インタビュー
「FF零式HD」と「FFXV」のディレクターを務める田畑 端氏へのインタビューを掲載。“新世代機だからこそできるFF”を見てもらいたい
零式HDは,2011年に発売されたPSP用ソフト「FINAL FANTASY 零式」(以下,FF零式)のHDリマスター版。北米向けの発表がE3 2014で行われていた(発売時期は未発表)が,日本向けの発表はTGS 2014ということになった。
そして,体験版が同梱されることになるFFXVは,かつて「ファイナルファンタジー ヴェルサスXIII」(以下,ヴェルサスXIII)と呼ばれていたタイトルの名を改め,FFシリーズのナンバリングとしてPS4 / Xbox One向けに開発されているタイトルである。
いずれもなかなか新情報が公開されず,FFファンはヤキモキしていたわけだが,ここに来て一気に今後の展開が明らかになったというわけだ。
また,この発表に合わせて,零式HDのディレクターを担当しているスクウェア・エニックスの田畑 端氏が,FFXVのディレクターを務めることも明らかにされた。
そこで4Gamerは田畑氏に,零式HDとFFXVの開発がどのような狙いで行われているのかや,氏が考える「FFらしさ」などについて聞いてみた。
「零式HD」はテクノロジー的に世代を進めたHDリマスターにしたかった
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。いろいろと新情報の発表がありましたが,まずは零式HDについて聞かせてください。E3 2014で北米での発売が先行発表されていましたが,日本での発表がそれから約3か月経ってからになったのはなぜでしょうか。
実は,発表したころは海外優先で開発を進めていて、まだ日本語版を同発できるか確定させられてない段階でした。そのため発表も海外だけということになったんですが,E3での発表後に日本からの反響が予想以上に大きくて。そこで急いでローカライズのスケジュールんどを調整してもらって,日本でも北米と同じタイミングで発売することになりました。
4Gamer:
当初北米先行の計画になったのは,PSPの「FF零式」が北米で発売されなかったことが理由なのでしょうか。
田畑氏:
そうです。そもそもFF零式の発売は,PSPからPS Vitaへの移行期に重なっていて,とくに北米では店頭からPSPのコーナーが消えているような状態でした。それで海外発売をペンディングしたんです。
4Gamer:
日本でのPS Vitaの発売はFF零式から約2か月後でしたね。日本ほどPSPの販売台数が伸びなかった北米では確かに難しい時期でした。
田畑氏:
その後も海外でどのような形とタイミングで出せばいいのかを考えていました。北米と欧州からのFF零式発売を望む声ももちろん届いていて,それにきちんと応えるためには,据置機向けにリリースしたほうがいいかもしれないと思い始めたんです。
4Gamer:
確かに普及台数などを見れば,海外では据え置き機向けのほうがプレイヤーに届きやすいでしょうね。
田畑氏:
ただ当時の僕は携帯ゲーム機向けタイトルを担当していましたので,「FF零式」をPS3で展開するとして,何ができるのか,どのくらいの予算とスケジュールが必要なのか,即座に判断できなかったんです。
4Gamer:
なるほど。田畑さんが関わった作品はFF零式以外にも,「クライシス コア -ファイナルファンタジー VII-」「The 3rd Birthday」などといった携帯ゲーム機向けが中心でしたね。
田畑氏:
そうこうするうちに,僕とFF零式チームが2012年7月から「FFXV」の開発に参加することとなりましたが,それはちょうど社内的に「FFXV」の対応プラットフォームを新世代機に切り替えるタイミングでもあったんです。そこで新世代機を想定した環境に触れているうちに,「新世代機はいいぞ」と確信しました。リスタートから1年後のE3 2013に,ベヒーモスや鉄巨人とのバトルを収録したトレイラーを出しましたが,その頃にはだいぶノウハウも蓄積できていたので,あらためてFF零式の海外展開として零式HDをスタートさせました。
4Gamer:
据え置きゲーム機ではまだPS3/Xbox 360の普及台数のほうが圧倒的に上ですが,そのメリットを差し引いても,ノウハウがある新世代機向けに開発したかったということでしょうか。
田畑氏:
はい。それに加えて,PS2やPSPタイトルをPS3/Xbox 360へ移植するHDリマスタータイトルが既に結構な数あった,ということも理由です。FF零式をPS3/Xbox 360に持っていくと,どのように見えるか,ある程度予想できたので,ワクワクしなかったんですよ。
4Gamer:
確かにPS3/Xbox 360向けのHDリマスター作品はここ数年の流行でしたね。
田畑氏:
そういった,アセット(キャラクターモデルなどの素材)の高解像度化ではなく,テクノロジー的に世代を進めて,ライティングやリフレクティング,レンダリングまで見直して,環境からリマスターするようなことにチャレンジしたかったんです。そう考えると,やはり新世代機のみに向けたタイトルにしたほうがいいなと。
これからは“物理的に正しい”絵作りが必要
4Gamer:
PSP向けタイトルを新世代機向けに移植するとなると,キャラクターのモデリングにも大きく手が入るのではないかと想像しているのですが,どうでしょうか。
田畑氏:
実は,PSP版のアセットを少し手直ししているだけ,という感じの部分が多いんですよね。
4Gamer:
あ,そうなんですか。確かにFF零式のグラフィックスは,PSP向けタイトルとしてはかなり作り込まれている印象はありましたが。
田畑氏:
ええ。まずはそのままHD化してみようかということで,実際にやってみたら予想以上に作り込みがすごかった。「うちのアーティストたちはすごいな」と感心しました。
4Gamer:
FF零式のディレクターでもあった田畑さんがそう思うとは意外です。
田畑氏:
作り込んでいることは分かっていましたが,ここまでとは思っていませんでしたね。たとえば「ヴァジュラ」という敵のメカは,当時,制作にかなりの時間を掛けたんですが,当時はなんでここまでかかるんだろうと思っていました。こうしてHDにしてみると,「ここまでオーバースペックで作ってたのか!」と(笑)。
4Gamer:
納期よりもアーティストのこだわりを優先されてしまったんですね(笑)。
田畑氏:
でも,そのときの作り込みが今回生かされているわけですから,結果としてはよかったかもしれません。
4Gamer:
そうなると,今回のHD化は予想よりも楽だったんでしょうか。
田畑氏:
ええ。リソースを全部作り替えるようなことはありませんでした。
4Gamer:
なるほど。今回はアーティストの方のこだわりが吉と出たわけですけど,今後,のちのち再利用することを考えて,意図的にアセットの作り込みを行う,ということはあるでしょうか。
田畑氏:
どうでしょうねえ……。今,「FFXV」チームは,そういった作り込みでグラフィックスのクオリティを上げるよりも,さまざまなプラットフォームに持っていったときに,その環境に合わせて正しく見えるようなデータ作りのほうに移行していますから,もしかしたらその逆かも。
4Gamer:
特定のプラットフォームに向けて作り込むのではなく,どのプラットフォームでも使いやすいデータ,という感じでしょうか。
田畑氏:
そうです。たとえば影の表現で説明すると,以前はアーティストが背景にある建物のモデルなどに影を描き込んで,一つの絵としてリアルに見えるようにしていました。もちろんライティングもしますが,描き込みによって,リアルに見える大きな陰影を表現していたわけです。
4Gamer:
映画の書き割りのようなイメージですね。
田畑氏:
はい。ですが今は,テーブルならテーブルで正しく素材を作り,正しくライティングを設定して影を作って……という“物理的に正しい絵作り”をしています。そこに「FF」的な味付けをしていくわけですね。
4Gamer:
なるほど。ちなみに「FF」的な味付けというと,具体的にはどのようなものでしょうか。
田畑氏:
現実的な世界の中で,非現実的なものを本当に存在するかのように迷いなく力強く描く……という感じでしょうか。零式HDでは,現実的な風景の中に,赤いマントを身に着けてピュンピュン瞬間移動する,非現実的なキャラクターがいます。僕からすると,その光景が「FF」的なんです。もちろん,尖ったアート的なエッセンスが入っているというのも「FF」的な部分です。
据え置き機向けにゲームの作りも変えている
4Gamer:
では零式HDで刷新されたところ,大きく変わったところなどはあるのでしょうか。
田畑氏:
プレイヤーキャラクターのモデルです。とは言っても,もともとFF零式のプリレンダムービー用で使っていたキャラクターモデルを調整したものですから,まったくの新規というわけではありませんが。
これは「FFXV」で使った,プリレンダムービー用のキャラをゲーム用に変換するというワークフローを応用しています。
4Gamer:
キャラクターのモーションも変わっているんでしょうか。
田畑氏:
そちらはPSPのままです。フレームレートも同じ毎秒30フレームですね。ただ,スカートは,あまりめくれ上がらないようになっています。これはHD化にあたってウェイトから調整しました。
4Gamer:
TGS 2014のプレイアブルバージョンでは,結構ヒラヒラしていたように見えましたが。
田畑氏:
あれでもかなり抑えているんです。零式HDではカメラの操作が右スティックに割り振られて自由に動かせるようになって,可動範囲も大きくなったので,PSPのときと同じ設定だとスカートの中が見えやすくなるんですね。それはまずい(笑)。
4Gamer:
実際に零式HDをプレイしてみましたが,カメラの挙動が変わっているという感じは受けました。ただ単に,右スティックに割り当てられたからというだけではないようにも思えましたが。
田畑氏:
零式HDでは,プレイヤーキャラとカメラの距離を変えました。
4Gamer:
FF零式より,カメラが寄れるようになっていますよね。よりキャラの視点に近いというか。
田畑氏:
オリジナルのカメラ位置よりもキャラクター寄りです。ですから臨場感が増しているとも言えますね。やはり画面から20〜30センチの距離でプレイする携帯機と,大きな画面からある程度離れてプレイする据え置き機とでは,絵の見せ方も変わります。
4Gamer:
視点が変わると,ゲームプレイにも影響があると思うのですが,どのように調整したのでしょうか。
田畑氏:
小さい画面でプレイするFF零式では,プレイヤーキャラとその周辺しか見ないようなプレイスタイルになりがちで,ゲームとしても基本的にキャラクター周辺でしか物事が発生しない作りにしていました。遠くから銃で攻撃してくる敵もいるけれど,実は当たってもそれほど痛くない,という感じですね。そこを零式HDでは,画面に入っている要素すべてがゲームに関連してくるような作りに変えています。ただ,プレイ感はFF零式と変わらないように調整しています。
4Gamer:
難度という点ではどうでしょうか。
田畑氏:
標準の難度は同じですが,新たに難度を変更できるようにしました。PSP版では,エンディングにたどり着けないという声が結構あったので,イージーモードを用意しています。僕が「FF零式はエンディングがウリです」と言っていたので,それでたどり着けないのはマズいだろうと。
4Gamer:
FF零式は,PSP向けということもあって,マルチプレイが一つのセールスポイントになっていましたけれど,零式HDではどうなるのでしょう。
田畑氏:
零式HDにマルチプレイモードはありません。あれはそもそもPSPのアドホック機能を前提に作ったものですから。マルチプレイのゲームデザインも,入れるとなると据置機の遊び方を踏まえて考え直さなければなりませんし,そこに時間をかけるよりも,メインであるストーリーやバトルを早く触ってもらいたいと考えました。
4Gamer:
最初から最後まで,一人で遊べるようバランスを調整していると。
田畑氏:
はい。もちろんマルチプレイが必要だった実績要素も,シングルプレイで達成できるように手を加えています。
FFシリーズ作品には規格外の部分が必要
4Gamer:
FF零式には欧米からのリクエストが多かったというお話がありましたが,PSP用ソフトで学園物と,どちらかと言えば日本向けで,一般的に欧米のプレイヤーが好むとされているものとは違うイメージがあったので,ちょっと意外でした。
田畑氏:
先日,北米のメディアの方と話す機会があったのですが,一番食いついてきたのが,戦闘なんです。よく言われたのが,「シームレスで,かつアクションとして魔法や武器を駆使して戦うところを早く体験してみたい」「コマンド選択ではなく,スピーディに『FF』のバトルを遊べるなら最高だ」ということでした。
4Gamer:
なるほど,FFの従来作品とは違うバトルシステムに注目していると。
田畑氏:
また,FF零式のバトルはたとえば剣で斬れば血が流れますし,炎の魔法を使えば相手は焼け死にます。それは現実ではこうなるというところを表現したかったからなんですが,そこを評価してくれる人も多いようです。きっと欧米の人達は,学園物ではなく,戦争物として捉えているんじゃないかと思います。
4Gamer:
そういった学園や戦争を題材にしていることも含めて,FF零式はシリーズの中でも独特の立ち位置ですよね。
まあ,シリーズの流れに沿っているとは言えないかもしれません。作る人間が違うから,それぞれの色が出てしまう部分があると思っています。僕自身,あまり器用ではないですから,必要以上に「FF」シリーズを踏まえて作るということはしませんでした。その結果,こういう作風になったわけです。
4Gamer:
「FF」シリーズということは,強く意識していなかったと。そういえば,田畑さんの作品では,FF零式にしても,クライシス コア ファイナルファンタジーVIIにしても,ほかのシリーズ作品よりハードなストーリーを描いているように感じますが。
田畑氏:
そうですね。ああいった男の子的にグッとくる感じとか,人生の真剣勝負感は個人的に好きです。ファンが求めるからというよりも,自分で大事にしているものを考えながら作っていますね。そうやって自分の中で根拠を持っていないと,大作の開発はしんどいですから。もちろん「FF」として大事にしなければならない部分もありますが。
4Gamer:
それが先ほど話に出た,現実の中に非現実を持ち込む絵作りというわけですか。
田畑氏:
それもありますが,「挑戦すること」ですね。「これは挑戦している」と思える部分がなければ,少なくともFFとしては成り立たないと思います。FFシリーズには,何か規格外の部分が必要で,誰でも作れるようなものでは,FFとして出す意味がありません。受け手としてもワクワクしないでしょう。
4Gamer:
では,零式HDでのチャレンジはどこでしょう。
田畑氏:
先ほども少しお話ししましたが,今までのような単純な高解像度化で終わらず,プラットフォームを新世代機に絞り,ライティングなどの環境をどこまでクオリティアップできるかに挑戦しています。こういった形でのHDリマスター作品は,ほかにはあまりない事例でしょう。
また,FF零式なら,携帯機であそこまでFFの要素を盛り込みつつ,独自のテイストとパワーを出したところでしょうか。それはプレイして感じていただけると思います。
4Gamer:
なるほど。零式HDの開発進捗はどのくらいですか。
田畑氏:
もう80%くらいのところに来ています。ただ,据え置き機のプラットフォームでマスターアップするのが初めてなので,今後どういった問題が生じるのか,あるいはプラットフォーマーさんとの最終的な調整がどうなるのかという部分がまだ分からないですね。
「FFXV」はロードムービー色の強いオープンワールド“風”のゲーム
4Gamer:
それでは「FFXV」の話題に移らせてください。田畑さんがFFXVのディレクターに就任して,最初に意識したことは何でしょう。
田畑氏:
自分なりに発売日を想定して,そこに合わせるためにすべての計画を精査しました。今回,体験版を皆さんに提供できるのは,2012年7月からの開発が順調に進捗しているからですね。
4Gamer:
TGSで披露されたトレイラーや実機デモを見た限りでは,かなり出来あがっているという感じを受けましたが。
田畑氏:
50〜55%に達している感触です。システムの基本的な部分はほぼ出来ていますから,まあ体験版が出てから5年も10年も待たせることはありませんのでご安心ください。もちろん評判が悪ければ考え直しますけど(笑)。
4Gamer:
あのトレイラーやデモを見せてもらって,今から5年10年は待てませんね(笑)。ゲームとしては,「FFXV」はオープンワールドのRPGという認識でいいんでしょうか。
田畑氏:
世界がシームレスにつながっているという意味では,そのとおりです。そこを車に乗って旅をしていくという物語が描かれます。
4Gamer:
風景の見せ方やキャラクターのやり取りから,ロードムービー的な印象を受けたのですが。
田畑氏:
そのとおりです。ロードムービーをRPGとして体験できるように作っています。旅のロマンを感じられるというか。
4Gamer:
トレイラーも実機デモも,男性キャラばかりでしたが,男同士の旅という感じでしょうか。女性キャラはカットシーンにしか登場しませんでしたけれども。
田畑氏:
パーティは男性キャラのみですね。そこは前身の「ヴェルサスXIII」から変わっていません。
4Gamer:
ロードムービー風というのも,ヴェルサスXIIIから継承しているのでしょうか。
田畑氏:
はい。「FFXV」は,より強くロードムービーを意識した作りになっています。大事にしている部分です。
4Gamer:
そうなんですね。今回のトレイラーで,ロードムービーのイメージが初めて出てきたような印象を受けるのですが。
田畑氏:
街の外へ出たところを見せたからじゃないですか。今まではずっと街の中しかお見せしていませんでしたから。
4Gamer:
なるほど。今回のトレイラーを見て,いろんなところに行ってみたいと思いました。
田畑氏:
ああ,そこは狙っていたので,そう思っていただけるのはありがたいですね。
4Gamer:
FFシリーズは,毎回,システムが大きく変わりますよね。「FFXV」がどんなゲームなのか,ザックリと表現するとどうなりますか。
田畑氏:
僕の「FFXV」企画書には,「オープンワールド風FF」と書きました。“風”がポイントです。世界はシームレスに広がっていますが,一般的なオープンワールドRPGのように,どこへ行っても,どう進めてもいいよというゲームではないんです。そこには「FF」シリーズとして,キャラクターを成長させたりアイテムを集めたりしながら,ストーリーに沿ってさまざまな地域に足を運び,そこでドラマを体験し,最終的にクライマックスを迎えるという流れがあります。
4Gamer:
ゲームの世界を自由に歩き回れるけれど,基本的には一つのストーリーに沿って行動することになって,プレイヤーは皆だいたい同じ流れを体験することになる,という感じでしょうか。
田畑氏:
そうです。たとえば「The Elder Scrolls V: Skyrim」のように好きなところに行ってクエストを受けて……というゲームではありません。その都度,目的地が提示されて,仲間と一緒にそこに向かい,ともに成長していくという手応えを提供していきます。どこへでも行けるけれども,ポイントとなる場所に到達することで初めてストーリーが進むという意味においては「Red Dead Redemption」に近いかもしれません。
4Gamer:
移動手段は,基本的に車ですか。
田畑氏:
はい。主人公のノクトはルシスという国の王族で,ゲーム内の移動は基本ロイヤルカーになります。ただ,歩いて移動することも可能です。
4Gamer:
たとえば,次の目的地まで歩いて移動してもいいんでしょうか。
田畑氏:
もちろんです。ただ世界が非常に広いので,歩いていくといつまで経っても目的地に着きませんよ(笑)。なので道路は車で移動して,車が入っていけないところは歩きということになります。
“現象”としての魔法と,時間の概念を感じてほしい
4Gamer:
TGS 2014で公開された実機デモでは,天候の変化が見られましたが。
田畑氏:
あの世界には時間の経過にがあって,天候も自然に推移します。雨が降れば,当然キャラクターや地面が濡れます。地面には水たまりができて水面が揺れたりもしますし,雨が止めばそれが乾いていくというように,時間に沿った自然の流れをきちんと取り込んでいます。そういったリアルな表現によって,没入できる生きた世界が出来上がってきていると思います。
4Gamer:
フィールドでもバトルでも,ユーザーインタフェース(UI)がシンプルなのが印象的です。
田畑氏:
ええ,まだ完成形ではありませんが,UIの情報を駆使して遊ぶのではなく,もっと3D空間での遊びを成立させることを意識しています。とは言っても,その3D空間上で出す技はあらかじめ設定しておくことになります。「FFXII」の「ガンビット」の設定に近いですかね。
4Gamer:
ノクトが瞬間移動するシーンもありましたが。
田畑氏:
「武器召喚士」であるノクトの特殊能力ですね。剣を投げて,それが刺さったところにテレポートできます。バトル中は,剣の刺さるところが,ある条件によって限定されています。また状況に応じて,その条件が変化し,剣が刺さるところも増えていきます。
4Gamer:
バトルの操作方法はどんなものになるのでしょうか。
田畑氏:
コマンド選択ではなく,アクションバトルでオフェンスとディフェンスを切り替えながら戦います。プレイヤーが操作できるのはノクトだけですが,ほかのキャラクターは,プレイヤーが出した作戦に基づいて,自律的に行動します。もちろん戦闘中でも,設定画面を呼び出してパーティ全体に対する作戦や個別の武器を変更することはできます。
4Gamer:
天候の変化はバトルに影響しますか。たとえば雨が降ってきて身体が濡れると,雷属性攻撃のダメージが大きくなるとか。
はい。FF零式でも意識した部分ですが,FFXVでも,魔法を“現象”として扱う予定です。。晴れているときなら,モンスターに火の魔法を使うと周囲にも着火したり,仲間も熱がったりといった具合です。魔法を使うとノクト自身にも,その影響を受けるリスクがあります。
つまり,単に「戦う」「魔法」といった並列のコマンドを選ぶのではなく,プレイヤーが一つ一つの行動に意識や神経を通わせるようなバトルを目指しているんです。
4Gamer:
実機デモはバトル中心でしたが,ゲーム本編ではフィールドがあり,街があり……ということですよね。
田畑氏:
はい,街ではちゃんとしたご飯が食べられます。普段はキャンプ生活なんですよ。
4Gamer:
それはちょっと楽しそうです。
田畑氏:
今回はシステム的にもキャンプが重要な位置付けになります。FFXVでは時間の概念があって,ずっと寝ないでいるとキャラクターのパフォーマンスも落ちていきます。
4Gamer:
シミュレーション的な要素もあると。
田畑氏:
そこまでマニアックなものではないですけどね。1日が終わるときに,その日の経験がまとめて精算されたりと,時間を意識させるシステムになっています。
4Gamer:
まだ少し先の話ですが,体験版はどのくらい遊べるのでしょう。オープンワールドの体験版となると,なかなかイメージができないのですが。
田畑氏:
当然,何かしらの形で行動範囲を制限することになりますが,それでもかなり広く感じると思いますよ。トレイラーの中に出てきた,隕石の周辺をプレイすることになる予定です。フィールド上のモンスターとも戦えますし,ダンジョンもあります。ダンジョンにいる敵は,すごく強いですよ。ダンジョンをクリアしなくともストーリーを楽しめるようにしているのですが,貴重なアイテムなどは,ダンジョンでしか入手できません。
4Gamer:
ダンジョンはやり込み要素なんですね。
田畑氏:
はい。そして夜になると,ダンジョンにいる敵が,地上を徘徊するようになります。なので,夜はちゃんとキャンプで休みましょうと。
4Gamer:
リアルに旅を体験しているイメージというわけですか。
田畑氏:
ええ,そうしないと普通になってしまいますからね。そこはこだわっています。FFシリーズの体験版というと,僕としては「FFVII」の体験版に出てきた「リヴァイアサン」の印象が強いのですが,あんな風に記憶に残るところも入れるつもりです。
4Gamer:
それは,何か特別なことをしなくとも,プレイした人全員が見られるのでしょうか。
田畑氏:
もちろんです。ぜひ驚いてほしいですね。
「人の記憶に残る」ものにこだわりたい
4Gamer:
さきほど零式HDについての話で,「チャレンジしていなければFFじゃない」という言葉がありましたが,FFXVで挑戦しているのはどんな部分でしょう。
田畑氏:
「これがAAAのFFだ」と堂々と言えるゲームにすることです。そう言ってしまうと具体的な説明が難しくなるのですが,作ってる我々にとっては極めて明確な挑戦です。そうすることで,遊んだ人に「これは最高のFFだ」と感じてもらえることとつながると思うんです。
4Gamer:
労力を惜しまず,やりたいことをすべてやるという感じでしょうか。
田畑氏:
労力は惜しみませんが,そうは言っても,できることとできないことがありますからね……。FFの開発は,作り手各自の発想や粘りに依存してしまう部分が強いんです。そうしないと「FF」的な匂いや凄みが出ないんですよ。たくさんの物量をパラレルに作って,それを単にまとめるというやり方では本物の「FF」にはならないと思います。
だから「FFXV」では,海外のAAAタイトルのように1000人ものスタッフを投入するのではなく,200人から300人くらいの規模で密度を高めて,最大限やれることをやっていくという方法を取っています。
4Gamer:
ただ,それぞれの個性を生かしつつ,その300人をチームとしてまとめなければならない田畑さん自身は大変ですよね。
田畑氏:
毎日,いろんな人がいろんなことを言ってきますからね。時間がいくらあっても足りません。ただ,体験版という一つのゴールが見えて,開発も軌道に乗っているので,楽しいですよ。
4Gamer:
開発スタッフからの提案に,その人の個性が見えてくるということもありますか。
田畑氏:
むしろ,逆に個性が見えないようなものにコストは掛けません。
コストを掛けるのは,遊ぶ人に届いて,心に残るであろうと思われるものですね。そこは時間を掛けて仕上げるようにしています。僕自身,過去に遊んだRPGで心に残っている部分というと,1タイトルにつき10シーンあるかないかですから,人の心を動かし,記憶に残るということに関しては,難しいと承知のうえですごくこだわっています。
4Gamer:
では,今まで公開されているFFXVのシーンで,そういった心に残りそうだと思えるものはありますか。
田畑氏:
トレイラーで言えば,「アダマンタイマイ」ですね。また実機デモでは,最初に長い時間を掛けてキャラクターをお見せしましたが,あれはムービーに出てくるようなキャラクターを実際に操作できることをアピールしたかったからです。キャラクターのリアリティや,絵的なクオリティは見ている人にも届いたんじゃないでしょうか。
4Gamer:
PS4やXbox Oneのグラフィックス的な性能は,主にフォトリアルな表現に向けられていますよね。その一方でFFのキャラクターは,リアルとは言っても,綺麗さや格好よさといった,ある意味で人工的な部分が魅力になっていると思うのですが,その部分での苦労というのはありますか。
田畑氏:
確かに,あまりリアルにしすぎると気持ち悪い表現になってしまいます。皮膚の表現などはとくにそういった傾向があります。
ノクトはFF的なキャラクターとして,リアルな人間よりも綺麗で,いわば憧れられるような存在でなければいけませんから,そのバランスには気を配りました。単にリアルなだけではダメ,でも風が吹いたら髪の毛がサラサラしていてほしいからマネキンになってもダメ。現段階で,人間そのものではないけれども,完全な作り物でもないというバランスをかなり実現できたんじゃないかと手応えを感じています。
4Gamer:
確かに「FF」ならではのキャラクターに仕上がっていると感じます。
田畑氏:
スクウェア・エニックスのムービーチームは,単に車一つ,椅子一つを映しても,グッと来るような絵作りにこだわっています。プロのカメラマンが,平凡な被写体でも優れた作品に仕上げるのと同じですね。
そういうことをFFXVのキャラクターでも表現したいんです。何でもないシーンなのに,そのキャラクターが動くだけでグッと来るような。
4Gamer:
なるほど,そこにいるだけで絵になると。
田畑氏:
世界がシームレスとか,冒険や戦闘が面白いとか,今どきのゲームなら当たり前なので,まずは最初に見たときに引き込まれるかどうかということに,スタッフ全員でこだわっています。画面を通じて,「これに触ったらすごそう」と思っていただけるとうれしいですね。そうなるように作品を磨いている最中ですし,実際にそうなってきていることを,今回のトレイラーやデモでお見せできたんじゃないでしょうか。
4Gamer:
それは感じました。ですが,さきほどの話では,まだ道のりとしては半分程度なんですよね。
田畑氏:
今の据え置きゲーム機向けの開発は,最初に内容をきっちり決めてから,必要な作業を進めていくという流れになっています。
今はもう作業を処理していく段階ですから,ここから大きくスケジュールが変わることはまず無いのですが,その物量がすさまじいことになっているので,ゴールにたどり着くのはもう少し先です。
4Gamer:
規模が小さいタイトルならとりあえず作ってみて,ダメなら違う方法を試す,というやり方もあるようですが,さすがにFFのような規模になるとそれはできないと。
田畑氏:
プランニングが終わって実際の作業が始まってから,アセットとプログラムが上がってくるまで3か月ぐらいかかったりします。そうなると大きな修正は難しいですよね。定めた着地地点に向けて,毎日細かく軌道修正しているようなイメージです。とくに僕はHDゲームの開発は初めてなので,今までとは感覚が違いますね。
本当に作業が膨大で毎日寝不足なので,これはもうゲームにも寝不足を採用して,ちゃんと寝ないとパフォーマンスが落ちるようにしようと思いました(笑)。
4Gamer:
(笑)。では,そういった苦労を重ねて開発している零式HDとFFXVを待っている人達へ向けてメッセージをお願いします。
田畑氏:
零式HDは,すでにFF零式を遊んだ人も新しい体験ができるように作っています。もちろん今回初めて遊ぶという人にも自信をもってお勧めできる内容ですので,ぜひ楽しんでください。
そして零式HDに同梱されるFFXVの体験版で,FFの進化を実際に感じてほしいと思っています。新世代機向けに作られた「FF」がどんなものなのか,ぜひ触ってみてください。
そして,この体験版はゲームクリエイターの皆さんにもプレイしてほしいですね。僕自身,業界のベンチマークにならないと「FF」とは言えないという気持ちで開発に臨んでいます。触ってみれば,PS4/Xbox Oneでどれだけのことができるか実感していただけると思います。
4Gamer:
期待しています。本日はありがとうございました。
- 関連タイトル:
FINAL FANTASY 零式 HD
- 関連タイトル:
FINAL FANTASY 零式 HD
- 関連タイトル:
FINAL FANTASY XV
- 関連タイトル:
FINAL FANTASY XV
- この記事のURL:
キーワード
(C) 2011,2015 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
(C) 2011,2015 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
(C)2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
(C)2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA