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[CEDEC 2018]FGOにまつわる3つの物語。「ディライトワークス,FGO PROJECTをプロデュースする。〜 Fate/Grand Order 成長の軌跡 2015-2018 〜」レポート
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印刷2018/08/24 14:39

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[CEDEC 2018]FGOにまつわる3つの物語。「ディライトワークス,FGO PROJECTをプロデュースする。〜 Fate/Grand Order 成長の軌跡 2015-2018 〜」レポート

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 パシフィコ横浜で2018年8月22日から24日まで開催されている,ゲーム開発者向けのカンファレンス「CEDEC 2018」。2日目となる8月23日,「Fate/Grand Order」iOS / Android。以下,FGO)に関する講演「ディライトワークス,FGO PROJECTをプロデュースする。〜 Fate/Grand Order 成長の軌跡 2015-2018 〜」が行われた。

 FGO開発秘話と立ち上げ後の苦闘,そしてプレイヤーを夢中にさせるためのマーケティングの“魔法”について,「それは,自らを知る物語。」「それは,自らを取り戻す物語。」「それは,自ら届ける物語。」という3部構成でその“物語”が語られた講演をレポートしよう。

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●「ディライトワークス,FGO PROJECTをプロデュースする。〜 Fate/Grand Order 成長の軌跡 2015-2018 〜」登壇者
  • 庄司顕仁氏(ディライトワークス 代表取締役社長)
  • 塩川洋介氏(ディライトワークス 執行役員 クリエイティブオフィサー FGO PROJECTクリエイティブプロデューサー)
  • 石倉正啓氏(ディライトワークス 執行役員 マーケティング部長)

左から庄司顕仁氏,執行役員 塩川洋介氏,石倉正啓氏
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「それは,自らを知る物語。」

〜100万人に届く,新たな「Fate」を作り上げる〜


 講演の第1部では,庄司氏によってFGOの立ち上げ秘話が語られた。
 FGOを開発するきっかけとなったのは,TYPE-MOONの武内 崇氏が,庄司氏の友人に宛てて書いたメールだ。それは「スマートフォンゲームに詳しい人を紹介して欲しい」というもので,その条件に合致する庄司氏がTYPE-MOONへ赴くことになったという。
 そこで庄司氏が見せられたのは,Fateシリーズを原作としたスマートフォンゲームの企画書。ソーシャルゲームのトレンドは押さえられているものの,「原作者である奈須きのこ氏が多忙のため,ストーリー的な面がほとんどない」という,現在のFGOとはまったく異なるものだったそうだ。

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 このままでもそれなりの人気は出る企画にはなっていると感じた一方,違和感も覚えたという庄司氏は判断を保留。シリーズ各作品の売り上げを調べ,ゲームをプレイし,アニメを観るなどして知識を深めていった結果,「Fateというコンテンツが持つパワーに対し,セールスの規模が足りていないのではないか」という考えに至ったという。


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 一方,原作サイドであるTYPE-MOONの自己評価は「Fateは超ニッチなコア向けであり,コアファンは10万人位だろう」というもので,庄司氏の認識とは大きく食い違っていた。
 これまでのシリーズは10〜20万本のセールスなので,現状認識としては正しいとも言えるのだが,庄司氏は「きっかけがあればFateが生涯の一本になる人はもっと沢山いるのではないか」「もっと沢山の人にFateと出会う機会を提供すべきでは」「Fateという作品を新たなステージへ進めるときでは」と説いたという。
 このとき庄司氏は,スマートフォンゲームの企画のことはすべて忘れ“このままじゃいけないんじゃないか?”という思いをぶつけていたそうだ。

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 ビジネスとしての関係を越えたその熱意にTYPE-MOONも動かされたのか,先の無難な企画を捨て「最も新しく,最も手に取りやすく,しかしながら,最もFateらしい,100万人に届く新たなFateを創る」という目標のもと,新たなスマートフォンゲームを立ち上げることになったという。

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 プロジェクトを進めるにあたり,まずは「Fateらしさとは何か」を定義することがテーマとなった。しかし,キャラクターや世界観,伝奇ものであることや女性キャラクターの魅力などさまざまあり,なかなかその意見が統一されなかったという。
 例えば,ビジュアルノベルの「Fate/stay night」とRPGの「フェイト/エクストラ CCC」は,ジャンルも違えばキャラクターデザイナーも異なるが,どちらも“Fateらしさ”を持っている作品だ。だが,試しにstay night版のキャラクターをカード化しても,Fateらしさが感じられるものにはならなかった。

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 長い議論をかわした末にたどり着いた結論は“Fateらしさとは,奈須きのこである”。シリーズ作品それぞれ異なる形でFateらしさ持っているが,それをつなぎ合わせる鎖は奈須きのこでしかなかったことを再確認したという。ファンや周りの人達からすれば当たり前の結論に見えるが,当の奈須氏を含めて,ここでそれをあらためて認識したというのだから驚きだ。
 庄司氏はこの再確認が「大きなターニングポイントになった」と振り返る。ここから“Fateらしいゲーム”を作るために奈須氏が深く関わるようになり,FGOの原型が生まれたそうだ。

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 こうした体験をとおして庄司氏は,顧客のことを知り,自分自身をきちんと理解することがプロデューサーの仕事においてとても大事であり,「まだ先にある自分の限界を知らずに,『これでいい』と妥協してしまうのはとても勿体ない」と学んだという。こうした体験を老子の「知人者智,自知者明」(人を知る者は智なり,自らを知る者は明なり)という言葉にまとめ,第1部を締めくくった。

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「それは,自らを取り戻す物語。」

〜FGOを再定義する〜


 塩川氏が登壇した第2部では,苦闘が続いた時期にFGOを再定義したエピソードが語られた。塩川氏はFGOのローンチ後にプロジェクトへ参加したが,その頃はトラブルとメンテナンスが続いており,「何が問題であるかは分かるが,どうすればいいのか分からない」状況のなか,「携わる誰もが道を見失いながら,それでも必死にもがいていた」時期だったという。

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 「FGOで何を目指していたか,FGOがどんなゲームかが見失われていた」という状況のなか,塩川氏は5つの項目でFGOを再定義し,自分たちがやるべきことに集中してそれ以外を切り捨てる「捨てるプロデュース」を行ったそうだ。その5項目は以下のとおり。

1. FGOとは“脱・予定調和”な体験を提供し続けるゲームである。
 “脱・予定調和”とは,意外性や話題性といった“事件”を起こすこと。新情報は,誰がいつ,どうやって明かせば盛り上がるかを計算したうえで発表して話題性を提供する。

=予測可能でありきたりな企画・運営を捨てる



2. FGOとは,スマホソシャゲの皮を被った,昔ながらのゲームである。
 ソーシャルゲームの当たり前を見直して開発・運営を行うということ。例えば,開発初期はソーシャルゲーム的な常識に従ってシナリオの分量を決めていた。しかし,ほかのソーシャルゲームに倣うのではなく「FGOでは面白ければどれだけシナリオを書いてもいい」と方向転換した。

=他のスマートフォン用ソーシャルゲームがやっていることは捨てる



3. FGOとは,なによりもFateらしくあることを優先するゲームである。
 この考え方が表れているのが「全員主役」というサーヴァントの扱い。当初はソーシャルゲームらしく,レアリティの高低に応じてコストや開発リソースを振り分けていたが“沢山のサーヴァントは皆が凄いエピソードの持ち主で,全員が主役級。FGOのレアリティはゲームの都合として定めているものである”とFateらしさを再確認し,開発ではレアリティに関わらずコストをかけるようになった。

=Fateらしくないことは捨てる



4. 「FGOとは,自分自身との戦いを楽しむゲームである
 自分自身との戦いを楽しむというFGOの本質を見直し,対人戦や協力コンテンツの計画はすべて撤廃した。

=他のユーザーとの戦いを楽しむ要素は捨てる



5. FGOとは,FGOユーザーのためのゲームである
 例えばコラボでも,FGOユーザーのためのものであることを徹底し,FGOユーザーが喜ぶTYPE-MOON作品を取り上げる。

=今FGOを楽しんでいないユーザーのことは捨てる
(ほかの4項目に合わせて“捨てる”という表現を使っているが,「現在遊んでくれているプレイヤー向けのサービスに集中する」という意味だろう)

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 こうしてFGOを再定義したうえで開発と運営を行った結果,2017年度には2015年と比較して平均MAU(月間アクティブユーザー)は2.3倍,平均売り上げは5.3倍となり,App StoreとGoogle Playを合計した2018年第一四半期の収益において世界1位を達成した。


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 塩川氏は「捨てるプロデュース」について,“自分らしさの再定義×自分らしさを切り捨てる優先度付け×とてつもない勇気”であるとした。
 捨てることは非常に勇気が要る行為だが,何をするかを決めるということは,何をしないかを決めることでもあるとし,「自分たちがやりたいことや,やらなければならないことに基づいて,捨てることを続けてきた2年間だった」と,開発責任者を務めてきた日々を振り返った。

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「それは,自ら届ける物語。」

〜自らイベントを作り,自らが思いを届ける〜


 第3部に登壇した石倉氏は,FGOのマーケティングを魔法になぞらえて説明した。
 2017年からのFGOは,マチ☆アソビやAnimeJapanへの出展,幕張メッセを使った「FGO Fes.」の開催など,さまざまな話題を提供してきた。これについて石倉氏は,「マメニ」「マサカ」「マヂカ」の3つ+大魔法の「マツリ」という4つの“魔法”を使ったというのだ。

魔法1:「マメニ」
 Twitterを使って“まめに”情報を発信し続ける。毎月ゲーム外でさまざまな施策を実施する。

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魔法2:「マサカ」
 マシュに会える「Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト」や,1日限定配信のMRソフト「Fate/Grand Order Gutentag Omen Adios」,幕張メッセの広大な壁面を使ったプロジェクションマッピングなど,ユーザーが“まさか”と感じる新たな驚きを提供する。

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魔法3:「マヂカ」
 石倉氏が「バスター石倉」に扮し,全国を巡ってプレイヤーの“間近”に行き,「バスターシール」を手渡しする。これまでに配ったシールの総数は約7000枚とのこと。

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大魔法:「マツリ」
 幕張メッセを使った大規模な“祭り”である「FGO Fes.」のこと。2018年には過去最高の3万4972人を動員,配信番組の視聴者数は348万人を越え,Twitterでのトレンドが関連ワードで一色になったのに加えてDAU(1日あたりのアクティブユーザー数)も過去最高に達したという。

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 こうしたイベントはすべてディライトワークスが企画したものであり,代理店などは関わっていないという。情報も自ら伝え,自ら企画したイベントを自らが行い,自らプレイヤーに会いに行く。まさに“自ら届ける物語”であるというわけだ。
 石倉氏は,「(FGOにおける)人を動かす魔法とは“マメニ”情報発信して(それを受けることを)日常化すること。ただ,日常になると飽きるので“マサカ”で驚きを。そして“マヂカ”に感じられるユーザーとの縁を作り,“マツリ”で年に一度大きな山を作ること」と,魔法を使ったマーケティングについてまとめた。

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 最後に登壇した塩川氏は「これから新しい局面を迎え,別の人間がプロデュースすることがあるかも知れないが,我々は “ただ純粋に,面白いゲームを作ろう”というディライトワークスの企業理念のもと,プロデュースに携わっていければと思います」と語り,講演を締めくくった。

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