インタビュー
スマホ時代におけるトレーディングカードゲームビジネスの行方とは――ブシロードの木谷氏に聞いてみた
そんなTCG市場において,昨今もっとも急激な成長を見せている企業が,木谷高明氏率いるブシロードである。
木谷氏といえば,コンテンツ業界の中でも“切れ者”として知られる人物。元々は山一證券の社員であったが,ブロッコリーを創業してオタクビジネスの世界へ飛び込んだという,一風変わった経歴でも有名だ。
さて。今回4Gamerでは,そんな木谷氏にインタビューをする機会を得て,今年9月に公開となるアニメと実写の二本立て映画「劇場版カードファイト!! ヴァンガード」の話を聞きながら,現在のTCG市場やコンテンツビジネスにおけるスマートフォンの影響,プロモーションに関する話についてなど,様々な話題のことを聞いてみた。
「劇場版カードファイト!! ヴァンガード」公式サイト
劇場版ヴァンガードに“実写版”がある理由
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
木谷高明氏(以下,木谷氏):
宜しくお願いします。
4Gamer:
まずは,「劇場版カードファイト!! ヴァンガード」についてお聞きしたいのですが……そもそも,なぜアニメだけではなく,「実写展開」をしようと思ったんですか?
まずは他がやらないことをやりたかったというのがありますね(笑)
ひとつのコンテンツでアニメと実写の両方を映画で上映した例って,あまりないと思うんですよ。それに,これまでに実写のCMを16本作っていたんですけど,このCMがヴァンガードに“メジャー感”を与えるのにすごく有効だったと思っているんです。
4Gamer:
CMってDAIGOさんが出てる奴ですか?
木谷氏:
そうです。加えて,実は2年前に実写のドラマを作ったこともあって。割と評判もよかったので,その延長線の展開で,今回の“実写映画”という形が実現しました。だから,ドラマの世界観をそのまま引き継いでいるんですよ。
4Gamer:
なるほど。ちなみに今,“メジャー感”というお話が出ましたけど,木谷さんのプロモーションの仕掛け方として,“メジャー感”を出すために心がけていることって何かあるんですか?
例えば,ヴァンガードですと,駅の広告で大々的にやっていたイメージがありますが,あれはどういう意図でやっていたことなんでしょうか。
木谷氏:
まず理由の一つとしては,駅の広告ってほとんどの会社で稟議が下りづらく,他社が真似しづらいというのがありました。
駅の看板って誰が見ているか分からないし,見てくれているかどうかも分からないんですよね。数字がないから,稟議が下りづらい。まあ,秋葉原などで広告を打つのは,対象がはっきりしているからまだ通りやすいんですが,新宿とか池袋で大きな広告を打つのって,効果測定が非常に難しいんですよ。
4Gamer:
でも,木谷さんの中には,「駅の看板広告には効果がある」という確信みたいなものがあったってことですか?
木谷氏:
まあ,その辺は体感値ではありますけど,効果的な使い方はあると思っています。少なくとも,立ち上げ当初のヴァンガードでは,メジャー感を演出するために非常に有効な手段だったと思っています。とはいえ,作品の評価が定まってしまえば,後は忘れ去られない程度にやっていけばいいので,今はもう,ドカンとやる必要はないとも思っています。
4Gamer:
ちなみに,TCG市場で新しいお客さんを取り込んでいくにあたって,木谷さんが重視している展開とか手法ってあるんですか?
木谷氏:
私としては“子供のユーザー”を作るのが市場とか業界のために必要だと思っていて,「バディファイト」なんかは,そのために立ち上げたところがあります。
現に「バディファイト」では小学生のユーザーがワーッと増えましたし。アニメやコミック展開なども含めて,「バディファイト」は子供に触ってもらう工夫をしているタイトルです。ただ,年齢層によってニーズは違うと思うので,それぞれの年齢層に「こんな遊び方どうですか?」って提案をしていく感じですね。
4Gamer:
ちょっと宣伝の話にも絡むと思うんですけど,いわゆるメディアミックスの戦略って,TCG市場とはかなり密接な関係にありますよね。玩具とアニメの関係に近いといいますか。やはり,子供市場における商品の売り方というのは,アニメやマンガで認知させて――という流れが一番メジャーなのでしょうか?
木谷氏:
一番メジャーなのは,友達が友達を誘うことです。だから,メディアミックスされていようがいまいが,伸びてる時には伸びちゃうんですよ。
4Gamer:
では,アニメやコミック展開の役割というのはどういうものなんですか?
木谷氏:
一つにはブースト作用があります。要するにクチコミを補強する役割ですね。
4Gamer:
なるほど。
木谷氏:
もう一つは,勢いが落ちてきた時にそれを止める作用ですね。ブーム的にはやったものでも,メディア展開がちゃんとなされてなかったら,勢いが鈍った時にそのまま底まで落ちてしまうことも少なくありません。
4Gamer:
作品を「過去の物」にしない,みたいな話なんでしょうか。
木谷氏:
そうですね。そういう意味では,ヴァンガードはずっとアニメをやっているので,カードゲーム自体をやめていてもまた戻ってきやすいんですよ。ヴァンガードはアニメ版の主人公もまだ代替わりしていませんし,まだまだこれから盛り上がっていくんじゃないでしょうか。
4Gamer:
同じカードゲームでも,「マジック:ザ・ギャザリング」などはメディアミックスなどを積極的にやって認知度を保つってアクションは薄いですよね。
木谷氏:
マジックなんかは,やっぱりあれが“元祖”だからこそ成り立っているんだと思いますよ。後発のカードゲームが同じことをやったって続かないんです。
4Gamer:
マジックは特別だってことですか。
木谷氏:
はい。普通は,何らかの補強策(メディア/プロモーション展開)が必要になると思います。
これからのゲームは“テレビとの連動”がカギ!
木谷氏:
そういえば,お客さんにアプローチするための仕掛けという意味でなら,ゲーム(主にスマホの)とテレビを連動させる研究は,ウチはかなりやっているんですよ。
4Gamer:
テレビと連動させる研究って,具体的にどういうことをされるんですか?
木谷氏:
例えば,最近のテレビって,L字型画面で周りに補助情報を出したりできるじゃないですか。なので,その補助情報の部分でゲームの宣伝をするとかって,やろうと思えばできるんですよね。
4Gamer:
ああ,なるほど。
でも,変な形でいきなりやったら文句が来るに決まってるじゃないですか。だから,10月から始まる「ミルキィホームズ」のアニメの再放送とかで,まず実験してみようかなと思っています。
で,「今ゲームやると○○がもらえるぞ!」とか「新しいゲームに登録しよう!」ということがアニメをやってる隣のL字スペースで出てくる……,といったものを考えています。
4Gamer:
なるほど。
木谷氏:
他にも,ヴァンガードのアニメでは,実は,副音声を使って声優さんが好きなことをずっとしゃべり続けてる,ということをやっていたりもして。
4Gamer:
それはオーディオコメンタリー的なことをやってるんですか?
木谷氏:
そうそう。そういうことですね。
4Gamer:
それをテレビの副音声でやっているんですか。そういうことをやっている番組って,他にもあるものなんですか?
木谷氏:
ないんじゃないですかね。そもそも,アニメで副音声を使っているのかな。
4Gamer:
なるほど。いやでも,それは面白い試みですね。そんなことをやっていたのか。
木谷氏:
極端な話,副音声で「ゲーム登録して!」ってずっと話し続けるとかもできます(笑) まあ,あまり露骨にやると問題があるかもしれませんが,作品に対して語ってるところの合間に「ゲーム登録してね!」って言うぐらいなら大丈夫かなと思っています。
4Gamer:
ラジオっぽくて面白いですね。
木谷氏:
今はテレビを見ている時でも,スマホを触っている人って多いと思うんですよね。
4Gamer:
それは確かに。
木谷氏:
だから,“テレビとオンラインをどう連動させるか”というのは,より重要なテーマになっていくと思います。今は,皆さん単純にCMを流してるだけで。ちょっと先進的なところでも,スマートフォン向けゲームの番組を作るってレベルだと思うんですよね。でも,それ以上のこともいろいろできると思うんですよ。
TCG市場におけるスマートフォンの影響
4Gamer:
アニメ/映画のお話からはちょっと離れるのですが,前回のインタビューでは,TCG市場全般について一から教えていただきました。その時から5年ほど経ちますが,その間に起きたブシロードやTCG市場の変化について教えてください。
木谷氏:
まずTCGの市場規模で言うと,2012年の4月頃が頂点だったと思います。金額で言うと1000億ちょっとくらいでしょうか。で,そこから2年4ヶ月ぐらい下り続けて,最近は少し底ばい状態になっていますね。ざっくり計算すると,およそ2割5分ぐらい少なくなった計算になります。
4Gamer:
それでも750億くらいの規模はあるわけですか。
木谷氏:
そうですね。我々が参入するずっと以前,「ポケモンカードゲーム」や「遊戯王OCG」がはやる前は,だいたい350億ぐらいの市場でしたから,そこから比べると,ずいぶんと大きくなったと思います。
4Gamer:
ここ最近で市場が縮小した原因はなんだったんですか?
木谷氏:
色々あるとは思うんですけど,ひとつは市場規模が3倍になって競争も激しくなったので,そこから2割ぐらい下がっても別におかしくはないですよね。いわゆる供給過多の状態にもなっていましたし。ただ僕は,根底にはもっと別の理由があって――いわゆるスマートフォンにとられているんだろうと思います。
4Gamer:
それは具体的には,どの層のお客さんがスマホに奪われていると認識しているんですか?
スマホの影響は,決して目立ってはいないと思うんですよ。例えば,3DSでポケモンや妖怪ウォッチが出たとなると,ある客層が一時的にごそっといなくなるということはあったかと思います。
でも,スマホのゲームの場合は,次々に出る無料のゲームをとっかえひっかえ遊ぶだとかで,その影響は薄く伸びているというのかな。要するに,消費税が5%から8%に上がったような感じで,全体に影響が出ているという印象です。
4Gamer:
スマホの場合,中学生くらいから所持率がいきなり上がって,いろいろな分野で影響が顕著に見られてくるというお話を聞きました。一方で,小学生のお客さんは,スマホの所持率がそんなに高くないせいもあって,まだまだ3DSが根強い人気だと聞きます。
木谷氏:
でも,本人がスマホを所有はしてなくても,家にはありますよね。それに,家でうちの子どもなんか見ていても,最近はみんなスマホのゲームで遊んでますよ。通信でも,昔だったら3DSでやってたことを,今はみんなスマホとかタブレットでやってるじゃないですか。そうなると,アナログのTCGとかが古くて面倒くさいものに見えるってことはあると思っています。
4Gamer:
それは確かに。
木谷氏:
だから,子どもの市場にも,僕は少しずつ影響がきていると思いますね。とはいえ,スマホのゲームでは,対面して遊ぶようなアナログなコミュニケーションをとれるわけではないですし,そこについては,アナログなコミュニケーションが取りやすいTCGの良さは活かせるのかなと思っています。
ただ,“ゲームをやる”という行為においては,スマホの比重ってもの凄く高くなっているはずなんです。
4Gamer:
なるほど。
木谷氏:
それと,もうひとつ。これもスマホ……というか,ネットの影響にはなるのですが,パッケージ商品――例えばおもちゃや本,レンタルビデオなどの市場の縮小も,カードゲームにとっては痛手です。
4Gamer:
それはなぜですか?
木谷氏:
これらが縮小していっている煽りをカードゲームが受けているんですよ。いわゆる“カードゲームショップ”って言われてるところが日本に1000店舗ぐらいあるんですが,おもちゃ屋や本屋,レンタルビデオ屋などを何も併設していない“純粋なカードゲームショップ”って,その4分の1ぐらいなんですね。
4Gamer:
250店舗ぐらいということですか。
木谷氏:
はい。で,それら以外のお店というのは,何かと併設されているカードゲームショップなんです。だから,例えば本屋が閉店すれば,併設していたカードゲームショップも閉店になっちゃうわけですよ。TCG自体の売上がそんなに悪くなかったとしても,一緒になくなってしまう。
4Gamer:
本屋もそうですけど,ゲームショップはかなり売上が厳しくて,どんどんお店をたたんでいるという話を聞きますね。
木谷氏:
そういう意味で,純粋なカードゲームショップ――専門店の存在はカードゲーム市場ではもっと大切にしなければと思っています。お店がなくなったら,TCG市場そのものがなくなりますからね。
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