レビュー
手のひらサイズで“GTX 760”搭載のゲーマー向けベアボーンを試す
GIGABYTE BRIX Gaming(GB-BXi5G-760)
当初は7月末から8月頃の発売予定とされていたGB-BXi5G-760。4Gamerでは,今度こそ発売が近いというその製品版サンプルをGIGABYTEの日本法人である日本ギガバイトから入手できたので,どの程度の性能を期待できるのか,そして発熱はどの程度かを,米田 聡氏の協力も得つつ,チェックしてみたいと思う。
小柄ながら充実したインタフェースを持つGB-BXi5G-760
組み合わされるCPUは2コア4スレッド対応の「Core i5-4200H/2.8GHz」(以下,i5-4200H)。定格2.8GHz,最大3.4GHz駆動で,共有L3キャッシュ容量が3MB,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が47Wという,ノートPC向けモデルである。
19.5V 9.23Aで180W仕様のACアダプターが付属する |
100×100mm仕様のVESAマウントキットも付属していた |
ちなみに,PCとして機能させるには,PC3L-12800/10600 DDR3 SDRAM SO-DIMMと2.5インチストレージもしくはmSATAストレージが別途必要だが,2枚のSO-DIMMと2.5インチHDDを取り付けた状態だと,重量は実測約950gだった。
本体前面 |
本体背面 |
背面にははHDMI Mini(Type C)×2,Mini DisplayPort×1と,USB 3.0×2,1000BASE-T LAN×1が並ぶ。ディスプレイ出力は3系統の同時利用が可能だ。また,それとは別に,標準でIEEE 802.11a/g/n/acとBluetooth 4.0対応のmini PCI Expressカードが搭載されているため,無線LAN接続やBluetooth接続も利用できる。
両側面は吸排気孔で,とくに正面向かって右側は排気が行われるため,利用時にはここのスペースを広く取る必要がある点に注意したい。
「低クロック版GTX 760」の正体はGTX 870Mか
前述のとおり,GB-BXi5G-760はSO-DIMMと2.5インチ型ストレージもしくはmSATA接続のストレージを搭載することでPCとして機能するようになるわけだが,これらのスロットやベイには,本体底面のネジ4本を外すだけでアクセス可能だ。自作PCのスキルが多少なりともあれば,GB-BXi5G-760のセットアップに難儀することはないと思われる。ノートPC向けHaswellの仕様により,SO-DIMMが低電圧版のみのサポートになるというのが,注意すべきポイントといったところだろうか。
いずれのヒートシンクもパッシブ仕様。筐体正面向かって右側面の内側に搭載する50mm角のファン2基で吸気し,本体正面向かって左側面までのエアフローによって冷却する格好になっていた。
CPUとチップセット,I/Oインタフェースが載った基板では,CPUとチップセットの熱をヒートパイプ付きヒートシンクが受ける |
“グラフィックスカード”側を筐体から取り出したところ。グラフィックスメモリの一部に熱伝導シートが貼られていた |
というわけで気になる“グラフィックスカード”側だが,搭載される「低クロック版GTX 760」の刻印は「NT15E-GT-A2」だった。これは「GeForce GTX 870M」(以下,GTX 870M)と同じものだ。
デスクトップPC向けGTX 760のそれとは似ても似つかないので,この点は要注意といえそうだ。
なお,GB-BXi5G-760ではこのチップを基板両面に6枚ずつ,計12枚のメモリチップを実装し,グラフィックスメモリ容量6GBを実現している。
今回はGTX 750 TiおよびGTX 750搭載の
デスクトップPCと比較
テスト環境の構築に入ろう。
今回,GB-BXi5G-760には容量4GBのPC3L-12800 DDR3 SDRAM SO-DIMMを2枚と,2.5インチHDDを装着した。結果,主役のシステムは表2のとおりとなった次第だ。
比較対象機としては,実効性能が近くなるであろうデスクトップPCを用意した。具体的には,2コア4スレッド対応で定格動作クロック3.5GHz,共有L3キャッシュ容量3MBのCPU「Core i3-4150」と,「GeForce GTX 750 Ti」(以下,GTX 750 Ti)あるいは「GeForce GTX 750」(以下,GTX 750)を組み合わせたものだ。
なお,GTX 750搭載カードとして利用したGIGABYTE製カード「GV-N75OC-1GI」は,メーカーレベルで動作クロックを引き上げたクロックアップ品であるため,今回はGIGABYTEのオーバークロックツール「OC Guru II」によりリファレンスレベルにまで下げて使用している。
そのほか比較対象機のテスト環境は表3のとおり。テストに用いたグラフィックスドライバ「GeForce 340.52 Driver」は,テスト開始時点の最新版だ。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション15.2準拠。解像度は1920×1080ドットと,アスペクト比16:9でその1つ下となる1600×900ドットを選択した。
なお,4Gamerのグラフィックスカードレビューだと,CPUの自動クロックアップ機能である「Intel Turbo Boost Technology」を無効化することが多いが,今回はシステムの評価ということもあり,GB-BXi5G-760において本機能は有効のままテストを実施している。
低クロック版GTX 760の持つポテンシャルは低くない
筐体の小ささが最大のボトルネック要因か
以下,本文,グラフ中とも,テスト対象のデスクトップPCを「i3-4150+GTX 750 Ti」および「i3-4150+GTX 750」と呼ぶことをお断りしつつ,テスト結果を見ていこう。
グラフ1は「3DMark」(Version 1.3.708)の総合スコアをまとめたものだ。GB-BXi5G-760はi3-4150+GTX 750 Ti比で3〜5%程度,i3-4150+GTX 750比で18〜55%程度高いスコアを示した。i3-4150+GTX 750が「Fire Strike」の「Extreme」プリセットでスコアを大きく落とすのは,グラフィックスメモリ容量が1GBに留まるためだが,それを差し引いても,比較対象に対して優勢に立ち回っているといえる。
そんな3DMarkで,Fire Strikeにおける「Graphics Score」と「Physices Score」の結果を抜き出したものがグラフ2となる。ここで注目したいのは,CPU性能を見るPhysics Scoreで,GB-BXi5G-760のスコアが比較対象比で9割程度に留まっていることだ。つまり,i5-4200HのCPUコア性能は,i3-4150比でその程度,というわけである。
Graphics Scoreで,GPUコア自体が持つポテンシャルを比較すると,GB-BXi5G-760はGTX 750 Tiより約9%高いということになるが,3DMarkはグラフィックスメモリ周りのスペックがスコアを左右しやすいので,192bitメモリインタフェースでメモリクロック5000MHz相当のGB-BXi5G-760が,128bitメモリインタフェースでメモリクロック5400MHz相当のGTX 750 Tiを順当に上回ったということになるだろう。
続いてグラフ3,4は「Battlefield 4」(以下,BF4)の結果だが,これは非常に興味深いものとなった。相対的に最も負荷の低い「標準設定」の1600×900ドットと1920×1080ドットでGB-BXi5G-760のスコアはほぼ変わらず,また,メモリ周りの負荷が増す「高負荷設定」でi3-4150+GTX 750 Tiにスコアを縮められているからだ。
一見,非常に不可解なスコアだといえるが,「筐体が小さいことによってCPUやGPUの動作クロックブーストが効かなかった」と考えると,おおむね納得できそうである。標準設定の1600×900ドットではCPUクロックが上がりきらず,メモリ負荷の増した高負荷設定ではその影響でGPUクロックが上がりきらずに,こういう結果を生んだのではなかろうか。このあたりは後段で確認したい。
BF3以上に負荷の高いゲームタイトル「Crysis 3」の結果は,BF4の結果をさらに先鋭化したものになったといえそうだ(グラフ5,6)。高い負荷によってCPUとGPUの温度が上昇したGB-BXi5G-760は,標準設定の1600×900ドットでi3-4150+GTX 750にすら若干ながら置いていかれてしまう。
なら,負荷の低いタイトルはどうかということで,グラフ7,8は「BioShock Infinite」のスコアだが,ここでもGB-BXi5G-760のスコアは芳しくない。“温度キャップ”によって,動作クロックが期待どおりに上がっていない可能性を強く感じる結果だ。
その傾向は,グラフ9,10の「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)でも変わらない。
Skyrimでは,公式の高解像度テクスチャパックを導入することで,メモリ負荷を大きく高めてある。なので,グラフィックス描画負荷が高くなればなるほど,グラフィックスメモリ周りのスペックで上回るGB-BXi5G-760が比較対象を上回って然るべきなのだが,結果はご覧のとおりで,対i3-4150+GTX 750でも93〜98%程度という結果に留まった。
グラフ11,12は「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」(以下,新生FFXIVベンチ キャラ編)のテスト結果だが,ここでも全体の傾向は同じである。
そんななか幸いなのは,「最高品質」の1600×900ドットで,スクウェア・エニックスが示しているベンチマーク指標の最上位である「非常に快適」のラインであるスコア7000を大きく上回り,また,1920×1080ドットでも上から2番めの指標となる「かなり快適」のラインを確保できていることだろうか。
ここまで来ると結果が読めるだろうが,「GRID 2」の結果も,ここまでと変わらなかった(グラフ13,14)。描画負荷が低ければ低いほど,ブーストの効果が出やすくなるだけに,温度の問題でブーストがあまり有効に機能しないGB-BXi5G-760のボトルネックが顕著になる印象だ。対i3-4150+GTX 750 Tiでは78〜85%程度,対i3-4150+GTX 750でも90〜99%程度というスコアになっている。
消費電力は145〜156W程度でまとまるGB-BXi5G-760
動作音には相応の覚悟が必要
GB-BXi5G-760の消費電力を確認しておこう。今回もいつもどおり,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較することにした。テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ15で,ノートPC向けCPUとGPUを採用することもあり,アイドル時におけるGB-BXi5G-760の温度は低い。一方,アプリケーション実行時はi3-4150+GTX 750 Tiやi3-4150+GTX 750より高いが,GPUアーキテクチャがKeplerかMaxwellかという違いもあるので,ここはこんなものだろう。
なお,アプリケーション実行時におけるGB-BXi5G-760の動作音は,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,かなり大きい。小口径のファンを2基を高回転で回す以上,動作音が大きくなるのはいたし方ないかもしれないが,GB-BXi5G-760でゲームをプレイするときは,ヘッドフォンやヘッドセットを装着すべきだと思う。
米田 聡氏がサーモグラフで
GB-BXi5G-760の表面温度をチェック
本稿の冒頭でお断りしてあるように,本段落では,宮崎氏からバトンを受け,チノー製サーモグラフ「TP-U0260ET」で,GB-BXi5G-760の表面温度を計測してみたい。
テストにあたっては,GRID 2のベンチマークモードでループ実行を有効化。そのうえで,ベンチマークモードを約90分間連続実行したときのサーモグラム(≒温度分布画像)を見てみようと思う。
TP-U0260ETの仕様上,サーモグラムは左右が反転しているため,サムネイルでは左右をあえて反転させ,画像の向かって左側がGB-BXi5G-760の正面向かって左側を示すようにしてある点を断りつつ話を進めるが,今回は,室温26℃の室内で机上にGB-BXi5G-760を置き,「椅子に座った成人男性の目線」とほぼ同じところにTP-U0260Eのセンサーレンズを置いて計測することにした。その結果が下の画像だ。
最も熱いホットスポットは筐体右奥の上面で,その温度は43℃と意外に低い。ゲームの実行直後は50℃台まで上がるが,そうなるとファンの回転数が上がるとともに温度が下がり,最終的に40℃強で落ち着くという流れである。今回はスケジュールの都合で動作クロックの推移を追えていないが,おそらくはファンの回転数が上がるとともに,ブーストクロックなどの調整も行われているのだろう。
本稿の序盤で,本体向かって右側面に排気孔があるという話が出ているが,その温度はどうだろうか。本体を90度回転させ,右側面が手前を向くようにしたうえで,同じように計測した結果が下の画像だ。
ご覧のとおり,右側面の最大温度は52℃と,数分触れているだけで低温やけどの危険があるレベルである。デスクトップPCなので,触れる必要はないが,いずれにせよ,本体向かって左側面の吸気孔,そしてホットスポットとなっている右側面の排気孔を塞がないというのが,GB-BXi5G-760を使ううえで最大限に注意すべき点ということになるだろう。
まさにこのときのCPUとGPUの温度をCPUID製のハードウェアチェックツール「HWMonitor」(Version 1.25)から確認してみたので,そのスクリーンショットも下のとおり掲載しておきたい。
HWMonitorのウインドウには「TZ01」「TZ02」「TMPIN0」「TMPIN1」「TMPIN2」という項目があるが,TZxxというのは何らかのコンポーネント温度,後者はSMBus(System Management Bus)上にある温度センサーの値で,これらはコンポーネントや係数が分からない限り正しく表示できない。この5項目には明らかにおかしい値が表示されているので,当てにならないと思っていい。
一方,「CPU0」は,CPUのサーマルダイオードの値で,最大91℃,スクリーンショットを撮った時点では76℃ということが分かるが,これはほぼ信用できる。90℃台まで上がったところで,ファン回転数とクロックが調整され,最終的に70℃台でまとまっているのだと思われる。
GPUのほうは最大94℃で,スクリーンショット取得時に84℃。GPUはかなりの高温でも動作するよう設計されているので,壊れる心配はないだろうが,こちらもやはりファン回転数と動作クロックが調整されている気配を感じ取れる。
アイドル時はどうだろうか。GRID 2の終了後,アイドル状態で約30分で放置したときのサーモグラムが下の画像だ。無用な誤解を避けるため,温度スケールを変えていないので,サーモグラムでは本体の存在を確認できなくなっている。筐体の最大温度も28.4℃と,室温に対してプラス2℃強。アイドル時の温度はほぼ問題にならないということが分かると思う。
GPUとCPUの最大ポテンシャルを発揮できないのは残念だが,それでもこのサイズと性能は魅力的
ただ,それらを割り引いても,“サイズ対性能比”は非常に高い。GTX 750〜GTX 750 Ti程度の3D性能は期待できるので,グラフィックス設定さえ適切に行えば,たいていの3Dゲームを満足にプレイできるというのは,非常に魅力的である。
日本ギガバイトによると,GB-BXi5G-760は9月下旬以降,税別のメーカー想定売価10万円前後で国内発売になる予定とのこと。とにかくこのサイズに惹かれたということであれば,選択肢として考慮に値しよう。
GIGABYTEのGB-BXi5G-760製品情報ページ
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