インタビュー
アーケード用リズムゲーム「けいおん!放課後リズムタイム」はいかにして生まれたのか。開発元・インデックスの担当者が解き明かす,その経緯
4Gamerでも4月8日に掲載した本作の第一報は,瞬く間に「けいおん!」ファンの間に広がり,同時にひとつの疑問をもたらした。「なぜ今になって?」と。テレビアニメシリーズも2期まで終了し,また劇場版のBlu-Rayも発売されて久しいこの時期に,なぜアーケードゲーム化が決まったのか。
そんな謎を解き明かすべく,4Gamerでは同作の開発を手がけたインデックスにお邪魔し,本作の開発経緯などについて話を聞いてみた。同様の疑問を感じた全国の「けいおん!」ファンは,ぜひご一読いただきたい。
「けいおん!放課後リズムタイム」公式サイト
「放課後リズムタイム」はどんなゲームか
コインを投入すると,「ゲームモード」と「カード購入モード」の二つからいずれかを選択する。後者の「カード購入モード」はゲームをプレイすることなく,彼女達,放課後ティータイムのメンバー5人のカードが入手できるというもの。
本編となる「ゲームモード」では,まず自分が“応援したい”キャラクターを選択する。このキャラクター選択が後に響いてくことになるので,自分が一番お気に入りのキャラクターを選んでおこう。次に,自分が所持しているカードをスキャンすれば,いよいよメインパートのリズムゲームがスタートする。
ゲームパートは,赤,緑,青の3つのボタンをタイミングよく押すという,スタンダードなリズムゲームだ。リズムアイコンが円状のレールを時計回りに移動し,中央下のマークに重なった瞬間に,正しいカラーのボタンを押すと成功となる。ボタンを押したタイミングによって「Perfect!」「Good」など評価が変化し,それに応じて獲得できるポイントも上下する。
もちろん選択できる楽曲は「けいおん!」(アニメ1期)のもの。オープニングテーマの「Cagayake! GIRLS」,エンディングテーマの「Don't say "lazy"」はもちろん,劇中歌で人気も高い「ふわふわ時間」「ふでペン〜ボールペン〜」も収録されている。
楽曲自体はリズムゲームでありがちな短縮版ではなくフルサイズで,当時のミュージックランキングを賑わした名曲を十分に味わえる半面,1曲のプレイ時間が長いために疲れてしまうかもしれない。
プレイが終わると総合評価の発表に入り,プレイ内容に応じた得点が獲得できる。この得点は最初に選択したキャラクターに加算され,筐体内で合計獲得ポイントが1位になっているキャラクターが,その筐体のナビゲーションキャラクターになる。つまり,自分の推しキャラを1位にしておけば,いつでもそのキャラの姿とナビゲーションで楽しめるというわけだ。
またゲーム本編とともに,本作に欠かせないのが,プレイ前に排出されるトレーディングカードだ。「放課後ティータイム」の5人それぞれが個別に描かれたカードはもちろん,5人一緒のカードなどもあり,レアリティもノーマル/レア/スーパーレア/ハイパーレアと分かれている。貴重なものはホログラム仕様――いわゆるキラカードになっていて,ファンならぜひとも入手したいアイテムとなっている。
お気に入りのキャラクターのポイントを稼いで,筐体のナビゲーションキャラクターにすることが本作の大きな目標の一つ。ほかのキャラクターにポイントで抜かれてしまったら,すぐにプレイして抜き返すしか! |
カードは原作の名シーンをピックアップしたものを中心に,「放課後ティータイム」全員が集合したスーパーレア,ハイパーレアなどもある。同じキャラクターを3枚そろえてコンボを成立させよう |
以上が本作の概要となるわけだが,まあ言ってしまえば,よくあるリズムゲームである。個人的には演出面でもう一つな部分を感じるものの,(筆者を含む)ファン向けのタイトルであることを考えれば,プレイのモチベーションという意味では十分なのかもしれない
だが気になるのは,なぜこのタイミングで? ということだ。劇場版の公開も終わり,ムーブメントが一段落した今になって稼働を開始したというのは,ファンにとってはもちろん嬉しくはあるのだが,頭にはどうしてもハテナマークが浮かんでしまう。そこで,本作の生みの親である,インデックスの斎藤大悟氏に話を聞いてみた。
仕掛け人 斎藤大悟氏に聞く,「放課後リズムタイム」誕生秘話
4Gamer:
まず「けいおん!放課後リズムタイム」が生まれた経緯からお聞かせください。とくに,なぜこのタイミングなのか,ファンは気になっていると思うので,まずはそこから。
やっぱり気になりますか(笑)。開発の経緯をお話しますと,これはマーケティングの結果ということに尽きるんです。「けいおん!」シリーズは,クレーンゲームなどの景品――いわゆるプライズでも尋常でない売り上げですし,これをゲームにすれば,きっとウケるんじゃないかと。身も蓋もない話ですけどね。
4Gamer:
「けいおん!」のゲームは,確かにPSPやPlayStation 3など,コンシューマ用には発売されていますが,アーケードでは本作が初めてのタイトルになります。
斎藤氏:
そうですね。ゲームセンターのお客様が期待しているコンテンツは何か,と考えたときに,その答えが「けいおん!」だったんです。ただ,やはり人気コンテンツであるだけに,社の内外を含めた調整に手間取ってしまって。
4Gamer:
ああ,それで結果的に今の時期になってしまったと?
斎藤氏:
それもありますが,「今だからこそ求められている」というのは,あるんじゃないかと思うんです。テレビアニメや劇場版と連動したグッズ展開が一段落した今だからこそ,「けいおん!」ファンの皆さんも,新しいものを求めるでしょう?
4Gamer:
確かにそうかもしれません。……ちなみに斎藤さんご自身は,「けいおん!」はご存じだったのでしょうか。
斎藤氏:
こう言うとお叱りを受けてしまうかもしれませんが,実はこのタイトルに関わるまでは,名前を知っているくらいだったんです。そこから勉強を初めて,テレビシリーズはもちろん全部見ましたし,リサーチもいろいろやりました。全社メールで「けいおん!」が好きな社員を集めて話を聞いたりとか。コミックマーケットの会場に行って,ファンの方に直接お話を伺ったこともありましたね。
4Gamer:
ええっ。それはものすごくダイレクトなマーケティングですね(笑)。もしかしてスーツでコミケに?
斎藤氏:
いや一般入場で,お忍びで(笑)。それで休憩している人なんかを捕まえて,「けいおん!」のどのあたりが好きかとか,いろいろ聞いて回ったんです。
4Gamer:
ちなみに,どんな回答でしたか?
斎藤氏:
上の世代にとっての「ガンダム」と同じで,「僕らにとっての『けいおん!』はレジェンドなんだ」と。だから「10年経っても20年経ったとしても変わらず,ずっと「けいおん!」が好きなんだ」って言ってましたね。
4Gamer:
心に染みる言葉ですね(笑)。でも,その通りだと思います。なるほど,であるなら,時期はあまり関係ないのかもしれません。
斎藤氏:
ええ。それを聞いて「この企画で行こう!」と心に決めたんですよ。なので,今さら遅すぎるんじゃないかとか,そういう心配はしませんでしたね。
■キッズ向けアーケードゲームの謎
4Gamer:
「けいおん!」からは少し離れてしまいますが,インデックスのアーケード部門全体について,少し聞かせてください。インデックス,とりわけアトラスのアーケードゲームと言えば,格闘ゲームの「豪傑寺一族」シリーズがありますし,またいわゆるプリクラ――「プリント倶楽部」で一世を風靡していた時代もありましたよね。
斎藤氏:
そうですね。当時のアミューズメント部は,プリント倶楽部を中心とした業務用タイトルを主力に展開していました。しかし現在のアーケード部門はかなり小規模になり,本作を始めとしたキッズ向けカードゲームを中心に扱っています。
4Gamer:
そういえば,「けいおん!放課後リズムタイム」もキッズ向けの筐体ですね。「けいおん!」って,キッズにも人気があるんですか?
あれは「クルカステーション」という筐体で,過去には「きらりん☆レボリューション」や「極上!!めちゃモテ委員長」といったタイトルでも使われたものなんです。
4Gamer:
キッズ向け筐体ではあるけれど,対象としたプレイヤーはキッズではないと? 実際のプレイヤーの年齢層って,どんな感じなんですか?
斎藤氏:
僕と同じぐらい――30台後半から,小さい女の子までプレイしていただいているようです。でも,やはりメインは20代から30代のようですね。制作時から想定していた層も,そのぐらいです。
4Gamer:
それはちょっと意外でした。てっきり中高生くらいの女の子向けに作っているのかと,勝手に思っていたもので。キッズ向けのアーケードゲームって,正直あまり詳しくないのですが,どんな世界なんでしょうか。
斎藤氏:
このジャンルの売り上げは,実はかなり高いんですよ。ゲームセンターだけなく,家電量販店やショッピングモールなどにも設置されていますし,プレイヤーの層が幅広い。もちろんメインは子供達ですが。
4Gamer:
お母さんやお父さんが買い物をしている間に,お小遣いをもらった子供が遊ぶわけですね。他社のタイトルですが,「プリティーリズム」シリーズや「ポケモントレッタ」などのタイトルは,確かに良く耳にします。
斎藤氏:
ええ,そういったキッズ向けのタイトルが,やはり一番強いですね。「けいおん!」のようなものは,その中でいうとやはり亜流です。でも市場自体が大きく成長しているので,これはこれでありなんですよ。
■新曲追加の可能性も。今後のバージョンアップに期待
ところで,これは逆に聞いてみたいのですが……このゲーム,プレイしてみていかがでしたか?
4Gamer:
うーん……カードを集めるのが,やっぱりファンとしては楽しいです。ただ,もう少し演出面が充実してくれると,もっと面白くなると思うのですが。
斎藤氏:
そうですよね。いや,現状のバージョンに色々もの足りない点があるのは,我々もよく分かっているつもりです。「ゲーム画面が静止画だけで寂しい」とか「なんで1期の曲だけなの?」というご意見を,数多くいただきますし。
4Gamer:
カードのイラストなども,アニメのワンシーンがほとんどなので,できれば新しいものがあると嬉しいですね。あ,でもボイスはほとんど録り下ろしじゃないですか?
斎藤氏:
よく分かりますね(笑)。ボイスに関しては,すべて新規収録しているんです。声優さんお一人につき,200以上のセリフを録り下ろしましたから,かなり大変でした。皆さんお忙しい方ばかりでしたので……。
4Gamer:
「けいおん!」で人気に火がついた方も多いですからね。
まだ可能性の段階ですが,現在を第1弾として,第2弾,第3弾とバージョンアップしていきたいと考えているんです。そうなれば,皆さんからのご要望も反映できるかもしれないので。
4Gamer:
おお,ということは「けいおん!!」(アニメ第2期)の曲が追加される可能性も?
斎藤氏:
機会があれば,ぜひやりたいですね。
4Gamer:
これまでアニメ2期の楽曲を収録したリズムゲームはなかったので,実現したら,それだけでも嬉しいです。
斎藤氏:
検討させていただきます(笑)。それから,特殊なカードを手に入れたときにアイテムがもらえる,プレゼントキャンペーンなども考えています。いろいろとあって,なかなか思うように開発できないのが正直なところなのですが……ぜひご期待いただければと。
4Gamer:
もちろん,楽しみにさせていただきます。本日はありがとうございました。
しかしインタビュー中で斉藤氏が語ったように,「けいおん!」ファンとしては,この時期に新しいコンテンツが出てきたというだけでも,実はすごくうれしかったりする。生粋のゲーマーからは怒られてしまいそうだが,いろいろ文句を言いながらも,それはそれでちょっと楽しい。
とはいえ,もちろんゲームとして面白いに越したことはない。取材時にはかなりぶっちゃけた話も多く,ちょっとここでは書けない話もあったりしたのだが,個人的にはバージョンアップの可能性について聞けただけでも,大きな収穫だった。
さらなるゲーム内容の向上と収録楽曲の増加,そして新たなカード,キャラクターボイスの充実などにも期待しつつ,第2弾が稼動する日を待ちたいところだ。
■「けいおん!放課後リズムタイム」放課後キャンペーン実施中
「けいおん!放課後リズムタイム」では,7月31日までの期間,スペシャルなグッズがもらえる「放課後キャンペーン」と「放課後ハイスコアキャンペーン」を開催中だ。
「放課後キャンペーン」では,裏面に「ティータイムマーク」が印刷されたカードを3枚集めて応募することで「オリジナルボイス入り目覚まし時計」やキャンペーンオリジナルカードがプレゼントされる。
「放課後キャンペーン」キャンペーン賞品
また「放課後ハイスコアキャンペーン」では,プレイ後に表示される「総合評価の発表画面」を写真に撮って専用フォームから応募することで,「声優直筆サイン入りカード」が当たるという。本作のプレイヤーは,両キャンペーンとも,どしどし応募してみよう。
さらに7月からは,秋葉原地区限定のスコアランキングも毎週更新予定とのこと。こちらも楽しみにしていてほしい。
「けいおん!放課後リズムタイム」公式サイト
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けいおん!放課後リズムタイム
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