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ヒットを生み出す秘訣は「作り続けること」。enishで行われた「スクエニ安藤P講演会@enish」をレポート
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印刷2014/08/06 15:23

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ヒットを生み出す秘訣は「作り続けること」。enishで行われた「スクエニ安藤P講演会@enish」をレポート

 「ぼくのレストラン」「ドラゴンタクティクス」などのヒットアプリを手がけてきたenishは,2014年7月30日,同社大会議室において「スクエニ安藤P講演会@enish」と題した社内勉強会を開催した。今回,それを聴講させていただくことができたので,その模様をレポートしていこう。

 講演者の「スクエニ安藤P」とは,スクウェア・エニックスで「CHAOS RINGS」iOS / Android)シリーズや,「拡散性ミリオンアーサー」iOS / Android)など,スマートフォン向けに数々のヒットコンテンツを生み出してきた,安藤武博氏のこと。
 何でも安藤氏は,ドラゴンタクティクスに衝撃を受けたほどの大ファンであるという。そうした縁から実現した(?)今回の講演会のテーマはズバリ,「ゲームづくりとは」
 安藤氏が自身の経験を通じて身につけてきたゲーム作りの本質を,参加者に向けてレクチャーするというものだ。

スクウェア・エニックスの安藤武博氏
画像集#001のサムネイル/ヒットを生み出す秘訣は「作り続けること」。enishで行われた「スクエニ安藤P講演会@enish」をレポート


「1位を取る」と宣言することが大事


 安藤氏はまず,「ゲームが売れなくなってきていると思いませんか?」と参加者に問いかけつつ,その理由として「みんなが一斉に作り始めているから」という仮説を立てる。

 安藤氏によると,一昔前までのゲームは,専門知識を多く持つ一握りのゲームクリエイターによって作られることが常識だった。しかし現在はインディーを含め,アマチュアでもゲーム制作が行えるようになってきている。これを後押ししているのが,インディーでもプロでも同じようにゲームを作れるプラットフォーム,「スマートフォン」の台頭だ。
 ご存じのとおり,現在,スマホ市場では数えきれないほど多くのアプリが日夜リリースされている。安藤氏はこうした状況をかんがみて,「500本の中で1位になるのと,500万本の中で1位になるのは全然違う」と述べ,一番を取るのが以前に比べて格段に難しくなっていると語る。

画像集#002のサムネイル/ヒットを生み出す秘訣は「作り続けること」。enishで行われた「スクエニ安藤P講演会@enish」をレポート
 例えば,安藤氏がプロデューサーを務めた「CHAOS RINGS」が,iPhone向けにリリースされたのは2010年のこと。今にして思えば,黎明期ともいえるスマホ市場には,同作のようにリッチなコンテンツがほとんど存在していなかった。結果,スマホ市場の中でかなり目立つ存在になったことが,ヒットにつながったのではないかと,安藤氏は分析。
 しかし現在は,スマホ向けのリッチコンテンツも多くなっており,当時と同じやり方でヒットを狙うことは難しいだろうと語る。

 ではゲーム開発者は,これからどのようにして一番を取れば(ヒット作を作れば)いいのだろうか。これについて安藤氏は,「ヒット作を生み出していない開発者は,そもそも一番を取るように作っていない」と一刀両断。
 曰く,人間は目標に向かって進む性質を持っている。会議などで「一番を取りたい」と言う人はいるが,「取る!」と宣言する人はなかなかいない。しかしこの宣言こそが重要で,「取りたい」ではなく「取る!」と目標を高く持つことが,一番を取るという結果につながるのだそうだ。
 これを踏まえて安藤氏は,「一度,『1位を取る』とみんなの前で言ってみるのもいいかもしれませんね」とアドバイスしていた。

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適材適所でチームを編成せよ


 また安藤氏は,ゲーム制作における大切な要素として,チーム編成の重要性を挙げる。
 多くの人は自分と親しい「半径10m以内の人」とチームを組みたがる傾向があるが,これは禁物だそうだ。なぜなら,チームを組んだ相手が必ずしもプロジェクトにおいて必要な人材であるとは限らないからである。
 RPGを作ろうとなったとき,RPGの制作経験がない人がいきなりRPGは作るのは難しい。ゲームには,そのジャンルを作っている人にしか分からない独特の感覚があるので,たとえ優秀なコードを書けるプログラマーであったとしても,経験がない限りはなかなか厳しいものがあるのだという。

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 そこで必要になってくるのは,適材適所で人材を選択すること。つまり,セクションごとに特化した能力を持つ人材を集めることが,何よりも大事なのだそうだ。
 「1位を取る」と決めたら,1位を念頭においたチーム作りを心掛ける。安藤氏は実際,そういった姿勢でCHAOS RINGSのチーム編成や開発を行ったそうである。
 さらに安藤氏は,「親しい人だから」という理由でチームを組んでも売れていた時代はあったが,それはとうに終わっていると断言。
 外注スタッフと一緒に仕事をすることが当たり前になってきている昨今,時には外注として,enish以外のスタッフと組むこともあるかもしれないが,常に適材適所を念頭に置いてチームを編成してほしいと,安藤氏は繰り返し述べていた。

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 しかし,社内のスタッフと違い,外注のスタッフが優秀かどうかを見極めるのは難しい。これについて安藤氏が述べた解法は単純明快。そのスタッフがこれまでどのような作品を作ってきたかを聞いてみるのがベストであるという。
 過去に携わったゲームを遊べば,その人がどれくらいの能力を持っているのか把握できるし,スタッフロールに名前も出てくるので,最もシンプルで分かりやすいとのことだ。
 さらに,相手がどんな作品を作ってきたのかが分かれば,「この人ならここまでやってくれるだろう」という目算も立つし,実際に作ってから相手の能力を評価するという手間も省けると付け加える。
 何でも安藤氏自身,相手を調べることを怠ったばかりに,RPGの制作なのにアクションゲームしか作ったことのない人が配置されてしまった……といったこともザラにあったそうだ。


作り続けることが,ヒットにつながる


 講演会の後半,安藤氏は“ゲームの価値”についても語る。しかしそもそも,ゲームにおける“価値”とは何を指すのか。
 参加者からは,「ゲームが面白い」「カッコイイ/可愛い/綺麗なキャラクターを作る」「勧誘人数(口コミ)」,「継続率」「早く発売する」「今までにない組み合わせのないものを作る」「斬新な体験を与える」「直感的に分かるシステム」「中毒性がある」など,さまざまな意見が,それぞれの置かれたポジションから飛び出す。

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 確かにこれらの要素は重要だし,筆者も聴講しながら同意していた。しかし,ここで安藤氏が発した言葉は意外なものだった。それはゲームにおいて,上記の要素は絶対条件とは限らないということだ。

 安藤氏は,自身が携わった拡散性ミリオンアーサーを例に挙げ,カードのコレクション要素はとびきり面白いようにつくったが,いわゆる“ゲームシステム自体の面白さ”はない作品だと述べる。しかしそれでも本作はヒットした。
 また,世界中で大ヒットしているTPS「Gears of War」は,ゲームとしては優秀だが可愛いキャラクターや綺麗なキャラクターはいない。落ちモノパズルの元祖的存在として今なお多くの人に愛されている「テトリス」には,そもそもキャラクターが登場しない。
 さらに,ゲームとはそのほとんどが,すでにあるもの同士の組み合わせで構成されているため,必ずしも斬新性が求められるわけでもないと安藤氏は続けた。
 ゆえに,参加者から提示された“ゲームの価値”は,全部正解ではあるものの,必ずしも絶対条件ではないと,安藤氏は語ったのである。

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 安藤氏は「(ゲームの価値は)まったく定量化できない」と述べ,これがゲームビジネスのもっとも大きな特徴であり,ほかの業界には見られないことだと述べる。
 つまり,売れる方程式がない,10割ホームランを打つ方法はない,売れる可能性が未知数のものに莫大なお金をつぎ込んでいるにも関わらず,利益を上げなければならない。ゲーム開発者には,そんな無茶とも言えることが常に要求されているのだ。これはかなり苦しいことだし,結果が出なくて辞める人もたくさんいるという。

 では,どのようにすればヒット作は作れるのか。安藤氏は,「ヒットを出すまで作り続けるしかない」と結論づけた。
 ゲーム開発は,暗闇に向かってジャンプするようなあやふやなものだが,それでも諦めずにトライすることが重要なのだという。頑張りや才能は,必ずしも報酬とは比例しないし,ゲームビジネスでは,ある意味それが当たり前となっている部分もある。それが許せないのも分かるが,辞めてしまったら勝つ前に終わってしまう。
 そうならないためにも,「ぜひ作り続けてほしい」と,安藤氏は熱く何度も繰り返した。

画像集#008のサムネイル/ヒットを生み出す秘訣は「作り続けること」。enishで行われた「スクエニ安藤P講演会@enish」をレポート

 さらに,上記に付け加える形で,金銭的な報酬以外に「作っていること自体が報酬」と考えている人もおり,安藤氏自身もその1人であると語る。
 そして,作っていること自体に楽しみを感じられれば,少々つらくても続けられるので,ゲーム制作をしている人には,ぜひともゲーム作りを楽しんでほしいと激励。

 講演の最後に安藤氏は,「開発費をわずかしか使っていないのにもかかわらず大ヒットして,莫大な利益を生み出すことも稀に起こるし,インストールベースで全世界一億人ぐらいの人が一斉に遊んで『面白い!』と絶賛されることもある。これは,“ほかの業界にはないワクワク”だ」と,ゲームビジネスの魅力を語り,講演を締めくくった。
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