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[CES 2014]NVIDIAの次世代SoC「Tegra K1」登場で,Keplerはモバイル端末からスパコンまでをカバーするGPUとなる
先に掲載の速報記事と内容的に重複する部分はあるが,あらためて,イベントで語られたTegra K1関連の内容をレポートしたいと思う。
Tegra K1が「デベロッパのジレンマ」を解消する!?
現行製品が「Tegra 4」ということで,開発コードネーム「Logan」(ローガン)と呼ばれていた次世代Tegraの正式名称が“Tegra 5”になるのではと想像していた読者は多いのではなかろうか。実のところ筆者もそうだったのだが,Huang氏の披露した名称は,予想外のTegra K1だった。Tegraファミリーが大きな飛躍を遂げた象徴としての製品名変更とNVIDIAは位置づけているが,「Kepler」アーキテクチャを採用することと関連した動きであることは想像に難くない。
そんなTegra 4までのSoCで統合されてきたGPUコア「Ultra Low Power GeForce」(ULP GeForce)は,DirectX 9世代のものだった。Keplerアーキテクチャを採用する現行世代のGeForceやQuadro,Teslaとは,比較にならないほど古い世代のGPUコアだったわけだ。
それに対し,Logan世代のTegra K1では,現行世代のPCおよびワークステーション,サーバー向けGPUと同じ世代のコアを採用してきた。GPUコア世代のギャップがかなり縮まったのではなく,Tegra K1でいきなりなくなったのである。
NVIDIAは,次世代GPUアーキテクチャである「Maxwell」(マクスウェル,開発コードネーム)でも,Tegra K1の登場によってKepler世代で実現された「モバイル端末からスーパーコンピュータまで同一のGPUアーキテクチャ展開」を踏襲することになる。その意味においても,Tegra K1は同社にとって大きな転換点になったといえるだろう。
Huang氏は,Tegra K1がもたらす飛躍について,「デベロッパのジレンマ」というキーワードを掲げて説明した。
氏の言うデベロッパのジレンマとは,ときに1億ドルを超える巨額の開発費をかけて開発した「フォトリアルなグラフィックスを持つゲーム」を,アーキテクチャの違いがありすぎるという理由により,モバイル端末へ展開できないという問題のこと。Tegra K1は,この問題をクリアするカギになるというわけだ。
速報記事でも述べたとおり,そして予告されていたとおり,Tegra K1で集積されるGPUコアの数は192基となるが,これは,Kepler世代のデスクトップPC向けローエンドGPUである「GeForce GT 630」(※Fermiコア版ではなくあくまでもKeplerコア版)の半分に過ぎない。そのため,絶対的な性能には大きな違いがあることを十分理解しておく必要があるが,機能的には,GeForce GTX 700&600シリーズ搭載のゲームPCやPlayStation 4,Xbox Oneと同じように,Tegra K1はDirectX 11.1(&OpenGL 4.4)世代のゲームタイトルで使われる表現手法を利用できる。確かにこれは,氏のいうジレンマを解消しやすくなりそうだ。
PCやゲーム機用のグラフィックス表現を,モバイル端末では表現できない。それをHuang氏は「デベロッパのジレンマ」と表現した |
Tegra K1の登場により,デベロッパのジレンマは解消され,最新のUnreal Engine 4ベースのゲームも動作するようになるという |
イベントでは,Epic Gamesの新世代ゲーム機向けゲームエンジン「Unreal Engine 4」(以下,UE4)がTegra K1をサポートすると発表され,実際に動作デモも披露された。そのムービーは別途掲載しているので,興味のある人はそちらもチェックしてほしい。かなりのインパクトがあるのが分かるだろう。
[CES 2014]Tegra K1ならDX11.1世代のゲームがここまで動く。「Unreal Engine 4」のデモや実ゲームタイトルをムービーでチェック
また,Huang氏は,Tegra K1の“馬力”がPlayStation 3やXbox 360といった一世代前の据え置き型ゲーム機を上回ることや,Appleの「A7」プロセッサと比較して2.5倍以上もの3D性能を持つこともアピールしていた。
Tegra K1のスペックを,PlayStation 3やXbox 360と比較したスライド。現行世代のゲーム機を超える機能や性能を,わずか5Wの消費電力で実現できるとした |
Tegra K1は,「GFXBench 3.0 GL Gold」の「Manhattan」で,A7比2.5倍以上ものスコアを叩き出すという。A7では動かないUE4のデモも,Tegra K1なら動く |
Tegra K1のCPUコアは4コアCortex-A15と64bit対応2コアDenverの2種類
Denver版Tegra K1。冒頭で示したスライドと見比べてみてほしい |
Tegra K1リファレンス機で動作しているAndroidから「CPU-Z」を実行し,OSが64bitカーネルで動作していることを示したところ |
速報記事でも紹介したとおり,Tegra K1には,ARMの「Cortex-A15」IPコアを4基集積した製品と,ARMv8アーキテクチャに基いてNVIDIAが開発した64bitコア「Denver」を2基集積した製品の2種類が投入される。
Denverは7-wayのスーパースカラ(Superscalar,スーパースケーラともいう)型ということで,ARMアーキテクチャを採用する既存のCPUコアより性能も高いレベルにあると推測される。
今回はCPU性能に関する具体的な情報は開示されなかったものの,Denver搭載のTegra K1は,GPUだけでなくCPU部分の性能にもかなり期待できるのではなかろうか。
ちなみに説明会の会場では,開発中のTegra K1を使ったデモ機が並び,UE4ベースとなるゲーム風のデモや,4K解像度の映像を同時に2画面出力するといったデモが披露されていた。
クリスタルでできたモアイ像を壊すというTegra K1の技術デモ。デモ機材は7インチクラスのタブレット端末を想定したもののようだった |
こちらは4K解像度のシャープ製液晶パネルと接続して,4K表示を行っていたデモ機。Tegra K1は4K解像度を同時に2画面表示できるという |
さて,気になる搭載製品の登場時期だが,Cortex-A15版のTegra K1は2014年上半期,Denver版は2014年下半期となっている。うまく行けば,夏前から盛夏くらいにかけて,第1弾製品を国内でも手にすることができるかもしれない。
Tegra K1 VCMはボードコンピュータになっている。形状からすると,従来のVCMと同じく,1DINタイプだろう。車載用ということで,広い温度範囲での動作がサポートされているはずである |
GPGPUを使って歩行者の認識や死角の探知,走行レーン認識,衝突回避,標識認識やクルーズコントロールなどを実現する「Tegra K1 for ADAS」が利用可能になる |