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  • 発売日:2014/07/31
  • 価格:通常版:6800円 / 限定版:8800円 / DL版:6000円(いずれも税抜)
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美少女達が織りなす重厚な政治劇――「解放少女 SIN」はいかにして生まれたのか,シナリオの結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,牧野圭祐氏に聞いてみた
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印刷2014/08/30 00:00

インタビュー

美少女達が織りなす重厚な政治劇――「解放少女 SIN」はいかにして生まれたのか,シナリオの結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,牧野圭祐氏に聞いてみた

新日本をめぐる政治と,スピリチュアルな世界観


画像集#017のサムネイル/美少女達が織りなす重厚な政治劇――「解放少女 SIN」はいかにして生まれたのか,シナリオの結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,牧野圭祐氏に聞いてみた
4Gamer:
 では,ここからは本作のメインとも言える政治について,少し踏み込んでお聞きしたいと思います。本作は100年後が舞台とは言いつつも,その背景となる世界情勢には,大国や米国との関係など,リアルを反映した部分が少なからずあるように思います。シナリオを担当されたお三方としては,そうした部分は意識されていたのでしょうか。

結城氏:
 僕自身はあまりないですね。自分としては,今の政治体制や時代背景を飛び越えた先にある,若者の特権のようなもの描きたいという想いがあって,むしろ現実を想起するような要素は,できるだけ排除したつもりなんです。
 ただ一方で,ドラマとしてはガチガチの政治劇がやりたいというのがありましたから,そこは遠藤さんにお願いして,肉付けをしてもらいました。結果として生まれたリアルさが,現実を映すものになったというのが,正しいのではないかと。

遠藤氏:
 自分がまず着目したのは,大空翔子の支持者である美少女閣僚達が,すべて民間人閣僚――国会議員ではない閣僚だという点でした。では議会の基盤はどこにあるのかといえば,それはもちろん与党である新日本解放党ですよね。しかし実質的に新日本解放党を率いているのは,米国追従派の左近田厳であると。

4Gamer:
 つまり,議会の最大多数を占めるのは米国追従派であって,民族独立派である大空翔子を純粋に指示しているのは,ごく一部に過ぎない。

遠藤氏:
 ええ。議員達は単に戦争に勝ち続けているから彼女に相乗りしているだけなんです。だから,戦争に勝てなくなったとたんに,内閣の支持率は下がってしまう。さらに左近田凪冴という米国追従派のエースパイロットまで出て来て,議会は揺れに揺れる。

4Gamer:
 まさに,本作の導入にあたる部分ですね。

遠藤氏:
 一方で,和平と協調を唱えるだけの革新派・太平党もまた,議会では少数派です。しかし,最終的な法案の可決には彼らの協力が不可欠で,事実上のキャスティングボートを握る存在でもある。この辺りの勢力図は,かなり意識的に配置してあります。

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4Gamer:
 国会が民族独立派・米国追従派・革新派の3つの勢力に分かれるというのは,漫画の「沈黙の艦隊」などでも見られた構図ですよね。また,民族独立派の大統領と,国際協調派の首相による対立という構図は,映画の「韓半島」が思い出される部分もある。やはりこうした対立構造というのは,話が作りやすいものなんでしょうか。

遠藤氏:
 そうですね。対立勢力を2つにしてしまうとシーソーゲームになってしまって,ハラハラ感が無くなってしまいます。なので,やっぱり三すくみにするのが王道だと思います。

牧野氏:
 全体のイメージという意味では,最初のプロットの段階ではアニメの「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(以下,王立宇宙軍)が挙がっていましたよね。

結城氏:
 あ,そうそう。「王立宇宙軍」は僕は実は何度も何度も観ていて,大好きな作品なんですよ。あのリアルでありながら,異世界情緒にあふれた世界観も好きですし,なにより若者達が大人達のしがらみを踏み越えて,宇宙に飛び出そうとするストーリーがいいじゃないですか。どちらも本作と共通する部分があって,ああいう若者の情熱を描きたかったというのが,根底にあったりします。

遠藤氏:
 自分としては,「日本のいちばん長い日」とか,一連の岡本喜八監督の映画を意識していましたね。岡本監督は,戦争とか悲劇であっても,暗くは描かないじゃないですか。滅茶苦茶エネルギッシュなあの作風が,もう好きで好きで。

4Gamer:
 「王立宇宙軍」に「日本のいちばん長い日」。なるほど,ちょっと分かってきた気がします(笑)。でも,そうした若者の情熱って,今の日本ではなかなか政治には向きにくいところがありますよね。

結城氏:
 そうですね。なので失敗しても無鉄砲に突き進む海堂清人には,そうあってほしいという願いを込めたつもりなんですよ。いつの世も,若者が新しい時代を引っ張って行くものですから。

遠藤氏:
 大空翔子を始めとした美少女閣僚達は,ミスティクルによる特殊能力によって政治に参加できるリベレイターという設定ですし,海堂清人もその影響下にあるわけですが,一方で,そうではない普通の人々もいる。自分としては,その普通の人々にとっての希望が,志月だと思っているんです。

4Gamer:
 というと?

遠藤氏:
 彼女はリベレイターたる資格は持っていませんが,学校での大空翔子や,閣僚達の姿を見たことによって,自分にも何かできるのではと考え始めますよね。その想いは,テロリズムを前にしても折れることはなかったわけで。それってつまり,正式な手続きを経た政治的行動――市民活動で何かが変えられるかもしれないって思えたってことじゃないですか。それはやっぱり,希望に満ちたことだと思うんです。

主人公や大空翔子達がかよう高校で生徒会長を務める敬 志月。リベレイターでこそないものの高いミスティクル適性を持つ聡明な少女として描かれている
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4Gamer:
 ああ。そう思えること自体,法や国家が正しく機能している証左でもあると。

遠藤氏:
 ここからはなんら相談したわけでもない,私の勝手な妄想ですけど,本作の後,大空翔子は大統領を降りることになるはずです。そして,庶民階級出身の志月が首相となる。だから彼女の名字である「敬」は,原敬から取っているんですよ。

※原敬(はらたかし)……明治から大正時代に活躍した政治家。第19代内閣総理大臣。貴族院ではなく,衆議院議員に議席を持つ初の首相であり,爵位を持たない「平民宰相」として民衆から大きな支持を得た。しかしその政策を快く思わない青年によって,任期中に刺殺。東京駅構内での出来事だった。

牧野氏:
 ええっ! そうなんですか?

結城氏:
 それ,今始めて聞いたんですけど(笑)。

遠藤氏:
 あくまで妄想ですから(笑)。名前についても,あくまで由来と言うだけで,モデルにしたとかそういうことではないですよ。

4Gamer:
 遠藤さんとしては,志月は最初からそういう立ち位置のキャラクターとして用意したキャラクターだったのですか?

遠藤氏:
 いや志月や里矢,あと時江先生なんかも含めて,学校に登場するキャラクターは,初期のプロットにはいませんでした。5pb.さんから学園描写をもっと増やしてほしいという要望があって,それに応える形で増やしたキャラクターなので。学校でも大空翔子がボスなのはさすがにどうかと思って,生徒会長役というポジションで用意したのが志月というキャラクターです。

4Gamer:
 では,まさにキャラクターが動いた結果として,生まれた希望だったわけですね。

遠藤氏:
 そうなりますね。ただ大統領という制度は,この国では戦時下でもなければありえないんじゃないかって思うんですよ。非常時であればこそ,権力を一極集中しても許された,というね。もちろん,大空翔子としては父の意思を受け継ぐために,そうせざるを得なかったわけですけど。であればこそ,平和な時代が来たのなら,彼女は去らなくてはならない。

4Gamer:
 なにより,大空翔子自身がそう考えるはずだと。

遠藤氏:
 ええ。政治が正しく機能する時代に,英雄はもう必要ない。その後の時代を作っていくのは,凡人である志月達――それこそ結城さんが言ったような,情熱を持った若者達の仕事です。だから,民衆によって議会が動かされるという本作のクライマックスは,ある意味自分にとっての理想,そうあってほしいという願いなんですよ。


神獣とはなにか


4Gamer:
 本作の設定について,ちょっといろいろ聞いてみたいのですが,ノーカラーという被差別層が出てきますよね。それが東の支持基盤であるスラムを構成しているわけですが,あれはどういった設定になっているのでしょうか。

遠藤氏:
 あれは単に,日本に戻ってきた順番で分けているだけなんですよ。軽井沢に新日本が建国されたときに,国民番号を順に振っていって,「ここまでは特権民,これ以降はダメよ」ってな具合に。危なくなった日本から出て行ってしまった日本人が戻ってきたときに,素早く戻って来た人は愛国心があるだろうっていう理屈です。だから,文句が出ても一応言い返す根拠が用意されているという。

厳然とした階級制が存在する新日本。愛国心を盾に下層民はスラムに放置されているが……それもまた統治する側の方便でしかないのだ
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4Gamer:
 ああ,なるほど。それとも少し関連しますが,ゲーム序盤に国会前で行われていたデモに主人公が巻き込まれるシーンがありますよね。政策に抗議する市民団体と,それに対抗して騒ぎ立てる極右団体。そして,そのどちらにも無関心で,ただ迷惑がっている一般市民が描かれたシーンなんですけどが,なぜかとても印象に残っています。なんというか……目線がすごく冷めているんですよね。

遠藤氏:
 まあ,ゲーム内で主人公をどちらかに肩入れさせるわけには行きませんから,そこはあえて中立にしたというのはありますね。でも自分自身,ああいうのは冷めて見てしまうクチなんですよ。実際迷惑じゃないですか。暑い中を取材に来ているんだから,交差点ぐらい渡らせてくれよって(笑)。

4Gamer:
 ああ,あれはご自身が経験されたエピソードだったんですね。

遠藤氏:
 国会じゃないですけど,ニンテンドーDSで「THE 裁判員」というゲームを作ったときに,取材として裁判所に通ったことがあるんです。外患誘致罪を題材としたエピソードがあって,その参考にと政治団体同士の裁判を傍聴したんですけど,すごかったですね。まさか本物の裁判でも,法廷を靴が飛び交うことになっていたとは(笑)。

4Gamer:
 その時の取材の経験が,本作にも活かされていると?

遠藤氏:
 中立の視点で描くという意味では,大いに活かされてますね。例えば本作のラストシーンで主人公がとる行動なんか,まさにその中立性によるものです。失われた記憶を取り戻した主人公が人間として再生するために,あれは欠かせない展開なんです。

結城氏:
 最初のプロットで全体の構成は決まっていたんですが,ラストだけはどうしようかって,考えあぐねていた部分があったんですよ。ラストシーンの提案を遠藤さんから受けたときはビックリしましたが,結果的にはあの結末に落ち着きました。

4Gamer:
 ちなみに,あの後主人公達がどうなったかって考えてあるのでしょうか。

遠藤氏:
 オルガは大国に戻って,母親に再会したでしょうね。海堂清人がどうなったかは分かりませんけど(笑)。

4Gamer:
 本作には天皇制が出てきませんが,ここはどうお考えですか。意図的なのか,それとも曖昧にしているだけなのか。

遠藤氏:
 あの新日本に象徴としての天皇、もしくは天皇制度は存在していないでしょうね。細かな設定までは考えませんでしたが,そもそも天皇制があるから,日本は大統領制を取ることができないわけで。逆説的に言うと,大統領が存在するあの世界には,天皇は存在しえないことになります。

結城氏:
 作中世界の国民の精神的支柱は,神獣が担っているんだと思います。本作における神獣は,アニミズムと科学が融合した存在として描かれていますから。

4Gamer:
 神獣って,そもそも何なのでしょうか。

結城氏:
 地球が持つエネルギーそのもののが,意思を持ったものですね。世界各地の地下に眠っていて,ミスティクルなどの力の源になっているんです。それを科学的に取り込んで作られたのが解放機です。

4Gamer:
 つまり……地球意思的な存在だと?

結城氏:
 広義でいえば,そのようなものですね。「解放少女」シリーズの根底ともいうべき設定の一つなので,あまり多くは語れないんですけど。

遠藤氏:
 シナリオを書く側としては,原子力を意識した部分はあります。利用の仕方一つで拗ねて暴走してしまうような。一つ間違うと,とんでもない数の人間を巻き込んでしまう。

4Gamer:
 なるほど……。神獣がシリアスに描かれている一方で,史跡兵器ではかなり馬鹿をやっていて強烈な印象でしたが,これはどなたのアイデアだったのですか?

史跡兵器「丹後式・イザナギドライバー」。射出機にセットした解放機を設置して打ち上げる超巨大なマスドライバーだ
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結城氏:
 最初は大空翔子が日本全国を回って,水戸黄門みたいに各地の事件を解決して行くという案があったんです。結局それは実現には至らなかったんですけど,その延長で会議中に「お取り寄せ」というキーワードが出て。各地の史跡を兵器にして取り寄せるという設定で,地方感を出そうとしたんですよね。

結城氏:
 そこれで各地の史跡兵器が登場する,地方感を出そうとしたんですよね。

遠藤氏:
 自分がまずアイデアから設定を文字に起こして,皆で案を出し合いながら決めていったんだよね。大江戸式・ツリーキャノンは,確か須田さんのアイデアだったかと。

こちらは須田剛一氏の発案という「大江戸式・ツリーキャノン」。どことなく懐かしい,特撮映画のミニチュア風デザインが魅力的。筆者的には「宇宙からのメッセージ」のガバナスシューターへのオマージュかと思ったのだが……偶然だそうです
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牧野氏:
 アメリカの史跡兵器は,自分のアイデアです(笑)。

遠藤氏:
 地名を入れた「○○式」の後ろに英語名を入れるというネーミングのお約束があって,色々な案が生まれては消えていきました。結果的に,ツリーキャノンとシャチホコ以外は全部入れ替わったんじゃないかな。「地味だ」とか「権利的に無理だ」とか,いろいろあって。

結城氏:
 ちなみにあのデザインはとりあえず設定だけメカデザイナーさん(ヤマモトヒロユキ氏,鈴木勘太氏)に渡して,とにかく好きに描いてもらいました。上がってきたラフに,さらに皆であれこれ注文を出して,製品版のような形に落ち着いた感じです。

遠藤氏:
 ボツになった中で一番凄かったのが,大阪の「浪花式ジェノサイド5」ですね。5体のロボットが出て来て,これが太鼓の音波兵器を使う「タロウ」,福神型ロボット「ビリー・ケン」,道頓堀に沈んでいる某白い老人型ロボット「ミスター・タキシード」,カニ型のベー○ジャ○ー「道楽クラブ」,エネルゴンキューブを食べると300mだけ超高速で移動する「300メートル」といった面々で,会議ではすごく盛り上がったんだけど……瞬殺でした。

(一同爆笑)

4Gamer:
 「ミスター・タキシード」は,デザインが見たかったですねえ。

遠藤氏:
 もちろん絵なんかないですよ!(笑)

結城氏:
 逆にラフまで行ったものは,きちんと全部本編に登場しています。基本的にシリアスな作品ではありますが,「国会議事堂戦艦」とかスットコドッコイな要素も結構あって,その部分をもうちょっと前に出したかった。結果,史跡兵器はかなりハチャメチャなことになってますね(笑)。


目指したのは「対話」の物語


4Gamer:
 さて,そろそろまとめに入らせていただきたいのですが,その前に一つ。本作は,バッドエンドこそあれ,本質的には分岐のない,ほぼ一本道のストーリー構成になっていますね。最初に政治+美少女というテーマを聞いたときには,各ヒロインごとにエンディングが用意されているタイプかとも思ったのですが,そうではない。なぜこの構成を選ばれたのでしょうか。

結城氏:
 そういったタイプのマルチエンディングは最初から考えていませんでした。大空翔子は父親の遺志を継ぐという一本気なキャラクターなので,分岐が発生するとブレてしまいますし。

4Gamer:
 各ヒロインが政治的なイデオロギーをもっていて,誰を選ぶかによって主人公である海堂清人が変わっていくとか,ヒロインも考え方を変えるとった展開も,面白かったのではないかと。

結城氏:
 先ほども話したとおり,海堂清人はニュートラルなキャラクターとして設定していたので,ある意味その展開もありえたとは思います。とはいえ,各キャラの主義思想が変わるというのは,考えませんでした。ヒロイン達は,それぞれが自分の考えに邁進していて,良きにつけ悪しきにつけ結果を得るというのが,本作の骨格なので。ですから,一本道のストーリーになることは,最初から決まっていたんです。

画像集#021のサムネイル/美少女達が織りなす重厚な政治劇――「解放少女 SIN」はいかにして生まれたのか,シナリオの結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,牧野圭祐氏に聞いてみた

4Gamer:
 なるほど。そう言われてみると,作中で主義主張を変えたのは,凪冴ぐらいですか。

結城氏:
 目指したのは「対話」の物語なんです。戦争や政治といった表層は,本作において大きなファクターですが,核となるのは主人公と大空翔子を始めとした閣僚達の関係性。だから,海堂清人が各ヒロインの心の棘を抜いて行くという,オムニバスっぽい構造になっている。そこを外さなければ,ほかの作品とは被るようなこともないだろうと考えていました。

4Gamer:
 確かに本作は,「マブラヴ オルタネイティヴ」(以下,マブラヴ)や「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(以下,ガンパレ)などに似た雰囲気もありますね。

結城氏:
 マブラヴは考えてませんでしたが,後から人に言われましたね(笑)。逆にガンパレは,少なからず意識していた部分があります。

遠藤氏:
 シナリオ執筆に当たって気をつけたのは,なぜ女の子が体をさらしてロボットで戦うのかと言う点です。男性キャラクターがいない世界にするわけにもいきませんし,その理由付けは絶対に必要でした。ちょうど設定の中にミスティクルがあったので,それを活用することにしたんですけど。

解放機はミスティクルを使いこなせる,限られた少女達でなければ使いこなせない。卒業試験で女子大生がエアバイクに乗るのとは訳が違う
画像集#003のサムネイル/美少女達が織りなす重厚な政治劇――「解放少女 SIN」はいかにして生まれたのか,シナリオの結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,牧野圭祐氏に聞いてみた

4Gamer:
 同じミスティクルの能力でも,主人公の海堂清人が持つ能力“ミスティクル・ダイブ”はユニークで面白いですね。

結城氏:
 ミスティクル・ダイブの発想は,羅針盤というフォークロックバンドの「ソングライン」という曲なんです。ソングラインというのは,オーストラリアの先住民であるアボリジニが,歌に込める形で伝承してきた道のことで,これが水や薬草のある場所を示しているんですね。物質的なものを介さずに人に情報を伝えていくというのが面白いなと思って,これがクオリアと結びつき,ミスティクル・ダイブの原型になっていきました。

4Gamer:
 ニンテンドー3DS版でも,爆撃によって世界を緑化するみたいな,スピリチュアルな要素がありましたね。

結城氏:
 ええ。本作は元々科学とアミニズム,自然信仰の融合というのが根っこにあって,ミスティクルの設定はそこから来ているんです。
 あ,あと今後解明されないであろう小ネタをもう一つ。主人公の留守中に,オルガを監視する装置が作中に出てきたかと思いますが,あれはHappy Drummer Cat(通称ヤバえもん)と呼ばれるパチモン玩具が元になっています。日本のFunkotシーンからのネタなんですけど,今後,語る機会もなさそうなので,ぜひ文字にしておいていただけると(笑)。

※ファンコット。ダンスミュージックの1ジャンル。

4Gamer:
 分かりました(笑)。では,もし本作に続編があるとしたらいかがでしょうか。どんな物語になると思いますか。

結城氏:
 大空翔子の話はやり切った感があるので,もしやれるなら,例えば1000年後とか全然違う時代を舞台にしてみたいですね。世界中の神獣が盛り上がっちゃって地球がヤバイみたいな,もっとスケールが大きい話とか(笑)。

牧野氏:
 僕は逆に,同じ時代の違う地域の話が見てみたいですね。ヨーロッパとか,新日本以外の場所がどうなっているのか,気になります。

遠藤氏:
 自分がシナリオを書くんだとしたら,私はミブリの小さい頃の話が書きたいですね。本作にも少しだけ出てきますけれど,もっとじっくりと描いてみたい。彼女は子供の頃の方が,ずっと面白いキャラクターだったと思うので。

投げやりで粗暴な言動のミブリだが,時には繊細な一面を見せることも。だからといってプレイヤーを萌えあがらせるような隙はなかなか見せないあたり,流石と言うべだろう
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4Gamer:
 分かりました。それでは最後に,お三方の今後の活動についての抱負や,読者へのメッセージなどをいただけますでしょうか。

結城氏:
 PlayStation Vita版では,実は細かい所もいろいろ手が入っておりまして,テキスト送りやオートセーブ機能などのシステム周りを改良し,難しい選択肢の難度を下げるなど,初見の方でもプレイしやすいようになっています。新しいイベントCGもありますし,限定版には設定資料も同梱されていますので,ぜひお手に取っていただけると嬉しいです。「解放少女」シリーズも,またその先に進めればと思っていますので,よろしくお願いします。
 あと他社製品で恐縮ですが,最近は「ヒーローバンク」というタイトルも手がけていますのでよろしくお願いします!

牧野氏:
 自分はまず映画の企画が進んでおりまして,ゲームの方も,まだタイトルは言えませんが某タイトルに参加しております。あと,このインタビューで牧野の名前を知った人には,テレビドラマの「新参者」か,映画「さよならドビュッシー」がオススメです。基本シリアスで時々とぼけている作風は,「解放少女 SIN」にも共通するものがありますのでぜひ。
 「解放少女 SIN」はハードな物語ですけれど,先に進めるとどんどん面白くなっていく魅力があります。ぜひ体験していただきたいですね。

遠藤氏:
 PlayStation Vita版移植の話を聞いたとき,「要望があったらどんどん出して」って言われまして,システム周りも含めた長い要望リストを出したんですよ。そしたらその要望が概ね通ってしまったみたいで,かなりプレイしやすくなっていると思います。
 それと「解放少女 SIN」では,ジャンルが代わったことについて色々言われたりもするんですが,私からのメッセージとしては「あれこれ言う前に,いいからプレイしやがれ!」と。

(一同爆笑)

結城氏:
 本編中のデモ風景ばりのアジテーション(笑)。でも,シューティングから変わって「えー!?」というお客さんがいらっしゃるのも分かりますが,まずはプレイしてもらえればと思いますね!

遠藤氏:
 本作はかなり変わった物語ですし,面白い人物もたくさん登場します。一つでも引っかかるところがあるなら,プレイして損はないはずなので,ぜひ遊んでみてください。
 あと,ウィッチクラフトとしては夏から秋にかけてマスターアップが2つ控えておりまして,今後も新作でお目にかかることもあると思います。そのときもまたぜひ,よろしくお願いしますということで。

4Gamer:
 本日はありがとうございました!

解放機・カムイを整備しながら海堂清人と話す大空翔子。こうしたPS3版ではテキストだけで済まされたシーンにも,新たなCGが追加されている
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画像集#014のサムネイル/美少女達が織りなす重厚な政治劇――「解放少女 SIN」はいかにして生まれたのか,シナリオの結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,牧野圭祐氏に聞いてみた
 インタビュー中で遠藤氏が語ったように,「解放少女 SIN」はシューティングゲーム「解放少女」からジャンルを大きく変えたことで,何かと物議を醸し出している作品ではある。しかしそれを理由に本作をプレイしないのはもったいない。本作のキモとなるのはなんといってもその世界観であり,インタビュー中に何度も語られた,シナリオの妙であるからだ。

 謎解きでプレイヤーを引き込む展開は読み応えがあり,政治とそれを取り巻くさまざまな問題が,希望と絶望の絶妙のバランスを以って物語に深みをあたえている。そうした展開を今風のキャラクターでラッピングした手腕からは,制作者側の余裕,あるいは円熟した語り口すら感じられる。
 結城氏というブレのない「核」に加え,牧野氏という若い才能,そして独特のこだわりを持ちそれに魅せられた根強いファンを持つ遠藤氏というクリエイター陣が結集して生み出された本作は,「解放少女 SIN」の世界をより深く,より面白く,広げることに成功したといっていい。

 もちろん,シューティングの続編を望む声はあって然るべきだろう。けれども,それを理由に本作をプレイしないのはもったいない。とくにノベルゲーム好きを自称する人には,きちんと届いてほしいタイトルなのだ。ジャンルを変えた事を不安に思っている人がいるのなら,本作は筆者にとって,シューティングゲームからRPGへと変化したセガサターン「AZEL〜パンツァードラグーンRPG」に狂喜した時ぐらいの「当たり」だったという点を述べ,強く推しておこう。

 ……そしてもし本作が気に入ったのであれば,今回話を聞いた結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,そして牧野圭祐氏の名前をぜひ覚えておいてほしい。彼らはきっとまた,新たなタイトルで我々を楽しませてくれるに違いないのだから。


※来週2014年9月6日掲載の「Weekly4Gamer」にて,本作の出演声優陣によるサイン色紙の読者プレゼントを予定しています。お楽しみに!

「解放少女 SIN」公式サイト


――2014年7月16日収録

 
  • 関連タイトル:

    解放少女 SIN

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