確保を目指す「Capture Point」の2種類ですが,コミュニティからは常にゲームモードの多様化についてのコメントをいただいています。我々もその期待に応えられるよう取り組んでいますので,ローンチまでに新しいモードが発表される可能性は高いと考えてもらって結構です。
ただ,「Overwatch」はヒーロー達が協力し合って戦うというコンセプトを念頭に置いていますので,相手をキルしてポイントを稼ぐことだけが目的のデスマッチなどを実装する計画は今のところありません。また,「Capture the Flag」のようなゲームモードもテストしましたが,実際には採用しませんでした。理由は,Blinkというアビリティでテレポートを繰り返すTracerが有利になってしまうからです。もちろん,Blinkを使えないような制限をかけることもできますが,それではTracerというキャラクターの良さが生かされなくなって本末転倒ですので,個人プレイばかりになるようなモードはできるだけ排除しています。
――昨年「Overwatch」を発表されたときは,キャラクターが12体でしたが,どのようにして21体まで増えたのでしょうか。
Kaplan氏:
2015年2月にアメリカ東海岸で行ったPAX Eastでは,来場者が実際にプレイアブルデモで遊んでいるのを見て,ほとんどのプレイヤーが,Bastion(バスティオン)やTorbjorn(トルビョーン)のような,固定砲台型のディフェンス系のキャラクターに対して戦いあぐねているように感じました。
そこで,間接攻撃というコンセプトを思い立ち,手りゅう弾を壁や床にはねさせて戦うJunkrat(ジャンクラット)のようなキャラクターを作りました。このように,キャラクター同士のバランスや,コンセプトなどを考えながら増やしているうちに,21体になったわけです。今のところ,この21体でちょうどいいバランスになっています。
――つまり,今回のBlizzCon 2015で発表された3体は,一番最後に作られたキャラクターということでしょうか。
Kaplan氏:
あの3人のキャラクターに関しては,早い段階からコンセプトはありました。例えば,科学者がほしいというコンセプトから生まれたのがMei(メイ)ですし,ロボットを操縦して戦うというコンセプトを長い時間をかけて練り込んだのが,D.Va(ディーバ)というわけです。
Genji(ゲンジ)については,アートディレクターのArnold Tsang(アーノルド・ツァン)が,Hanzoのコンセプトアートの1つとして溜め込んでいたものを,違う形で再現したキャラクターなんですよ。もう少し掘り下げますと,サイボーグニンジャが刀と弓を持っていたのを,弓使いの人間(Hanzo)と,近接タイプのサイボーグ(Gengi)に分けたといった感じです。
それとは逆に,Zenyatta(ゼニヤッタ)は文章だけの企画を,アーノルドが想像して描き上げたものでした。
――Tsang氏は,ニンジャやサムライの絵を描くのが大好きなのだとか。
Kaplan氏:
ええ,「ニンジャのアートを書いてくれ」と言ったら,休みも取らずに一日中書き続けているような男ですね。彼は,Blizzard Entertainmentに来る前は,Red 5 StudiosのMMORPG「Firefall」などに関わっていた経歴があります。ただ,「ストリートファイター」のような格闘ゲームの世界観が大好きで,日本のゲームのアートに大きな影響を受けているようです。
――ひょっとしたら,Tsang氏推しの3人目のニンジャキャラクターの実装もあり得ますか? Hanzo達の一族の関係者とか……。
Kaplan氏:
まあ,可能性としてはあり得るでしょうね(笑)。アーノルドの描くアートはビジョンに溢れており,それが壁に張られているだけでいろいろなアイデアが沸いてきちゃうんです。いつか全部リリースしてやろうと思っているのですけど,彼はニンジャだけでもすごい数のデッサンを仕上げているんですよ。
――Kaplanさんは,長い年数Blizzard Entertainmentに在籍しているベテランですが,同社初となるFPSの開発においては,外部から人材を集めたのでしょうか。
Kaplan氏:
そうですね。ソフトウェア・エンジニアのTim Ford(ティム・フォード)は,TreyarchやDICE LA(Electronic Arts Los Angeles)で長らくFPSの開発に携わってきた人物ですし,彼を始めとして,有能な人材が集まったと思います。
――話しは変わりますが,コンシューマ版での操作性はどうでしょうか。
Kaplan氏:
我々はこれまでPCゲームを中心にゲーム開発をしてきたことから誤解されることもありますが,「Overwatch」は開発当初からPCとコンシューマを念頭に制作が進められ,テストも行っています。
例えば,ホットキーを多用するようなキーボードでのプレイを前提にしてしまうと,コントローラでの操作が複雑になってしまうので,そういった部分をしっかりと意識して開発に取り組んでいるのです。
また幸運なことに,我々の母体である「Activision Blizzard」は,「Call of Duty」シリーズや「Destiny」といった,コンシューマ機で大きく受け入れられているラインナップを抱えており,それを開発するTreyarchやInfinity Ward,それからBungieのメンバー達と意見交換ができるというのも大きいですね。
――この手のゲームでは,特定のキャラクターしか使わないプレイヤーも存在することから,キャラクター単位で販売するというFree-to-Playに近いビジネスモデルを採用することもできたと思いますが。
Kaplan氏:
それに関しては,我々もじっくり考えましたが,何度もお話ししたように,21体のキャラクターが揃って1つのゲームになると考えています。なので,本作では「ヒーロー・スイッチング」という機能をフィーチャーしており,試合中にキャラクターを変えることができるのです。「高台にいるWidowmaker(ウィドウメイカー)をやっつけるためにWinstonで戦おう」といった具合に,状況に合わせて臨機応変にキャラクターを変えて戦うことも,ゲームデザインの中核になっているのです。
――現時点でのβテストでは,最も使用回数の多いキャラクターがPharah(ファラ)とのことですが,その理由はなぜだとお考えでしょうか。
Kaplan氏:
いろいろあると思いますが,彼の直接的な攻撃スタイルが,元々「Team Fortress 2」や「Quake」シリーズなどのFPSに慣れ親しんでいる人に分かりやすいからだと思います。「Overwatch」をFPSの延長線上として捉えるか,銃器を使った一人称視点の格闘ゲームと捉えるかといったところで,その見方も変わってくると思いますが,どのキャラクターにも一長一短があるということは覚えておいてもらいたいです。
――HanzoやD.Vaらは,攻撃時に移動速度が制限されていますが,試合展開の早い本作では少し不利ではないでしょうか。
Kaplan氏:
HanzoとD.Vaは,デフォルト攻撃の威力をほかのキャラクターよりも高く設定してあります。また,HanzoはGenjiと同様に壁をパルクール風によじ登れますし,D.Vaは飛行が可能ですので,そのあたりのハンデは十分にカバーできると思います。
私が見つけた戦法を明かしちゃいますと,Hanzoのアビリティの1つに「Scatter Arrow」というのがあります。あれは,真っすぐ打つとさまざまな方向に飛散するので,遠方の敵は狙い難いのですが,相手が近くにいる場合,足元の床に向かって矢を放つと,バウンドしてほとんどが命中しちゃうんです。その際の威力はかなりのものでして,固定砲台型のディフェンス以外はほとんど一発で仕留めることができるんですよ。
――Meiも少しトリッキーなアビリティが多くて,プレイヤーの好みがかなり別れるキャラクターですよね。
Kaplan氏:
Meiはサポートキャラクターですけど,仲間を「Ice Wall」で高台に上がらせることができますし,「Cryo-Freeze」はD.Vaの自爆やJunkratの手りゅう弾攻撃にも耐えることができます。こういった特殊なアビリティを多く持つ彼女は,チームでもそうとう目立つでしょうし,サポートが好きな人ならば気に入るはずです。
――正式ローンチ後に新しいキャラクターが追加された場合は,DLCとして販売されるのでしょうか。
Kaplan氏:
そのあたりはまだ決まっていません。近いうちに発表したばかりの3体のキャラクターをβ版で公開する予定なのですが,それ以上のキャラクターを追加することで今のバランスを保てるのか,追加した際のマネタイゼーションはどうするのか,といったことをしっかりと見極めていかなければなりませんね。
――英語圏以外でのβテストや,コンシューマ向けのβテストは予定されていますか。
Kaplan氏:
PC向けのグローバル規模でのβテストは予定しています。コンシューマに関しては,PCで得たゲームバランスのデータをそのまま活かせるか分からないので,今のところは予定はありません。
――では最後になりますが,Kaplanさんお気に入りのヒーローは誰ですか。
Kaplan氏:
毎週テストをするごとにお気に入りが変わるので悩んじゃいますね……(笑)。2週間前はZaryaでした。あまり人気のあるキャラクターではないのですが,非常にパワーのある使いやすいキャラクターだと思います。先週はマクリー(McCree)でしたが,ガンスリンガー風のキャラクターだけあって,銃器のコントロールが非常に良く仕上がっているように思います。今週はHanzoですね。Dragonstrikeのアルティメットアビリティで,壁の向こう側にいる複数の敵を倒したとき,その達成感は堪らないものでした。
――日本での発売も決まって,今後の続報も益々楽しみになってきました。本日はありがとうございました。
2016年春のリリースが予定されている「Overwatch」。Blizzard Entertainmentは,ノベルや短編アニメシリーズを制作するなどして,本作を“キャラクターゲーム”としてフランチャイズ化していくという。SF系FPSという,日本では馴染みのないジャンルであるが,ヒットメーカーのBlizzard Entertainmentだけに,しっかりと遊び尽くせるゲームになることは期待できるだろう。
「Overwatch」公式サイト
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(C)2015 BLIZZARD ENTERTAINMENT, INC.
(C)2015 BLIZZARD ENTERTAINMENT, INC.
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