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ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた
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印刷2013/10/08 00:00

インタビュー

ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた

「ソリティ馬」は流行を意識したゲームではない


4Gamer:
 「GEAR」のお話を聞いていて気になったんですが,ゲームフリーク内で後進の育成だとか,社内教育的な制度って別にあるんですか?

画像集#011のサムネイル/ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた
渡辺氏:
 もちろん,社内に教育担当みたいな人間はいますし,何かしら次の世代に伝えようって動きはやってます。ただ,一口に教育といっても,担当する職務によっていろいろと変わって来ますから,会社全体で一貫性がある取り込みをやれているかっていうと,なかなか難しいですね。でも,ウチの古参の考え方というか,彼らの持つ“空気感”みたいなものは,一緒に仕事をしていくなかで受け継がれていると思いますよ。

杉森氏:
 そうですねえ。それこそ,社員が10人くらいの規模だった頃は,みんなでご飯でも食べれば,自然とゲーム談義になっていたし,そうすることで自分が持ってる考えや気持ちはみんなに伝わったんですけどね。ただ会社が大きくなってくると,なかなかそうもいかなくなってくる。そのあたりの難しさは,どこもそうでしょうけど,やっぱりありますね。

4Gamer:
 ちなみに,「ソリティ馬」を作ったメンバーの中には,かなり古参の方もいるんですか?

渡辺氏:
 えーと,3人いるうちの一之瀬(※1)なんかはかなりの古株ですね。赤・緑を作っていた頃から在籍していましたから,20年くらいになります。それこそ,ウチの田尻(※2)ともずいぶん長い間やりとりをしている人間の一人ですよ。

※1 一之瀬剛(いちのせごう):ゲームフリーク 開発部 サウンドデザイナー・リーダー ゲームデザイナー。ポケットモンスターシリーズを始め,同社のゲームのサウンドを担当。田谷氏と共に「ソリティ馬」の企画を立案し,同作ではプランナーを担当した

※2 田尻 智(たじりさとし):ゲームフリークの代表取締役社長。「ポケットモンスター」の産みの親として知られ,アニメ版「ポケットモンスター」シリーズの主人公「サトシ」の名前も,氏に由来している

杉森氏:
 今回ディレクターをやった田谷(※3)なんかも,もう10年くらいになるかな?

※3 田谷正夫(たやまさお):ゲームフリーク 開発部 プログラマー。ポケットモンスターシリーズの開発を務める傍ら,「ソリティ馬」の企画を立案。ディレクターを務めた

渡辺氏:
 そうですね,そのくらいだと思う。残りの一人の小幡(※4)はかなり若いですけど。

※4 小幡敏宏(おばたとしひろ):ゲームフリーク 開発部 プログラマー。「ソリティ馬」のプログラミングを担当

4Gamer:
 なるほど。やっぱり「ゲームフリークらしさ」みたいなものを,肌感覚で分かってる人が作ったってことですよね。

渡辺氏:
 そうですね。実際,僕らは「ソリティ馬」の開発のとき,ほとんど何も口を出してないんですけど,全部彼らに任せてあれが出来てきましたからね。

画像集#038のサムネイル/ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた
杉森氏:
 彼らは,逆に「こんなことやっていいのか?」という心配をずっとしていたみたいだけどね。ゲームフリークって,割とゲームの世界観の“整合性”だったり,“理屈”みたいな部分を大事にしている会社なんですけど,「ソリティアをやると馬が走る……みたいなことをやっていいんでしょうか?」っていうのを,彼らはとても心配していた。まぁ僕的には,「劇中でちゃんと突っ込んでれば大丈夫だよ」って言って,背中を押していたぐらいだったんですけど。

渡辺氏:
 このプロジェクトに関しては,珍しく乗り気だったよね。なんで気に入ってたの?

杉森氏:
 気に入ったというか,プロトタイプを遊んでみたら,確かにソリティアと競馬って組み合わせは意味が分からないんだけど,なんだか中毒性はあるなと思って。これはやった方がいいって判断をしたんです。

渡辺氏:
 僕は,ソリティアも競馬も好きだから,「客観的に判断することができているか」が実はちょっと不安だったけどね。確かに面白いけど,これは本当にいけるのか?ってずっと思っていましたから。

4Gamer:
 今なら「パズル&ドラゴンズ」とかがヒットしてるから,これはこれで「あり」って風潮ですよね。そういえば,「ソリティ馬」の企画が出てきたのって,いつぐらいのタイミングだったんですか?

渡辺氏:
 えっと,正式に開発が始まったのが2012年4月で,企画自体が出てきたのはその半年前ですね。だから,2011年の10月かな?そこから6か月間試作して,社内の承認を経て本開発って流れです。

4Gamer:
 かなり長い制作期間ですね。

渡辺氏:
 本当はもうちょっと早く終わらせるつもりだったんですけどね。こだわりたい部分が多くて。あとは,完全にこれ一本に専念していたわけでもないので,純粋に期間だけを見ると長く感じるかもしれません。

4Gamer:
 「ソリティ馬」は,別に流行を意識したゲームではないってことですよね。

杉森氏:
 そうですね。

画像集#025のサムネイル/ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた


今のゲーム市場をゲームフリークはどう見ているのか


4Gamer:
 ふと思ったんですけど,そもそもゲームフリークさんって,今のゲーム市場をどう捉えているんですか?

杉森氏:
 そこを僕らに聞きますか(苦笑)。

4Gamer:
 いや,ポケモンを作っている人達がどう思っているんだろう?っていうのは,割とみんな興味があるんじゃないかなぁと。

杉森氏:
 まぁ,それこそ500円のゲームとかも昔はなかなか考えられなかった――ディスクシステムみたいなものはあったにしても――ですし,今は500円でも高いって言われてしまう時代じゃないですか。それはすごい変化だよなと素直に思います。そうした変化に対する実験だったり,答え探しは,「GEAR」とかも含めてもっとやっていかないといけないでしょう。

渡辺氏:
 スマートフォンの登場によって,ゲーム市場というか,ゲームというものに触れてくれる人の絶対数が増えたこと自体は,僕は凄く良いことだと思います。活性化している場所があれば,作り手としてはチャンスになるわけですしね。ただ……。

4Gamer:
 ただ?

画像集#009のサムネイル/ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた
渡辺氏:
 ただ一方では,「ゲームを遊ぶ」って行為そのものの価値は失われないようにしないといけない,とも思っています。業界全体でそれなりのクオリティのものをちゃんと作って,お客さんに満足してもらうようにしていかないと。あんまり“焼き畑的”なものばかりが溢れちゃうのは,やっぱり心配なんです。その辺は,うまいこと業界のみんなでやっていきたいですよね。あ,僕らも頑張りますんで(笑)。

4Gamer:
 今,お話に出てきた“焼き畑”って,具体的にどういうものを指しています?

渡辺氏:
 うーん。語弊を恐れずに言ってしまうと,やっぱり“安易な真似”ですかねぇ。いや,真似ること自体は良いと思うんですよ。歴史的にもそういう例は多いと思います。あるものに触発され,そこに一要素ちゃんと加える,あるいはそこから発展させるってものならいいんじゃないですか。だけど,どこを見てもまったく同じみたいなものは……なんだろうな。

杉森氏:
 まあ,なんか,すごく平たい感じがするというか。

渡辺氏:
 はい。

杉森氏:
 面白い要素が出てくると,それをみんなが真似するじゃないですか。結果として,その要素が平均化されていってしまい,ゲーム業界全体が平らになるっていうかね。僕は,それはイヤだなって純粋に思うんです。それに,一番のキモになる部分を考えるコストは払わずに,価格だけを安くするみたいなやり方は,それはちょっとかなわんなぁという思いもあって。

渡辺氏:
 あんまり“消費の速度”というか,“飽きる速度”を上げてしまう方向ばかりに突き進むとツライですよね。一つのゲームデザインが発明されたら,そこからもっといろいろ発展しながら楽しめるのがいいと思うんで。なんというか,そこはあんまり偉そうなことを言うつもりもなくて,「節度を守りましょうよ」くらいの話なんですけど。

4Gamer:
 ちなみにちょっと話がズレますが,最近「これは!」と感心したゲームとかはありますか?

杉森氏:
 僕はやっぱり絵描きなので,「ドラゴンズクラウン」には感銘を受けましたね。デザイナー主導でゲームを作ると,こんなにも凄いモノが作れるんだって意味で,とても驚きました。

4Gamer:
 「ドラゴンズクラウン」のディレクターの神谷盛治さんは僕も以前取材をさせてもらいましたけど,とにかく“熱量”が凄い人だなと思って。

杉森氏:
 「ドラゴンズクラウン」も,熱の塊のような作品ですよね。

画像集#020のサムネイル/ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた


「ゲームそのものの価値」への危惧


4Gamer:
 先ほど“飽きる速度”というお話がありました。今回の取材をさせて頂くにあたって,ゲームフリークさん関連の書籍をいくつか読み返していたんですけれど,田尻さんの「新ゲームデザイン」という本で,興味深いことが書いてあったんです。

杉森氏:
 へえ?

4Gamer:
 簡単にいうと,「瞬間的な快楽を求めるばかりに,スコアを大盤振る舞いする風潮がはやり,結果としてスコアシステムそのものが崩壊した」という話なんですけど,これは現代にも通じるものがあるなと思って。ここなんですけど――

 1000万点などの高得点を出すことが,プレイヤーのステイタスになるのは,それなりのテクニックと,長いプレイ時間が代償になっているからです。
 ところが80年代半ば以降,多くのテレビゲームは,スコアテーブルはあいまいを増して,唯一,競争の証となるべきスコアも,特別な意味をなさなくなっていきます。

 競争の結果,得られるべき快感を,別の簡易な形で与えてしまう。10点の評価が得られるべき結果に,100点をあげたり,気前よく1000点あげてしまう。現在,テレビゲームではスコアが重視されませんが,そうやってスコアシステムを駄目にした人たちがいるわけです。

 これはなぜかというと,遊びとはまったく別の市場競争の原理があって,より短い時間で勝利の快感を与えるテレビゲームが市場で生き残っていくわけです。それによって本来10点分しか努力してない自分に,10点分の敵を倒した自分に,100点,1000点,1万点の競争に打ち勝ったような評価してくれるスコアシステムを,考え出したんです。
〜新ゲームデザイン(田尻 智) 1996年,エニックス刊


杉森氏:
 ふうむ。なるほどねぇ。

4Gamer:
 経済誌などでは,悪質なソーシャルゲームなどを指して「焼き畑的なビジネス」みたいな表現をされることもあると思うんですけれど,そこでいう“焼き畑”って,金銭的な意味合いが強い気がするんですよね。お客さんと継続的にリレーションを育んでいくというよりは,次から次に取り尽くしていってしまうというか。何万円,何十万円も課金を強いるような仕組みだと,お客さんが疲弊してしまう――みたいな。

渡辺氏:
 そうですねぇ。

4Gamer:
 でも,杉森さんや渡辺さんが危惧されているのは,どちらかというと「ゲームそのものの価値の疲弊」の方ということですか?

画像集#015のサムネイル/ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた
杉森氏:
 そこは両方ですね。これは別にゲーム業界に限らないと思うんですけど,やっぱり自制心みたいなものって,僕は大事だと思うんです。えげつなかったり,それは不健康だろうっていうものに対しては,やっぱりどこかでブレーキをかけていかないといけない。
 ただ一方では,あんまり偏りすぎるのも幸せじゃないっていうのかな。ほどよい落としどころを探さないといけないと思うんです。だから,コンテンツを大事にしたい人と,ビジネスをする人が戦って,うまいバランスになればいいんじゃないかなと思いますけど。

4Gamer:
 おっしゃる通りですね。儲からなければ先にはつながりませんし。

渡辺氏:
 課金はないけどアップデートもありませんっていうのと,課金はあるけど継続的にアップデートがあるという形,どっちがお客さんにとって幸せなんだって話もあるじゃないですか。そういう部分のバランスは,これからもっと重要になっていくんでしょうね。僕らも,いろいろ考えていきたいとは思っています。


「ゲームだから」という説明で済ませない


杉森氏:
 ビジネスうんぬんで言えば,僕らがずっと「NO!」って言い続けているものは「ポケモンをお金で買う行為」ですね。それだけは絶対駄目だっていうのは,それこそ田尻が全面的に関わっていた時代から言っていることです。

4Gamer:
 それはなぜ駄目なんですか? 何か明確な指針なり理由があっての判断なんでしょうか。

杉森氏:
 ポケモンに関して言うと,ひとつはそれが「ゲームの世界観を壊すことにつながってしまう」からです。安易な商品化などを許さないのは,ブランドを守るための手段だとも思っていますし,そのために「株式会社ポケモン」という専門の会社もあります。
 だから,仮にポケモンをお金で売買できるようにするとしても,絶対に何か,100円なら100円の価値にふさわしいものを用意して,何かしら納得がいく理由を用意しなくてはいけないと思っています。

4Gamer:
 でも,その意味で言うと,例えば「映画館で幻のポケモンがもらえる」みたいなものはなぜOKなんですか?

杉森氏:
 あれは,映画を見に行くと,その映画に出ていたポケモンがスクリーンからやってくるっていう“体験”が,「これは面白いな」と思ったからやった企画なんです。やってみたら,思いのほか反響が大きくて,いろいろなことを言われたりしましたけど。
 単に配りたいからってことではなくて,「新しい体験」というのをお客さんに味わってほしいわけです。何をするにしても,ちゃんと世界観に即しているかであったり,つじつまがあっているかであったり。そういう部分をとても大切にしているんですよ。

4Gamer:
 んん,つじつまを合わせるってどういうことですか?

画像集#019のサムネイル/ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた

杉森氏:
 ゲームの仕様でいえば,例えば「モンスターをボールに入れて持ち歩く」という設定がなぜ出来たかというと,自分のキャラクターの後ろに“モンスターをぞろぞろ歩かせる表現”が,ゲームボーイというハードウェアでは性能的に難しかったからなんですね。でも,何の理屈もなしに後ろに誰もいなかったら,それは変だろうってことで,じゃあ「ポケットに入ってるってことにしよう!」みたいな設定が生まれたわけです。ゲームの仕組みと世界観が密接に結びついてるのが,ウチのやり方といいますか。

4Gamer:
 「ゲームだから」という説明で済ませてしまうようなことを,極力すべきではないということなんですかね。

杉森氏:
 少なくとも僕はそう思います。逆に言うと,例えば,何かまったく新しいゲームの企画とかで,「これはリアルマネーで売ると面白いのかも」ってものがあったら,それは100円で売るのかもしれない。

4Gamer:
 なるほど。

渡辺氏:
 ちょっと前に出た「だるめしスポーツ店」なんかはとても面白い作品ですよね。ゲーム自体の値段を値切れるという。

4Gamer:
 確かに。ある種のメタ思考的な試みというか。

渡辺氏:
 発想としては凄く面白いなと思って。課金そのものを遊びとして売りにするっていうこと自体は,とてもよい試みだと思います。

画像集#018のサムネイル/ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた

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