インタビュー
MMORPGでも“ジャンプ操作”は絶対必要なんです!――チーフプランナー安西 崇氏も招いた「ドラゴンクエストX」バージョン2.1インタビュー
「コンテンツの消費を早めてしまう」という問題
4Gamer:
しかし,アップデートの方向性というんでしょうか,本作で感心するのは「修正の仕方」が凄く的を射ているといいますか,とても適切なところなんですよね。
齊藤氏:
どういう意味ですか?
4Gamer:
例えばですけど,何かしらの問題点であったり,プレイヤーさんの不満に対して,“表面的な対応”だったり”場当たり的な対応”をしてしまうことって,オンラインゲームの運営上で少なからずあると思うんです。具体的な例でいえば,とあるアイテムの出現率が低すぎるとして,それを単純に高くしてしまうことで,ほかの問題(ゲーム内経済の崩壊など)を引き起こしてしまう――みたいな話です。
りっきー:
ああ,なるほど。
4Gamer:
他のタイトルでは,それはちょっと違うんじゃないかって修正も散見されたりするなかで,「ドラゴンクエストX」は,非常に合理的というか,正しいと思える修正をしている印象があって。どうしてそうできるのか,どういったプロセスを経て修正しているのか,結構気になっているんです。
それを言うと,うちのチームでは,何か問題があってそれに手を入れようって時に,「こういう変更はどうだろう?」って案を,まずプランナー全員で精査するんですよ。こういう要素を入れたらこうなる,ああいう要素を入れたらああなるというのを,全員で議論して,かなり煮詰めてから実装するようにしています。
4Gamer:
煮詰めるというのは,具体的には?
りっきー:
コインボスの例で言えば,あれって一戦一戦がとても貴重(高価)なものなので,外れを引き続ける状態が続くと,プレイヤーさんの心が折れてしまうという問題があったじゃないですか。確率的には何回かやれば手に入るようなバランスにはしてあるんですけど,確率でやっている以上は「外れを引き続ける人」ってどうしても出てしまう。
4Gamer:
そうですね。
りっきー:
その「心が折れる」って状況を作りたくなくて。「何か良い解決案はないか」っていう話を,バトルチームとプログラマーを含めて,30人ぐらいいる会議の場で切り出したんですよ。で,「それだとこういう人が苦労するんじゃないか」「もうすでにこういうことをやってた人はどうするんだ」とか,いろいろ議論をして。最終的に,一番うまく問題を解決できる手法として,「破片」を出すという方法を選択しました。
僕は「破片」ってアイデアはとても秀逸だと思ったんです。たとえ“外れ”でも「破片」がもらえる。それを10個集めれば,確実にそのレアアイテムがもらえる――というのは,とてもよい“落としどころ”だなと。
これは,ボスを倒してもなかなかレアアイテムが手に入らないってストレスを解消するための修正ですけれど,安易な方向で解決しようとすると,単純に確率を高くするとか,そういう方向に向かいがちじゃないですか。そうしなかったあたりが,とてもうまいなと思って。
りっきー:
そう言って頂けると,嬉しいですね。
齊藤氏:
これも,ゲーム内で自分自身が苦労した経験から出した提案なんだよね。
りっきー:
ええ。僕自身も「心が折れる」経験をしたことがありますからね……。そういう気持ちは,やっぱりお客さんに味わってほしくない。ここは,かなりプラオリティ高めで対応していた記憶があります。
安西氏:
幸いにもと言うか,「ドラゴンクエストX」の開発チームは,自分でもゲームをかなり遊んでいる人が多いですから,お客さんに近い目線で見られてはいるのかな?という感覚もありますよね。
齊藤氏:
そうだね。みんなめちゃくちゃ遊んでるよね! ……私もですけど(笑)
4Gamer:
(笑)。しかし,一方では,そういうプレイヤーさんの不満を解消する代償として,「コンテンツの消費を早めてしまう」って問題が付きまとうじゃないですか。バージョン2.0ではコインボスの落とすアイテムが,バージョン2.1からはピラミッドで手に入るブローチで破片が出るようになりましたけれど,簡単に手に入る≒飽きるのが早くなるというリスクは,どうしても出てきます。
りっきー:
おっしゃるとおりですね。
4Gamer:
だから,そのへんに対するバランスの取り方ってどうなっているんだろう?というのは,気になるんですよ。
齊藤氏:
どのプレイヤー層を対象にバランスを取るのかって,本当に難しいんですよ。例えば,ピラミッドは週単位のコンテンツですけれど,毎週行ける人とそうじゃない人,6層までクリアできる人と,3層くらいまでしかクリアできない人。どこに合わせるべきなのかっていうのは,毎回議論になります。
4Gamer:
その議論は,どういったところに落ち着くんですか?
齊藤氏:
ピラミッドのお話でいえば,これは一応はエンドコンテンツ的なものの一つなんですけれど,難度自体はそんなに高くはないじゃないですか。それもあって,基本的にはある程度気軽に遊べて,出現確率もあんまり渋くしない方がいいだろう――みたいな感じですね。それに,コインボスの落とすアクセサリーにしろ,ピラミッドで手に入るブローチにしろ,一つ手に入れるだけならともかく,極めようとするなら大変じゃないですか。
4Gamer:
極めるというのは,アクセサリー合成(※)でよい効果を付けるって話ですか?
※アクセサリー合成:同じアクセサリーを合成して,追加効果を付与するシステム。1つのアクセサリーに対して最大で3つまで付与できるが,追加される効果はランダムで決まるため,理想的な追加効果を付けるのはとても難しい。
齊藤氏:
そうです。一つ手に入れるまではある程度簡単に,だけど“最強”を目指すなら大変になる。そういう“段階”をきちんと用意できているので,コンテンツの消費速度に関する問題には,柔軟に対応できているんじゃないかって思います。
4Gamer:
合成も,とても良いシステムですよね。最初に実装された頃は,要らない効果が付与されるのが,けっこうストレスになりましたが(笑)。効果を消してやりなおせるようになってからは,ゲームバランス全体に対して非常にうまく機能しているシステムの一つになったと思います。
安西氏:
合成を最初に実装した時期って,ちょうど「竜のお守り」というアイテムを取るのがすごくはやっていた頃で。合成がなかったときは,例えば,りっきーが「竜のお守りが欲しい」って言うと,私も一緒に付いていって手伝うんですけど,私自身がすでに持っている状態だと,その手伝う作業があんまり楽しくないんですよね。
齊藤氏:
二つめを手に入れても,意味がなかったからね。せっかくのレアアイテムが無駄になってしまう。
安西氏:
はい。だから,「じゃあ,お手伝いする人が楽しくなるためにはどうしたらいいの?」って視点で生まれたのが合成なんです。これなら,二つ目を手に入れても無駄にならないから,お手伝いをする側もモチベーションが保てるんですよ。
4Gamer:
なるほど。
りっきー:
「ドラゴンクエストX」の開発チーム内では,「お手伝いする人にとってはどうなの?」って視点はかなり重要視していますね。
バージョン2.1におけるバランス調整の考え方
4Gamer:
あの,あらためてでなんですが,バージョン2.1のインタビューということなので,バージョン2.1についても少し聞かせてください。
りっきー:
そ,そうでした(笑)
4Gamer:
というわけで,月並みですが,2.1[前期]の反響はいかがですか?
齊藤氏:
おかげさまで大変多くの方に遊んでいただいてます。2.1になってからもそうなんですが,今年に入ってからずっとアクティブユーザーが増えている状況で。
4Gamer:
僕自身の周りもそうなんですけど,2.0をきっかけに戻った人が体感できるくらい多いですよね。
りっきー:
そうですね。この前,アンケートをやったんですけど,復帰した理由を聞いた質問に対して「口コミ」っていう回答している人が凄く多くて。復帰した方が,友達を誘ったりしてくれているのかもしれないです。
4Gamer:
へえ。そう言われると,確かに僕もです。2.0を買った時は知り合いに声をかけた記憶があります(笑)
齊藤氏:
ありがとうございます!(笑)
4Gamer:
新職業である「どうぐ使い」とかの使用状況はどんな感じですか? 毎回,新職業はかなり強めに設定されているので,これは「使ってほしい」ってことなのかなぁとは思っていますけど。
りっきー:
お察しのとおりです。まあただ,新職業の調整についていえば,単純な強さうんぬんというよりも,すでに13職もある中で「どうぐ使いの席ってちゃんとあるの?」っていう部分を重要視しているんですけどね。
安西氏:
そこは,今のバトルシステム担当のチーフが相当気を使って調整してましたよね。この職業はどういうことをする職業なんだろう?っていう,個性付けみたいな部分はかなり意識していますから。「どうぐ使い」って何ができるの? 「スーパースター」って何ができるの?って。
りっきー:
「どうぐ使い」の個性って意味では,「ディバインスペル」とか「マジックバリア」っていう専用の呪文を持たせてるってあたりが,職業としての立ち位置を確立するための要素ですね。
安西氏:
あと「どうぐ使い」は,「トラップジャマー」という,敵の設置系のトラップスキルに対抗できる初めてのとくぎを持っています。レベルが上がってきたらそれを使って,今までは倒しにくかったボスを倒したりしてくれると嬉しいですね。
4Gamer:
スキルと言えば,バージョン2.1からは,オノのとくぎがかなり強くなりましたよね。調整の意図はどういうものだったんですか?
安西氏:
長い間,ずっと「タイガークロー」が強い強いって言われていた横で,オノがすごく弱いとも言われてたので,いろいろな数値を検証しながら,ここは調整しましょうって感じでした。もちろん,どこまで強くしようかっていうのはすごく議論しましたが。
りっきー:
すべての職業だったり,すべての武器に対して,“やり甲斐”や“個性”をきちんと持たせましょうって趣旨で修正をしています。オノは,「はっちゃけた武器にしよう!」という意図もあって,消費MPは凄く多いけど,威力は高いって方向に振ってみた感じですね。
安西氏:
そうですね。とくにオノに関しては,私は「本当に大丈夫か!?」みたいなことを言っていたんですけど,りっきーは「このくらい強くていいだろう」と,ぐいっと強くしたってところはあります。
あと,今はキャラクターのレベルが上がってスキルポイントに余裕が出てきたので,盾の使用者が凄く増えているんです。実際,盾はかなり強い状態なので,「両手武器はもっと強くした方がいい」って話があったんですよね。
りっきー:
まぁまだ課題はあると思いますが,現状,プレイデータを見る限り職業や武器の使用率はかなりばらけるようになってきましたね。
あと,バージョン2.1でちょっと興味深かったのは「釣り」の扱いでした。せっかくの完全な新要素なのに,微妙に「やらくなくてもいいや」と思えるさじ加減がうまいなと。
りっきー:
わははは。
4Gamer:
さっきのお話じゃないですけど,あまり露骨に「やらないと損」みたいになってしまうと,やっぱり良くないとは思うんです。その意味で,やらなくてもいいんだけど,やったら嬉しいくらいのバランスになっているのは素晴らしいと思いますね。
安西氏:
そのお話で言うと,コロシアムを最初に入れる時に,遊んでもらうモチベーション付けの一環として,「遊んでくれた人に対してふくびき券をあげましょう」って話をしていたんですよ。で,最初は「3枚あげようか」って話をしていたんですが,プランナーの一人が「俺はコロシアムに行かないから,3枚ももらえるのは嫌だ」って言っていたんですね。
りっきー:
ああ,言ってたねぇ(笑)
安西氏:
「なんで? 別にいいじゃん」って思うんだけど,「自分はもらえないのに,ほかの人が3枚もらうのは嫌なんです」と言われて。その時,ハっと思ったんですよ。
4Gamer:
ふくびき券が3枚手に入ると,「行かなきゃいけない」気分になるんですよね。
安西氏:
そうそう。あまりに魅力的だと,それが必須になってしまうんです。だから以降,そうならないようにすごく気をつけてるってところはあります。だからコロシアムも,勝ったら2枚,負けても1枚という形に落ち着きました。
真・災厄難民だったから入れた「かきおき」機能
4Gamer:
あと,バージョン2.1で目に付いた部分でいうと,ロード画面にフレンドの一言コメントを表示させる「かきおき」機能も面白い仕組みだなと思いました。
りっきー:
「かきおき」に関しては,単純にもっとライトなコミュニケーションが取れるようにしたかったからです。例えば,自分から「ボスに行きたいです」とか,フレンドやチームメンバーにチャットで伝えるのって,僕は結構ハードルが高いことだと思っていて。
4Gamer:
そうかもしれませんね。
そうじゃなくて,たとえば,「真・災厄(※)に行きたいんですよ」っていうのを自分のかきおきメモとして書いておけば,それを見た人が「お前も行きたいんだったら一緒に行く?」とか,誘ってくれたりすることもあると思うんです。直接声をかけて人を集めるよりも,その方がハードルが低いと思ったんですね。
※「災厄の王」と呼ばれるボスに挑むことを指す。2パーティ(8人)で戦う特殊なボス戦のため,一緒に遊ぶ人を集めるのが大変
4Gamer:
いや,あれも「ありそうでなかった機能」だなと思って。しかも,ロード時間に表示させるってあたりがすごくうまいなと。あの手のコミュニケーション要素って,普通は「ひとこと掲示板」だとか,フレンドリストに一行設けて出すだとか,そういう方法に走りがちじゃないですか。
安西氏:
能動的に見に行かなきゃいけないようなメッセージだと,やっぱり駄目なんですよね。誰も見に行かない。
りっきー:
そうなんですよね。だから,実はずっと以前からこういうライトにコミュニケーションを取れる場がほしいなとは思っていたんですけど,なかなか良いアイデアが浮かばなくて。
安西氏:
あるとき,誰かが冗談半分で「ローディング中に出すか」って言ったんですよね。そしたら,「もうそれでいくか!」みたいな話になって(笑)
4Gamer:
でも,これも地味だけど,発明だと思いますよ。他のゲームではあんまり見かけたことがない気がします。
りっきー:
まぁ,僕が真・災厄難民だったから入れただけの機能なんですけどね!
一同:
(爆笑)
りっきー:
だって,もうみんな終わっちゃってるもんだから,自分から「行きましょう」とはなかなか言いづらくて……
4Gamer:
その気持ちはとてもよく分かります(笑)。では,そろそろお時間も迫ってきたので……。最後に,読者に向けてコメントをお願いします。
りっきー:
「ドラゴンクエストX」をプレイしていただきありがとうございます。これからもアストルティアをどんどん楽しい世界にしていきたいと思っていますので,気になった点や良いアイデアを思いついたら,提案広場までお願いします。
安西氏:
「ドラゴンクエスト」をMMOにしたらすごく面白いって,誰もが考えると思うのですが,実際に作り始めてみると,それぞれの思想や大切にしているもの違いから,いくつもの壁にぶち当たりました。
その壁を乗り越えるためにみなで議論して,アイデアを磨きに磨いて形にしてきました。今回のインタビューで,時に楽しく,時に熱く議論をしているチームの雰囲気が伝わったら幸いです。これからもユーザーのみなさんからいただいた意見や提案を議論し,ひとつひとつ対策を検討していきます。
斎藤氏:
これからも皆さんと一緒にアストルティアを楽しみ,皆さんと一緒にアストルティアを育てていきたいと思ってます。ゲーム内外で「ドラゴンクエストX」を盛り上げていきますので,引き続き応援をお願いします!
4Gamer:
今日はありがとうございました。
――3月14日収録
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