インタビュー
なぜ今,努力しないで成功する物語がはやるのか?――引きこもりのプロブロガー・海燕氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第17回
連載第17回めとなる,ドワンゴ・川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」。今回は,ニコニコチャンネルで「海燕のゆるオタひきこもり生活研究室」を運営する海燕氏をゲストに迎え,昨今のオタク像やコンテンツについてなど,いろいろなことを語ってもらいました。
「引きこもりのプロブロガー」として活躍する海燕氏ですが,その豊富なサブカル知識と,明瞭な論理展開能力はかなりのもの。そんな氏は,昨今の流行や人気コンテンツはどのように解釈しているのでしょうか? オタクとヤンキーの違いとはなにか,なぜ今は「努力しないで成功する物語」がはやっているのか,そもそもオタクとはどういう生き物なのか?など,今回は多岐にわたるテーマを,海燕氏と川上氏という二人の“濃いオタク”によるサブカル談義でお届けします。
いつものように,あちらこちらへと話題が散らかってはいますが,いろいろと示唆に富んだ内容も多い気がするので,通勤/通学の途中で,あるいはお昼休みに,ぜひご一読頂ければ幸いです。
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ヤンキーとオタクの決定的な違い
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
川上氏:
僕がいつも愛読している「海燕の『ゆるオタひきこもり生活研究室』」ってブロマガがあるんですけど,今日はそこの運営者である海燕さんに来て頂きました。
なんでこんな場に呼んで頂けたのかとても不思議ですが,精一杯頑張ります。ほかの参加者の方々を見ると,けっこうものすごい面々じゃないですか。戦々恐々としてやってまいりました。
4Gamer:
海燕さんが来ているということは,今日の対談のテーマって……。
川上氏:
なんだっけ?
海燕氏:
なんでしょうね?
4Gamer:
えっと……。現代のオタクとは何か?みたいな話なのかとは思っていたんですが。
川上氏:
なるほど。じゃあ,それでいってみましょう(笑)
4Gamer:
いつもの流れですね(笑) まぁでも,いわゆる「オタク像」や「オタクの定義」って,年代でかなり変わってはいるじゃないですか。昔はオタクというと,分かりやすいステレオタイプなイメージがあったと思うんですけど,昨今は,ニコニコのユーザーなんかに代表されるように,オタクの定義ってかなり曖昧になっている状態に見えます。初音ミクにハマったり,「踊ってみた」とか「歌ってみた」で盛り上がる人は,オタクなのかヤンキー(※)なのかどっちなんだって話ですが。
※ここでいうヤンキーとは,いわゆる「不良」ではなく,ヤンキー的価値観を持っている人々のこと。ちなみにヤンキー的価値観とは,仲間意識,気合いでなんとかする,計画性よりも感性重視といったものを指し,理屈や論理を並べる傾向にあるオタク的な価値観とは対象的なもの
川上氏:
ああ,それさ。実はちょうど先日,庵野さん(※)とその辺の話をしていたんですよ。
※庵野秀明(あんのひであき):映画監督,アニメーター。株式会社カラー代表取締役社長。代表作は「新世紀エヴァンゲリオン」「ふしぎの海のナディア」「『トップをねらえ!」など。ちなみに川上氏は,庵野氏が率いる株式会社カラーの取締役を務める
4Gamer:
んん? もしかして,オタクとヤンキーの対比だったり,最近のオタクはヤンキー化してる――みたいな話ですか?
川上氏:
そうそう。その話の延長上でもあるんだけど,最近,僕は「他人に対して興味を持つっていうのはどういうことなんだ?」ってことをまた考えて。まぁこれ,今までの人生で3回くらい考えていて,全部同じ結論なんだけど(苦笑)
4Gamer:
それはどういう結論なんですか?
川上氏:
要するに,人間が他人に興味を抱くっていうのは,自分に似ている部分を探す,あるいは似ている部分のみを他人に見い出しているって話です。あくまでその“似ている”ってところにだけ興味があって,その人自身には,実はあまり興味を持っていないって思っているんですよ。
海燕氏:
ああ,なるほど。たしかにそうかもしれませんね。
で,この話を庵野さんとしていたら,そこで庵野さんがこんな指摘をしたんです。つまり,世の中には,その「自分と他人が似ている」という部分を広く捉えようとする人と,狭く捉えようとする人がいて。「俺とお前は一緒じゃん」と言って,少しでも似ていたら「兄弟」にしてしまうのがヤンキーで,「僕と貴方,ここは違いますよね」みたいに,世間からみたら同じ種類の人間同士なのに厳密に区別したがるのがオタクなんだと。他人が自分と似ているかどうかを判別するときの方向が真逆になっている。そこが,ヤンキーとオタクの決定的な違いなんだって,庵野さんが指摘していたんです。
海燕氏:
その意味でいうと,いわゆる腐女子の人たちとかもかなり狭い感じですよね。僕はまったく詳しくないので,あまり明言することは憚られますけれど,腐女子は男性のオタク以上に細かい違いを気にしているという話はよく耳にします。
川上氏:
うん。要するに,友達がどんどん増えていくヤンキーと,孤立化しがちなオタクの差っていうのは,似ているところがある他人をどのぐらい「仲間じゃん」って思えるかどうかなんだってことで。これはほんと,その通りだなと思って。
4Gamer:
言われてみれば確かに,濃いオタクほど同族嫌悪してるって印象はありますよね。洋ゲー派の俺らは,コンシューマゲームしか遊んでない奴らとは違うんだ――みたいな。外から見たらどっちも同じだし,実際にそれほど差もないんですけど。
川上氏:
まさにそれ(笑)
4Gamer:
もちろん,厳密に言えば違う部分もあるんですけど。別にそこで喧嘩しなくても……という。
川上氏:
「あいつらと一緒にするな!」って思っちゃうんだよね。だから余計に攻撃的にもなってしまう。
4Gamer:
そういえば,以前,川上さんは「人間,自分とはまったく関係がないと思っている相手には嫉妬しない」みたいなことをおっしゃっていましたよね。嫉妬したり喧嘩する原理ってなんだ?みたいな議論の中で。
川上氏:
ああ,そうですね。だって,自分が本当に関心や興味がないことに対しては「別に関係ないや」って思うだけで,とくに何も感じないじゃないですか。だけど,自分が興味があったり,関係があると思っているものに対してそうはいかないから,頑張って批判したり否定したりするわけですよ。
4Gamer:
関心がないものは心底どうでもいいですからね。
川上氏:
だからその意味で言うと,僕がネット上とかで喧嘩をする相手って,経営者ではなくて,“荒らし”みたいな人なんですよ。なんか偉そうなことを言いながら,ネット上を荒らしている人と僕はよく喧嘩をするんですけど,あれもやっぱり,ある種の同族嫌悪だと思うんですよね。
海燕氏:
それはつまり,川上さん自身も“荒らし”だってことですか? あるいは少なくとも荒らしと似ているところがあると?
川上氏:
はい。オタクといってもいろいろなタイプがいると思うんですけど,僕自身がどういうオタクなのかといったら,ネット上で掲示板とかを荒らしたりしている人に一番近いと思うんです。彼らの行動原理って,とにかく自分の方が正しいと思っていて,何かに対して「お前は間違っている」とか言って,ひたすら攻撃するわけじゃないですか。僕と喧嘩をする人にしても,「お前は間違ってる」とか言って僕に攻撃してくるわけだけど,一方で,僕の方も「いや,お前の方が間違っているんだ」といってやり返すわけです。実際どちらが正しいか?は傍観者の皆さんにお任せするとして,これ,人間としての行動原理自体はまったく一緒ですよね(苦笑)
海燕氏:
なるほど,川上さんの人生には「荒らしルート」もありえたと。たまたまドワンゴの会長とかスタジオジブリのプロデューサーをやっているけれど,別の人生では荒らしだった可能性もあったということですね。
川上氏:
あったというか,むしろ今が「荒らしルート」なんじゃないですか(苦笑)。僕の場合は,たまたま会社をやって成功したから立場があるってだけで。今も荒らしルートを走っていると思います。だって,まともな経営者なら,リクナビの批判なんてやらないと思いますよ。なんの得にもならないから。でも,僕は相手が間違っていると思うから批判するわけです。
ネトウヨの人たちだって,ネット上で韓国や中国をいくら批判したって,別になんら得しないじゃないですか。どちらかというと,周りの人から変な目で見られる確率の方が高くて,むしろデメリットしかないわけです。でも,彼らはそれが正しいと思っているから,頑張って批判するわけですよね。
4Gamer:
そうですねぇ。
川上氏:
僕も同じなんですよ。だから,会社の事業とは何も関係ないところで喧嘩を売っちゃう。実際,今のリクルートの社長が誰かなんて僕は知らないし,リクルートの経営方針に対しても別に文句はない。ただ,リクナビの概念に対しては「間違っている」と思っているだけなんですね。ついでにいうと,楽天のメールは本当に最低。あれも本当にやめたほうがいいですよね。
オタクというのは情報生命体なんじゃないか
4Gamer:
少し話を戻しますけれど,昔のオタクっていうのは,マイノリティ(少数派)だって捉えられ方をしていたじゃないですか。クラス,あるいは学年,学校のなかでも,同じ趣味の人はほとんどいない――みたいに。でも,今はオタク的なものってかなり一般化していて,中にはメジャーなものも含まれていますよね。海燕さん的には,そういった時代の変化についてはどう考えているんですか。
海燕氏:
僕は,そこは素直に“良いこと”だと受け取っていますね。メジャーになってくれてありがたいなと。昔は,アニメを見るためにいじめられる覚悟でやらなきゃいけないだとか,そういう辛い時代って確かにありましたから。それで若いころ,僕がどれだけ苦しんだことか。青春のほとんどを台無しにした気がします(笑)。いま,オタク的といわれる文化全般を気楽に楽しめる環境になっているって意味では,それはとてもいいことだなと思いますね。
川上氏:
そうですよね。僕は海燕さんよりも10歳ほど年上なんですけど,僕の子供の頃っていうのは,オタクへの偏見ってもっと大きかったんですよ。でも一方で,僕がその時に感じていたことって,「迫害はされているけど,俺たちは時代の最先端にいるんだ」っていうかね。そういう感覚も同時に抱いていて。
4Gamer:
ああ,それはなんか分かります。
川上氏:
例えば,アニメやゲーム,コンピューターにハマる人っていうのは,属性的には似たような人達だったと思うんですけど,それらの産業ってどれもが急激な成長期で,これからどんどん伸びていくぞ!って分野だったんですよね。だから,当時のオタク達というのは,マイノリティかもしれないと思う一方で,新たな新興勢力としての自負というか,プライドみたいなものを持っていたんです。
4Gamer:
だけど,それがメジャー化してしまった今,その“熱”や“矜恃”みたいなものはどこへいったのかって話ですよね。
川上氏:
もちろん,今のゲームやアニメにも,そういう熱はきっとあるとは思います。でも個人的には,かなり稀釈されて薄まっているような印象もある。
4Gamer:
少し前のネットコミュニティは,「時代の先端感」が感じられる場だったと思いますし,黎明期のニコニコ動画なんかも,その代表例でしたよね。まぁ,今もそうだとは思いますけど。
川上氏:
ただ,当時は「これからの時代は俺らのもんだ!」とか思っていたんですけど,いざ自分が大人になって,親の世代になってみると,そもそも当時のオタク達はあんまり子孫を残せてない(結婚できてない)から,少なくとも生物学的な遺伝子は残せていない事実に気がついて,かなり愕然としたんですけど(苦笑)
4Gamer:
僕もあんまり人のことは言えないですが……。
海燕氏:
ああ,でも。その辺の議論でいうと,「オタクとは情報生命体なんじゃないか」というのが僕の持論ですね。一般的な意味での生き物じゃない(笑)
川上氏:
いやそれ,絶対そうだと思う。というか,人間ってもの自体,その本質は情報生命体なんじゃないかって気がするよね。
4Gamer:
えっと,どういう意味ですか?
川上氏:
つまりですね。人間の本質や人間の自我と呼ばれるものは,肉体的なところにあるんじゃなくて,精神的な部分にあるんじゃないか。そしてそれは,脳の前頭葉か何かに寄生している精神生命体なんじゃないか――という話ですよ。そっちが人間の「自我」と呼ばれるものを司っていて。
よく,ミーム(※) というものがあるという話があるじゃないですか。人間の習慣だったり宗教だったりはミームの産物であって,人間同士でそういったミームをやりとりすることで,文化が広まっていく。人間は生物学的な遺伝子ジーンだけでなく文化的な遺伝子ミームからも影響されて出来ているっていうモデルです。
※ミーム:人々の間で心から心へとコピーされる情報のこと。習慣や技能,物語など,社会・文化を形成する様々な情報のことを指す。
4Gamer:
はいはい。
川上氏:
多くの場合は,人間という主体があって,ウイルスかなにかのようにミームが人間に感染して影響を与える――というような視点で理解されていることが多いように思うのですけど,僕は,それは少し違うんじゃないかって思っているんです。人間という主体は必要ない。むしろ,ミームそのものが人間ってものの本体で,それ自体が一つの生命体だって解釈した方がすっきりすると思うんですよね。人間という物理的なハードウェアに寄生している情報生命体がミームで,自分のことを人間だと思っている自我の本体はむしろそっちにあるんじゃないかという。
4Gamer:
なんか,以前に話題に出た「地球を支配しているのは,人間を素子とする巨大なネットワークだ」みたいなお話ですよね。
海燕氏:
そうそう。結局,そういうことだと思うんですよね。人間全体が情報生命体だとすると,オタクというのはその部分に特化した存在なのかなと思いますよね。だから,仮にオタクが結婚できず子孫を残せない場合が多いとしても,生命体としての本義はまっとうできるんじゃないかなと。物理的な意味で子孫を残せなくても,情報生命体としてだれかに寄生できればそれで良いわけですから。うんうん,何の問題もないですね(笑)
だからオタクがやたらうるさかったり,ネット上で攻撃的だったりするのは,あれは一種の繁殖活動なんですよ(笑)
一同:
(爆笑)
4Gamer:
どこかに情報(文化的遺伝子)を残したいみたいな。
川上氏:
掲示板とかを荒らし回って,一人で100個くらいコメントを付けたりするのだって,あれはいわば自分のコピーを作ろうとしているわけでしょ。自分の考え(情報)を残して,誰かに影響を与えたい(寄生したい)ってことなんですよ。
海燕氏:
あれですよね。まっとうな人はまっとうな子供を産むんですよね。いい換えるなら,子供は産まれた時点では白紙だということ。でも,そこにオタクが話しかけたり,漫画を読ませたり,アニメを見せたりすることで,その子の精神を侵食してオタクにしてしまう。情報的に寄生するんですね。なんてひどい話なんだ(笑)。でもまあ,そういうことですよね。
川上氏:
そうです。だから,コピペ爆撃とかっていうのも,あれは花粉を飛ばしているようなもんだと考えると理解しやすい。そして,そういうものに対してアレルギーを起こして喧嘩になったりするのが,ネット上の炎上事件とかの正しい解釈なんじゃないですか。
海燕氏:
そこで今日のテーマに繋がるわけですね。オタクに生きる権利があるかどうかといえば,まあ,生物的にはないかもしれない。仮に権利はあるとしてもじっさい女の子にはモテないことも多いし(笑)。でも,情報生命体としては生きる権利も繁殖する権利もあるんだと。いやあ,良い結論ですね。
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