インタビュー
「ロードス島戦記オンライン」は原作の幕間を埋める作品になる。原作者水野氏と運営プロデューサー加藤氏へのロングインタビューを掲載
作家・水野 良のこれまでとこれから
4Gamer:
ロードス島戦記の成り立ちについて,すこし昔話をお聞きしたいのですが,元々はコンプティーク誌のリプレイ連載のために,水野先生が温めた世界観を使われたのがきっかけなんですよね。
そうです。今で言う「ロードス島伝説」の世界観を作っていて,それをベースにしてリプレイ連載用の設定にしました。安田さんから,D&Dのリプレイの紹介文を書くから誰かゲームマスターをやれないかと言われたんだけど,うちらのゲームサークルでルールを覚えているのが,もう僕しかいなかった。
4Gamer:
ええっ。その頃って,日本語版がようやく発売されたかどうかという時期ですよね。それなのに,ほかに誰もいなかったんですか?
水野氏:
ほかの人達は,みんな「アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下,AD&D)を英語版で始めていたので「いまさらD&Dとか言われても」って感じだったんです。僕はそのときたまたまD&Dを勉強していたんですよ。英語の分量が手頃だったので,友人と遊ぶのにいいかなって。
4Gamer:
それで,そのときにロードス島の設定を使ったと。
水野氏:
ええ。やはり物語性は必要だと思うし,背景も決まっていないとファンタジーの魅力が伝わらないと思ったんです。ですから,TRPG用の汎用世界として作っていたロードス島を使いました。
4Gamer:
ではアレクラスト大陸を含むフォーセリア世界は,そのあとから生まれてきたわけですね。
水野氏:
そうですね。後から広げて作った世界です。ただ,フォーセリアとは別の,もっと概念的な世界として,ソードワールドという世界観はありました。ロードス島は,そのうちの一つだったんです。
4Gamer:
なるほど。ではリプレイを始めるにあたり,ロードス島伝説から見ると後の時代,つまりロードス島戦記の時代を舞台にしたのは,なぜだったのですか。
水野氏:
魔神戦争の時代だと,設定が多すぎてゲームマスターの語りばかりになってしまうと思ったんです。TRPGはプレイヤーに自由に遊んでもらうゲームなので,ゲームマスターがぐだぐだ自分の設定を語るのはいかがなものかと。それに後ろの時代であれば,英雄も設定しやすいですし。
4Gamer:
それが六英雄だと。つまり以後の時代の物語は,リプレイの中でプレイヤー達が自由に行動した結果から生まれてきた物語だったわけですね。
水野氏:
ええ。例えば「灰色の魔女」の最後のウッド・チャックの行動なんて,ゲームマスターは用意してませんでしたからね。サークレットを壊してエンディングという予定だったんです。そういう意味ではプレイヤーに感謝ですね。
4Gamer:
25周年記念で小説の新装版も発売されましたが,ここで大幅な加筆修正も行われているとのこと。主にどんなところを直されたのでしょうか。
水野氏:
小説として読みやすくするために,文章を整えたうえで,それとなくキャラクターの心情を加筆させていただきました。昔のはあまりに心情描写がスカスカでしたので,そこをもう少し小説寄りにした感じですね。
4Gamer:
ああ,なるほど。
水野氏:
と言っても,結構書き直したので,新作を書くよりも時間がかかってしまいました。あと設定的に矛盾が生まれてしまっているところも,できるだけ正すようにはしてあります。ただ,そもそもロードス島は作品として世に出すつもりがあったわけではなかったので,設定や時系列は,もうスパゲッティ状態なんです。世界の構造自体がダンジョンぽくなってしまっていて,今さらどうしようもない部分もある。なので,まだ残っているものもありますけど。
4Gamer:
これはファンとして聞いてしまって良いものか迷うのですが……ロードス島の物語は,もうすべて完結してしまったのでしょうか。続編,あるいは別の時代でもいいのですが,そのあたりの構想はいかがですか?
水野氏:
……実はね,一つアイデアはあるんです。だけど,それが作品として面白くなるのかどうか,今のところ確信が持てないというのが正直なところです。やっぱりロードス島を書くというのはプレッシャーもありますから。
4Gamer:
おお。ちなみにそのアイデアというのは,ロードス島戦記の前の話ですか,それとも後の話でしょうか?
水野氏:
かなり後の時代の話ですね。ただ,さっきも言ったように設定などが,スパゲッティ状態になっていますから,あまり世界観を崩すようなこともしたくない。例えば,これは今のアイデアとは完全に別の話ですが,ディードリッドに子供がいても良いと思いますか?
4Gamer:
それは……どうなんでしょう。個人的にはぜんぜんアリだと思いますけど。
水野氏:
そういう人ももちろんいるでしょうけど,ショックを受ける人も少なからずいると思うんですよ。ロードスはなんだかんだいってもファンタジー――おとぎ話でもあるわけだから,いつまでも幸せに暮らしました,という終わり方をするのが様式美というものです。ですから,その後を書くということにはどうしても抵抗があります。
4Gamer:
分かりました。では継続中のほかのタイトルについてはいかがですか。直近では,7月に「グランクレスト戦記」の3巻が出たばかりですが。
水野氏:
あれは順調でして,10月か11月くらいに,4巻が出せると思います(※編注:2015年1月20日に発売予定)。
4Gamer:
個人的に気になっていたのですが,あの作品ってトラビアン系の,いわゆる村ゲーをベースにした世界観ではないですか? ほかの君主(ロード)のカウントを奪って,自分のカウントを増やしていくあたり,すごくそれっぽいといいますか。
水野氏:
ああ,それはそのとおりです。企画当時「ブラウザ三国志」を遊んでいましたし,そもそもグランクレストの世界設定は,ブラウザシミュレーションゲームとして考えていた企画だったんです。
4Gamer:
ああ,やっぱりそうなんですね。
水野氏:
ですから,設定がゲーム的に非常に分かりやすくなっています。でも,今やこのジャンルは飽和状態になってますし,もういいかなって(笑)。なので,それをTRPGの世界観としてシェアード・ワールド化したのが,今のグランクレストです。
4Gamer:
かなり多くの作家さん達が参加されているとお聞きしています。
水野氏:
僕がやりたかったのは,混沌(カオス)を取り込んだアーティスト達が,崩壊していく世界で戦うスーパーヒーローものだったんだけど(笑)。矢野俊策さんからの提案で,混沌を浄化する能力としてのクレストの概念が追加されて,今の形になっています。
4Gamer:
水野先生は,やっぱりゲーム的なところから設定を考えられることが多いんですか?
水野氏:
ええ。実は「スターシップ・オペレーターズ」だって,ゲームにしたいと思って設定を考えていたくらいですから。あれは宇宙船のデュエルがしたくて……宇宙船の装備を整え,クルーを集めてというような。萌え要素のために女の子も加えたんだけど,企画が通らなかった(笑)。今でもいけそうな気がしますけど……ゲームオンさんで,何とかなりませんか?
加藤氏:
えっ? ええっ……ちょっと相談してみます。
水野氏:
実現したら遊びますよ。
4Gamer:
えらい無茶振りですが,そちらも期待しています(笑)。あともう一つだけ,これは個人的に大好きなシリーズなのですが……ソード・ワールド短編集収録の「羽根頭冒険譚」(以下,羽根頭)の続編はいかがでしょうか。
水野氏:
それも企画はありますよ。問題は,僕に書く時間がないことだけで(笑)。最終話のアイデアはあるので,彼らの出会いから終わりまでをまとめて,1冊できちんと出したいなと思っているんです。
4Gamer:
なんと! それは楽しみです。
水野氏:
ライスとリーライナの答えまで含め,しっかりとした結末を描きたいなと思っています。とかいいつつ,僕のなかでもまだリドルの答えが出てないのですが。
4Gamer:
あ,あれ? ダメじゃないですか!
水野氏:
だって人の不幸を見ることが自分の幸運なのかというテーマに対して,何らかの答えを示さなきゃならないわけじゃないですか。宗教的な命題で突っ走っている話なので,最終話も宗教的な命題を絡めるしかなくて,どうしよう……みたいな(笑)。でもプロローグ+これまでの5編+最後の短編+エピローグとなると,結構分厚くなりそうだよね。
4Gamer:
個人的には,ものすごく楽しみです。ロードス島戦記ももちろん好きですが,途中から登場人物達のレベルが高くなりすぎてしまいますから。感情移入はもう難しくて,英雄譚として楽しむしかない。
水野氏:
羽根頭シリーズは,画期的にレベルが低いですからね(笑)。僕は「インフレでしか小説が書けない」というのが,自分でも気に入らなくて。魔法で解決するなら,小説じゃなくていい,ゲームでいいじゃないですか。あの世界に生きる冒険者の多くは,強くもなければ勇気もない。成功だって約束されていない連中です。そんな中で,ただ生きるために冒険して,日々事件に巻き込まれる。あのシリーズは,それを書いてみたかったんですよ。
4Gamer:
MMORPGだってレベルの低い頃が,一番楽しかったりしますから。行く先すべてが見知らぬ土地だったりして,強いモンスターから逃げ回ったりとか。
加藤氏:
そうなんですよね。自分はどうやれば強くなるのか,いろいろ試行錯誤するのが好きですね。高レベルな人の背中を追いかけながら,どう育てればいいか悩んだり。
水野氏:
どんどんパワーアップしていくキャラクターを見るのも楽しいよね。レベルの高いところまでいっちゃうと,もうそれ以上は全然強くならないですから。
加藤氏:
最終的に育ったキャラで何をすればいいのか――エンドコンテンツはMMORPGの永遠の命題ですね。
4Gamer:
「ロードス島戦記オンライン」がどうなるか,楽しみにしたいと思います。では,最後に読者に向けたメッセージをお願いします。
加藤氏:
はい。「ロードス島戦記オンライン」を楽しみに待っていてくださるファンの皆さんには,なかなか情報をお出しできずに,申し訳ないと思っています。ですが自分自身もロードスファンとして,皆さんに自信を持ってお届けできる内容を目指して,現在開発を進めています。もちろんロードス島戦記を知らない人でも楽しめるMMORPGにしたいと思っていますので,αテストまでもうしばらくお待ちくださいますよう,お願いします。
4Gamer:
αテストで寄せられた意見は,もちろんゲームに反映されますよね。
加藤氏:
もちろんです。反響は今から期待半分,冷や汗も半分ではありますが,いただいた声にはきちんと応えて,サービスに反映できればと思っています。そのときはぜひ,忌憚のないご意見をお願いします。
4Gamer:
期待しています。本日はありがとうございました。
加藤氏の,ロードス島戦記への作品愛が多分に感じられた今回のインタビュー。話を聞きながら筆者もまたロードス島戦記のファンの一人として,期待が増したのだが,一方,作品愛でゲームが面白くなるかというと,それはまた別の話だ。
とくに開発元が韓国メーカーということで,国内のファンの要望をどうくみ上げ,意識をすり合わせを行うかが,運営会社であるゲームオンにとっては課題となるだろう。そして,ファンが納得できるタイトルとして昇華できるかどうかが,今後の重要なポイントになるのではないだろうか。
当初,夏予定だったαテストは,残念ながら実施にはいたらなかったが,加藤氏は改めて,2015年中に行いたいと話していた。加藤プロデューサーの作品愛の力で,どれだけブラッシュアップされてファンに届けられるのか。今後の動きに期待したい。
「ロードス島戦記オンライン」公式サイト
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