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アーティスト達の精神が結晶となった奇跡の作品「Samorost 3」。その制作の舞台裏が語られたセッションをレポート
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印刷2016/05/09 17:19

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アーティスト達の精神が結晶となった奇跡の作品「Samorost 3」。その制作の舞台裏が語られたセッションをレポート

 チェコで制作されているSamorostシリーズは,独特かつ美麗なアートワーク,凝ったアニメーション,不思議な音楽やSE,適度な難度の謎解きがあいまった2Dアドベンチャーゲームである。その開発を手がけているAmanita Designは,そのほかにも「Machinarium」「Botanicula」といった個性的な作品を生み出している。

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 2016年3月にリリースされたシリーズ最新作「Samorost 3」PC / iOS / Android)もまた,魅力溢れる作品であるのだが,この個性の塊のような作品はどのようにして制作されたのだろうか。デザイナーのJakub Dvorsky氏Reboot Develop 2016の講演において,その制作現場の舞台裏を語ってくれた。

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「Samorost 3」公式サイト



クリエイターの家庭から


 そもそも,Samorostを手がけたDvorsky氏の背景はどうなっているのだろう。
 父親がイラストレーター,母親が子供向けのアニメーター(兼絵本作家)という家庭に生まれたDvorsky氏は,必然的に幼い頃はチェコやロシアのアニメに耽溺していたという。また,自分独自のファンタジー世界設定を作って遊んでいたというあたり,「いずこも同じだな」という感慨を抱かざるをえない。

 その後,コンピュータゲームのブームに合わせて,さまざまなゲームを楽しんでいく(その中には「Myst」のような作品も含まれている)。初めてPCゲームを作ったのは,15歳のときだそうだ。しかるに大学でアニメーション技術を学んだDvorsky氏は,その創作の基盤をアニメーションの世界に置くようになる。
 一方で氏は,キャンプと写真も趣味としており,ちょっと変わった自然の造形であるとか,あるいは廃墟や廃棄物といったものを写真に収めている。

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Dvorsky氏が撮影した写真の数々。言われてみれば,Samorostの世界で見たような気がする
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 大学を卒業するにあたり,Dvorsky氏は卒業制作として「Samorost 1」を完成させる。これがシリーズの第1作となるわけだ。「Samorost 1」は2Dグラフィックスのポイント&クリック型アドベンチャーゲームで,そのアートワークには氏が撮影してきた自然物や人工物の写真が活用されている。
 キャラクターのアニメーションはベクター画像で作られていて,ゲームプログラムそのものは「原始的なものだけれど,自分でなんとかした」らしい。なんというべきか,このあたりからは「才能のある人は違うな……」という思わされる逸話である。
 「Samorost 1」は非常に多くの人にプレイされた(筆者もその1人だ)が,リリース(2003年)当時には,まだインディーズゲーム市場など存在せず,これを生業にできるかどうかの見通しは立っていなかったという。

デビュー作となる「Samorost 1」。ブラウザゲームだった
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 だが,その2年後,Dvorsky氏は大学時代のクラスメイト(氏曰く「自分より上手なアニメーションを作る連中」)と組み,またチェコの音楽家をチームに迎えて,「Samorost 2」の制作に取り掛かる。「Samorost 2」のマネタイズは,いわゆるPaywall方式(ゲームが章立てに分割されており,先の章に進むためには課金が必要)で,これが氏にとって初めての商用ゲームとなった。
 ちなみに「Samorost 2」の売上だが,Dvorsky氏曰く「なんとか生きていくには十分な収益」だったそうで,この成功を踏まえて「Botanicula」の制作に着手した。この段階で,2003年に設立されたAmanita Designはだいぶ大きなチームとなっていたそうだ。
 そして2011年,「Samorost 3」の制作が始まった。前述のとおり,リリースは2016年3月なので,完成までに5年近く要したことになる。チームは総勢6名で,「Machinarium」のスタッフがそのままシフトしたそうだ。

独特の世界観が楽しい「Samorost 2」
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ゲームデザイン:触っているだけで楽しいゲーム


 さて,まずは「Samorost 3」のゲームデザインである。

 デザインの面では,基本的に2つの指針が立てられた。
 1つは,いわゆる雰囲気ゲーとして,プレイヤーに独特なゲーム体験を与える作品として完成させること。
 そして,もう1つはパズルの難度を適切に調整することだ。パズルが存在する意味がないほど簡単ではなく,かといってWebに有志がアップするWalkthrough(ムービー)なしには解けないような難しさでもない,そんな難度が目標である。

 また,カナダのインディーズゲームである「Proteus」(Walking Simulatorと呼ばれるジャンルの作品)や,Vectorparkのインタラクティブ・トイから,「こういうゲームもあっていいんだ」というインスピレーションを得たという。

「Proteus」(左)とVectorparkのインタラクティブ・トイ(右)
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 加えて,モバイルゲームの「Monument Valley」「The Room」も大いに参考になったと語る。その雰囲気もさることながら,「現代のプレイヤーにとって,パズルの難度はどれくらいであるべきか」という指標として,非常に有用であったという。

 これらを踏まえ,「Samorost 3」ではただ単にパズルを提供するというだけでなく,「たとえ間違っていても,組み合わせを試しているだけで楽しい」ゲームであることが目標となった。
 その例として,謎のクリーチャーに合唱させるパズルが示された。レバーを操作することで,3種類のクリーチャーにそれぞれ12種類の歌を歌わせることができ,そこから正しい組み合わせを見つけるというパズルである。
 この場合,組み合わせのパターンはすさまじい数になる。だが,正しくない組み合わせであっても,そこでユーモラスな楽曲が得られるように工夫が凝らされており,「試しているだけでも楽しい」パズルだ。

真ん中のレバーを動かし,左にいる3匹のクリーチャーに合唱させる
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 また,4つのスロットに絵をはめ込んでストーリーを完成させるパズルも,じつに手が込んでいる。
 スロットに入れる木片には,それぞれ異なる絵が描かれている。これを4枚並べることで,並べた順と種類によって一連のアニメーション作品が完成するのである。これもまた「試しているだけでも楽しい」。

スロットに木片を入れていくと,カードの中の線画がアニメーションとなる
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 このように「触って・動かして・楽しい」ということをモットーにデザインされていったのである。


パズル:閃きを待ちながら


 さて,なんのかんの言っても「Samorost 3」の根幹はパズルだ。では,このパズルはどのようにデザインされているのだろうか。

 最もベースとなる部分はスケッチブックやメモ帳にメモを残していくことで作っていくと,Dvorsky氏は語った。「PCから離れて,アウトドアで木の下に座って,リラックスして考える」のが氏のスタイルだという。

「Samorost 3」のパズルの基幹アイデアとなるメモ。貴重な写真なのだが,なるほど,わからん
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 しかるにパズルの要素が揃ってきたら,それらを組み合わせて1つのパズルに仕上げていく。ここには「閃き待ち」なところもあるそうだ。
 そして,ようやくPCが起動され,実際のデザインドキュメントが描き起こされ始める。使われるソフトは「Photoshop」で,複数のレイヤーにアニメーターやイラストレーターなど,それぞれに対して異なる情報を書き込んでいくわけだ。最終的なデータは,Google Docで共有するとのこと。

あのメモがこの仕様書になる。なるほど,わからん
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アート:アナログ機材を活用


 パズルに合わせて,アートワークも進んでいく。
 「Samorost 3」のアートは,Dvorsky氏がラフを描くものの,それを実際にゲームで使うCGへと仕上げていくのは専門のアーティストである。この過程はあらゆるステップにおいて,アーティストとの話し合いが欠かせない――というのも,氏が描いた「ラフ」と,完成品を見比べてもらえば,「こりゃ,話し合いなしには無理だ」と納得できると思う。

左のラフが,右の完成品になったという。そうですか……
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 アートワークの制作作業は「アナログ機材」で進められ,それをスキャンしてゲーム用のCGとして利用している。このアナログ機材というのは,紙とペンといったものに留まらず,例えば「とても奇妙な岩」をモチーフにするならば,実際に粘土で岩を造形し,それを撮影するといったレベルである。なんというか,すごくアナログだ。

アートスタジオの様子。じつにカオス
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左の粘土細工が,右のCGになる
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しかるに,そこに自然物のテクスチャを貼りこんだりもする
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アニメーション:どこまでもこだわって


 個性的なキャラクターも,Samorostシリーズの大きな魅力だ。
 Samorost 3のキャラクター制作では,大いに苦労したという。なにせ画面上では,どうしても小さく表示されがちなので,縮小しても「コイツだ」と把握でき,かつ拡大されたときもディテールを失わない。そんなデザインでなくてはならない。

初期案では左端のキャラクターだったが,最終的に右端のキャラクターへとデフォルメされていく
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 もちろん,キャラクターにアニメーションさせるのは,さらに大変だ。アニメーターは「Samorost 2」と同じスタッフが担当し,Flashでキャラクターを動かしている。メインキャラクターの場合,動きのパターンは数百にものぼるそう。それでも,全体としてハイクオリティなアニメーションが完成していく理由として,Dvorsky氏は「アニメーターがアーティストも兼ねているのが大きい」と語った。

主人公のアニメーションパターンの一部
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 また,密かに苦労が多いのは,昇降機のようなオブジェクトだ。
 「Samorost 3」は2Dゲームだが,3Dに見えるような演出も多用している(最も簡単なところでは,背景に複数のレイヤーを作って,スクロール速度に差をつけたり,前後関係を作ったりする)。
 ここにおいて,昇降機のように「上下に動く」オブジェクトの場合,画面の下部にあるときには昇降機の床面が見えるが,画面の中央で床が水平になり,画面の上部では床の裏が見えるといった形の変化が必要になってくる。そのため,「Samorost 3」のアニメーターは,それを愚直にすべて作り込んだ。
 Dvorsky氏は「クレイジーだと思いました? そうですね,そのとおりだと思います」と述べていたが,聴講者からは笑いよりも感嘆のため息のほうが大きかったのが印象的だった。

昇降機のアニメーションパターン
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 もう1つ,アニメーションにおいて重要なのは,「Samorost 3」が言語依存しないゲームであるという点だ。事実上,テキストは表示されず,あらゆる情報が音やキャラクターのしぐさ,感情を示す「フキダシ」などで表現されている。
 これはローカライズの手間を大幅に削減するものの,「じゃあ,テキストをローカライズするのと,トータルではどっちが手間か」と問われれば,答えは言うまでもないだろう。しかし,この「テキストを使わない」というこだわりは,「Samorost 3」独特のプレイ体験において,非常に重要なファクターとなっている。

亀が見ている夢的なものもアニメーションで表現している
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サウンド:最後は演技力


 「Samorost 3」は音楽やSEにも強いこだわりがある。作曲家にも,音響技師にも,チェコで最高のアーティスト(ないしエンジニア)を起用したというから,その本気度がうかがい知れる。
 また,特徴的なSEも魅力の1つだが,主にキャラクターがしゃべる謎の言語は,音響スタッフが実際に声を発して録音している。ゲームをプレイした人なら分かるかと思うが,あの謎昆虫や謎生物,謎悪魔の声は,すべて音響スタッフによる渾身の芝居である。

音響スタッフによる「芝居」の様子
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テント的なものの中で演奏するキャラクターが奏でる音楽は,テント的なものの中で録音されている
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 Dvorsky氏の講演内容を総じて評するなら,「Samorost 3」はこだわりと言うだけではまるで足りない,アーティスト気質が結晶になったような作品と言えるだろう。
 果たして,現代においてここまでアーティスティックなゲームを作れるスタジオがどれだけあるのか。この講演からあえて教訓めいたものを引き出すならば,「『Samorost 3』みたいなゲームを気楽に作ろうとしないほうがいい」というくらいか。

 その意味では,非常に参考にし難い講演であったが,かえって「Samorost 3」というゲームをなぜ作り得たのかが納得できた。広い世界には,こんなデベロッパもあるのだ。そしてそれは,とてもすばらしいことではないだろうか。

「Samorost 3」公式サイト

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