インタビュー
「雷電V」開発者インタビュー。ことぶきつかさ氏がキャラクターデザイナーとして参加した経緯やデザイン論などを,駒澤敏亘社長とことぶき氏に聞いた
「スター・ウォーズ」が取り持つ縁かと思ったら,出会いのキッカケは80年代アニメ!?
4Gamer:
本日はよろしくお願いいたします。ことぶきさんは顔出しはちょっと……ということで,読者の方にはご了承を。
ことぶきつかさ氏(以下,ことぶき氏):
ご配慮ありがとうございます。後頭部から,とかなら全然大丈夫ですので……大丈夫かな。禿げてないですか?(笑)
駒澤敏亘氏(以下,駒澤氏):
あ,だったらコスプレします? ヘルメットかぶるとか。SF映画のかぶり物ならこの部屋(社長室)にいっぱいありますから。
ことぶき氏:
この部屋,いろいろなものがありますよね。実は僕,昔はストームトルーパーなんかのコスプレをやってたんですよ。
駒澤氏:
え? 本当ですか? 僕はいままさにそれをやってますよ。「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」はストームトルーパーのコスプレをして観に行きましたから。
ことぶき氏:
じつは以前501(※)に在籍していたんですよ。忙しくなってしまい,辞めたのですが……。
※「スター・ウォーズ」シリーズに登場する帝国軍キャラクターの世界規模(日本支部もある)のコスチュームプレイ団体「The 501st Legion(第501軍団)」のこと。
駒澤氏:
ええええー!? そうだったんですか? 知りませんでしたよ。僕,あそこにも友だちたくさんいますよ!? あれ……っていうか,もしかして,ことぶきさんって,有名な……!?
以降,「スター・ウォーズ」コスプレ談義が続き,面白い話をたくさん聞くことができたのだが,ここでは断腸の思いで割合する。
4Gamer:
盛り上がっているところで話を戻してしまいますが(笑),お互いに初めて聞く話がそれだけあるっていうことは,「スター・ウォーズ」界隈で知り合ったわけではないのですね?
駒澤氏:
違いますね。出会ったのはアニメ映画「クラッシャージョウ」の上映会でした。1983年に公開された安彦良和監督作品なんですが,これをまた劇場で公開する,しかも原作者の高千穂遙先生,声優の竹村拓さんと佐々木るんさんのトークショー付きでっていうイベントが2015年2月にありました。そのときですよね?
ことぶき氏:
そうですね。僕はアルフィン役の佐々木るんさんにお誘いを受けまして,自分もアニメ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」で安彦さんと深く関わらせていただいていますし,もちろん「クラッシャージョウ」自体が大好きな作品なので,ご挨拶もかねて参加させていただきました。
駒澤氏:
お互い,間ひとり人を挟めば知り合い,みたいな感じだったんですが,ちゃんと名刺交換をさせていただくようなご挨拶をしたのは,このときが初めてでした。もともとことぶきさんのファンでしたし,「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」のキャラデザインを安彦監督と連名でされている方とお会いできたので嬉しかったです。
世界に通用するキャラクターデザイナーを起用したい。できる人は限られているが……!?
4Gamer:
そして,「雷電V」のキャラクターデザインをことぶきさんにお願いすることになった,ということですね。
駒澤氏:
今回のキャラクターデザインには,全世界に通用する方を起用したかったんです。「雷電」シリーズは世界中にファンがいるので。「雷電V」はいまのところ日本でしか発売しておりませんが,おいおいは北米や欧州でも販売します。そのとき,全世界の方々にしっかり届くキャラクターにしておきたかったんです。
4Gamer:
グローバル展開が大前提だったのですね。
駒澤氏:
メカに関してはとくに心配はないんですが,キャラクターとなると日本とアメリカではウケる絵柄が違いますから。そこをうまくまとめられる人は,かなり限られていると思います。
で,ことぶきさんの今の絵がまさにそれなんです。リアリティーとデフォルメのバランスがちょうどいいですし,個性的で巷でよく見かけるタイプの絵でもない。日本だけを考えたらまた違った判断になったかもしれませんが,今回は全世界を意識したことで,ことぶきさんにお願いしました。
4Gamer:
これまでの「雷電」シリーズはストーリーやキャラクターといった要素が希薄でしたが,「雷電V」でそのあたりを盛り込んだ理由は何でしょうか。
これまでの「雷電」シリーズはもともとアーケード用のゲームなので,回転率の都合上,1プレイの想定時間が限られていたんです。なので,ストーリーはプレイヤーの想像で補完していただく,という形をとってきました。
今回はコンシューマ機向けという前提で作っているので,全体的な遊び方やボリューム感,繰り返し遊べるゲーム性など,そういったものを考えたときに「ストーリーは必要だろう」ということになり,そのストーリーに深みを与えるため,キャラクターを登場させることになりました。
4Gamer:
ことぶきさんにデザインしてもらうにあたって,どのような発注の仕方をされたのでしょうか。何か具体的なイメージのようなものがあったのですか?
駒澤氏:
最初に「今『雷電V』を作っておりまして……」というお話をさせていただきました。そしたら雷電自体はご存知でしたので,「新作のキャラクターデザインのお仕事をお願いしたいのですがどうでしょうか?」と恐縮しながら連絡しました。
ことぶき氏:
まずは,細かい資料をいただいて,それを見たうえで検討させていただきました。現在抱えている「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」の仕事が最優先なので,それと並行してできるかどうかっていうのもありましたし。
駒澤氏:
結果としては,快く「やります!」という返事をいただけました。キャラクターデザインの発注は,僕らとしてはかなり細かく,はっきりとこちらのビジョンをお伝えできたかな,と思っていますが……どうだったでしょう?
ことぶき氏:
イメージしやすかったですね。僕に気を遣ってすごく抽象的な表現で設定を作ってくださるところもあるんですが,僕は具体的にはっきり決めてもらって,「要するにコレです」と指示してもらったほうがやりやすいんです。こっちもプロなので,「○○という作品の○○というキャラみたいに」というイメージを伝えてもらったとしても,それをそのままでやることはないですから。あくまで,その方向性でやればいいんだっていう目安がわかればいい。
なので,最初の段階で明確なビジョンを伝えてもらえた「雷電V」の仕事は,すぐにイメージが固まりました。
駒澤氏:
いろいろな映画の登場人物をイメージソースとしてお伝えしたので,それが分かりやすかったのかもしれません。
ことぶき氏:
僕も駒澤さんもSF映画好きですし,ビジュアルやその世界での立ち位置も含めて「あの作品のああいう感じのキャラクターですね」と意思疎通しやすかったので,そこは助かりました。
駒澤氏:
実はお願いするキッカケになったことぶき先生のイラストがありまして,そこに「雷電V」の設定を付け加えて広げてもらうような形でキャラクターデザインを進めました。最初に上がってきた段階からほぼこちらの意図どおりで,大きなブレはなかったです。そこから,「雷電」シリーズのSF感が20年後の未来なのか200年後の未来なのか,SF考証をご提案いただきつつ,いろいろ調整していきました。
ことぶき氏:
それほど大きな変更はなかったですよね。僕の場合,新しい仕事を受けるときにいちばん最初に確認しなくちゃいけないのが「僕のいつ頃の絵を見てご依頼されました?」ということなんです。90年代と今ではキャラクターのデフォルメ具合もだいぶ違うので,どれを求めているのかを早い段階で確認しておかないと……。今回は「最近描いたこのイラストの雰囲気で」というのがあったので,すごくやりやすかったですね。
そのキャラクターがどこに立っているのか!? 細部にまでこだわった描き込み
4Gamer:
ことぶきさんは「雷電」シリーズを遊ばれたことはあるのでしょうか?
ことぶき氏:
僕が小さいころ,親戚の家がゲームセンターを経営していたので,そこによく出入りして遊んでいたんですよ。シューティングゲームは当時のゲームセンターの花形でしたから,もっぱらそればかり遊んでいました。対戦格闘ゲーム時代のころにはちょっとついていけなくなったんですが,「ゼビウス」には衝撃を受けましたし,「雷電」の1作目も相当やり込みましたね。
4Gamer:
「雷電V」をご覧になった印象はどうですか?
「骨太な感じはそのまま残っているな」っていうのが第一印象です。正統進化と言うか,「これなら僕でも楽しめそうだな」と思いました。
4Gamer:
ゲーム画面では,ことぶきさんが描かれたイラストをそのまま使っているんですよね。
駒澤氏:
そうです。最終的なイラストを,画面右上に表示されるグラフィックスとしてそのまま使っています。数としては,5キャラクターをデザインしてもらいました。
ことぶき氏:
最初に頭身やリアリティのラインを固めるために中心的キャラクターのリチャード・マクスウェルとエシリア・ポートマンをデザインして,そこで承認をいただいた段階から,合わせる形で他のキャラクターも進めました。
ゲーム画面に全身が出てくる訳ではないのですが,世界観設定にも関わってくるので各キャラクターも全身像のデザインまでは起こしています。
4Gamer:
ラフから大きな変更があった部分などはありますでしょうか。
ことぶき氏:
大枠のデザインは変わってないのですが,装飾品は調整してますね。たとえばエシリアは,当初眼鏡をかけていなかったのですが,モスさんからの指示で入れることになりました。
駒澤氏:
オペレーターなので,お約束としてあったほうがいいかな,と(笑)。
ことぶき氏:
目に飛び込んでくる情報量をコントロールしないといけないので,眼鏡はシンプルなデザインにまとめています。奇抜なデザインも検討したのですが,それに驚いて「え?」と画面右上を二度見されると,メインのシューティング画面に集中できないかなということで,スタンダードなものにしました。
駒澤氏:
僕はラフの段階から,少しずつ着色されていく過程を見ることができたのですが,そのとき本当に「この仕事をことぶきさんにお願いしてよかった」と思いましたね。こちらの指示以上のところまでしっかり考えてくださっていて!
ことぶき氏:
画面の右上に表示されるっていうのはわかっていたんですが,「そこに表示されているキャラクターたちはどこでしゃべっているんだろう?」といろいろ考えてしまいまして。オペレーターのエシリアは目の前にモニタがあるだろうなってことで眼鏡にモニタの映り込みを書いたり,艦長のリチャードは他よりも高い位置に立っているはずだから下から光が当たっている感じかな,とか。そのキャラがいる空間を意識しながら着色しました。
駒澤氏:
背景は真っ白で描いていただいているのに,キャラクターを包む情景まで目に浮かぶようでした。
キャラクターの存在は“福神漬け”。ゲームに慣れてきたら世界観も楽しんでほしい
4Gamer:
ことぶきさんは,もし次も「雷電」シリーズに参加するなら,何をしたいとかやり損ねて次こそ活かしたいとかいったものはありますか?
ことぶき氏:
うーん,自分からこういうのをやってみたいっていうのが,実はあまりないんですよ。ただ,自分がやったことのない仕事はしてみたいです。「え? それを自分がやっちゃっていいんですか?」という感じのものだと燃えますね。なんかこう,あんまり自分を出しちゃうと申し訳ない気持ちになっちゃうというか……もともと二次創作畑の人間なので,自己主張が少ないんです(笑)。
講談社の「なかよし」編集部から連載の話があったときは「え? 僕が? 少女向けコミック誌ですよね?」ってすごくビックリしたんですけど,そういうモノの方がむしろやる気が出ましたね。依頼された内容をいかに自分の中で消化するかっていうのが楽しいんです。
アニメ「ガンダム THE ORIGIN」の仕事は,安彦さんの絵を勉強し少しでも再現したい!っていうのが楽しくて。逆に,ここはことぶきさんのオリジナルでデザインしてください,って言われるとちょっと萎えるんですよ(笑)。
(一同笑)
4Gamer:
では最後に,「雷電」ファンに向けてなにかお願いいたします。
ことぶき氏:
メインはあくまでシューティングであって,僕の仕事はカレーの福神漬けみたいなものだと思っています。撃つこと,避けることに集中できるよう,目障りでないキャラクターだと感じていただけると嬉しいです。
駒澤氏:
コンシューマ機用のゲームは何度も繰り返して遊ぶものなので,プレイのたびにだんだん味が出てくるような作りにしていて,その部分をキャラクターが担っています。ゲームに慣れてくるとキャラクターのウィンドウやセリフを見る余裕も出てくると思いますので,そうなったときに改めてこの世界観を楽しんでほしいですね。
ことぶき氏:
キャラクターが加わることで,ゲームに血肉の通った感じが少しでもプラスされると良いですね。
駒澤氏:
そうですね。リアリティも出ますので,ゲーム全体の世界観をキャラクターたちから感じてもらえればと思います。
あと,さきほど申し上げたとおり,海外を意識してことぶきさんを起用したので,世界展開したときにこのキャラクターたちがどういう評価を受けるのか,非常に楽しみです。
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