レビュー
MSIの新しい「LIGHTNING」グラフィックスカードは誰のためのものか
MSI GTX 980Ti LIGHTNING
2015年11月現在,GTX 980 Ti搭載カードは,ブランドにさえこだわらなければ税込9万円くらいから購入できる。その状況にあって,GTX 980Ti LIGHTNINGの実勢価格は11万1000〜11万7000円程度(※2015年11月12日現在)と,最安値比で軽く2割以上高価なわけだが,果たしてLIGHTNINGの最新モデルにそれだけの価値はあるのだろうか,テストを通じ,その実力と使い勝手に迫ってみたい。
動作クロックはリファレンスより20%以上高く,さらなる高みを目指すための機能もあり
GTX 980 Ti GPU |
カード全景 |
過去のLIGHTNING製品と同様に,GTX 980Ti LIGHTNINGもメーカーレベルで動作クロックが大きく引き上げられたクロックアップモデルとなっている。具体的には,ベースクロックが1000MHzから1203MHzへ約20%,ブーストクロックがは1075MHzから1304MHzへ約21%。後述するテスト環境で,GPUコアクロックは1404MHzまで上昇したことも付記しておきたい。
なお,組み合わせられるGDDR5メモリも,リファレンスの7008MHz相当(実クロック1752MHz)からGTX 980Ti LIGHTNINGでは7096MHz(実クロック1774MH)相当へと,約1%ではあるものの,クロックが引き上げられていた。
その外観は,端的に述べて非常に大きい。GTX 980 Tiのリファレンスデザインだと,カード長が実測約268mm(※突起部除く)で,クーラーは2スロット仕様なのに対し,GTX 980Ti LIGHTNINGは,基板の時点で長さは同290mm。3スロット仕様の大型クーラーを搭載した全長は同330mmと,堂々の(?)30cm超えだ。
基板部にあるDIPスイッチで,標準と液体窒素冷却用のVBIOSを切り替えられる |
クーラー部は,黄色で「OC」(Over Clockの略)と縁取られたデザインとなる |
GPUクーラーの取り外しは自己責任であり,取り外した時点でメーカー保証は受けられなくなる。にも関わらず,製品ボックスに液体窒素冷却用のヒートシンク基板が付属しているというあたりは,GTX 980Ti LIGHTNINGという製品の立ち位置を明確に表している――ゲーマー向けというよりも,GPUオーバークロック競技者向け――といえるのではなかろうか。
ファンは,GPU負荷が低くなり,発熱も下がったときには回転が停止するという,最近のトレンド的な機能にも対応していた。
見るからに豪奢な基板とクーラー
まずはGPUクーラーからだが,ニッケル製のGPU枕を貫くような形で,8mm径が3本と6mm径が2本で,計5本のヒートパイプが放熱フィンに伸びるような構造になっているのが分かる。さらに基板は,メモリチップや電源部を覆うヒートシンク兼補強板がほぼ全体を覆うような格好になっている。
なお,メモリチップはSK Hynix製「H5GQ4H24MFR-R2C」(7.0Gbps品)だった。先述のリファレンス比で約1%高いクロックは,メーカーレベルのオーバークロックによって実現されていることになる。
カード定格以上のOCはLN2モード前提か。空冷でのオーバークロックではあまり上がらず
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション17.0準拠。ただし,時間的都合により,「Crysis 3」と「GRID Autosport」のテストは省略している。
解像度は,GTX 980Ti LIGHTNINGの立ち位置を踏まえ,2560
なお,テストにあたって,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。これは,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除するためだ。
さて,結論から言うと,GTX 980Ti LIGHTNINGのGPUコアクロックは,カードの定格比で50MHz高い,1253MHzまでしか上がらなかった。このときのブースト最大クロックは1454MHz。これ以上の設定を行うと,ゲームアプリケーションが異常終了したり,システムがフリーズしたりしたので,ここが限界ということになるだろう。
では,Afterburnerからコア電圧を高めたり,電力制限を緩めたりするとどうなるか。試しに前者を+50mV,後者を122%(※いずれもAfterburnerの上限)に設定したが,すると,+50MHzでもアプリケーションが異常終了するようになってしまった。
おそらく,適切な値を詰めていけば,もう少し高い設定も不可能ではないと思われるが,少なくとも空冷での伸びしろはあまりないという理解でいいのではなかろうか。
また,Afterburnerからメモリクロックを変更できなかったことも指摘しておきたい。先のGaming Appも含め,周辺アプリケーション側の対応が十全でない点は,早急になんとかしてほしいところである。
※注意
AfterburnerなどのGPUカスタマイズツールを用いたオーバークロック設定はメーカー保証外の行為です。最悪の場合,グラフィックスカードをはじめとする構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
GTX 980 Ti比でおおむね15%程度スコアが高いGTX 980Ti LIGHTNING
以下,オーバークロックで安定動作した状態を「GTX 980Ti LIGHTNING@1253MHz」と表記し,この状態のスコアも示すことを断りつつ,テスト結果を見ていきたい。
グラフ1は「3DMark」(Version 1.5.915)の総合スコアをまとめたものだ。GTX 980Ti LIGHTNINGはGTX 980 Ti比で12〜15%程度高いスコアを示し,GTX TITAN Xよりも6〜9%程度高いところにいる。リファレンスクロック比で20%高いベースクロックに設定され,それを大型クーラーで冷却できるという,GTX 980Ti LIGHTNINGのメリットが出ているといえそうだ。
GTX 980Ti LIGHTNING@1253MHzにおけるオーバークロックの効果は,GTX 980Ti LIGHTNING比でプラス約2%。これを意味があると見るかどうかは人それぞれだと思うが,体感できるような違いでないのは確かである。
続いてグラフ2,3は「Far Cry 4」の結果となる。
Far Cry 4でも,GTX 980Ti LIGHTNINGのスコアは,比較対象と比べて明らかに高い。GTX 980Ti LIGHTNINGのスコアは対GTX 980 Tiで112〜119%程度,対GTX TITANで109〜114%程度と,いずれも3DMarkよりギャップが広がっている。とくに4K解像度における対GTX 980 Tiのスコアは,ベースクロックの違いをほぼそのまま反映したような格好であり,興味深い。
その傾向はテスト結果をグラフ4,5にまとめた「EVOLVE」でも同様だ。GTX 980Ti LIGHTNINGは,GTX 980 Tiと比べて13〜23%程度高いスコアを示している。GTX TITAN Xとのスコア差も8〜9%程度と,Far Cry 4ほどではないにせよ,十分に大きい。
「Dragon Age: Inquisition」(以下,Inquisition)の結果がグラフ6,7となるが,ここでGTX 980Ti LIGHTNINGとGTX 980 Tiのスコア差は12〜14%程度。3DMarkに近い結果となった。Inquisitionのような描画負荷が高いタイトルでは,最後はメモリ性能勝負となりがちなだけに,メモリクロックが近しい両製品では,GPUコアクロックほどのスコア差にはなりにくいということなのだろう。
グラフ8,9は「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)の結果だが,今回取り上げているGPUにとっては描画負荷が低すぎることもあって,相対的なCPUボトルネックが生じ,スコアが全体的に丸まり気味だ。少なくとも「標準品質」のスコアはほぼそんな感じなので,今回は「最高品質」のスコアを見ていきたいと思うが,すると,GTX 980Ti LIGHTNINGはGTX 980 Ti比で16〜17%程度,スコアが高い。
さすがに,3840
消費電力は妥当。クーラーの冷却性能・静音性はともに優秀だが,コイル鳴きが気になる
さて,GTX 980Ti LIGHTNINGはクロックアップモデルあることに加えて,補助電源コネクタが3基も用意されており,消費電力の高さが懸念されるが,実際はどうか。ログの取得が可能な「Watts up? PRO」を用いてシステム全体の消費電力を測定,比較してみたい。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ10のとおり。アイドル時におけるGTX 980Ti LIGHTNINGのスコアは66Wと,GTX 980 Ti比で若干高いが,これはカードの豪華な仕様を考えると致し方ないところだろう。
一方のアプリケーション実行時だと,GTX 980Ti LIGHTNINGはGTX 980 Tiと比べて20〜44W高かった。ただ,クロックアップによる性能向上率を考えると,消費電力増大率が5〜12%で済んでいるというのは,そう悪くもない。
TriFrozrの冷却性能も確認しておきたい。ここでは3DMarkの30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともどもAfterburnerからGPU温度を取得することにした。なお,テスト時の室温は24℃。システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラックの状態に置いてある。
カードごとに温度センサーの位置やファン回転数の制御方法は異なるうえ,前述のとおり,GTX 980Ti LIGHTNINGの場合はアイドル時のファン回転が停止する仕様なので,横並びの比較にはまったく意味がないが,それでも,高負荷時の温度が70℃以下というのは,立派と言っていいように思う。大型クーラーはきっちり仕事をしているわけだ。
最後は,気になる動作音について。
今回は,マイクをカードと正対する形で30cm離した地点に置き,PCをアイドル状態で1分間放置した状態から,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチを最高品質の1920×1080ドットで4分間実行した,計5分間を録音し,サウンドファイルとして下に置いてみた。
聞いてみてもらうと分かるが,再生開始後1分は,グラフィックスカード側のファン回転が止まっているため,それ以外の動作音のみだ。ベンチマークの開始後20秒くらい(≒再生開始後1分20秒前後)からファンの回転が始まり,その音が次第に大きくなっていくが,その音量は比較的小さく,このクラスの製品としては,静音性がかなり高い。伊達に3スロット仕様で300mm超級サイズのクーラーは搭載していないということだろう。
※再生できない場合は,Waveファイルをダウンロードのうえ,手元のメディアプレイヤーで再生してみてください。
気になったのは,Far Cry 4の起動後,メニュー画面が表示されるまでの間に,コイル鳴きが聞こえたこと。ゲームをプレイし始めるとコイル鳴きは止んだのだが,描画負荷の状況によってはコイル鳴きが発生するというのは,懸念点だと言わざるを得まい。
もっとも,Far Cry 4以外のタイトルでコイル鳴きは発生しておらず,実際,上で掲載したサウンドファイルにおいてもコイル鳴きは確認できない。
ゲーマー向けではなくオーバークロッカー向け
オンリーワンな仕様を魅力だと感じるならアリ
ただ,本稿の序盤でも指摘したとおり,GTX 980Ti LIGHTNINGで充実しているのは,ゲーマー向け機能ではなく,LN2モードをはじめとしたオーバークロック関連の仕様のほうだ。LEDイルミネーションも満足に制御できない状態が(少なくとも国内発売のタイミングで)放置される一方,標準で液体窒素冷却専用のヒートシンクが付属するあたり,MSIが誰をターゲットにしているかは明らかと言っていいのではなかろうか。言い換えると,液体窒素冷却などを大前提に,オーバークロック競技で使えるグラフィックスカードを探しているという人こそ,購入を検討すべき製品であり,そういう用途においては,大いに魅力的な製品ということになるのではなかろうか。
一方,ゲームメディアとしての立場だけで語らせてもらうのであれば,「液体窒素冷却用の追加要素」という,明らかにゲーム用途で不要な部分のコストを負担することへの抵抗があるかどうかが重要なポイントになる。得られる性能と静かさを,余分な要素が載った実勢価格と天秤にかけて,割高すぎはしないと判断したのであれば,購入して後悔することはないとまとめておきたい。
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