レビュー
メーカー想定売価199ドル(税別)の「RX 470キラー」が持つポテンシャルに迫る
GeForce GTX 1060 3GB
(ZOTAC GeForce GTX 1060 Mini 3GB)
8月後半には,実際に搭載カードの流通も国内で始まっている。
北米市場における搭載カードのメーカー想定売価は199ドル(税別)で,GTX 1060 6GBの同249ドルより50ドル安いGTX 1060 6GB。競合製品との比較だと,「Radeon RX 480」(以下,RX 480)は,国内未発表のグラフィックスメモリ容量4GB版が199ドル(税別),正式に展開済みの同8GB版が239ドル(税別)で,「Radeon RX 470」が同179(ドル)といった格好なので,GeForce GTX 10シリーズの新しい最下位モデルは,AMDがPolaris 10コアでカバーしようとしている市場の“ど真ん中”へ投下されるイメージだ。
GTX 1060 6GB比でSM数が1基少ないGTX 1060 3GB
GTX 1060 3GB GPU。ダイ上の刻印は「GP106-300-A1」となっていた |
GP106のブロック図から,SMを1基無効化したイメージ。GTX 1060 3GBというのはこんな感じのGPUだ |
CUDA SDKに用意されている「DeviceQueryDrv.exe」を実行した結果。L2キャッシュの容量は1.5MBと,GTX 1060 6GBから変わっていない |
ただし,グラフィックスメモリ容量が上位モデル比で半減しているのとは別に,GTX 1060 3GBでは,演算ユニット「Streaming Multiprocessor」(以下,SM)が,GTX 1060 6GBの10基から9基に減っているという違いがある。SMあたりのシェーダプロセッサ「CUDA Core」数は128基,テクスチャユニット数は8基なので,その分だけ,GTX 1060 3GBのプロセッサ規模はGTX 1060 6GBよりも小さくなっており,総シェーダプロセッサは1152基,テクスチャユニット数は72基となる。
一方,動作クロック,そしてメモリ周りの仕様は上位モデルと完全に同じ。L2キャッシュ容量1.5MBで,メモリインタフェースが192bitといったあたりも変わりがないので,上位モデルとの違いは基本的にSM数とグラフィックスメモリ容量のみという理解でいいだろう。
表1は,そんなGTX 1060 3GBのスペックを,GTX 1060と「GeForce GTX 970」および「GeForce GTX 960」,そしてRX 480,RX 470のスペックをまとめたものである。
約175mmとかなり短いZOTAC GTX 1060 Mini 3GB
カード長はMini-ITX未満のサイズ。ZOTACは,この世にある99%のPCケースと互換性があると謳う |
ファンの羽に寄ったところ |
製品名に「Mini」とあることからも想像できると思うが,本製品のカード長は実測で約175mm(※突起部除く)と,Mini-ITXサイズとまではいかないものの,かなり短い。GTX 1060のFounders Editionが同249mmだったので,74mmも縮んだ計算になる。
GPUクーラーは2スロット仕様,90mm角相当のファンを1基搭載するタイプ。ZOTACはとくに何も謳っていないが,羽には整流用なのかエアフロー向上用なのか,4本の溝があった。なお,アイドル時にファンの回転を止める,流行の機能はない。
補助電源コネクタはリファレンスどおりの6ピン。マザーボードに差したときの垂直方向を向く仕様となっていた |
外部出力インタフェースはDisplayPort 1.4 |
GPUクーラーの取り外しは自己責任であり,取り外した時点でメーカー保証は受けられなくなる。それをお断りしつつ,今回はレビューのために取り外して,GPUクーラーと基板をもう少し詳しく見てみようと思うが,GPUクーラーは,大きめのアルミ製ヒートシンクをファンのエアフローで冷やすという,2016年のグラフィックスカードとしては恐ろしくシンプルな構造なのが分かる。なんというか,クーラーだけは数世代前といった風情だ。
GTX 1060 Founders Editionの場合,外排気という都合もあって低背のタンタル電解コンデンサを採用していたのに対し,こちらはタンタル型ではないが,ニチコン製(のように見える)アルミ有機ポリマコンデンサなので,コストを抑えつつも一定レベルの性能は確保しようとしているとは言っていいように思う。
なお,MOSFETにはInfineon Technologiesの「M3058M」「M3054M」を,デジタルPWMコントローラにはuPI Semiconductorの「μP9511P」をそれぞれ採用していた。また,基板裏にはTexas Instruments製電流センスアンプ「INA3221」の姿も見て取れる。
搭載するメモリチップはSamsung Electronics製の「K4G41325FE-HC25」(4Gbit,8Gbps品)。6枚で容量3GBを実現する。
基板上にメモリチップ用の空きランドが2個ある点はGTX 1060 6GBのFounders Editionと同じ。この空きランドが何のために用意されているのかは,相変わらずよく分からない。
なお,カードの動作クロックは,ベース1506MHzでブースト1708MHz。さらにメモリクロックは8008MHz相当(実クロック2002MHz)で,いずれもリファレンスどおりだった。
GTX 1060 6GBやRX 480,RX470などと比較。DirectX 12やVRのテストも実施
また,RX 470カードのTul製「PowerColor Red Devil Radeon RX 470 4GB GDDR5」(型番:AXRX 470 4GBD5-3DH/OC)もクロックアップモデルだが,こちらはAfterburnerに代表されるツールが対応しておらず,リファレンスレベルに動作クロックを引き下げる術が見つからなかった。そのため,今回はカードの定格クロックのままテストを行うことになったため,以下,本文,グラフ中とも「RX 470 OC」と記載して区別する。
なお,RX 480では,最高性能を得るべく,「Compatibility Mode」は無効化した。
テストに用いたグラフィックスドライバは,GeForce用が「GeForce 372.54 Driver」で,Radeon勢が「Radeon Software Crimson Editon 16.8.2 Hotfix」。GeForce DriverもRadeon Softwareももテスト開始後に新しいものが出てしまっているが,これはスケジュールの都合ということでご了承を。
そのほかテスト環境は表2のとおりとなる。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション18.0準拠。ただし,DirectX 12とVR(Virtual Reality,仮想現実)のテストも行う必要があると判断し,今回は「3DMark」(Version 2.1.2973)の「Time Spy」,「Ashes of the Singularity」(以下,AotS),「SteamVR Performance Test」の3つを追加した。
それぞれのテスト方法だが,まずTime Spyはテストを2回行い,総合スコアが高いほうをスコアとして採用する。続いて,AotSはゲーム側に用意されたベンチマークモードで,「Standard」「Extreme」の2プリセットを実行。詳細は,以前行ったテストレポートを参照してほしい。
SteamVR Performance Testは,Valveの「Apertureロボット修理 VRデモ」を利用したもので,視覚忠実度を見るもので,本テストでは,グラフではなく,スクリーンショットで比較する。
テスト解像度は,GTX 1060 3GBがミドルクラス市場向けのGPUであることから,1920
なお,テストにあたって,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。これは,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除するためだ。
GTX 1060 3GBの実力はざっくりGTX 1060 6GBの90%程度か。多くの場面でRX 470 OCを上回る
以下,いずれのグラフも,GTX 1060 3GBを一番上に置き,その下には比較対象のGeForceとRadeonをいずれもモデルナンバー順で並べている。ただし,グラフ画像をクリックすると,より負荷の低いテストにおけるスコア順に並び替えたもう1つのグラフを表示するようにしてあるので,適宜そちらも参照してほしいと述べつつ,テスト結果を順に見ていきたい。
グラフ1は,3DMarkにおけるDirectX 11ベースのテスト「Fire Strike」の結果をまとめたものだ。GTX 1060 3GBはGTX 1060 6GB比で約92%というスコアを示した。シェーダプロセッサ数で言えばGTX 1060 6GB比で9割ということを考えるに,妥当なスコアが出ているとはいえるだろう。
従来製品との比較では,GTX 970より3〜5%程度,GTX 960よりは49〜59%高いスコアだ。競合との比較だと,RX 480の99〜104%程度,RX 470の105〜112%程度であり,ここでは搭載カードのメーカー想定売価がより高いRX 480といい勝負を演じている印象だ。
続いて同じ3DMarkから,Time Spyのスコアをまとめたものがグラフ2となる。ここでもGTX 1060 3GBのスコアはGTX 1060 8GBの約92%。ただ,DirectX 12版テストということで,対GTX 970のスコア差は約8%に開いた。
Radeon RX 400シリーズの2製品との比較では,若干ながら劣勢といったところか。
グラフ3,4の「Far Cry Primal」を見てみると,GTX 1060 3GBのスコアはGTX 1060 6GBの89〜92%程度と,若干開いた。約89%のスコア差となるのが,「ノーマル」プリセットの1920
対GTX 960のスコアも1920
なお,ここでのGTX 1060 3GBは,RX 480に対して勝ったり負けたりで,全体としてはかなり劣勢。RX 470に対しては若干優勢の数字が出ている。
次に,グラフ5,6「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)のテスト結果だが,ARKは典型的な「高負荷になればなるほどメモリ負荷が高くなる」タイトルということもあり,グラフィックスメモリ容量に制限を抱えるGTX 1060 3GBは,「Low」プリセットの1920
しかし,ARKに対してはRadeon Softwareの最適化がまったく追いついていなこともあり,Radeonの2製品はスコアをあまり伸ばせない。結果として,不利が発生しているはずのGTX 1060 3GBが13〜26%程度というスコア差をつけている点は押さえておきたいところだ。
一方,グラフ7,8の「Tom Clancy’s The Division」(以下,The Division)では,Radeon勢の踏ん張りが目立ち,GTX 1060 3GBはRX 470 OCといい勝負で,RX 480には明らかなスコア差を付けられてしまった。
なお,対GTX 1060 6GBのスコアは92〜94%程度で,3DMarkとおおむね同傾向と言っていいだろう。
「Fallout 4」のスコアをまとめたものがグラフ9,10だが,ここでGTX 1060 3GBはGTX 1060 6GBの93〜97%程度,GTX 970の102〜105%程度,GTX 960の145〜162%程度,RX 480の104〜117%程度,RX 470の110〜120%程度という結果だ。Fallout 4は相対的にメモリ負荷が低い傾向にあるので,その分,グラフィックスメモリ容量が少ないという不利が出づらいのだろう。
ちなみに,「GTX 1060 3GBは描画負荷の低い局面における2560
「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)の結果がグラフ11,12となる。
「標準品質(デスクトップPC)」だと,GTX 1060 3GBはGTX 1060 6GBに対して95〜98%というスコアを示す一方,「最高品質」でグラフィックスメモリ負荷が上がると約93%にまで開くという,3DMarkを踏襲した結果になっているのが分かるだろう。また,実スコアで言うと,スクウェア・エニックスの示す「ベンチマークスコアの見方」における最高指標「非常に快適」のラインである7000を,前世代のハイクラスGPUであるGTX 970が超えられないのに対し,GTX 1060 3GBが超えてきているというのはなかなか感慨深い。
なお,これは毎度のことだが,FFXIV蒼天のイシュガルドはNVIDIA製GPUに最適化されているため,Radeonのスコアはやや苦しい。
FFXIV蒼天のイシュガルドのスコアを平均フレームレートベースで見たい人のため,グラフ11’,12’も掲載しておくので,興味のある人はチェックしてもらえれば幸いだ。
グラフ13,14は「Project CARS」の結果だ。Project CARSでも,「初期設定」の1920
Radeon Software側の最適化不足が祟って,Radeonの2製品がスコアを落とすのは,ARKと変わらずだ。
Radeonに最適化されたDirectX 12モードを持つAotSを使い,まさにそのDirectX 12モードでテストした結果がグラフ15,16だあ,GTX 1060 3GBはRX 480の90〜95%程度,RX 470の101〜104%程度というスコアが出た。これを見る限り,GTX 1060 3GBの地力はRX 470以上RX 480以下という理解でいいのではなかろうか。
GTX 1060 3GBとGTX 1060 6GBの力関係はこれまでとほぼ変わらず。GTX 960のスコアがGTX 1060 6GBのレビュー時と異なる傾向を示す理由は,正直,よく分からない。
最後はSteamVR Performance Testの実行結果だが,下に示したスクリーンショットのとおり,GTX 1060 3GBは「平均忠実度」が「8.1(非常に高い)」で,「VRレディ」となった。GTX 1060 6GBの平均忠実度は「8.8(非常に高い)」で,「結果」の説明も若干異なるが,少なくとも「GeForce GTX 1060はVR Ready」とは言って差し支えない結果だろう。
消費電力はGTX 1060 6GBから最大12W低下。GPUクーラーは端的に述べて力不足
GTX 1060 6GBからSMが1基少なく,グラフィックスメモリ容量も半分になっているGTX 1060 3GBだが,消費電力に違いはあるのだろうか。ログの取得が可能な「Watts up? PRO」を用いてシステム全体の消費電力を測定,比較してみたい。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ17のとおり。アイドル時の消費電力は2枚のGeForce GTX 1060カードで同じながら,アプリケーション実行時は1〜12Wと,若干下がっていた。
念のため,GPUの温度もチェックしておこう。ここでは3DMarkの30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともどもAfterburnerからGPU温度を取得することにした。なお,テスト時の室温は24℃。システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラックの状態に置いてある。
結果がグラフ18だ。注意してほしいのは,カードごとに温度センサーの位置やファン回転数の制御方法は異なるため,横並びの比較にはまったく意味がないということだ。なのでここではZOTAC GTX 1060 3GB MiniというカードのGPU温度をチェックすることになるが,ご覧のとおり,高負荷時のGPU温度はかなり高い。
また,筆者の主観であることを断ったうえで付け加えると,クーラーの動作音は,「うるさい」とまではいかないものの,お世辞にも静音性が高いとは言えないレベルだった。コンパクトなサイズを実現したことは評価できるものの,さすがにクーラーは手を抜きすぎではないだろうか。正直,もう少しちゃんとしたクーラーを搭載すべきであるように思う。
製品型番には文句を言いたいが,「RX 470キラー」としての価値は高い
搭載グラフィックスカードの実勢価格は2万6000〜3万3000円程度(※2016年9月3日現在)で,GTX 1060 6GBの同3万2000〜3万9000円程度と比べると,明らかに一段安い。また,RX 470が同2万5000〜3万1000円程度なので,店頭価格はほぼ同じレベルというのも,RX 470の対抗馬として,十分に魅力的だと言えるだろう。
問題は一にも二にも,スペックの異なるGPUに同じ「GeForce GTX 1060」の名が与えられていることだ。ショップの店頭や通販サイトのリストアップ時にエンドユーザーが混乱を来すことは容易に想像できるわけで,悪手としか言いようがない。NVIDIAは「6GB」「3GB」で区別できていると言うのだろうが,「GeForce GTX 1060を搭載したグラフィックスカード」の店頭価格を(スペックの低い下位モデルで)安く見せようという“こすい”やり方には異を唱えたいところである。
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ZOTACのZOTAC GTX 1060 3GB Mini製品情報ページ
NVIDIAのGeForce GTX 1060シリーズ特設ページ
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