インタビュー
「ロードス島戦記オンライン」は原作の幕間を埋める作品になる。原作者水野氏と運営プロデューサー加藤氏へのロングインタビューを掲載
「灰色の魔女」の幕間を語る物語
4Gamer:
クラスの話題からは離れて,シナリオ面についてお聞かせください。先ほども少し出てきましたが,本作の物語は「灰色の魔女」のストーリーをベースに進むとのこと。具体的には,プレイヤーはどのように物語に関わることになるのでしょうか。
まず,原作キャラクターとの関わりあいの中で,仲良くなれるという要素があります。システム的に好感度が用意されていて,それが上昇すると関係性も進んでいくといった感じですね。
4Gamer:
その関係性というのはつまり……例えば恋人同士になれちゃうとか?
加藤氏:
さすがにパーンとディードリットの間に割って入るようなことはできませんけど(笑)。でも,パーンとエトのような友人関係になら,なれるかもしれない。
4Gamer:
関係性が進むと,どのようなメリットがあるのでしょうか?
加藤氏:
それは……いずれお話できると思います(笑)。
4Gamer:
むむ,分かりました。一方で,「灰色の魔女」の物語って,基本的にはパーン達とその周囲だけで物事が進行して,世間には公表されることなく,秘密裏に解決されるじゃないですか。もちろんその間に英雄戦争といった大きな状況も発生するわけですが,そこにプレイヤー達が関与する余地があるのか,というのが気になっているんです。
加藤氏:
そうですね……関わり方の一例を挙げると,ザクソンの村でゴブリン退治をしたあと,パーンが倒れてしまいますよね。それをスレインが看病するわけですが,この治療に必要な薬の材料を,プレイヤー達が集めることになります。
4Gamer:
クエストをこなして薬を作ることで,パーンを助けることができると。小説版では描かれなかった,裏のエピソードというわけですか。
加藤氏:
ええ。そんな風に,原作で語られていない幕間を埋めるようなストーリーが展開していって,パーン達の物語に自然にプレイヤーが絡んでくるようになっているんですよ。
4Gamer:
そういうことなら,プレイヤーが最初に遭遇する強敵は,やっぱりダークエルフになりそうですね。
加藤氏:
ダークエルフは序盤のアランの館が初出になります。ただ,残念なお知らせがありまして……出てくるのは男です(笑)。
4Gamer:
いやいや,そこは原作でも男でしたよね?
水野氏:
ロードス島に出てくる女のダークエルフって,そもそもピロテース(※1)以外にいないんだよね。
加藤氏:
女性のダークエルフもデータは用意されているので,出てもおかしくないはずなんですけどね。あと開発元とも交渉したんですが,結局は豊満なダークエルフになってしまいました……種族の特性上,そんなはずないんですけど。
水野氏:
いや,そこは皆の共通見解としてはアリみたいだよ。先日何人かのラノベ作家とも話し合ったけど,「ダークエルフは胸がでかい」ってのは一致していたし。
加藤氏:
それはもう,結城先生(※2)のお手柄というしかないですね(笑)。でも,普通のエルフが小柄でスレンダーという線だけは,死守させていただきました。
出渕さん(※3)のデザインで,ダークエルフの胸がでかくなるとは思えないからなあ。出渕さんが頑張ってデザインしたものを,結城さんがイラストに起こすときに,さらに頑張っちゃったんでしょうね。
4Gamer:
なるほど(笑)。しかしそもそもの話になってしまうのですが,ロードス島戦記をMMORPGにするにあたり,なぜ「灰色の魔女」の時代を選ばれたのですか。個人的には……魔神戦争の時代(※4)とかの方が合いそうな気もするのですが。
加藤氏:
実はそのご意見,結構いただいているんです。「ロードス島伝説」は泣けるシーンも多くて,僕も好きな作品なんですが……本作ではパーン達の物語を,最初から最後まできちっと描きたかったというのがその答えになるのではないかと。
4Gamer:
魔神戦争の時代って,設定がすごくMMORPG向きじゃないですか? あちこちを普通に魔神達が闊歩していて,しかもエンドコンテンツとしておあつらえ向きの「最も深き迷宮」なんてものまである。
加藤氏:
おっしゃることはよく分かりますよ。でも今回は,コアなファンはもちろんなのですが,先日発売された新装版でロードス島を知ったような,ライトな方にもちゃんとプレイしていただきたかった。そういったこともあって,小説の最初のエピソードをもってくるのが適切と考えました。
4Gamer:
ライト層にもということで,また疑問があるのですが,「灰色の魔女」の時代から先に進むとなると,必然的に英雄戦争から邪神戦争にかけてを描くことになります。モンスターとの戦いはもちろんあるでしょうが,この時代はどちらかといえば人と人の戦いが中心です。つまり,PvPやRvRといったコア層寄りの要素が求められるのではないかと思うのですが,この点はいかがですか。
加藤氏:
PvPや戦争などの要素は,将来的に入れたいとは考えています。ですが,「ロードス島戦記オンライン」という作品には,あまり合わないのでは,とも思っているんです。なので今のところは対人ではなく,モンスター相手のPvEを楽しんでいただきたい。むしろレイドコンテツのような,皆で強力なボスモンスターと戦うコンテンツを優先したいです。
4Gamer:
なるほど。確かにPvE形式で英雄戦争を描くことも不可能ではないでしょうが……個人的には少し残念な気もします。でも,それはそれとして,シューティングスターとのレイド戦があったりしたら熱そうですね。ワクワクしてきます。
※1:ピロテース……ダークエルフの女性でマーモの暗黒騎士アシュラムの部下。OVA版のオリジナルキャラだったが,その後,小説版にも登場している
※2:結城信輝……OVA版「ロードス島戦記」のキャラクターデザイン・総作画監督
※3:出渕 裕……ロードス島戦記の挿絵やイラストを担当。氏の描いたディードリットの耳が長かったことから“エルフ=耳が長い”が日本で定着した
※4:魔神戦争の時代……「灰色の魔女」の物語の約30年前に起こった事件と,それによって巻き起こされた戦乱の総称。魔神王(デーモンロード)が召喚されたことをきっかけに,その眷属達と人間達との戦いが勃発。ロードス中を巻き込む大戦へと発展した。「ロードス島伝説」に収録
初お披露目となるαテストは2015年に予定
4Gamer:
さて,そんな「ロードス島戦記オンライン」ですが,実際に我々がプレイできるのはいつ頃になりそうでしょうか。ニコニコ超会議3では,2014年夏にαテストということでしたが……。
加藤氏:
すいません! 頑張っていますが,夏の実施は残念ながらかないませんでした。楽しみにされていた皆様には大変申しわけなく思っています。本当は,25周年に間に合わせたかったのですが(汗)。
ただ,これはクオリティアップを行うための実施スケジュール変更となりますので,皆様に触っていただくタイミングでは,納得できる内容になっていると思います。ですので,もう少しだけお待ちください。
(※編注:あとでスケジュールについて確認したところ,加藤氏より「αテストは2015年中に実施したいと思っています!」との連絡を受けた。さらなる続報に期待したい)
水野氏:
一番盛り上がってるときに合わせたかったよね。でも,開発元もかなり真剣に,頑張って作ってくれてるみたいなので,期待していてください。
加藤氏:
ニコニコ超会議3で公開した画面からも,現在はかなり変わってきています。イベントシーンにアニメーションが入ったのが大きいですね。
4Gamer:
そのニコニコ超会議3で出したαバージョンですが,反響のほどはいかがでしたか?
加藤氏:
賛否の両方をいただきましたね。否の方は,主に「3Dグラフィックスじゃないの?」というもので……。
4Gamer:
でもファンとしては,その気持ちも分かる気がします。アラニアの王城を下から見上げたり,ドワーフの大トンネルを3Dグラフィックスで探検したりというのは,ぜひ体験してみたい。
加藤氏:
ええ。ファンとしての気持ちは僕自身もよく分かります。でも,2Dグラフィックスで見下ろし型のゲームと,3Dグラフィックスのゲームには,それぞれに良さがあると思うんです。とくにプレイ環境(PCの必要スペックなど)のハードルという意味でも,2Dグラフィックスのゲームには,大きなアドバンテージがありますし。
4Gamer:
確かに,小説から入ってくる人がどんな環境のPCを持っているのかは分からないですし,コアなファンからライトなファンまで幅広い層に遊んでもらおうということなら,比較的処理の軽い2Dグラフィックスという選択は分かります。
加藤氏:
否定的な意見を先に紹介してしまいましたが,これで良かったという意見も多くいただいています。そういう意味では,選択は間違っていなかったという手応えを感じています。古くささを感じる部分は確かにありますが,それをうまく生かして,どこか懐かしさを喚起させるものでありつつ,システム面では新しい要素を盛り込んでいけたらと,今は考えています。
プロデューサーはかなりの「ロードス島戦記」マニア?
4Gamer:
ここからは「ロードス島戦記オンライン」からは少し離れて,ロードス島戦記について広範な話題でお話をうかがえればと思っているのですが……しかし加藤さんは本当にロードスにお詳しいみたいですね。水野先生とは,以前からお知り合いだったのでしょうか。
加藤氏:
いえ,直接やり取りするようになったのは,本作に関わるようになってからですね。もちろん,イベントなどで遠くからお見かけすることはありましたけど。
4Gamer:
ちなみに,加藤さんがロードス島戦記と出会ったのは,いつ頃ですか。
加藤氏:
最初は……中学2年生ぐらいだった思います。当時はすでに(コンプティーク誌上の)リプレイ連載は終了していまして,小説も4巻ぐらいまで出いてたはずですが,自分の場合はアニメからでしたね。
4Gamer:
おお,OVAシリーズですね。
加藤氏:
ええ。たまたま家にパソコンがあったので,使い方を覚えようと思ってコンプティークを手に取ったのがきっかけでした。そこにOVA化の情報が載っていて,イベントがありますというチラシが入っていたんです。そこにリュートを抱えたディードリットのイラストが描かれていて……一目惚れでしたね(笑)。それで作品を読んだこともないのに,イベントに参加してしまったという。
4Gamer:
ああ,その気持ち,分かります(笑)。ということは,OVA発売記念イベントだったわけですよね。もしかして,OVA1巻の映像特典(ロードスの宴)として収録されていたイベントでしょうか。
加藤氏:
ええ,そうです。実はあれ,遠くて分かりづらいんですけど,僕も映っているんですよ(笑)。1話の上映会が行われて,会場で全巻予約すると,水野先生と握手できたという。もちろん,僕も握手していただきました。
水野氏:
へぇ,あれ抽選だったと思うけど,よく当たったねえ。
加藤氏:
そうでした。ほかにも安田先生(※1)や出渕先生,パーン役の草尾 毅さんとディードリット役の冬馬由美さんがいて,握手してもらいました。
水野氏:
あれ,結城先生はいなかったんだっけ?
加藤氏:
あの時は,いらっしゃらなかったですね。確かスケジュールが合わなかったとかで。まあ,そんな感じでアニメから入り,そこから小説やリプレイなども追いかけるようになったというわけです。
4Gamer:
恐らく年齢的にも似た世代だと思うので,気持ちはすごく分かります(笑)。中学生の頃って,そういう感じで一つの作品を入口に,世界がどんどん広がっていくんですよね。
加藤氏:
ええ。そもそも国産のファンタジー小説を読んだのも,ロードス島戦記が一番最初でしたから。そこから海外産など,いろいろな作品を読んでいきました。でもやっぱり根っこにあるのはロードス島戦記ですね。何度も何度も読み直しましたから。
4Gamer:
ということは,テーブルトークRPGにも手を出したクチですか。
加藤氏:
もちろん。良くある話ですが,中学と高校に漫画部……とは名ばかりのTRPG部がありまして。先輩がD&D好きで,赤箱から青,緑,黒(※2)と全部持っていたんですよ。
水野氏:
金箱(イモータル・ルール・セット)はまだ出てない頃だっけ。
加藤氏:
金箱も本国では出ていましたけど,日本版は結局出なかったじゃないですか。でも,先輩達は,辞書を片手に金箱でも遊んでいたみたいです。僕らは,赤青緑ぐらいまでで,結局そこまでは行けませんでした。でもD&Dだけじゃなく,放課後はずっと「ロードス島戦記コンパニオン」や「ソードワールドRPG」で遊んでいましたよ。
水野氏:
よく,足を踏み外さなかったね(笑)。
加藤氏:
えーと,大学に行くまでに,ちょっと時間がかかりましたけど(笑)。ちなみに,仕事で使っている原作資料も,すべて私物だったりします。コンプティーク連載版も,オークションなども使って1986年のものから全部集めました。
4Gamer:
それはガチすぎますね……。ちなみにMMORPGについてはいかがですか。
加藤氏:
自分が初めて触ったのは「ラグナロクオンライン」のβ2のときですね。そのあとに「信長の野望オンライン」がPlayStation 2で遊べるということで,当時のカンスト(レベル50)まで遊びました。
さっきも出てきたバッファーだとかヒーラーだとかのMMORPGのロール分けって,いつ頃からあるんですかね。システム的に確立したのは「Ultima Online」からですか?
4Gamer:
あれは「EverQuest」(以下,EQ)からですね。
水野氏:
ああ,そうなんですね。ずいぶん前にアメリカに行ったとき,猛烈にEQを勧められたんだけど,結局遊ばなかったんですよね。じゃあ,「ファイナルファンタジーXI」(以下,FFXI)がEQに近いのかな。
4Gamer:
FFXIや「World of Warcraft」など,今残っている3DグラフィックスのMMORPGは,ほぼすべてEQの系譜ですね。水野先生ご自身は,FFXIを遊んでいると以前おっしゃっていましたよね(関連記事)。
水野氏:
ええ。友達に勧められて遊んだFFXIが初めてでしたね。でも,あんまりネットゲームは好きじゃないんですよ。オフラインで,自分の都合でゲームをやりたい質なんで,向いてないんです。それでもレベルカンストまでは真面目にやりましたけど。
4Gamer:
FFXIでカンストって……それはかなり遊んでいるのでは?
水野氏:
プレイ時間でいえば年単位になっちゃいますね。最近はさすがにしんどくて,女房の手伝いでたまにログインするくらいですけど(笑)。
※1:安田 均……グループSNE代表でロードス島戦記の原作者の一人。
※2:赤箱……レベルごとのルールブックが,異なる色の箱に入れられて発売されていたため,「赤箱」「青箱」のように箱の色がそのままルールブックの通称になっている
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