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Access Accepted第439回:クラウドファンディングに見られる陰り
ここ数年,ゲームのセルフパブリッシングという新しい潮流を生み出したクラウドファンディングだが,今年に入ってからは陰りが見られるようだ。こと,アメリカドルで7桁,日本円に換算すると億単位の資金を公募するプロジェクトに失敗例が増えており,最近ではシアトルをベースにしたUber Entertainmentの最新プロジェクト「Human Resources」がKickstarterのキャンペーンをキャンセルした。いったいクラウドファンディングに何が起きているだろうか?
一風変わったストラテジーゲームの船出失敗
この連載を読んでいる皆さんであれば,今さらクラウドファンディングの解説は必要ないと思うが,少しだけお付き合いいただきたい。簡単に説明すると,クリエイターが新製品の企画に対して支援を呼びかけ,多数のバッカー(出資者)から少額投資を幅広く受け取ることにより,これまで大きな権限を握っていたパブリッシャやベンチャーキャピタルに頼る必要がなくなるというものだ。「大きな権限」とは,具体的に言えばゲームの開発現場や内容への口出し,デベロッパが生み出した作品やキャラクター,シリーズ化などの版権であり,パブリッシャなどによる制約が消える代わりに開発費や諸費用を自分達が負担することになる。これをバッカーに肩代わりしてもらう仕組みがクラウドファンディングである。
そうしたゲーム業界の流れの中で,急速に注目を浴びてきたクラウドファンディングだが,ここに来て大きな壁にぶち当たっているようだ。アメリカドルで7桁,日本円に換算すると億単位となる資金を公募する大規模なプロジェクトの失敗例が急増しているのである。最近ではシアトルをベースにしたUber Entertainmentが今月始めにKickstarterで公開した新作RTS「Human Resources」のキャンペーンが早々にキャンセルされてしまった。当初のキャンペーン期間を半分ほど過ぎた時点で,目標額の140万ドルには到底及ばない38万ドル余りしか投資を集められなかったからだ。
「Human Resources」は,ロボットと巨大生物が人間達を資源にしながら勢力を競い合うという斬新なアイデアを掲げたプロジェクトだ。Cavedog Entertainmentで「Total Annihilation」,そしてGas Powered Gamesでは「Supreme Commander」といったストラテジーゲームを手がけてきたメンバーで構成されるUber Entertainmentは,クラウドファンディングの波に乗って台頭したデベロッパの1つでもあり,2012年9月にはKickstarterで「Planetary Annihilation」のキャンペーンを開始し,目標額(90万ドル)を大きく上回る223万ドル余りの資金を集めて大きな話題となった。
2014年に入り,Kickstarterに起きた異変
「Human Resources」の場合,初日こそ12万ドルを超える投資を集めて好調な出足を見せたが,2日めは6万ドルを下回り,その後は1日平均で1万ドルにも達しないような状況が続いた。14日めに追加のデジタルアイテムなどを発表したことで少しだけ盛り返したものの,目標額に達する可能性は絶望的だったのである。
もっとも「Human Resources」の失敗は,Kickstarterのトレンドだけが理由とは言い難い。Uber Entertainmentの前作「Planetary Annihilation」は2013年8月にαテスト版のアーリーアクセスを開始したものの,当初予定されていた正式ローンチ(同年12月)までに完成が間に合わず,2014年9月5日になってようやくファイナル版が公開されている。テスト期間が長すぎたせいか,ファイナル版がリリースされたときにはすでに飽きられていたようで,盛り上がりを欠いたローンチになってしまった。
ゲームメディアのレビュースコアは,メタクリティックで62点という平凡な評価に留まっており,Kickstarterのコメント欄でも「次の作品の資金を集める前に,『Planetary Annihilation』をまともにしてほしい」といった意見が少なくない。Uber Entertainmentは,自らの未熟な品質管理と見通しの甘さから,200万ドルを超える投資をしてくれたファン達を繋ぎ止めることに失敗したとも言えるだろう。
クラウドファンディングは,プロジェクト完成後の製品代金を前払いという形で事前に集めているという見方ができる。そのため,“自転車操業”に陥る可能性も秘めている。完成した作品がバッカーの期待どおり,もしくはそれ以上に魅力的なものでなければ,利益を上げることもままならないわけだ。
そして,たった1回のプロジェクトでもバッカーを失望させることがあれば,その次のチャンスを得るのは極めて困難になる。Uber Entertainmentも「『Human Resources』のコンセプトは残るかもしれないが,このままの企画であり続けることはない」としており,同作のプロジェクトは中止に追い込まれている模様。たいへん面白そうな構想の作品であるだけに,Uber Entertainmentの再起に期待するとともに,これからのクラウドファンディングの動向にも注視したい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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(C)2014 Uber Entertainment