レビュー
長く語り継がれる作品には理由がある。イメージエポックの新作JRPG
闘神都市
ゲームとしての大筋は原作から変わっていないものの,今作ではレーティングの違いに伴う表現の変更に加え,キャラクターやバトルなど各種システムの全面的な見直しまで施されており,単なる移植にとどまらない大幅なリファイン(改良)が行われている。
原作である「闘神都市II」は,当時のゲーマーに強烈なインパクトを与えた作品であった。その理由には,単純なエロ表現だけに留まらず,R18というレーティングでこそなしえた表現,物語の奥行きがあったのは間違いない。果たして,プラットフォームとレーティングを変えた本作において,あの魅力を伝える事が可能なのだろうか。あるいはどのように変質しているのだろうか。20年前に原作をプレイし,トラウマを植えつけられた筆者が,今回はなるべくネタバレを避けつつ,3DSで蘇った名作をレビューしてみたい。
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“APシステム”によって奥深さを増したバトルで挑む「闘神大会」
ゲームの主な舞台となるのは,年に1度開催されるトーナメント形式の武術大会「闘神大会」。大会優勝者は“闘神”と称えられ,莫大な富と名声,そして都市内では法律をも上回る絶対的な権力が得られるという。プレイヤー扮する主人公は,名高い道場の一人娘である“瑞原葉月”との交際を認めてもらうべく,己の強さを証明するためこの闘神大会に挑む……というのが大筋のストーリーだ。
この大会,闘神があらゆるものを手に入れられる一方で,それ以外の敗者には過酷なペナルティが課せられることでも知られている。出場者には女性パートナーの同伴が必要になるが,仮にトーナメントで敗退してしまうと,パートナーは勝者と強制的に“デート”させられたうえ,都市内で1年間の無償労働に従事せねばならないのだ。
かなり独特なルールだが,さまざまな思惑をはらみつつもこの大会は大きな盛り上がりを見せており,定期的に“闘神”を排出し続けている。
ゲームの全編に及ぶ本作のリファインだが,それらの中でも真っ先に挙げておきたいのは,イチから作り直されたバトルシステムである。ベースは原作(PC-9801版)と同様の「1対1によるコマンド式バトル」だが,これは20年前ならともかく……いや当時としても結構珍しいものだった。RPGならパーティ形式が当たり前の現在ならなおのこと,「1対1なんて単調すぎるでしょ」と思われても仕方がないだろう。
ところが,本作ではこのバトルシステムが驚くほど良くできており,むしろ個人的には,ほかの多くのパーティ形式のバトルシステムよりも,面白く感じられるのだ。
この面白さの中心にあるのが,“AP(アクションポイント)”システムである。攻撃やアクティブスキルなどの各コマンドは,それぞれ必要とするAP量が定められており,ターン内におけるAPキャパシティの範囲内で行動をやりくりしていく,というのが基本ルールとなる。例えば“通常攻撃”“防御”“アイテム使用”“逃走”といった基本コマンドに必要なAPは1だが,強力なアクティブスキルになると消費するAPも増えていく。
実際のバトルでは,彼我の状況に合わせ,複数のコマンドを織り交ぜて戦っていくことになる。例えば,敵モンスターが「初手で自身を強化し,次のターンに大技を繰り出す」という攻撃パターンを持ち合わせていたとしよう。何も考えずに戦うと大ダメージを受けてしまうが,それが分かっているなら対策は可能だ。2ターン目に攻撃が来るのであれば,
(1)ひたすら“防御”を重ねてダメージに耐える
(2)“防御”+“回復アイテム”を使用する
(3)相手の強化を解除するスキルを使用+“攻撃”
(4)相手より素早く攻撃できるスキルで,大技を出される前に倒す
といった作戦を取ればいいわけだ。“防御”は重ねれば重ねるほど,ダメージを大きく軽減できるので,それだけでも効果は大きいし,スキルやAPが増えるにしたがい,取れる選択肢も増えていく。ちなみに本作では,バトルで敗れた場合も,戦闘開始直後の状態からリトライが可能だ。RPGとしては珍しいシステムといえるが,そのため何度も試行錯誤して相手のクセを覚えることで,強敵にも打ち勝つことができる。
画面のキャラクターはAPキャパシティが“4”。戦闘開始直後の状態で,通常攻撃(AP1)を4回行なうか,あるいは属性攻撃(AP2)を2回行なうか,などの選択を迫られている |
アクティブスキルの使用時は,APのほかにSP(スキルポイント)も必要。こちらは,一般的なRPGにおける“MP”に似た概念だ |
ただ,負けてもリトライできるからといって,お気楽な戦闘なのかといえば,そういうわけでもない。例えば後述するカードスキルは,同時に8つまでしか準備していくことができないので,挑む相手によって事前にどのスキルが必要になるかを考えておく必要がある。必須のスキルが欠けているようでは,どんなにリトライしても結果は変わらないし,もちろんレベルが足りていなかったり,回復アイテムなどを持っていなかったりした場合も,厳しい戦いを強いられることになる。
敵のアルゴリズムを見極め,それに対する戦術を考えて,実戦においてそれを実現する。こうしたターン制バトルの醍醐味は,本作においても十二分に堪能できる。1対1バトルということで,そこで購入に二の足を踏んでいる人がいるとしたら,それは恐らく杞憂におわるだろう。むしろ基本がシンプルなぶん,「APというリソースをどう配分するか」という点に集中できるのが,筆者としては面白いと感じたポイントだ。それにプラスして,トレーディングカードゲーム的なデッキ構築とコレクションの要素が,プレイに彩りを添える。次の項では,そのプラス要素である“ガールズギフト”と“カードスキル”について,詳しく見ていくことにしよう。
ある程度ゲームを進めると,とあるスキルで敵の次の行動が分かるようになる(赤いアイコンで表示)。これを踏まえつつ,APキャパシティ内で最善の手を考えるのが実に面白い |
序盤はシンプルな攻防が続くが,APキャパシティが増えていくにつれ,その印象がくつがえされることに。本作ならではの戦闘の奥深さが感じられるはずだ |
女の子達と交流を深め,“ガールズギフト”で強くなる
本作の主人公は,女の子からの愛や感謝といった“正の感情”を向けられると,それを力に変えられるという特別な能力を持っている。力に変えるとは,つまりスキルを獲得できることを意味しており,本作ではこれを“ガールズギフト”と呼んでいる。プレイヤーはこの能力により新たなスキルを得て,より強い敵に挑んでいくことになる。また,ガールズギフトによって得られるスキルとは別に,“カードスキル”というものもあり,こちらは“女の子モンスター”を捕まえることで獲得できる。
本作では,プレイヤーが出会うことになるすべての女の子に,個別のイベントが用意されている。メインヒロインの“葉月”や,主人公のパートナーである“セレーナ”,闘神大会でしのぎを削ることになるライバルのパートナーといった主要人物はもちろんのこと,例えばショップ店員や酒場のウエイトレスさんなどの端役NPCに至るまでが対象なので,その数はかなりのもの。彼女達から受けるクエストをこなすなどで,好感度をあげていき,それがMAXになると,この“ガールズギフト”が発生して,スキルを習得できる仕組みだ。
“ガールズギフト”によって得られるスキルは,冒険中大いに役立ってくれるが,むしろ特筆すべきはその豊富なイベント数の方だろう。
20年前の原作「闘神都市II」は,メインストーリーにフォーカスした作りになっていたため,主役級を除くと,割とおざなりな扱いの女の子が少なくなかった。その点本作では,多くの女の子とまんべんなく親交を深められ,なにかしらの形で結末が用意されている。オールドファンにとっては,いわゆるファンディスク的な楽しみ方もできるので,ここは嬉しいサプライズではないだろうか。
メインヒロイン以外にもスポットが当てられた“ガールズギフト”。習得スキルを抜きにしてもコンプリートを目指したくなってしまう |
女の子からの好感度がMAXになると,ガールズギフトが発生。なおCERO:Dということもあって,演出は裸リボン的なものに留まる |
ガールズギフトを通じて得られるスキルは便利なモノばかり。一部を除いて必須ではないものの,できる限り押さえておきたい |
原作で語られなかった登場人物達のその後が分かるのは,オールドファンにはとくに嬉しいはず。もちろん新規プレイヤーにもコンプリートを目指していただきたい |
持っていくカードを入れ替えるためには,一度街に戻らなくてはならず,ここに本作の戦術性があるのは前述したとおり。マップや出現するモンスターにあわせて,カードの組み合わせを思案することになる。
また先のムービーを見てもらえば分かるように,バトル中にカードスキルを使うと,女の子モンスターのカットインが挿入される。この演出が,1対1のバトルにもかかわらず「仲間と戦っている感」を生み出していて,バトルを盛り上げるのに一役買っている。冒険に持ちだしたカードは戦闘を通じて信頼値が上昇し,レベルアップによってカードスキルはさらに強力になっていくので,ゲームとして有利になるのはもちろん,女の子モンスターへの思い入れを深める意味でも,心憎い仕組みと言えるのではないだろうか。
カードの成長要素もある。個別のシナリオこそ用意されていないものの,ガールズギフトと同様にボリュームのあるシステムだ |
カードのレベルがMAXまであがると,女の子モンスターとの直接対決が待っている。見事勝利するとご褒美グラフィックスが |
ちなみに各カードには,それぞれ“メインスキル”(=アクティブスキル)と“サポートスキル”(=パッシブスキル)と,1枚につき2種類のスキルが用意されていて,セットするときにどちらのスキルを用いるかを選択できる。また一部のカードには,道を遮る障害物を破壊したり,亀裂をジャンプで飛び越たりといった,ダンジョン内で使える“フィールドスキル”が設定されていて,時と場合によっては必須となることも。
8枚までという制限は,序盤でこそ余裕があるものの,バトルの激しさが増すにつれ,厳しく感じられてくることだろう。スキルを集めて戦術の幅を広げると同時に,限られたセット内で戦術を突き詰めていく面白さが,本作の真骨頂というわけだ。
手に汗握る闘神大会編と,物語の核心に迫る後半戦。
ダブルヒロインによるルート分岐も
ここまでは主にゲームシステムの面について触れてきたが,シナリオ面についてもネタバレにならない範囲で紹介していこう。最初にも簡単に説明したように,本作の物語は闘神大会のトーナメントを中心に進行していく。ゲームの流れとしては,“ラグナード遺跡”での修行パートを数日間こなしたうえで,闘神大会の本戦パートに挑む,というサイクルを繰り返して勝ち上がり,徐々に優勝に近づいていくという形だ。
修行パートはサクサクと進む。次の目的地はタウンマップやダンジョン内で一目瞭然なので,迷うこともないだろう |
ラグナード遺跡を“1層分”攻略し,対戦相手とのエピソードを進めると,闘神大会の本戦パートを迎える。綺麗にまとまった構成だ |
感心させられるのは,修行パートはマイキャラを成長させるだけでなく,次の対戦相手およびパートナーとのエピソードが重点的に展開されること。相手達のキャラクター像が事前に掘り下げられるため,敵ながら感情移入させられる。そうしたエピソードを経て,お互いの信念が真正面からぶつかり合う闘神大会本戦は,否応なしに盛り上がるものとなる。
対戦相手との間で,事前にある程度やりとりが交わされる所が◎。目の前に立ちはだかった敵だから倒す,といった単純なストーリー展開ではない |
個性豊かなのは女の子キャラクターだけではない。大会の対戦相手も,一癖も二癖もある人物ばかりだ |
大会本戦パートでどうしても倒せないときは,いったんラグナード遺跡に戻って修行に励むことも可能。レベルアップは割とお手軽なバランス |
万全の準備を整えたうえで,大会本戦パートで激突。対戦相手の裏事情も色々と分かっているので思わず肩入れしたくもなるが,それでも乗り越えねばならない |
本作では女の子キャラクターやモンスターなどに,豊富なボイスが当てられている。大会パートでは受付嬢のシュリさんによる実況が試合を盛り上げる |
同じAPを使ったバトルでも,雑魚戦と大会本戦でそれぞれ違った魅力がある。大会本戦では,スキルセットの段階からバトルが始まっているのだ |
そして闘神大会に見事優勝したとしても,そこで物語が終わるわけではない。むしろ,優勝してから本番というくらい,事態は急展開を迎え,さらなる冒険がプレイヤーを待ち受けている。この先の物語については,あえて匂わせる程度に止めるが,プレイ時間に関して筆者の例を挙げるならば,闘神大会パートが少し急ぎめのペースで約16時間。そこからラストまでが+18時間といったところ。
また本作では新たなメインヒロインとして“咲夜”が追加されており,彼女専用のストーリーが本格的に動き出すのもまた,後半に入ってからとなる。原作からのヒロインである“葉月”の物語とは,ルートが分岐する形となるので,両方のルートを楽しみたい場合には,2周目のプレイが必要になる。ちなみに2周目プレイはお手軽に進められる仕掛けがあるので,双方のルートを楽しむのは苦にならないだろう。
メインヒロインの“瑞原葉月”。20年前当時は素直に鼻の下を伸ばして喜んでいたが,あらためて見ると,あまりに直球すぎるボクっ娘で気恥ずかしくもある |
本作で追加されたヒロイン“咲夜”。キャラクター原案は,アリスソフトのファンにはお馴染みのMIN-NARAKEN氏 |
ちなみに両ヒロインの違いについてだが,葉月は最初から主人公に対し好感度MAXなのに対し,咲夜はツンデレといったところでなので,それぞれ違った魅力がある。また,咲夜のキャラクター設定は本作の世界観に深く関わった必然性のあるものなので,原作経験者も思わず「そう来たか!」と膝を叩くこと請け合いだ。
どちらのルートも同様に楽しめるが,個人的には,少なくとも原作未経験者は葉月ルートから進めるのがいいかもしれない,とアドバイスしておこう。
テキストのボリュームもたっぷりの本作。RPGだけでなく,ADV(アドベンチャーゲーム)としても楽しめる |
原作経験者にとっては,当時を振り返りながら変更箇所に注目するのも面白い。ちなみに原作にあった色々な意味で“アウト”なネタは,さすがにカットされている模様 |
長く語り継がれる作品には理由がある。
“JRPG”を求めるなら買って損無し
今回のプレイを通してしみじみと感じたのは,パートナーを務めるセレーナとの他愛もない会話や,ゲーム内の1日を締めくくるテレビ番組「闘神ダイジェスト」などといった,ゲームの攻略とは直接の関係がないやりとり,そしてこの舞台における心地良さだ。……そして同時に,そういった心地良さすら,強烈なスパイスと化してしまう本作のシナリオの妙に,あらためて唸らされた。ゲーム中盤からは最後まで,久々に寝食を忘れて一気にプレイしてしまった次第である。
本作について,一つ断っておかなければならないことがあるとすれば,やはりプラットフォームとレーティングが変わった事による影響だろう。こと原作のプレイ時にトラウマをたっぷり植え付けてくれたシナリオに関していえば,その影響は確実に「大きい」と言わざるを得ない。
大会本戦で勝利した後に相手パートナーとおこなう“デート”を始め,そのほかの要素の欠如によって,物語に漂う悲壮感がマイルドになっている点は,レーティングを踏まえれば妥当だろう。それは個人的にも,インタビューした時点である程度の心構えができていた。
しかし,本来メインヒロインであるはずの葉月に関して,ゲーム中盤以降における役割が微妙に変化しており,また彼女に近いポジションの女の子が複数いることも相まって,存在感が薄れているのには,正直戸惑った。
対戦相手のパートナーと行なう“デート”は,なんというか,まぁ。深刻に考えず,笑いながらツッコミを入れるべき所だろう。デート(笑) |
CERO:Dということで,お色気要素も「健全」といえる程度に留まっている。トラウマにならくて良いのでは,という考えも? |
個人的な意見だが,原作版では,主人公の(そしてプレイヤーの)想像を上回る葉月のアクティブさが,クリア後の深い感動,ひいては,20年経っても心に突き刺さるトラウマの原動力の一つとなっていたように思うのだ。しかし,主人公にひたすら従順で,ただ後ろを付いてくるだけの本作の彼女はどうだろう。ギフトイベントを通じ,ほかの女の子達がしっかりと描かれているだけに,原作に思い入れのある人ほど,葉月の扱われ方には賛否両論があるのではないだろうか。……正直なところ,この記事を書くにあたり,筆者もしばらく考えがまとまらなかった。
ただ,この戸惑いは「闘神都市をコンシューマ機上で実現することの難しさ」と,ほぼイコールなのだと思う。レーティングの制約がある中,どういった落しどころに持っていくのか。その逡巡の結果,本作が選んだ道が,葉月にも関連する悲壮感の軽減と,咲夜の追加による違った角度からのストーリーの掘り下げなのだろう。
丁寧にリファインされたあの物語は,「2014年に登場する新作RPG」として胸を張れるでき栄えになっており,それが実感できたのは一人の原作プレイ経験者としてとても嬉しかった。
原作はかなりアクの強いタイトルだっただけに,人によってさまざまな思い入れがあるだろうが,本稿で触れた点さえ念頭に置いておけば,少なくともプレイして損をしたという気にはならないはず。20年もの時を経てゲームがリメイクされるような幸運はなかなかないわけで,オールドゲーマーも,当時を懐かしみながら感慨深くプレイできることは保障できる。
一方,これまで再三述べているように,本作はオールドゲーマーだけに向けられたタイトルではない。筆者がオールドなのでどうしてもそちらからの視点によるレビューになってしまったが,本作は原作を知らない若いプレイヤーでも十分楽しめる“JRPG”だと思う。今回のリファインを機に,ぜひ多くの人に手に取ってもらいたいと願っている。長年語り継がれる作品には,それだけの理由があるのだから。
1本のゲームソフトが20年もの年月を経て,ここまで丁寧にリメイクされるケースはかなり珍しい。率直に,凄いことだと思う |
若い世代のゲーマーが本作を気に入ったのなら,原作の「闘神都市II」にも触れてみるのもいいかもしれない(※ただし18歳以上)。アリスソフトの“配布フリー宣言”対象タイトルなので,少しの手間がかけられるなら,入手は難しくないはずだ |
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闘神都市
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(C)ALICESOFT (C)ALICESOFT/Imageepoch/闘神都市製作委員会