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[GDC 2014]稲船敬二氏が語った日本ゲーム市場復活への希望とは。GDC 2014で行われたセッション「Meanwhile in Japan」(その時,日本では)をレポート
稲船氏といえば,これまで国内外で,時に辛辣とも思える表現を用いて,日本のゲーム産業の在り方を憂慮,批判してきた人物だ。その発言内容には賛否両論があるものの,常に世界中のメディア/ゲーマーから注目を集めている。
そんな彼の思いを具現化したのが,Kickstarterでの資金調達に成功した「Mighty No.9」だが,同作はこれまでに,PayPalを通じた直接投資を含めて4億円近い投資を獲得している。
しかし,直後に「悪い話ばかりではなく,インディーズゲームが欧米と同様に盛り上がってきています。インディーズ開発者達の目が輝いているのはどこも同じで,私自身も,彼らの一員になったことで,ゲーム作りが楽しかった時代のやり方で開発ができ,心が健全になったような気がします」と語っており,日本のインディーズゲームシーンに将来性を見出しているようだ。
なお「Mighty No.9」のKickstarter展開を仕切ったマクドナルド氏によると,バッカーとして投資をした日本人は全体の10%から15%程度とのこと。このゲームが日本で作られていることを考えると,「クラウドファンディング」というシステムが日本で認知されてきているとは言いがたい。しかしそれは,日本のゲーム開発者に対しても言えることで,「Mighty No.9」の資金調達後,稲船氏に対する業界からの反応の半数は賞賛だったが,残りが「クラウドファンディングって何ですか?」という内容だったらしい。
ゲーム産業が成熟し過ぎて,ゲーム開発者達がクリエイターとしての自覚をなくし,ただの会社員になってしまったことによって「自分のアイデアが投資を受ける対象になり得るという感覚が薄れ,そこから抜け出せない」のが,日本のゲーム業界の現状というわけだ。
日本のゲーム業界でも,まだ知名度が高くないと思われる8−4という広報チームと組んだ理由について「我々と一緒にこのプロジェクトを成功させたいという情熱を感じたから」だと話したように,稲船氏の言動からは,8−4への深い信頼が感じられる。その8−4は,在日アメリカ人であるマクドナルド氏らを含め,メンバー全員が複数の言語を操る「バイカルチャー」なチームであり,グローバルなコミュニティ運営をリアルタイムで行えることをアピールしていた。
「Mighty No.9は,常に壁を乗り越えていく宿命にある」とたびたび語る稲船氏だが,実際にcomseptと8−4は,日本のゲーム業界では前人未到ともいえるKickstarterでの資金調達,そしてコアなファンを巻き込んでのコミュニティ作りに成功している。先日,「悪魔城ドラキュラ」シリーズで知られる五十嵐孝司氏がKONAMIを退社すると表明した際に,海外メディアKotakuのインタビューに対し「稲船さんが私の独立を大いにインスパイアさせた」(関連サイト)と語っていたが,そのことについては稲船氏も,「五十嵐さんの勇気に感服する」とエールを送っていた。
セッションの最後に,日本のゲーム産業の将来性について聞かれた稲船氏が,「日本人の良さとは何だろう。これまでの歴史の中で,日本人は資源も人口も領土もないという多くの制限の中で工夫し,そのクリエイティビティを開花させてきました。多くの制限が課せられた今の日本のゲーム業界は,そんな状況に似ているように感じます」とコメントしたのは実に印象的だった。
日本人が本来持っている「物作りに対するセンスや姿勢」が,現在のゲーム業界でも発揮されることに期待しているのは,何も稲船氏だけではないはず。日本のゲーム産業を元気にするのは,壁の外にいるインディーズ開発者なのか,それとも壁をぶち壊す商業クリエイターなのか。「Mighty No.9」の開発状況と共に見守っていきたいところだ。
「Mighty No.9」公式サイト
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