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[GDC 2017]「TrueAudio Next」のないゲームサウンドは,テクスチャのない3Dグラフィックスのようなもの!? AMDが採用を呼びかける
「TrueAudio Next」は,2016年8月にAMDが発表した新しい音響処理技術だが,TrueAudio Nextの概要と,ゲームにおける活用がセッションでは語られたので,その内容をまとめてみたいと思う。
「TrueAudio Nextは,高度化するゲームサウンドの制作に必要になる」
そもそも「TrueAudio」は,サウンド処理用のDSP(Digital Signal Processor,ここでは「サウンドチップ」的なもの)を統合する一部のRadeonで利用できる「コンボルーションリバーブ」機能的なものだった。コンボルーションリバーブの詳細はTrueAudioのテストレポートを参照してもらえればと思うが,乱暴にまとめるなら,実在する場所で実際に音響を測定し,その測定データを基に,「実在する場所」の残響をシミュレートし,サウンドにリアリティを付与する機能である。
ではTrueAudio Nextはというと,Polarisマクロアーキテクチャ以降のRadeonから,AMD製のGPU用レイトレーシングソフトウェア技術「Radeon Rays」を利用することで,最大32ステレオ(=64ch),2秒以上のコンボルーションリバーブを適用できる機能だと,AMDは定義している。
だが,最近のタイトルのゲームサウンドの作り方は大きく変わっており,ゲームのシーン状況に応じて音をダイナミックに生成するようになっているとMironov氏は言う。プレイヤーキャラクターがいる環境に応じて,「その位置ならこう聞こえるだろう」という音を計算により生成する,音の物理モデリング(Acoustics-based Modeling)も使われるようになったとのことだ。
このような手法は,VR(Virtual Reality,仮想現実)コンテンツにおいてとくに重要になるとMironov氏は言う。VR空間の中にいるかのような感覚を得るためには,よりリアルな音が必要だからだ。
問題は,このようなサウンド処理にはプロセッサパワーが必要になる。「そこでTrueAudio Nextだ」というのがMironov氏の,というよりAMDの主張である。
Mironov氏によると,TrueAudio Nextではサウンド専用のキューと演算ユニットをGPUに割り当て,リアルタイムでの処理を行えるようになっているという。OpenCLベースなので,OpenCLアプリケーションとも相性がいいとのことだ。AMDは,ゲームプログラマーがTrueAudio Nextを簡単に活用できるよう,ヘッダファイルとライブラリを同社のGPUOpenから頒布中であることも,氏はアピールしていた。
対応プラットフォームがAMD製GPU限定となるため,どうしても開発サイドとしては採用しづらくなるが,高度化するゲームサウンドの負荷を軽減する技術として注目はできるだろう。
Compute Unitでサウンドを処理するTrueAudio Next
では,TrueAudio Nextを利用するメリットはどこにあるのかだが,TrueAudio Nextの「最大32ステレオ(=64ch),2秒以上のコンボルーションリバーブ」は,「4基の『Compute Unit』を専用に割り当てるだけで実現できる。CPUだと,1コアでせいぜい8つのストレオストリームを処理するのがやっとだ」(Mironov氏)。
AMDのGPUは複数のタスクを並列実行できるが,Mironov氏がこの点に絡めて,「TrueAudio Nextでは,音響タスクを『リアルタイム優先度』で実行する」と述べていた点は興味深い。Graphics Core Next世代のGPUでは,タスクキューの優先度としてリアルタイムと高,通常という3段階を設定できるようである。
また,TrueAudio Nextにおいて4基のCompute Unitを専用で予約することのメリットとして,遅延が大きな問題になりやすい音をリアルタイム処理できることを,氏は挙げていた。「TrueAudio Nextの処理遅延は極めて低い」とのことだ。
GPUというと,タスクを投げた後は,いつ処理が終わるのか分からないというイメージだが,キューに優先度をつけてリアルタイム処理できる点にはちょっと感心させられた。
セッションではUnityベースのデモがあったが,Mironov氏は「Unreal Engine 4のプラグインも開発中。こちらもGPUOpenで公開する」と述べていたので,興味のある人はGPUOpenをチェックしてみるといいだろう。
GPUOpen公式Webサイト(英語)
4GamerのGDC 2017特集ページ
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