インタビュー
「見えない壁」に取り囲まれたゲーム業界への想い。ヨコオタロウ氏が「ドラッグ オン ドラグーン3」やゲームの未来を語ったインタビューを掲載
「見に行く」ことで知らなかったことを知る
4Gamer:
ヨコオさんはプレイヤーが自分の作品について議論を交わしているのを見て,どのように感じますか?
ヨコオ氏:
議論を見るのはそんなに好きじゃないです。かといって,僕の答えをそのまま飲み込んでしまっている姿もまた好きじゃないですけど。
4Gamer:
それよりは,カイムとアンヘルの絆に意味を見出したりするような想像の広がりが好ましいと。
ヨコオ氏:
そうです。それは,すごく価値があることだと思っています。僕が自分で考えている限り,それはフィクション,つまり嘘なんです。もうひとつ具体例を挙げるとすれば……これもまた「ニーア」の話になってしまうのですが,以前に「デボル」と「ポポル」がレズビアンであるという設定で描かれたファンアートを見て,僕自身が「そうだったんだ。知らなかった」と思ってしまったんですよ。
4Gamer:
なるほ……うん? どういうことです!?
ヨコオ氏:
妙にしっくりきてしまったんです。
4Gamer:
ああ……でも,なぜか自分も「DOD3」では最後までディトのことを同性愛者だと思っていました。
一同:
(笑)。
4Gamer:
なぜだか本当に分からないんですけど。実はディトって,セントのことが好きなんじゃないかと。実際はそんなことないですよね?
ヨコオ氏:
僕はまったく想定していませんでした。でもそれ,面白いですね。
ディトは,美しい容姿からは想像できないほど残忍な性格を持つ少年 |
得意げに披露する知識がだいたい間違っているという,残念なセント |
4Gamer:
ディトってセントのことをボロクソ言ってるはずなのに……思春期の男子が好きな子にちょっかいを出しているようなイメージを受けるのかな。
ヨコオ氏:
ふむ。なんか「そうなのかもしれない」と思えるようになってきました。
4Gamer:
自分で言っておいて申し訳ないですけど,お気を確かに(笑)。
ヨコオ氏:
実は,僕は設定をあまり考えていないので……。設定のことを聞かれたらしゃべるんですけど,考えてはいないんです。でもディトがセントを好きだったという話は面白いですし,そうなのかもしれません。
4Gamer:
設定を考えていないっていうのが衝撃の事実なんですが……それでどうやってあんなゲームを作っているんですか?
ヨコオ氏:
ストーリーなど,僕は結果から作るタイプなんです。うまく説明するのが難しいのですが,僕はこれを「見に行く」と呼んでいます。
4Gamer:
気になりますね……どういうことなのでしょうか。
ヨコオ氏:
「DOD3」で言えば「セント」と「トウ」のカップルに関してはほとんど何も考えていないんですよ。「DOD3」は,さきほど話したように僕の“失望感”が基礎にあるので,「ニーア」のようにコツコツと積み上げていくような表現はやめてしまおうと考えたんです。それにアクション主体のシステムですし,どうしても進んで殺して,進んで殺してという構造になってしまう。でもその割にはキャラクターが多くて,ストーリーをうまく回せない。
4Gamer:
キャラクターそれぞれをじっくり描くのが難しかったんですね。
ヨコオ氏:
だからもう,「ゼロ」と「ミハイル」以外は掘り下げるのを諦めたんです。とくに妹たちは,ボスとして出てきてすぐに死ぬからほとんど会話がない。だから,彼女たちは「どれだけ派手に死ねるか」という役割なんですよ。使徒も同じく,内面を掘り下げるよりも「DOD3」の笑いと下品さを盛り上げる役目に集中してもらっています。セントはまさにそんな感じで,バカ担当として作りました。
4Gamer:
普段はアレなセントが,トウのことになると妙に本気だったりするのが印象的だったんですけど……。
ヨコオ氏:
バカを扱っているうちに飽きちゃって,ああいう展開に。理由はそれから考えるんです。そこでやっと,セントとトウが結ばれるに至るまでの光景が見えてくる。……それが「見に行く」っていう感覚ですね。ちなみに,そうやって出来上がったセントとトウのエピソードは,今後DLCで配信予定だったりします。
4Gamer:
分かってきました。言ってしまえば「あえての後付け設定」なんでしょうけど,それが予期せぬ魅力につながっていると。
ヨコオ氏:
本編を作ってる時には分からなかったんですが,「見に行って」みたら実はそういうことだった。そこで「知らなかった」というビックリ感が味わえる。それに,現実世界でも人と出会う時って最初に「どういう人か」という結論を体感してから,詳しい情報……出身地だとか,生い立ちを知るじゃないですか。だから,僕はいつも結果から辿るんです。
4Gamer:
言われてみれば……確かに。
ヨコオ氏:
これはゲームのプレイヤーも無意識にやっていることかもしれません。どんなにバグっていたり,矛盾した展開でも,アレコレ考えていくうちに答えが見えてくる。例えば,初代「DOD」のさまざまなエンディングについて,そうやって考えた人は多いと思います。
でも実際のところはなんにも考えず作っていて,あれらは新宿エンドだけだと怒られるだろうなぁと思って用意したダミーだったんですよ。でも今から「見に行く」と,あの世界があんな風になっている理由はちゃんと探すことができる。「DOD3」においても,それは構造的な裏テーマになっています。
4Gamer:
きっとそういう部分がうまく作用して,ヨコオさんの作り上げる世界観がとても“深い”と感じるんでしょうね。
ヨコオ氏:
僕自身はあまりそう感じていません。また,そう感じてもらうことが好ましいとも思っていません。これは技術論になるのですが,情報を伏せて謎めいた物語を演出するというやり方はセオリーとして存在するんです。テクニックとしては嫌いじゃないんですが,同じことをしている作品がほかにもたくさんあるので。僕はそこに今も魅力があるとは思っていません。どうせやるなら,謎めかせるどころじゃなく,もう全然わけの分からない物の方が良いとすら思っています。
4Gamer:
全然わけの分からないって,どういうことですか?
ヨコオ氏:
僕が作りたいのは,もっと眉をひそめるような……。プレイしていると,コントローラを投げたくなるような不安さなんです。もっと直接的に言うならば,プレイヤーの感情をかき乱したい。
最近のゲームって,パッケージを見ただけでどんな内容なのかなんとなく分かりますよね。商品だから,なるべく購入者の不安を取り除こうとするのは分かります。でも僕は,昔のゲームのわけの分からない雰囲気が好きだったんですよ。子供がなけなしのお小遣いをはたいて,クソゲーを掴んで……。あのショックや驚きは,僕の中で本当の意味での“冒険”だったんです。
それが,今では何を買っても大体は安心して遊べますよね。期待している面白いゲームを買ってきて,期待通りに楽しむ……。この心地良さが,僕の中ではすごく不快なんです。やる意味がないというか……。僕の中で,ゲームに飽きている部分がある。その“飽き”の根源は,ゴールが分かってしまっていること。どんなことでも結果が最初から見えていたら,面白くないじゃないですか。
4Gamer:
予約したレストランで,期待通りの美味しい料理が出てきてもお気に召さない……という感じですか。
ヨコオ氏:
それだったら,食べてる最中に「厨房で火事が起きた!!」とか言われた方が楽しめるんです。
4Gamer:
そのハプニングが,“冒険”になると? ……分からないでもないんですが,なんとも難儀な性癖ですねぇ(笑)。
ヨコオ氏:
そういうことがあるからこそ,人生に意味ができるんじゃないかと。……これは,言うたびに「ダメだ!」って怒られるんですけど。面白いゲームなんか,ほかにもいっぱいあるから作らなくていいやって思うんですよね。
4Gamer:
メチャクチャ言いますね,ホント(笑)。まぁ個人的にも,ヨコオさんのゲームは面白いとか,面白くないとかじゃなくて,「ヨコオ味」であることが重要だと思っているんですが……。
ヨコオ氏:
僕はみんなほかのゲームをやればいいと思ってますよ。
4Gamer:
そこまで言いますか(笑)。
ヨコオ氏:
実はもう,みんなゲームを心から楽しめてないんじゃないですかね。マフィアさん(※筆者)も仕事だからやってる,みたいな……。
4Gamer:
いやいや,少なくとも自分は好きでしょうがないからゲームをやっています。でも,ヨコオさんの言うことも分かってしまうんですよね。確かに,ガキの頃のように予想から外れたところでゲームを楽しむということは一切無くなってしまいましたから。今じゃネットでタイトルを検索すれば,どんなゲームでどんな遊び応えなのか大体分かっちゃいますし。実際にプレイしたら案の定,予想通りの遊び応えでエンディングまで行ってしまう。かといって,気になったゲームの情報は調べずにいられない。そもそも,自分がネットでそういう情報を提供する側になっちゃってますしね……(笑)。
ヨコオ氏:
ネットを利用すること自体は,全然悪いことだと思っていません。これはスクエニさんのオフィシャルな見解ではないことを先に断っておきますが,例えば「ニコニコ動画」におけるゲームのプレイ動画なんかは,今のネットの構造的に絶対出てきてしまうものじゃないですか。僕としてはそこに不満を言うのではなく,それも含めた環境に対して何ができるのかということを考えたいなと思っています。
4Gamer:
ここまで色々とお話を聞いてきて,ちょっと気になったんですが……。ヨコオさんが,インタビューでそういった考え方を表明しますよね。すると,プレイヤーはそれを読んで「やっぱりヨコオタロウはこうでないとな!」などと思うわけです。そういう流れも,ちょっと気に入らなかったりするのでしょうか?
ヨコオ氏:
いえ,その辺はあまり気にしていません。僕自身をコンテンツとして育てようとは思っていないので,記事がどう受け止められるかには,こだわりません。いろいろなところで言っていますが,そもそも僕はインタビューがあまり好きではありませんし。
ただ,4Gamerさんにインタビューが掲載されるということは,お客さんの時間を割いて読んでもらうということですよね。だから僕自身がどう思われるかではなく,そこにどういう意味があって,どういう楽しさがあるのかという部分に興味があります。少なくとも,楽しくありたいとは思いますね。
「見えない壁」に囲まれてしまったゲーム業界
4Gamer:
プレイヤーが,「どんな人がこれを作ったんだ」とクリエイターに興味を持つのは仕方無いと思うんですよね。良きにしろ悪きにしろ,そういうパワーのある作品を手掛けているということでもあるんですから。
ヨコオ氏:
だから,僕はゲームがすべからく「ツクール」的な物になれば良いと思っています。ユーザーが「今はこんな気持ちで,こういうのが遊びたい」と考えるだけで,それが出てくる世界。言ってみれば,クリエイターがいらない世界ですよね。
4Gamer:
そこまでいくとツクールというより……「ドラえもん」のひみつ道具ですね。
ヨコオ氏:
その昔,多くの風景画家や肖像画家は写真の登場によって職を失ってしまいました。そして現代の写真家も,カメラというデバイスが身近な物になるにつれて職業として厳しくなってきている。なんでもそうなんですが,ツールが廉価になることで食っていけなくなる人がどんどん増えるんですよ。だから未来にはきっと,ゲームも同じようになると思っています。
スマートフォンのアプリなんかは良い例ですよね。いずれは,今で言う「超大作」もユーザー自身で作れるようになるでしょう。その時,どういう機能がそのツールに必要なのか……ということを僕は考えたい。
4Gamer:
夢のあるお話ですね。……少々,恐ろしくもありますが。
ヨコオ氏:
僕は「見えない壁」と呼んでいるんですが,今のゲームってみんな「こうじゃなければいけない」という考えに取り囲まれているように感じるんです。そんな風に思考停止している部分に対して,別の可能性を提示する手段を探していきたい。例えば「パズドラ」みたいなゲームを10億円かけて作ってみたり,学生が「ファイナルファンタジー」を目指してチープでボロボロなゲームを作ったり。そういうことのできる世界の方が豊かだと,僕は思っているので。「これが“ゲーム”ですよね?」という誰かが作った定義を,ユーザーがただ消費していくような世界は壊していきたい。そんなことを,よく考えます。
4Gamer:
アツいじゃないですか!
ヨコオ氏:
ただ,最近は晩年を迎えつつある中で,その試みも失敗しつつある。そういった意味での失望感があり,自分に死が近づいているような感覚があるのです。
でも,ゲームにはまだ可能性を感じている。そこで次に考えるのが,どんな形で“遺言”を残せば僕の望む未来になるのかということです……。
4Gamer:
遺言を残したいと思うほど,ゲームというものの行く末を気にかけるのはなぜなんでしょう。
ヨコオ氏:
ゲームはメディアの終着駅だと思っていたんですよ。なぜなら,小説や映画に含まれる機能すべてが充足しているから。映像を流し続ければ映画と変わらないし,文字なら小説になる。今後は,それ以外のこともどんどんできるようになると思っています。
4Gamer:
と,言いますと?
ヨコオ氏:
何かに成功したら家にピザが届くとか。
4Gamer:
やろうと思えばもうできそうですよね(笑)。どんどん日常に密着していくイメージでしょうか。
ヨコオ氏:
例えばTwitterなどのSNSって,かなりゲーム的な存在だと感じています。どこでもみんな携帯電話をいじっている世界。これって,良し悪しを抜きにしても異常な世界ですよね。でも,それが“楽”だから浸透している。自分が動かなくても,友達と会話が楽しめるから。リアルであれば会話の間や相手の予定などを気にしなければいけないけれど,SNSにそれは無い。
人間関係の面倒な部分が削ぎ落とされて,快楽だけを味わえるシステム。これって,すごく面白いじゃないですか。ゲームにも徐々に取り込まれていくんじゃないかと思っています。
4Gamer:
ゲームもリアルでは絶対にできない,もしくは実際にやろうとすると非常に苦労することをインスタントに楽しめるエンターテイメントですよね。
ヨコオ氏:
でもSNSと違って,ゲームには“幻想”が存在するんです。そこには“神”がいるというか,なんというか……。SNSで相対している相手は,あくまでもリアルに存在する人間であって,相手の姿を文字情報に変質させているだけなんです。でも,ゲームには人でない“何か”がいる。映画や小説でも同様なんですが,それがいわゆる“メディアそのもの”と“コンテンツを内包するメディア”の違いになるわけです。そしてゲームは,それらの要素を融合させる可能性を持っている。いつしかすべてのメディアに溶け込んで,世界全体がよりゲームらしくなっていくことでしょう。
4Gamer:
素晴らしい……ゲーマーにとっての理想郷ですね。なんとなく分かってきたんですが,ヨコオさんって誰よりもゲームの可能性を強く信じている“ゲーム教”の信者なんですね。
ヨコオ氏:
ええ。ゲームの可能性を,心から信じています。ソーシャルゲームなんかも,その一例だと思うんですよね。手軽なわりに,妙な中毒性があって日課のようにやってしまう。日常に密着しているんです。
実はこの前,自分の携帯電話に入っているソーシャルゲームを削除してみたんですが,あのドキドキ感は良かった。1か月しかプレイしていなかったんですけど,たかだか1か月でこれだけの「喪失感」が味わえるのかと。すごく……たまりませんでした。
4Gamer:
“死”を想うくだりでも薄々感じてましたけど……ヨコオさんには強い破滅願望がありますよね。まぁ,分からないでもない感覚なんですが……。
ヨコオ氏:
ソーシャルゲームの終わり方って,ちょっと特殊じゃないですか。飽きて段々片隅に追いやられ,機種変更する際にはもうインストールしない。それって,ゲームとのお別れとしては面白くないんですよ。僕は楽しく生きたいので,ちゃんとお別れしようと思い切って削除してみたんです。
4Gamer:
そういえば「ニーア」でも,最終的にはセーブデータを削除することになりますよね。
ヨコオ氏:
あれも「ゲームって,何ができるんだろう」と考えた結果です。プレイ動画を観ているだけの人と,実際にプレイしている人の違いはどこか……という疑問に対するひとつの挑戦が,アレだったんです。
4Gamer:
知人も「あの時の喪失感はたまらなかった」と濁った目で語っていました(笑)。
ヨコオ氏:
少し反省している部分もあるんです。「削除しても良いんだよ感」を出しすぎたかなと。綺麗にレールを引いてしまった。もっと,プレイヤー自身に葛藤させるような構造が望ましかったですね。
4Gamer:
反省がソッチ方向なのがヨコオさんらしいというかなんというか!
ヨコオ氏:
削除しても不快じゃないような流れにしてしまっていたので。そこにはクリエイターの押し付けがあるだけで,ユーザーが心血を注いだセーブデータを消すというドキドキ感がどうしても薄れてしまいます。あれでは「これが正解だよ」と言ってしまったようなものなので。だから,反省しています。残念ながら当時は,あれくらいしかやれなかったんです。
4Gamer:
アレでも十分に衝撃的でしたし,一生忘れられないゲームになりましたけどね……。
デザインされていない部分から得られる“価値”
ヨコオ氏:
究極の理想を言うならバグでクリアできないゲームになっていて,なぜかセーブデータを消すとエンディングが見られる……みたいな。プレイヤーがそこに気付いて,初めて結末に辿り着ける。そうすれば僕がデザインしたのではなく,プレイヤー側が“正解”を見つけたことになりますよね。
4Gamer:
それは……もし自力で辿り着けたら言葉に出来ないほどの興奮が味わえるでしょうね。
ヨコオ氏:
僕はデザインされていない部分に価値を見出すので。クリエイターは神様じゃない,という考え方と同じです。これはブログでもいろいろと書いたんですが,「ドラクエV」って結婚する相手を選べるじゃないですか。僕はストーリーライン的に,一番本命っぽいビアンカと結婚するのかなぁと思っていたんです。そしたら,町の人が「フローラかわいい」とか言ってて。……ということは,ビアンカはかわいくないのかなって。
4Gamer:
えっ?
ヨコオ氏:
フローラはかわいいけど,言動が好きじゃなかったんです。でもビアンカはかわいくないらしい。デボラはそもそも好きじゃない。そこで辿り着いた結論は「誰も選びたくない」でした。僕の「ドラクエV」は,そこで終わったんです。
4Gamer:
ヨコオさん……あんたやっぱり破滅に向かって突き進む運命だよ!
ヨコオ氏:
違うんです,聞いて下さい(笑)。そうして僕の中で「ドラクエV」は,結婚もせずにキラーパンサーを連れて延々と放浪する男の物語になったんですよ。ゲームというものは「ここで終わろう」と思えばそこで終われる。人によってデザインされていない部分に価値を見出だせる,珍しいメディアだと思うんです。
4Gamer:
では,ここまでの話を踏まえたうえで……最新作である「DOD3」は,ヨコオさんが考える“ゲーム”の答えにはなったのでしょうか?
ヨコオ氏:
……まだ,模索中です。
4Gamer:
実験作であると?
ヨコオ氏:
そういう意味では,毎回が実験作です。何かしらやらかすために,頑張っている。
4Gamer:
「DOD3」をプレイして,悪い意味で疑問を抱いたプレイヤーも多いと思うんです。でも,個人的な好みとしては楽しめましたし,今回ヨコオさんからいろいろとお話を聞いて納得できた部分もありました。「見に行く」という感覚もそうなんですが,ヨコオさんは「アコール」みたいな存在なのかなと。クリエイターというよりもその世界の“観測者”なんですね。言ってしまえば,プレイヤーもそういう存在なのであって。
ヨコオ氏:
そうですね。アコールは最後にこちらへ向かって「ありがとうございました」と言いますが,これは単純な「DOD」のオマージュじゃなく,「こっちの世界」のことを認識しているんですよ。我々がいる現実も,あまねく存在する分岐のひとつだということを示唆しています。そこから紐解くと彼女が何を狙っていたのかということが,うっすらと分かってくるようにできています。「DOD3」はそういうメタな要素が多いですね。ゼロなんかも「敵がワンパターンだ!」とか叫びますし。
4Gamer:
明らかに開発者に向かって文句を言ってますよね(笑)。
ヨコオ氏:
ああいった言動にも,すべて意味があるんです。あくまで隠し要素みたいなものですが。普通ゲームはプレイヤーが終わらせるものですが,「DOD3」はアコールが最後に映像を切るじゃないですか。アレはお互いに「こっちが現実だ」と認識しているという演出です。
4Gamer:
ロマンがありますねぇ。自分はヨコオ作品のそういうところが好きなのかもしれません。個人的には,アコールはプレイヤーの“代行者”のようにも感じていたんですよ。さまざまな分岐を辿っているゼロを見て,アドバイスしたくなるじゃないですか。だから観測者に徹していたアコールが最後の最後でゼロを直接助けたのを見た時には,非常に感慨深いものがありました。
ヨコオ氏:
僕は,そういう風にはデザインしていません。でも,そう思っていただくことは全然かまわないです。
アコールの「ありがとうございました」についても,こういった記事が掲載されてしまうと,プレイヤーが「思いつく」という喜びを奪ってしまうことにもなると思うんです。それの良し悪しは,正直分かりません。ただ,ほかにもいっぱい仕掛けはあるので,1個くらいならという気持ちもあります。それでも「これだけは絶対に言わない」と決めている部分はたくさんあって,「DOD3」はそういう要素が散りばめられている変なゲームなんです。
4Gamer:
プレイヤーも自分の考察をそのままにしておきたい,という気持ちがある一方で,答えを確かめたくもあると思うんですね。こういったインタビューは,そういう人にとっての喜びのひとつになるのではないかなと思っています。
ヨコオ氏:
あれって,シリーズファンであるほど気付けない仕掛けだと思うんです。どうしても初代「DOD」のオマージュだと思ってしまうので。そこは,わざと罠を張りました。まだ初めてプレイした人の方が,気付きやすい。それもまた冒険ですよね。シリーズをプレイしていたほうが有利だというわけでもないという。
4Gamer:
ヨコオさんって,なんだかんだ言ってサービス精神に溢れた人だと思いますよ。ストレートではなく,ひねくれた(笑)。
ヨコオ氏:
そうでありたいと,僕は思っています。プレイヤーが喜ぶかどうかはさておき,刺激は与えられるように。
4Gamer:
ドライに見えて,実はとても情熱的ですよね。ゲームへの想いとか。
ヨコオ氏:
今ゲームの売上が芳しくないのって,景気が悪いとかじゃなく単純に「消費し尽くされている」だけじゃないかと思うんですよ。海外のゲームが売れていると言っても,本当に新鮮で魅力的であれば,もっと日本人も買っているはずじゃないですか。
でも,そうはならない。ゲームに対する諦めのようなものがモヤモヤと出てきていて,それがすごく嫌なんです。ゲームは自分が生きる場所なので,ボンヤリと指をくわえて見ていたくない。やれる範囲で,変なことをしたい。でも単純にダークな展開とか,変なエンディングを繰り返すのも意味がないと痛感していて。その答えのひとつが「DOD3」だったんだと思います。……仮に次があったとしても,何をやるのかまったく想像つきませんが。
4Gamer:
ただ確かなのは,ヨコオさんはこれからも同じ考え方でゲームを作っていくと。
ヨコオ氏:
作れるものなら,作っていきたいですね。難しいとは思いますが。
4Gamer:
ぜひ,我が道を突き進んでください。本当に,本当にありがとうございました!
……以上。当人には「そうですか?」と言われてしまいそうだが,個人的には実に「ヨコオタロウらしい」インタビューになったと感じている。とくに,ヨコオ氏の“信仰“と呼べるほど熱烈なゲームに対しての想いや,自身の中にある葛藤などについては大変興味深い話を聞くことができた。
「DOD3」については極端な話,ほかのメディアでも散々語られているようなので,「開発の経緯は?」などといった直球ではなく,あえて変化球で攻めてみた(というか攻められた)が,それが良い方向に働いて非常に“濃い”内容に仕上がったのではないだろうか。……なにより,「インタビューが好きではない」と言いつつ,こんなにもいろいろと語ってくれたヨコオ氏にはツンデレを感じずにはいられない。実は萌えキャラなんじゃないですかね。
初代「DOD」以来,良い意味でも悪い意味でも毎回なにかしら「やらかしている」ヨコオ氏だが,今回のインタビューではヨコオ氏にそうさせている“作家魂”の片鱗のようなものを感じ取れたような気がする。赤目の信者である筆者としては,今後も日和らず,我が道を突き進むスタイルを氏に貫いてほしいと切に願っている。
「ドラッグ オン ドラグーン3」公式サイト
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