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[CEDEC2017]売れないアプリが蘇る。「ジョーカー」「グリモア」の成功事例から見る,アプリボット秘伝の「ダカイ」術
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印刷2017/09/05 16:41

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[CEDEC2017]売れないアプリが蘇る。「ジョーカー」「グリモア」の成功事例から見る,アプリボット秘伝の「ダカイ」術

 神奈川県・パシフィコ横浜で行われた「CEDEC2017」の最終日(2017年9月1日)に行われた講演「ダカイせよ!大型アップデートによる,売れないゲームの再生術」を紹介する。
 共に大幅な売上改善に成功したアプリボットのスマホゲーム「ジョーカー〜ギャングロード〜」iOS / Andoroid,以下,ジョーカー)と「グリモア〜私立グリモワール魔法学園〜」iOS / Andoroid,以下,グリモア)について,同社取締役の黒岩忠嗣氏とゼネラルマネージャーの佐藤裕哉氏,そしてプロデューサーの前田貴文氏が再生の秘密を語るという内容だ。

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「グリモア〜私立グリモワール魔法学園〜」公式サイト



売上とDAUが6倍に! 「ダカイ」という名の再生術


アプリボット プロデュースDiv 取締役の黒岩忠嗣氏。「最近,リリースから半年ほどで終了するサービスが多い」と感じ,今回の講演を決意したという
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 不良マンガのような世界観でアウトロー同士のバトルを楽しむジョーカーと,美少女達とのコミュニケーションを楽しむグリモア。一見するとまったく共通点のなさそうな両作だが,アプリボットによれば,どちらもサービス後の売上げに伸び悩んだタイトルだったという。それが,リリース後の大規模追加開発によって再生を遂げた。ジョーカーでは売上とDAU(Daily Active Users / 1日当たりの利用者数)が6倍に,グリモアは2.5倍になったというから驚きの効果だ。そしてこの大規模追加開発を通した再生術こそが,講演のタイトルにもなっている「ダカイ」なのだという。

  ではこのダカイ,いったいどんな施策なのだろうか。黒岩氏によれば,普通の大型アップデートと違い単にコンテンツを追加するのでなく,「ゲームのメインループや基本コンセプトから見直す」ところに,そのキモがあるという。そしてこのアップデートを,「3か月程度の短い期間で作りきる」ことが重要なのだとか。……生き馬の目を抜くスマホゲーム開発にあっても,これはなかなかのスピード,かつその間も日々の運営は続いていくわけだから,かなりの困難が予想される。
 では,アプリボットではどのようにしてこれをクリアしたのか。実際の事例を見ていこう。

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「誰をバスに乗せるか」。仲間を選んでからコンセプトを決めた「ジョーカー」のダカイ


プロデュースDiv ゼネラルマネージャーの前田貴文氏。当時プロデューサーを担当していたジョーカーを事例にダカイについて解説した
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 不良同士の抗争を描いたギルドバトル型のカードゲームであるジョーカーだが,リリース当初は,ゲーム性を優先するために,“不良的な”世界観はあえて弱めていたという。しかしその結果,この世界観を好む層には難しすぎる内容になってしまい,CPI(Cost Per Install / 1インストールあたりの広告費用)や継続率が悪化。DAUは大きく下がってしまった。そしてダカイを決意する。

 アプリボットには「誰をバスに乗せるか」という合い言葉があるという。最初に仲間を選び,次いで目標を決めていくという姿勢のことだ。前田氏もこれに倣い,「どんなものを開発するか」というコンセプト作りより先に,「誰と一緒にダカイするか」という開発メンバー選びを行った。
 そのためにスタッフと一人一人面談していったのだが,このときの選考基準は,個人のスキルよりも「3か月ほどという短期決戦,かつどうしても成功させなければならない状況下で,最後まで頑張ってくれるかどうか」を重視したという。

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 こうして志を同じくする仲間が集まり,合宿を行った。そこで「新王道不良コンテンツ」というコアコンセプト,そしてターゲット層とキーワードがそれぞれ決定し,これに基づいたダカイ策が提案されていったという。
 例えばストーリーを強化するためには,クエストを無機質なリストで処理するのではなく,マップ型にして街を探索しながらクエストに出会う演出にした。不良は街をぶらついて戦うものなのだ。徒党を組んで戦うギルドバトルだけでなく,個人でもNo.1を目指せるように1対1のタイマンを実装した。さらにキャラクターを着飾れるアバター要素も取り入れ,アバターと強さを連動する要素も追加した。キャラクターの魅力を知ってもらうために,マンガの連載もスタートさせた。リリース時もマンガRPGを名乗ってはいたが,それはマンガ的演出でしかなかったのだ。

コアコンセプト……「新王道不良コンテンツ」。不良ゲーム好きというより,不良好きが楽しんでくれるコンテンツを作る
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ターゲット層……王道不良マンガ好きがカードゲーム好きとは限らない。チームの絆を大事に,難しいことが好きじゃない人
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キーワード「ストーリー」……不良の世界に浸れるストーリーと没入感を重視,拡充する
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キーワード「No.1」……個人がNo.1を目指していく様が不良コンテンツの魅力。これまでのギルドバトルでは,チームとしてNo.1を目指すことはできたが,個人で目指すものではなかった
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キーワード「キャラ」……不良のキャラクターは魅力的でなければならない。リリース時はカードを集めて抗争するだけだったが,キャラクターに興味を持ってもらうべく,魅力アップを狙うことに
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 こうした多岐にわたる施策を短期間で行うダカイでは,ディレクター1人がすべての権限を持つのは現実的ではない。作業量の問題もあるし,すべてのテーマについて同じようにチェックできるわけではないからだ。
 そこで導入されたのが「ユニット制」だ。ユニットとは,各種の機能を開発するため編成された3〜5人のチームで,それぞれが「リーダー」によって束ねられる。リーダーは,ユニット内におけるプロデューサー兼ディレクター的な権限と責任を持った人物で,担当する機能についての決定権が与えられる。サーバーエンジニアがクエスト関連のリーダーになるなど,職種にとらわれない柔軟な任命が行われ,必要となる機能別に,小規模開発チームを編成した体制がとられた。

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 そして,ディレクターやプロデューサー達はリーダー達のフォローに集中する。具体的には,「自分の知らない間に勝手に物事が決まっていた」というモチベーション低下を防ぐために情報共有を行い,働きすぎないようにするなどの調整業務に徹する役割を担うこととなった。
 3か月の短期決戦とはいえ,実際には開発中に迷いが生じてしまうこともあったという。こうしたブレは放置すると危険なのだが,ジョーカーではターゲット層と同様の個性を持つ,取締役CCOの竹田彰吾氏が,その調整役にあたった。コンセプトが揺らいだ時は「竹田氏がプレイするか否か」を判断の基準にしたという。

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 また短期間でチームを作り,ダカイに伴う諸問題を解決するためには,「本音で話すこと」も重要だったという。ことあるごとにファミリーレストランへ行き,腹を割ったミーティングをしたため,ダカイが終わるころには20人のスタッフが合計で100kgほど太ったというから,いかに頻繁だったかがうかがえる。ダカイ後,DAUは6倍にアップしたのだから,太った甲斐もあったというものだ。

ダカイ後のゲームサイクル。新要素の「アバター」「タイマン」「ストーリー」「マンガ」が大きな影響を与えていることが分かる
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 最後に前田氏は,ジョーカーにおけるダカイのポイントを次の5つにまとめた。短期決戦向けの手法として,学ぶべき所は多いのではないだろうか。

  1. 小さな改善ではなく,もう1本ゲームを作るくらいの大胆な開発をする。
  2. ビジョンを共有するメンバーを集め,何を誰のために作るかすりあわせる。
  3. リーダーに権限や責任を与え,プロデューサーやディレクターはフォローに徹する。
  4. ターゲットがブレないようにする方法を決めておく。
  5. とにかく動き,本音で話すこと。

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「ジョーカー〜ギャングロード〜」ダウンロードページ

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「バディ」とともにユーザー体験を変えていった「グリモア」のダカイ


プロデュースDiv ゼネラルマネージャーの佐藤裕哉氏
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 前田氏の成功を踏まえて行われたのが,佐藤氏が担当したグリモアでのダカイだ。

 2014年8月にリリースされたグリモアは,初日にセールスで142位を記録するなど,好調な出だしを記録している。手応えを感じた佐藤氏は費用を掛けてたくさんの広告を出したが,DAUが増えないうえ,4か月目には売上もダウン。プロジェクト続行も難しくなったことから,ダカイを決意したという。

 ダカイにおいては「ユーザー」「運営メンバー」「ダカイ責任者」の熱量が大事であり,これはゲームに限らず,すべてのサービスに当てはまるのではないか……と佐藤氏は語った。プレイヤーが愛してくれなければどんな改善を行っても無駄だし,プロデューサーの熱量だけが高くても成功しない。また,責任者が確信を持っていなければダカイをやり切れないというわけだ。

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ダカイにおいて,原因分析や体制の改善,事業戦略の策定や気合いといった要素は,大事ではあるが最重要ではないという
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「ユーザー」「運営メンバー」「ダカイ責任者」の熱量が揃っていたからこそ,役員会でダカイが承認され,またうまくいった
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 グリモアでダカイを進める上では,運営体制とゲーム内容,それぞれの課題点が洗い出された。まずは運営体制について,佐藤氏1人では運営とダカイの両立が難しいことが判明。黒岩氏を「バディ」に選び,佐藤氏は運用チームを,黒岩氏は開発チームを率いることになった。

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 アプリボットでいうバディとは,「同じ視点で背中を預けて戦える仲間」を指す。役職とは別であり,同じ仕事をする仲間というわけではない。ディレクターがデザイナーをバディにしてもいいし,それがエンジニアやイラストレーターでもいい。この場合,「グリモアを良くしていきたい」という視点を同じくしながら,佐藤氏とは別の領域を見ることができる人物として黒岩氏が選ばれた形だ。
 佐藤氏が1人で悩んでいたときは何も進まず,自己嫌悪にも陥っていたが,「同じことを考え,違う分野でアクションできることによってエネルギーが2倍どころか4倍,5倍にもなり,物事がすごく進んだ」とのことである。

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 一方,ゲーム内容については,カードの需要をしっかり喚起できていなかったことと,コンテンツ不足という課題があることが分かった。プレイヤーは「キャラクターがカワイイのでカードが欲しい」と感じるものの,それ以外でカードを求める理由が無く,カードを役立てるコンテンツも不足している。そこで「カードを集める重要性を作る」「カードを使って遊べるイベントを作る」「長く遊んでもらうための工夫をする」という目標が定まった。

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 ただ,こうした課題を解決するとしても,「単に解決策だけを入れるだけだとプレイが辛くなってしまうので,ユーザーの体験自体を変えるのが大事だ」と佐藤氏は指摘する。具体的には,以下のようにして体験の変革が行われたという。

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  • カードを集める重要性を作る
  •  デッキの枚数を増やし,カード集めの重要性をアップさせているが,これだけだとプレイヤーの負担が増えるのみで終わってしまう。加えてキャラクター同士の相性が戦闘に影響する「連携スキル」を実装。どのキャラクターを組み合わせればいいかは敢えて告知せず,連携スキル探しで盛り上がることで体験が変化している。
  • カードを使って遊べるイベントを作る
  •  単にコンテンツを増やすだけではなく,プレイヤー同士が戦うイベントを追加して体験を変えている。
  • 長く遊んでもらうための工夫をする
  •  キャラクターとの関係性を示す「親愛度」を実装。同じカードを使うことで上限値が上がるように。加えて,キャラクターとチャットできる「more@」というほかにない機能(後述)を追加して体験を変化させている。

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 結果として,コンテンツを増やしつつプレイヤーの体験を変えることができた。「キャラクターがカワイイのでカードが欲しい」という従来の需要に加え「楽しいからカードが欲しい」「使えるからカードが欲しい」という新たな需要を喚起したわけだ。

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 ちなみに,先の施策の中でもとくに大変だったのがmore@だそうで,これは登場キャラクターとチャットによる会話が楽しめるというもの。「女の子と仲良くなる」ことを表現する上で,「チャットができたら面白いんじゃないか」というアイデアが出され,当時63キャラクター全員との会話が実装された。
 こちらがメッセージを送ってもなかなか既読にならない女の子がいれば,すぐに読んでくれる女の子もいるなど,細かな個性も表現されている。3か月という短期間で63人分もの会話データを用意しなければならず,実現は困難だったが「絶対にやったほうがいい」という情熱でライターを巻き込んでいったという。その1年後には電話ができるようになるなど,グリモアを象徴する機能にまで進化したとのことだ。

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 グリモアでは,こうして3段階に分けたダカイが行われたが,いずれも実装後に売上がアップ。プロジェクト終了の危機を脱したという。「単に解決策を入れるだけではなく,楽しさという付加価値を付けて体験を変えなければ,絶対にダカイはできない」と,佐藤氏は改めて強調していた。

グリモアのダカイは3段階に分けて行われたが,それぞれの実装直後に売上がアップしている
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 最後に黒岩氏は,「ダカイにおいては,『誰と一緒に』『誰のための』ゲームを作るのか……ということに,最後までブレずに向き合ったことが最大の成功要因だったんじゃいかと考えています」と,講演を締めくくった。

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 「不振タイトルを立て直したダカイ」というと何か奇跡のように聞こえてしまうが,実際の施策は,いずれも地道な追加開発の積み重ねによって実現されたものだ。抜本的な改革には,目の前の問題にだけ囚われるのではなく,プレイヤー本位で体験そのものを変えていく必要があるというわけで,その成功は熱量が呼び込んだ必然であったのかも知れない。

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