複雑怪奇な国際情勢と注文の多い市民を相手に,政権維持を目指そう
ジオポリティカル シミュレータ3 マスターズ・オブ・ザ・ワールド
日本にはかつて国際情勢を「複雑怪奇」と評した政治家がいたが,実際のところ昨今の国際情勢を見ると,第一声として「複雑怪奇」と言いたくなるようなシチュエーションが続発している。
それらに実際に関わっている方々におきましてはご苦労お察ししますとしか言えないのだが,それはそれとして,ゲーマー的観点からはこの手の「複雑怪奇」にはえも言われぬ魅力を感じる。なにしろ筆者は「バランス・オブ・パワー」で複雑怪奇な冷戦構造を熱核戦争に持ち込んだり,「シムシティ」で複雑怪奇な市政を怪獣に踏み荒らされたり,「ハーツオブアイアン」で複雑怪奇な欧州情勢をさらに混沌に陥れたりしてきたわけで,複雑怪奇は,いわば積年の悪友だ。
というわけで,2013年の複雑怪奇な世界情勢をまるごとシミュレートしてしまおうという野心作,「ジオポリティカル シミュレータ3 マスターズ・オブ・ザ・ワールド」(以下マスターズ・オブ・ザ・ワールド)をここで紹介したい。
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「ジオポリティカル シミュレータ3 マスターズ・オブ・ザ・ワールド」公式サイト
なれる! アメリカ大統領
マスターズ・オブ・ザ・ワールドにおいて,プレイヤーは世界175か国のいずれかの国の指導者となり,自分の政権存続を目指すことになる。シナリオによっては政権維持以外に特定の目的が定められていることもあるが,まったく無目的に箱庭的なプレイを楽しむことも可能だ。
進行は「セミリアルタイム」とでも言える方式で,ゲーム時間の単位は1日。基本的には「次に自国が関わる何かが起きるまで時間を進めるボタン」を駆使してゲームを進め,要所要所で内政や外交,場合によっては軍事的な判断を行うという感じだ。もちろん,一時停止はいつでもできる。
操作はフルマウスで問題なく,決してショートカットを駆使して戦う系のゲームではない。どちらかと言えば「じっくり腰を据えて楽しむ」のが基本的なスタイルとなるだろう。
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マスターズ・オブ・ザ・ワールド日本語版はダウンロード販売となっており,印刷されたマニュアルは付属していないが,チュートリアルが十分に丁寧なので,プレイしていて困ることは少ない。……いや,ホントのこと言うと,実際は少なくないのだが,やってみると意外となんとかなってしまうわけで,このあたりの不思議感覚は,あとで詳しく説明したい。
支持率は政権の生命線
さて,マスターズ・オブ・ザ・ワールドをプレイするにあたって最も重要なのは「支持率」だ。非常に荒っぽく言ってしまえば,支持率はプレイヤーのヒットポイントのような存在であり,0%になるとゲームは強制的に終了となる。シナリオによっては「クリアのための目的」が設定されていることがあるが,ともあれ支持率が0%に落ち込んだらそこまでなので,何をさて置いても,支持率が第一の目標となるわけだ。
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また,起きている問題に政策で応えることによっても支持率は上昇する。例えば住宅難が発生しているのであれば国営住宅を建設し,公務員がストライキを示唆するなら給料を上げ,貧富の格差が社会問題になっているなら累進課税を導入するといった調子だ。
「今,何が問題になっているか」はアドバイザーがそのつど教えてくれるので,そこで対策を打っていけばいい。
恩知らずの市民達
しかしながら,アドバイザー達が指摘する問題を次々に解決していくと,政権は確実に転覆する。理由としては,大きく以下の2つが挙げられる。
1つは財政破綻だ。減税や公共事業への投資,公務員の賃上げや人員拡大(とくに国軍は人員拡大要求が大きい)に節操なく応じ続ければ,当然ながら国家財政は破綻する。マスターズ・オブ・ザ・ワールドでは国家財政が赤字になると,それだけで支持率が低下するので,「支持率稼ぎのために公共事業に大規模な投資をし,結果として財政破綻で支持率が崩壊した」というコースには,とくにゲームを始めたばかりの頃には陥りやすい。
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解決法としては,貿易を通じて財政規模を拡大する,というのが王道になるだろう。とはいえこの手段は,その国に売り物があってこそ成り立つ。天然資源を売って稼げる国はともかく,工業製品で稼ぐ国は科学技術にも投資しなくてはならないため,全体としてリスク含みの財政運営になりがちだ。
もちろん別の手段として,財源を確保してから政策を実行するという,明らかに前向きな手段もある。しかしこの「財源を確保する」というのは,つまりは増税(ないし,いわゆる「仕分け」)であり,どちらにしても支持率を失う原因となることには注意が必要だ。
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中でもプレイヤーが比較的早く遭遇するであろう状況が,「エコを推進したら,国内の農業従事者から突き上げを食らったでござる」というパターンだ。森林伐採税を導入すれば,森林を切り開いて農地を拡大している農民達は大いに憤慨し,大規模なデモにつながる。
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このように,不満を解消してもその過程で支持率が落ち,不満を解消しなければしないで支持率が落ちるのなら,この私にどうしろというのか?
というのがマスターズ・オブ・ザ・ワールドにおける中核的なジレンマであり,おそらくここに完全な解答はない(ゲーム的な抜け道がある可能性はあると踏んでいるが,それはさておき)。
ただ,プレイヤーには,訴えられた不満を無視するという手があることを忘れてはならない。不満を放置すれば支持率低下につながるが,ただ不満があるというだけならスルーしてしまうのは賢い選択だ。
デモや座り込みなど,警察(最悪の場合,軍隊)を動員して「整理」しなくてはならない事案に発展しそうな場合は早急な対策が必要となるが,そうでないなら,へたに動くと出費>効果となり,しばしば,財政のバランスを損なうだけに終わってしまう。
とはいえ,国民は「このように良くなった」ことは評価し,支持率が上昇するが,良い現状は支持率を上昇させてくれない。つまり,きわどいバランスを保ちつつ現状維持に努めても,それでは支持率がじわじわと下がっていくばかりであり,まったくもって,近代国家の市民とは救いがたい恩知らずだが,こればかりは仕方ない。
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ちなみに,政権がうまく運営できていると,今度は閣僚のスキャンダル(おそらく汚職)が発覚して,支持率に打撃を与えたりする。閣僚を罷免したらしたで支持率低下の原因になるし,慰留したらしたでスキャンダルが拡大したときに致命傷になるしで,実にままならない。でも,考えてみれば現実もそんな感じだ。
ただマスターズ・オブ・ザ・ワールドには,スキャンダルを起こした閣僚を暗殺することで事実上の罷免をするという最終手段が残されているので,状況次第では考えてもよいかもしれない。
もちろん,バレたら支持率下落どころの騒ぎではないが。
まずはできることが少ない国から
マスターズ・オブ・ザ・ワールドは非常に多彩な要素を備えており,プレイスタイルもきわめて自由だ。比較的抽象的ながら軍事要素も取り入れられており,戦争も起こる。
チュートリアルにも登場するが,スパイを使ってある国が「ならず者国家」である証拠をつかみ,しかるのちに国連安保理で経済制裁を決議,といった流れまで再現されている(さらに,経済制裁から軍事制裁へ移行させることも可能だ)。
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その一方で,文化やスポーツといった側面もカバーされており,政府が小説や漫画,ゲームなどに財政支援することもできる。輸出産業になり得る文化的資源に比べ,スポーツが何になるのかと疑問を持つかもしれないが,スポーツは定期的に国際大会があり,そこで優れた結果が出れば支持率上昇につながるので,特定のスポーツに予算全振りという奇抜な国家運営も不可能ではない。まあ,奇抜とは言ったけれど,近いことをやっている国は現実の世界にもいくつかあるような気がする。
ともあれ,ここまで要素が多いと,いったい何をどうしたらいいか分からなくなるんじゃないか,という疑念も湧くはずで,その疑念はおおむね正しい。マスターズ・オブ・ザ・ワールドは,正直,何をどうしたらいいか分からない要素の塊であり,そのため筆者の原稿も遅れに遅れたわけだが,それはさておき,ゲームに挑むには以下のような作戦が考えられる。
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もちろん,防衛力は国家の維持に欠かせないが,2013年セッティングならゲームの最初から相応の防衛力を有しているので,プレイ中に緊急拡大しなくてはならないほどの事態は起こりにくい(起こしたいなら話は別だし,AIロシアとAI日本が第二次日露戦争を始めたところを見たことはあるが)。
逆に言えば,チュートリアルに出てくるからといって,アメリカを最初に選ぶのは,おそらく得策ではない。2013年のアメリカは世界各地に軍隊を展開しているし,少なからぬ地域で「テロとの戦争」が継続されている。国内政治と財政のバランスを見ながら,技術への投資を考え,文化育成し,スポーツ支援をしつつ,海外派兵した軍隊の指揮を執るなどというのは,どうみても1人でやることではないわけで,言うまでもなく難しい。
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ともあれ,日本など,面倒を見なくてはいけない範囲が狭い国を選んだうえで,まずは支持率0%までの道を何度もたどってみるのがオススメだ。早ければ30分程度で支持率0%に到達するので,「一晩頑張ったのに!」的な悔しさや虚しさは,まったくない。むしろ笑って政権転覆を見守れるはずだ。
何度も何度も何度も政権転覆を体験すると,だんだんと,何をしたらダメなのか,何をすべきなのか,アドバイザーの提案をどれくらい受け入れるべきなのか,そして,どの提案はスルーすべきなのかといったことが見えてくる。また同時に,「こういう要求が,こういう団体から来たときは,どのように対処すべきか」ということも経験則として分かってくる(ただし国ごとに差があるので,同じ国で繰り返すほうがベター)。
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これはいわゆる海外ゲームの「死んで覚えろ」の典型的パターンだが,マスターズ・オブ・ザ・ワールドはこの「死んで覚える」が結構楽しい。ゲームの構造上,転落するときは等比級数的な速度で転落するので,長くもがき苦しむことなく,思わぬ一撃が致命傷となって崩れるように倒れてしまう様子を眺めているのは面白くて楽しい。
むしろそうやって何度もやり直すうちに,だんだん政権が生き延びる日数が伸び,前回は克服できなかった課題が克服できたりする。こうなると,「もう1回! もう1回だ!」ループの始まりである。
ハードルは高めだが中毒性あり
マスターズ・オブ・ザ・ワールドは,実際のところ,とっつきの悪いゲームだ。各国の指導者はほぼ実名(名前が微妙に違うが,顔グラフィックスはやたら似ている)だし,各国のデータも現実のリサーチを元にして緻密に設計されているので,「やってみたい」という気持ちが高まるが,いざ本気で手をつけようとするとなんともハードルの高さを感じる部分がある。
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しかしながら,遊び始めると,これが意外とすんなり「もう1回だ!」のループにハマってしまう。わけが分からないながらも,分からないなりにトライする,そういった,言ってみれば古いタイプのゲーマーなら,1~2時間もプレイすることで,おぼろげながらもコツが掴めてくるのではないだろうか。
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マスターズ・オブ・ザ・ワールドは現実世界をベースにしているうえ,登場人物も誰だか分かりやすく,さらに1プレイが短め(=短い時間の間に多くのことが起こる)ので,ゲーム配信や実況動画に向いているという印象がある。ヘタすると一気にゲームオーバーに転げ落ちる(しかも,その途中でデモ隊を武力鎮圧したりする)作品なので,ストラテジーゲーマーのほか,ゲーム実況動画の素材を探している方も,試してみてはいかがだろうか。日本語版を制作したオーバーランドは,現在もアップデートを継続して行っているとのことなので,今から始めても遅くはないはずだ。
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「ジオポリティカル シミュレータ3 マスターズ・オブ・ザ・ワールド」公式サイト
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