インタビュー
あのシナリオをどうやって3DSに? 20年の時を経て甦る「闘神都市」の疑問を,イメージエポック・御影氏とアリスソフト・TADA氏に聞いてきた
その概要については,4Gamerでも10月31日に第一報を掲載し,その後も何度か取り上げているが,オリジナルである闘神都市IIのプレイ経験がある人であれば,きっと疑問を持ったことだろう。“果たしてあのシナリオを,コンシューマゲームに移植することが可能なのか”,と。
名作として今なお語り継がれる同作だが,その名作たる由縁には,アダルトシーン抜きでは決して語ることのできない,シナリオの妙がある。エログロにまみれた絶望的な世界の中で貫かれる純愛の物語。あの魅力を,どうやってコンシューマに持ち込もうというのか。また,それで面白さが損なわれはしないのか。当時のファンならずとも,気になるのではないだろうか。
この度4Gamerでは,大阪のアリスソフト(チャンピオンソフト本社)にうかがい,本作のプロデューサーを務めるイメージエポックの御影良衛氏と,20年前に闘神都市IIの開発を手がけ,本作では監修を務めるアリスソフトのTADA氏に,話を聞いてみた。またTADA氏には,オリジナル版制作時の開発エピソードなどについても伺っているので,かつて熱心に遊んだというオールドファンも,ぜひご一読をいただきたい。
御影氏のラブコールから始まった3DS版「闘神都市」
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。御影さんは4Gamer読者にとってもお馴染みだと思いますが,TADAさんにご登場いただくのは,今回が初になります。
アリスソフトで開発を担当しているTADAです。主にランスや闘神都市などといったシリーズを手がけています。入社してから25年目で,現在も現役の開発スタッフとして働いています。
4Gamer:
25年……ですか。25年前というと,DOS/V機はおろか,ハードディスクすら普及していなかった時代ですよね。
TADA氏:
ですねぇ。プラットフォームはPC-8801やPC-9801が主流でしたし,メディアもフロッピーディスクでした。あっという間の25年間でしたね(笑)。
御影良衛氏(以下,御影氏):
イメージエポックの御影です。本作にはプロデューサーという形で関わっています。
4Gamer:
では,さっそく闘神都市についてうかがっていきたいのですが,本作の発表には,本当に驚かされました。読者の反響などをみても,当時のファンを中心に大きな話題になったようですが,感想はいかがでしょうか。
御影氏:
本作の原作と言えるPC版闘神都市IIは,当時相当なインパクトを残した作品でしたので,皆びっくりするだろうな,という予測はありました。ただ,さすがに20年も昔のタイトルなので,今のゲーマーは知らないという人も多いはずです。
また,アダルトゲームをコンシューマ向けにリファインというと,熱心なファンにとっては,「アダルト要素抜きでは意味がないのでは?」という不安も少なからずあるだろうと思います。
4Gamer:
今日は,まさにその辺りについてお聞きしたいと思っています(笑)。
御影氏:
そうだろうと思っていました(笑)。でも,いざ蓋を開けてみると,発表したプロモーションビデオは1週間で9万PVを越えるほどの勢いでしたし,4Gamerさんの注目タイトルランキングにも入っていて,予想以上の反響に驚きましたよ。
4Gamer:
今回のコラボレーションは,どのような経緯で生まれたのでしょうか。
僕は昔からアリスソフトさんに対して,コンシューマ機への移植に積極的ではないというイメージを持っていたんです。個人的にファンだったのですが,でもまぁ,これまでどおりWindows版を遊べばいいかなと思っていたんですね。そんな中,2010年に「ぱすてるチャイムContinue」のコンシューマ版が発表されて,心底驚かされました。
4Gamer:
確かにアリスソフトさんは,コンシューマ機への移植にはそれほど積極的ではないイメージがありますね。
御影氏:
驚いたのと同時に,「(コンシューマ機で出すなら)ウチにもチャンスがあるんじゃないか?」と思い,発表を見た翌週にアリスソフトさんにラブコールを送ったんですよ。最初にご挨拶に伺ったのは,確か……2010年の夏でしたね。
4Gamer:
しかし,なぜ闘神都市IIなのでしょうか。アリスソフトには,ほかにも人気のシリーズがありますよね。
御影氏:
単刀直入に言って,アリスソフトさんの作品の中で,僕が一番好きなゲームだというのが最大の理由です。
4Gamer:
御影さんってお若いですよね。当時,リアルタイムで遊ばれた世代ですか?
御影氏:
僕が遊んだのはPC-98版ではなく,その後に移植されたWindows 95版(※1997年発売)ですね。当時僕は高校3年生で,アマチュア無線部に所属する友人がいたのですが,部室にはなぜか,ゲームがたくさん転がっていたんです(笑)。
4Gamer:
まぁ,ありがちな話ですね(笑)
御影氏:
アマチュア無線部の連中にとって,一番人気だったのは「鬼畜王ランス」で,僕も一緒にわいわい騒ぎながら遊んでいたのをよく覚えています。そんな彼等に,「コレと同じくらい面白いゲームってほかにある?」って聞いて,教えてもらったのが闘神都市IIだったんです。すぐさまPCショップへ買いに行きましたね。
そのご友人の意見には,全面的に賛同します(笑)。でも,御影さん自身は,闘神都市IIのどこを面白いと感じたのでしょうか。
御影氏:
それはやっぱり,“エロとグロ”の表現がシナリオの要所に絶妙な形で絡んでいるところでしょう。アダルトゲームでなければ絶対に成し得ない,アダルトゲームだからこそ実現できたRPGだと思います。
4Gamer:
しかし,そこまでのめりこんだ御影さんなら,あの面白さをコンシューマに持ってくることの難しさも,よくご存知ですよね?
御影氏:
ええ。言うまでもないことですが,コンシューマにはCEROの規定があり,R18にあたる部分をそのまま表現することはできません。悩みに悩んだ末,最終的にその部分を深追いするのはやめて,CERO Dに収まる表現に仕上げました。
4Gamer:
それは……また思い切った決断ですね。
御影氏:
先ほども話に上ったとおり,やっぱり「R18だから成り立つ魅力」は確実にあるわけで,それをごまかして何とかしようとしても,かえって不自然になってしまうわけです。ですから,それに取って代わる存在として,プレイヤーが女の子に対して,より愛着が深まるような形で,新たなシステムやシナリオを付加しています。もちろん,ストーリーなどの基本コンセプトはそのままです。
4Gamer:
なるほど。ニュアンスとしては“移植”や“リメイク”より,“リファイン”(洗練)に近いわけですね。
御影氏:
そうですね。コンシューマ機向けの調整をおこなった以上,当時遊んだファンに向けて「闘神都市IIの面白さを完璧に再現しました!」と言うつもりはありません。
ただ,RPGとしてのゲームシステムは闘神都市ならではのエッセンスを再構築し,現代のコンシューマゲームの水準を満たすクオリティに仕上げています。ここはイメージエポックとしてこだわった部分ですし,ぜひその手触りを味わってほしいと思っています。
ゲームシステムを“現代の水準”に引き上げること
4Gamer:
少し詳しくお聞きしたいと思います。「現代のコンシューマゲームの水準を満たす」との言葉がありましたが,これは具体的にはどういうことなのでしょうか。
それこそ山のようにあるのですが……最初から最後まで悩まされたのは,やはりバトルシステムですね。原作を今プレイすると分かると思うのですが,当時のバトルをそのまま現代版で表現すると,単調すぎる印象を与えると考えました。このバトルシステムの再提案が,いま闘神都市を作る上で,乗り越えなければならない最低限のハードルだと考えました。
4Gamer:
御影さんが原作をプレイされた1997年というと,ドラゴンクエストシリーズは6作目,ファイナルファンタジーならVIIが発売されている時期ですものね。オリジナルは基本的にパーティすらない1対1のバトルですし,単調に感じるのは確かです。でも,リファインされた今作も,1対1のバトルであることは変わりないわけですよね?
御影氏:
そう,1対1のバトルです。これは,最初にお会いしたときに,TADAさんからポロっと出た,「1対1のコマンド形式バトルは,突き詰めたらもっと面白くなると思うんだよね」という一言がきっかけになっています。実は,当初TADAさんにプレゼンでお見せしたバージョンは,パーティ制だったんですよ。
4Gamer:
えっ。そうだったんですか?
御影氏:
はい。闘神大会を通じて仲良くなったキャラクター達と,一緒にパーティを組んで戦うといった内容でしたね。ところがTADAさんに,「闘神都市IIは,主人公のシード君が一人で戦って強くなっていく物語なんです」と言われて。
オリジナル版(Win 95)ではこんな感じだったバトルシーンが…… |
時を経てパワーアップ。しかし1対1のコマンド式であることに変わりはない |
当時はあまり意識していなかったのですけど,いま振り返ると,一人の青年が戦って成長していくという物語が,闘神都市IIが受け入れられた理由の一つだと思っているんです。これが仲間を連れ歩いてしまうと,コンセプト的に違ったモノになってしまう。それに,パーティ制が当たり前の今だからこそ,1対1形式のバトルは,むしろ新鮮に受け止められるんじゃないかという思いもありました。
4Gamer:
ストーリー的には,確かにおっしゃるとおりですね。でも,1対1のバトルをどうやって“面白く”するのでしょうか。
御影氏:
そう思いますよね(笑)。これはパーティ制バトルが主流になった理由を考えれば自明なんですが,1対1のコマンド式バトルって,やっぱり今となってはシンプルすぎるんです。イメージエポックは「フェイト/エクストラ」や「LAST RANKER」などで,最近1対1に主軸を置いたコンセプトのバトルシステムを幾つか手がけてきました。ですが,それも厳密にはコマンド式ではなかったわけですし。
4Gamer:
それらのタイトルでは,三すくみの要素や,アクションによる味付けがされていました。そう言われてみると,コマンド式で参考になりそうなタイトルが思い浮かびませんね。
御影氏:
ヒントになったのは,アリスソフトさんが以前開発した,女の子モンスターを主役にしたゲーム「GALZOOアイランド」です。そこからアイデアを膨らませて,「女の子モンスターを獲得することによるカスタマイズ要素」という,今の「カードスキル」のシステムが生まれたんです。
4Gamer:
捕まえてカード化した女の子モンスターを,スキルとして使用できるんですよね。序盤を少しだけプレイさせていただきましたが,確かに戦闘はかなり派手になっていると感じました。
御影氏:
ええ。一人で戦っているんだけど,一人じゃない感覚。スキルのカスタマイズ次第で,まったく違う歯ごたえになるバトルシステムが,本作の目指したところです。
4Gamer:
さらに,ストーリーの中で出会う女の子からも,特技スキルを獲得できるという「ガールズギフト」システムがありますね。レベル神※からもスキルをもらえたのには,ちょっとビックリしました(笑)。スキルは何種類くらいあるのでしょうか。
※レベル神……アリスソフトのタイトルでは定番の,レベルアップを行うときに主人公が呼び出す女神。本作では,経験値がレベルアップ可能な値となっても,レベルアップ作業を行わなければキャラクターは強化は行われない(必要なとき,自動でレベル神が呼び出される設定も可能)。
御影氏:
ガールズギフトでもらえる特技スキルと,女の子モンスターのカードスキルを合計すると,全部で100種類以上はありますね。女の子モンスターを含む,ゲーム内に登場する,ほぼ総ての女の子キャラクターからスキルを入手できます。
4Gamer:
カードスキルは,カードを最大レベルまで育てるとイベントが発生しますよね。女の子モンスターからも,ギフトとしてより強化されたスキルが得られるという。それを含めると,イベント的にもかなりのボリュームになりそうです。
御影氏:
闘神都市IIのストーリーの主軸って,主人公のシード君がメインヒロインである葉月との純愛をエゴイスティックに貫く中で,そのために犠牲となり,踏みにじられた人達の想いが,彼自身を強くしていくというものじゃないですか。
それをそのまま今作に持ってくることはできませんでしたが,その「想い」を受け継いでいくという軸の部分は,この「ギフト」という形で表現できたと感じています。バトルで特技スキルが役立つと,「ああ,これはあの子から受け継いだギフトの力に助けられたなぁ」という具合にね。スキルひとつに対しての思い入れや重みが,ほかのゲームの感覚とは明らかに違うんです。この,色んな出会いと別れを繰り返し,スキルを手に入れて強くなっていくワクワク感は,本作の物語を盛り上げる,良いスパイスになっていると思います。
■3DS版「闘神都市」のバトルシステム
インタビュー中でも触れられているように,本作のバトルシステムは,「1対1のコマンド式バトル」が採用されている。その内容を詳しく紹介しておこう。
まず本作のバトルにおける行動は,すべてAP(アクションポイント)によって管理されている。「防御」や「逃げる」といったものを含め,すべての行動には消費APが設定されており,所持するAPに余裕がある限り,1ターンの間に何度も行動することができる。
例えば「通常攻撃」の消費APは1。APが4あれば,4回まで攻撃を行うことが出来る 「ギフト」などによって得られるスキルにも,消費APが設定されている。大ダメージが狙える大技などは,消費APも基本的に大きくなる
APはターンごとに最大値まで回復するため,毎ターン使い切って戦うものだ。ただし,行動毎に実行されるスピードが決まっているので,敵の行動を先読みしたうえで,戦略を練る必要が出てくる。
残るAPで取れる行動を組み合わせて,コンボを狙う。「ストレッチ」でクリティカル率を上昇させ,「レベル神剣」を放てばこの通り
攻撃属性を意識するのも重要な戦術の一つ。相手の弱点に適した攻撃を選べば,大ダメージを与えられる
「防御」は必ずターンの最初に実行される行動の一つ。消費APは1だが,何度も防御を重ねることで,より多くのダメージを軽減できる 実際の行動順は,選択した行動のスピードに,さらにプレイヤー自身のスピードが加味された上で決定される。敵側も同様に複数回行動してくるので,どちらの技が先に発動するかはスピード勝負となる
そして,バトルを盛り上げるもう一つの要素が「カードスキル」の存在だ。
カードスキルとは,ゲーム中に登場する「女の子モンスター」を捕獲(カード化)することで使えるようになるスキルのこと。カードは同時に8枚までセットし,冒険に持っていくことが可能で,それらのカードに設定されたスキルを戦闘中などに使うことできるわけだ。
女の子モンスターを捕獲するには,HPをギリギリまで減らしたうえで,捕獲用の白紙カードを使用する。「てかげん攻撃」で弱らせてから,カード化を狙おう。中には特殊な条件でしか捕獲できないものもいるとのことだが……
カードスキル発動時には,カードの女の子モンスターが,カットインで登場。複数のカードを設定していると次々にカードが発動していき,かなり派手なバトル展開となる。1体1だけど,一人で戦っているわけではない感覚だ
カードスキルの効果は女の子モンスターごとにさまざまだが,すべてのカードに最低2種類のスキル――メインスキル(Active効果)とサポートスキル(Passive効果)が用意されており,この選択が戦略のポイントとなる。いずれか一方しかセットできないので,これから戦う相手に合わせたチョイスを行うことで,バトルの展開は大きく左右される。
「ギフト」によって得ていく特技スキルと,カスタマイズしたカードスキルの組み合わせ,そしてAPによるコマンドの選び方が,本作のバトルのキモというわけだ。
カードスキルの編成は,カード屋で行える。手持ちのカードからどのカードを持っていくか,またカードに書かれたスキルのどちらを使うかは,ここで変更する
カードスキルは,もちろん闘神大会でも使用可能。ボス戦などでは,とくにカードスキルの編成が勝敗を左右することになるだろう
戦闘に参加したカードは信頼値(=経験値)が上昇し,カードスキルが強化されていく。カードを3レベルまでレベルアップさせれば「ブレイクギフト」イベントが発生し,女の子モンスターから「ギフト」として最強スキル得ることもできる
※2P目以降の内容には,一部に物語の核心に触れる部分があります。ご注意ください。
- 関連タイトル:
闘神都市
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