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クラッシュ・オブ・クラン
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  • 発売日:2012/10/09
  • 価格:基本プレイ無料+アイテム課金
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[GDC 2018]Supercellにおける「ゲームデザイン」では,何が行われているのか? 数々の名作を作ったデザイナーが実例を挙げて語った
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印刷2018/03/24 16:47

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[GDC 2018]Supercellにおける「ゲームデザイン」では,何が行われているのか? 数々の名作を作ったデザイナーが実例を挙げて語った

 「Clash of Clans」「ヘイ・デイ」「クラッシュ・ロワイヤル」など,競争の熾烈なスマートフォン市場を舞台として次々に世界的なヒット作を作り上げていくSupercell。彼らにとって「ゲームデザイン」とはいかなる行為であり,またそこで実際にどんなことを行っているのだろう?

 Game Developers Conference 2018の4日めに行われた「DESIGN IN DEPTH AT Supercell: WHY GREAT IDEAS AREN'T ENOUGH」という講演は,その疑問にある程度の答えを与えてくれるものだった。

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ゲームデザインとは,ジャングル探検である


 登壇したSupercellのTouko Tahkokallio氏は最初に,「Supercellのように小規模なチームにおいてゲームをデザインするとは,チームが一丸となってジャングルを偵察し,探索するようなものだ」と語った。「孤高のデザイナーが遙かなる高みに立って,彼方に見える完成形をチームに対して指し示す」的なイメージとは真逆である。

 その上でTahkokallio氏は「ジャングルを探索するようなものだからこそ,途中で迷子になる可能性もあるし,落とし穴のようなものに落ちることもありえる。これらをきちんと避けながら,なるべく効率よくジャングルの出口までたどり着くなり,あるいはジャングルに住み着いてしまうなりする。これがゲームデザインだ」と指摘した。
 たとえ話では埒が明かないので,実際に氏が携わってきた3本の作品における実例を見ながら,Supercellにおけるゲームデザインを見てみよう。

SupercellのTouko Tahkokallio氏
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農園ゲームの可能性を広げた「ヘイ・デイ」


 Tahkokallio氏がSupercell入社後,最初に携わったのが農園ゲームである「ヘイ・デイ」だ。2012年6月にリリースされたこの作品は比較的「よくある」農園ゲームだが,884日間にわたって売り上げベスト10に入り続けた怪物でもある。Tahkokallio氏は「農園ゲームを作ると聞いたとき,農園ゲームにはまだまだ可能性があるから,いけるだろうと感じた」と語ったが,まさに氏の予想通りの結果が得られた作品だと言えるだろう。

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 さて,この「ヘイ・デイ」のデザインにあたって,Tahkokallio氏はとくに3つの点について,この場で語った。以下,順番に見てみよう。

(1)タッチパネルに最適化されたUI

 UIについては,絶対的なルールとして,

・プレイヤーの代理人となるキャラクターがメインとなり,基本的にはメインキャラクターが行動することでプレイヤーの操作がゲームに反映される
・直感的な操作が可能
・没入感を阻害するフローティングアイコンは避ける

 という3点が示された。

 プレイヤーが飼育する家畜の状態(子供なのか,痩せているのか,太って出荷可能なのか)は,家畜のグラフィックスそのものを,それに応じた姿に作ることで,直感性を担保している。

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 またUIの基本は「ドラッグ」だという。例えば畑に麦が実っているなら,まずは麦畑のうち1つをタップして,そこからドラッグしていくことで連続的に収穫していけるという仕組みだ。とはいえ,このドラッグ・ベースのUIには,良いところもあれば,悪いところもあるという。

 良いところ:
・世界とインタラクションするにあたって楽しい
・ドラッグしている間に追加で情報を提示できる(種まきをするなら,倉庫に残っている種の数を表示する,など)

 悪いところ:
・「タップ」をなくすことはできないし,操作の精度を保つのが難しい
・UIの階層化が難しい

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(2)経済のバランス維持

 「ヘイ・デイ」に限らず,農園ゲームは農作物を収穫することで経験点と金を得て,経験点によってさまざまな建物がアンロックされていき,金を使ってアンロックされた建物を購入する,といったゲーム構造になっていることが多い。
 従って,もし金の循環がおかしくなってしまうと,ゲームそのものも壊れてしまいかねない(アンロックされた建物がまるで購入できなかったり,逆にアンロックされた瞬間にそれらの建物を購入できたり)。
 となると,「農作物(ないし二次・三次産品)の値段をどのように設定するのか」は,大きな問題となってくる。

 この問題において,「ヘイ・デイ」では「その作物(商品)を得るために必要となる時間を,ゲーム内課金トークンであるダイヤモンドに置き換えて計算することにした」という。その上でさらに,「商品そのものの価格」をダイヤモンドに換算して上乗せする。

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 例えば,「麦×2,卵×2,砂糖×1,60分」によって構成される「クッキー」がどれくらいの価値を持つか,計算してみよう。

 麦1個=2分=ダイヤモンド1個
 卵1個=鶏の餌+20分=ダイヤモンド4個
 砂糖1個=サトウキビ+20分=ダイヤモンド5個
 クッキー=2×1 + 2×4 + 5 + 6(=60分)

 以上により,クッキー1個はダイヤ21個相当ということになった。

 さて,ここで事前に設定しておいたレートをもとにして,ダイヤ21個を金と経験点に変換すると,54金+52経験点となる。よってクエストでクッキーを売ったときに得られる収益は「54金+52経験点」というわけだ。

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 このようにして,それぞれの商品に対して一定のルールで「だいたいの値」が計算できるようにしておけば,「飛び抜けて収益性の高い作物が発見され,あらゆるプレイヤーがひたすらその作物ばかりを作ろうとする」といった事態を,ある程度まで回避できる。
 またゲーム全体のバランスを調整しなくてはならないときは,ダイヤモンドを金/経験に交換するときのレートを調整してやれば,手早くバランスを整えられる。大量の数字を細かく調整しなくても,たった2つの交換レートを調整するだけで,全体のバランスを修正できるのである。

 もちろん,この「だいたいの値」は,どこまでいっても「だいたい」だ。クッキーの例で言えば,製造過程で使用されている「砂糖」は,ほかの商品の製造でも使われることが多いため,どうしてもボトルネックになりがちである。こういった個々の商品における事情までは,上記の方法では感知できないのだ。
 しかしながら,「それはそれで問題ではない」とTahkokallio氏は語る。この「だいたいの値」は,あくまで指標値でしかないからだ。

 実際にゲームとして完成させていく中では,それぞれの商品の(ゲーム内における)特性を加味して,細かな(ときに大胆な)調整を行わねばならない。そこにおいて「例外が出たり,数字の足並みが不揃いになったりするのは不可避」であるとTahkokallio氏は語った。

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(3)手軽な交易

 「ヘイ・デイ」では,プレイヤー間の交易が手軽に行えるようにするというのも,大きな目標だった。そしてその目的そのものは,「うちの畑で採れたものを買ってください」というロードショップ的な機能を実装することで,達成できた。

各プレイヤーはこのような「ロードサイドショップ」を有する。基本的に,フレンドのロードサイドショップしか閲覧できない
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 しかしながらここにおいて,大きな問題が発生する。

 「ヘイ・デイ」はそもそも,プレイヤー個々人に対してクエストが発行され(どのクエストを受けるかはプレイヤーが選ぶ),そのクエストを達成する(=指定された商品を納品する)と,金と経験点が得られるという仕組みである。
 ということは極論を言えば,プレイヤーはほかのプレイヤーに「何かを売る」必要がない,ということになる。なんでもいいから商品はとにかく倉庫に蓄積し,後に発生したクエストでたまたま倉庫にある商品が要求されたら,即納品して金と経験点に変える――ほかのプレイヤーがよほどの高値で買ってくれない限りは,この方針で問題なさそうだ。

 かくして「ヘイ・デイ」では2つの対策が打たれた。

 1つめは,「商品を捨てる」ことができないという仕様である。倉庫に蓄えられる商品の量には上限があるので,プレイヤーは必然的に「自分のショップ」に余った商品を並べるようになる。

 2つめは,アップグレードに必要となるアイテムの発生率に,プレイヤー単位で差をつけるという仕様だ。アップグレードにはABC 3種類のアイテムが必要となるが,これらの出現率をプレイヤーによって異なるように設定するのだ。

 こうして,プレイヤーは3つのグループに分けられる。そして,それぞれのグループごとにABCの各アイテムの出現率を偏らせることで,自然とプレイヤーの間で取り引きが行われるように仕向けたのである。

アップグレードに必要となるアイテムの数はそれぞれ同じだが,プレイヤーグループごとに各アイテムの出現率が異なる
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 なお,「ヘイ・デイ」におけるこの交易システムの長所と短所は,以下のようになるという。

 良いところ:
・売買が簡単に行える
・「必要なものが買えた」「意外と安く買えた」「高かったけど買うしかない」といった個人的な経験を生み出す原動力となる
・ほかのプレイヤーの農園を訪れ,そこで新しい発見をするきっかけとなる

 悪いところ:
・特定の商品を探し出そうとすると難しい
・取り引き板にベッタリ張り付いて転売で儲けるプレイヤーが多くなりすぎると,ゲーム全体での金のバランスが壊れる
・ボットが横行しやすい


概数で戦闘バランスの基礎を作った「Boom Beach」


 次にTahkokallio氏が開発に関わったのが,「Boom Beach」だ。2014年4月にリリースされたこの作品もまた,616日という長期にわたって売り上げベスト10に入り続けた。

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 さて,「Boom Beach」におけるゲームデザインとして,Tahkokallio氏は2つのポイントを取り上げた。

(1)ゲーム世界とマップ

 「Boom Beach」は,「Clash of Clans」で開花したPvPシステムを,さらに発展させることができるのではないかという試みのもと,制作が行われた作品だ。そして,「もっと『世界』が感じられるゲームにはできないだろうか」というのが,大きな目標となったのである。

 というのも「Clash of Clans」は優れたゲームではあるが,「ワールドマップ」的なものが存在しなかった。「ほかのプレイヤーの村を攻撃する」ことを選べば,どこかにある他プレイヤーの村が画面に表示され,そこを攻撃するかどうかを選ぶとゲームが進行するという形だ。またNPCとの戦いは,事実上の一本道になっている。どこにも「大きな世界地図」「世界を探索する」といった要素がない。

 とはいえ,「Travian」のようなマップ構造(MMORPGのように,1枚のマップの上に,多数のプレイヤーがひしめく構造)だと,プレイヤーが途中で増えたときの処理が厄介だ。
 なぜなら一般的に言えば,そうやって「途中参加したプレイヤー」(=周囲に比べて明らかに弱いプレイヤー)は,世界にひしめく強豪達からフルボッコにされ,その段階で多くの初心者はゲームから去っていくだろう。この誤ちを繰り返すのでは,さすがに芸がない。

上がTravianの地図。下がBoom Beachの地図(実際にはここまで建物が込み入ったりはしない)
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 かくして考案されたのが,「プレイヤーのみが,世界における唯一のヒーローである」というアイデアだ。「Boom Beach」世界は邪悪な軍勢の侵略を受けており,ほかのプレイヤーはその邪悪な軍勢に雇われた傭兵なのである(当然ながら,別のプレイヤーXのもとにおいては,ヒーローなのはそのプレイヤーXだけであり,ほかのプレイヤーは全員「悪い傭兵」となる)。

 プレイヤーの基地は,ほかのプレイヤーから直接攻撃されることもあるが,すでに探索した世界のどこかに,ほかのプレイヤーの基地が「発生する」というパターンもある。このような突然の不法占拠(=侵略)に対してプレイヤーは,自分の地図上に発生した他プレイヤーの基地を攻撃して破壊することで,再びその土地を邪悪な軍勢から「解放」できる。言い換えれば,ほかのプレイヤーと干渉できるのは,「誰かの基地が,自分のマップを侵略してきたときのみ」なのだ。

 そして,「破壊」された他プレイヤーの基地は,当面の間,再び「侵略」してくることはない。なのでTravianにありがちな「破壊した村を何度でも襲う」といったことも起きない。

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 この「侵略」という方法を使って,NPCがプレイヤーの世界を不法占拠することもある。ここにいてもプレイヤーが為すべきことは同じで,NPCの基地を破壊すればいい。つまり「Boom Beach」において,PvPとPvEは1枚のマップの上でシームレスに展開されているのである。
 なお,侵略してくる相手の「強さ」はプレイヤーのレーティングを参照して決定されるので,どうやっても破壊できそうにない基地がマップを不法占拠するといったことは,あまり起きない。

 むしろ問題となったのは,「どれくらいのペースで『侵略』が起こればいいか」という点だったという。
 あまりに「侵略」が起きないと,コアユーザーはあっという間にマップ上のあらゆる敵基地を破壊し尽くし「やること」がなくなってしまう。
 逆に,あまりに「侵略」が頻繁だと,ライトユーザーは「1週間ぶりにログインしてみたら,マップが全部敵の基地で埋まっていた」的な状況に追い込まれてしまう。

 最終的にTahkokallio氏は「マップがどれくらい敵基地に占領されているか」によって,侵略の速度を変える仕様を組み込んだという。敵基地が少ないならどんどん侵略してくるし,多いならほとんど侵略してこない,という仕組みだ。

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(2)戦闘バランス

 さて,本質的には「Clash of Clans」同様に,「Boom Beach」もまた「軍隊と要塞を建設し,軍隊を率いて他プレイヤーが作った要塞を攻略する」ゲームである。このため戦闘のバランスは極めて重要なポイントとなる。
 ここでTahkokallio氏が採用した方式は,かなり驚くべきものだった――「ヘイ・デイ」において「商品の価値」を概算したように,「Boom Beach」においても軍隊や防御施設の強さを「だいたいの値」で表現したのである。

 「Boom Beach」において,攻撃する側にはさまざまなパラメータが設定されているが,これらをもとにして氏は「Offense Value」を設定した。防御施設にもさまざまなパラメータがあるが,ここでも氏は「Defence Value」を設定した。
 これによって,攻撃ユニットの種類とレベルが分かれば,それは「Offense Value」へと一元化して管理できる。防御施設も同様で,どの種類の防御施設がいくつ建っているかが分かれば,「Defence Value」として一元管理できる。

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 そしてこの2つの「だいたいの値」が,プレイヤーの拠点レベルが上がるごとにどう変化していくかを設定した。下に見えるグラフにおいて,最終段階で「Offense Value」が「Defence Value」をかなり下回るのは,「それくらいまで遊んできたプレイヤーであれば,より小回りの効く攻撃ユニットを巧みに操作することで,多少の戦力差は克服してしまうため」だそうだ。

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 この「Defence Value」は,NPCの要塞を自動生成する際にも利用されている。要塞の雛形となるものはあるので,それを元にして,NPCのレベルを踏まえて「Defence Value」を設定し,そこから逆に「どんなレベルの,どんな防御施設があるか」を決めていくというわけだ。

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 「Clash of Clans」ないし「Boom Beach」(あるいは,そのほかの基地制作ゲーム)を遊んだことがある人であれば,この「Offense Value」や「Defence Value」という考え方を見ると,「本当にそれでバランスが取れるのか?」と思うだろう。
 実際,軍隊は適切な順番で,適切な場所に配置しなくては,その真価を発揮しない。また防御施設にしても,相互に連携が取れるような配置であるかどうかによって,堅牢さはまるで変わってくる。また,特定の防御施設と軍隊ユニットの間で,相性によって強弱がハッキリと出ることもある。
 なのに,それらすべてを無視して,ユニット単体のステータスから1つの値を算出し,それを合計するだけという「雑な方法」で,バランスが取れるなどということがあるのだろうか?

 この疑問に対しTahkokallio氏は,「とっかかりとしては,これで十分だ」と語った。
 「ヘイ・デイ」もダイヤモンド換算で最終データにまで到達するわけではないように,「Boom Beach」の「Offense/Defence Value」もそれがそのまま最終的な戦闘バランスを決めるわけではない。
 これらの数値はあくまで「まずはこうしましょう」という指標として使うものであって,当然ながらその先には入念なテストプレイと調整が待っている。ただその最初の一歩を刻むにあたっては,この程度の雑な数字であっても,「必要十分に正解に近いところ」からスタートできるというわけだ(余談だが,鈴木銀一郎氏も「ゲームにおいて数値を決めるときは,まずはデザイナーが「えいや」と決めてしまうしかない。調整はその後でするべき」と語っている)。


イテレーションがUIデザインを支配した「Brawl Stars」


 最後に登場したのは,氏が関わった最新作となる「Brawl Stars」だ。このゲームは2017年6月にリリースされている。ゲームとしてはMOBAをモバイルに持ってきたような感覚の作品と言えるだろう。

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 さて,ここでTahkokallio氏は2つのトピックを抜き出した。これも順番に見ていこう。

(1)ヒーローの成長

 「Brawl Star」はMOBA系のゲームなので,プレイヤーは1人のキャラクター(ヒーロー)を選んでゲームをプレイすることになる。
 けれどここにおいて,この手のゲームでは起こりがちな問題が,「Brawl Stars」でも発生した――プレイヤーが「お気に入りのヒーロー」ばかりを使いたがるという問題である。

 理由は簡単で,

・負けるとレーティングが下がる(なので使い慣れたヒーローを使いたい)
・1人のヒーローをずっと使い続けたほうが,そのヒーローに習熟できる
・アップグレード要素は1人のヒーローに集中させたい

 などなど。要は「勝ちたい(負けて何かを失いたくない)」という気持ちが高まれば高まるほど,プレイヤーは1人のヒーローに執着しがちになるのだ。同じことは「クラッシュ・ロワイヤル」ですら部分的に見受けられると,Tahkokallio氏は指摘する。

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 この問題に対しては,「ゲームモードによってヒーローの種類による有利不利が出るようにして,なるべく万遍なくヒーローを使ってもらう」などの対策が打たれた。なかでも大きな対策は「トロフィー(=レーティング)をヒーローごとに管理する」「プレイヤーのトロフィーは,すべてのヒーローが有するトロフィーの合計値」だとTahkokallio氏は語った。

 これによって何が変わったのか?
 ここには,重要な仕掛けがある。ヒーローが戦闘に勝利したことによって得られる・失うトロフィーの量を,今使ったヒーローが有しているトロフィーの量によって,変化させるようにしたのだ。

 具体的に言うと,例えばヒーローの保有するトロフィーが1〜19個の間は,戦闘に勝つとトロフィーが+6されるが,負けてもトロフィーを失わない。つまり最低でも4回はノーリスクで新ヒーローを使えるのだ。
 このことは,多少ヒーローを使い込んでも変わらない。保有トロフィーが20〜39個だと,勝利で得られるのは6個,敗北で失うのは1個。まだまだ「痛い」と言うには程遠い。
 この傾向は,トロフィーが100を超えるまで続く。
 トロフィーが100を超えるところで,勝利によって得られるトロフィーは4個だが,敗北によって3個トロフィーを失うというバランスになる。従って,1勝するまでに2敗したら,トロフィーは赤字になる。
 これによって,「Brawl Stars」ではプレイヤーにより幅広いヒーローを使ってもらうことに成功しているという。

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 なお,ヒーローごとにトロフィーを設定したことによる長所と短所は,以下の通り。

 良いところ:
・新しいヒーローの使い方を学ぶにあたって,ストレスがない
・新しいヒーローをアンロックした直後には,勢いよくトロフィーが増えていく

 悪いところ:
・UIにしても,ゲームプレイにしても,複雑

(2)UI設計

 ここまでは,さまざまにクレバーな方法でゲームをデザインしてきたTahkokallio氏だが,「Brawl Stars」のUI設計は当初,「これはそんなに苦労しないでしょ」と考えていたという。結局のところ,「Brawl Stars」はモバイルゲームであり,タッチパネルで遊ぶにふさわしい操作系を構築すればいいからだ。

 というわけで最初に作られたのが,
・画面は横向き
・タップで移動
・スキルは自動的に発動

 しかし,このバージョンは「ゲームが浅い」として却下された。

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 というわけで次に作られたのが,
・画面は横向き
・タップで移動
・オート射撃
・スキルはスキルボタンで発動

 このバージョンは「なんだかちゃんと操作できない」として却下された。

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 次に作られたのが,
・画面は横向き
・タップで移動
・オート射撃
・スキルは照準してボタンで発動

 このバージョンは「まだ操作できている気がしないし,いろいろと誤射が起こる」として却下された。

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 いよいよ深みにハマってきたTahkokallio氏のチームは,こうなったらトコトンやるということで,プロトタイプの量産に入る。何はともあれ毎回「ちゃんと操作できていない」と言われるからには,「ちゃんと操作できている感」こそがゴールになることは,分かっているのだ。
 チームはさまざまな移動系を試み,さまざまな射撃UIを試み,いろいろとやり尽くした結果,以下のような操作系に行き着いた。

・画面は縦向き
・ドラッグで照準
・タップで移動

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 これはイケてるということで,いよいよ最終的なテストに出すことになる。が,まだ不安が残る部分もあったので,上のバージョン以外に3バージョンを同時にテストに出すことにしたのだ。

 結果,A案「ドラッグで射撃,タップで移動」とB案「ジョイスティックで移動,タップで射撃」の2案が生き残った。

 ならばABテストだということで,この2つの操作系でテストを開始したところ,なんたることか,統計的にはAとBの間で有意な差が見られなかったという。Tahkokallio氏はこれを「データの取り方に問題があったのかもしれないし,操作系よりも,もっと深いレベルで何か印象に強く残ることがあったからかもしれない」と語ったが,ともあれ1つの事実だけは残った――多くのプレイヤーは,ジョイスティック版に切り替えてプレイするようになったのである。

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 かくしてジョイスティックに向けて最適化するため,再び画面は横向きになり,一方でスクロール方向は縦向きが維持された。ここに至ってついに「Brawl Stars」のUIを巡る旅は終着点を見たのである。

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それぞれのジャングルに,それぞれの掟がある


 講演の最後にTahkokallio氏は「だいたいの値を算出しておくと,とても便利」「ゲームデザインはジャングル探検のようなものだと言ったが,ジャングルにだってさまざまな種類がある。それぞれのジャングルにふさわしいやり方を見つけなくてはならない」と語った。

 実際,「大胆な数値設定で大枠を絞り込んで,そこから微調整でバランスを整える」という理知的なやり方を活用してきたTahkokallio氏だったが,「Brawl Stars」のUIジャングルにおいては,樹海に迷いかけていた。だがそんなときでも「愚直に何度でも作り直す」ことによって,スタート地点からは想像もつかない「あるべきゴール」へと到達できたのだ。

 常に愚直に手を動かし続けるのが正解ではないが,ときには愚直にひたすら手を動かすしかないこともある。そして,そのどちらもが不正解ということだってあるだろう。だからこそ人は何度でもゲームを作りたくなるのではないか――そんなことを感じさせられる講演だった。

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