インタビュー
「ゲームを作るのが好きだから,一生続けたい」――ポイソフトはなぜ,“こんな”ゲームばかりを作り続けていられるのか。代表取締役社長の石川 泰氏とプログラマーの中川晃宏氏に聞く
ボタンがないからスマートフォンはやらない
ソーシャルゲームは他業種というイメージ
4Gamer:
素朴な疑問なんですが,ポイソフトのどの作品も,かなり手頃な価格になっていますよね。3DS用だけ見てみても,ひゅ〜ストンが500円,タケヤリマンが400円,夜の魔人といくさの国が700円で,マンションパーカッションが500円と,なんとなく作品の規模に応じた差こそあるものの……という。それでやっていけるものなのか? というのが気になってしまうんです。
まあ,安いと大きく儲かることはなくても,遊んでくれる人が多くなるんじゃないかな? という発想ですね。
中川氏:
そうそう,バーチャルコンソールは600円の作品が多いから,例えば1000円分のニンテンドープリペイドカードを買った人は,400円余っているはず! ということで,タケヤリマンは400円にしたんです。
4Gamer:
なるほど,そういう戦略もあったんですね。
中川氏:
でも実際は……。
石川氏:
クレジットカードを持っていれば,不足額だけチャージできたりするんですよね。
中川氏:
残念!
まあ,価格設定は間違っていなかったと思うんですけど,そういうところでの小細工はあんまり売れる売れないに関係なかったという。
4Gamer:
あは……は。
石川氏:
ひゅ〜ストンを500円で出したあと,ほかのソフトを見たら400円とか300円のものもあったから,そういうことなのかな? って思ってたんですけどね。
4Gamer:
価格設定に対する任天堂からのアドバイスのようなものは,とくにないんですか?
中川氏:
まったくありませんね。ほかがいくらとかも教えてもらえるわけではないし,ちゃんと考えて決めてくださいね? と言われるぐらいで。
4Gamer:
それは確かに難しそうですよね。あんまり高すぎると買ってもらえないでしょうし,低すぎても利益が出なくなるでしょうし……。
石川氏:
最初のときは3DSの発売前だったんで,きっとダウンロード用にも任天堂さんの大きなタイトルがババーンと並んで,さらにサードパーティのタイトルがバンバン出ると思っていたんですよね。僕らのは箸休めみたいなものなんで,控えめに……ということは思っていました。
中川氏:
ところが最初はそうでもなくて,ひゅ〜ストンが目立つ感じになっていたので……1000円でも良かったんじゃ? みたいな笑い話はしていました。
石川氏:
でも,やっぱり気軽に買えて気軽に遊んでもらいたいですから。
中川氏:
ダウンロード専用の場合,やっぱり1000円……というか4桁の金額になると高い印象があると思うんです。王だぁ! は1000円だったんですけど。
石川氏:
そもそも,この値段にすれば何本売れるから,いくら儲かるぞ! みたいな計算は……よく分からないですしねぇ。ざっくりとは考えますけど。
中川氏:
とくにポイソフトが作っているようなものだと,本数の予測が難しいんです。
4Gamer:
それは何となく想像できます(笑)。
石川氏:
それに,そこで悩むぐらいだったらゲームを作るほうに時間を使ったほうがいいですからね。この規模ですし。
4Gamer:
なるほど。
では,こういうゲームで,しかも低価格で販売するマーケットという意味で,スマートフォン市場へのご興味はありますか?
僕はとくに考えてないですね。
石川氏:
僕もないですね。
4Gamer:
既存作品の移植ということも?
中川氏:
そもそも人手がありませんから,誰かがやってくれるというのであれば,お願いしますという感じで(笑)。
石川氏:
それに,コントローラで押すゲームを作っているので,それをスマートフォンで再現できるのか? ということに,懐疑的な部分もあります。操作するときに画面を指で隠す形になるのが,好きじゃないんですよね。
4Gamer:
マンションパーカッションなんかは,とくにスマートフォン向けっぽいイメージがあったんですけど,全然そういうことは考えていなかったと。
石川氏:
ええ。タッチして鳴らすより,ボタンを押して鳴らしたい派なんですよ。あと,スマートフォンだと途中で電話がかかってきて割り込まれるかもしれないじゃないですか。それがすっごくイヤなんです。
4Gamer:
専用機なら確かに邪魔されませんね。
中川氏:
あとは,コストをかけて移植なりをやったところで,そんなに儲かるのかな? という気がするんですよ。
石川氏:
だいたい,今から参入したって遅いでしょうし。
4Gamer:
では,当面は3DSに注力していくということですか? 専用機にも,ほかの選択肢はあると思いますが……。
中川氏:
それもとくに考えてないですね。
4Gamer:
タイトルごとにプラットフォームを検討しているということでもなく?
中川氏:
ええ。そういうことではありません。
石川氏:
その理由の一つは,機材を持っているからです!
中川氏:
例えばほかの機種に向けて何かを作ろうとなると,その期間,使わない機材というのが出てきてしまうんですよね。
石川氏:
買ったら使わないともったいないじゃないですか。
せめて元を取るぐらいまでは。
4Gamer:
ですよねー。
もうお聞きするのも野暮かもしれませんが,ソーシャルゲームなどへの興味は……?
石川氏:
他業種って感じで見てますね。
最近スイーツがはやってるよね? って言われても,「あー,売ったらええ売ったらええ」「食ったらええ食ったらええ」って感じじゃないですか。「関西ではこんな芸人さんが人気です」って聞かされたときの,「ほぉー,出たらええ出たらええ」という(笑)。
まあ,コンシューマっぽい作りのソーシャルゲームが出ていることも知っているんですけど,とにかく電話がかかってくる機械でゲームはちょっと……という派なんで。
4Gamer:
結局はそこなんですね(笑)。
面白いことを考えて褒められたい
好きなゲームを作って暮らしたい
4Gamer:
先ほどからお話をうかがっていると,本当に自由だなぁと思うんですが,会社として目指していることはありますか?
株式会社ですからねぇ……やっぱり上場! とかそういうことですよね? 目指している体はとりますよ(笑)。
……まあ,食い扶持があればいいんですけど。
中川氏:
株価だとか上場だとかそういうのは,目標としては一番下かもしれない。
4Gamer:
こう言っては身も蓋もないんですけど,今の時代,食い扶持を稼ぐためにゲームを作るというのは,あまり効率が良くないとも思うんですよ。
中川氏:
悪いですね。
石川氏:
でも,ゲームが好きですからねぇ。
4Gamer:
好きなゲームを作って食い扶持が得られれば,それでいい,という?
石川氏:
本当にそれだけですねぇ。
4Gamer:
そのモチベーションは,どこから生まれるんでしょう?
中川氏:
面白いことを考えたら,人に褒めてもらいたいじゃないですか。
石川氏:
それをアウトプットしたいんですよね。
中川氏:
承認欲求というんですかね。自分達の考えたものをいろんな人に知ってもらいたいし,ちゃんと褒めてもらいたいんです!
石川氏:
そのためには,ソフトとして一応はちゃんと出来上がったものを出さなければいけないという部分は,強く思っています。
中川氏:
出来が悪いと,笑ってもらえなくなりますからね。さっき,「褒めてもらいたい」と言いましたけど,もっと砕いて言うと,「笑ってもらいたい」んですよ。ポイソフトの設立理念にも,「関わってもらう人を笑顔にしたい」というものがありますから。
……ここに「絶対に笑わせてやる!」という強い意志を隠しているんですけどね?
4Gamer:
それは凄く素敵な理念ですねぇ。
石川氏:
笑いが好きなので……。
中川氏:
設立理念のところに書いてあるよね? 確かどっかに。
石川氏:
どっかに書いてあるはず。でも,公開はしてないんじゃないかな? 分かんないけど。
4Gamer:
ええと……。それでは例えば,ゲームが大ヒットして何百万本もダウンロードされて,一気に大金が! となったときに,やってみたいことはありますか?
石川氏:
それはもう,「Minecraft」のMojangみたいに,立派な社屋を建てて,ブログで公開するんじゃないですかね。
4Gamer:
ひどい(笑)。
中川氏:
一応僕らは毎年最初に,今年の抱負を立てるんですよ。今年は,「役員ボーナス,1人1億!」というもので。
石川氏:
目標はでっかいほうがいいんです!
4Gamer:
ちなみに去年は……?
中川氏:
デザイナーは,どこかに依頼されて個展を開くと言ってましたね。
石川氏:
あ,あと自社ビルを建てるという目標もありました。
中川氏:
叶ってないですけど。
石川氏:
すんでのところで叶わなかったんですよ。
4Gamer:
惜しかったですねぇ。
石川氏:
本当に紙一重のところで。
中川氏:
真面目な話をしようよ!
まあ,会社組織である以上,儲かるに越したことはないですし,儲かれば会社を大きくしたいというのはあります。
中川氏:
でも,基本はポイソフトらしいと思ってもらえる,楽しんでもらえるゲームをいっぱい作れたら,それはそれで幸せなんですよね。
石川氏:
たぶん僕らのほかにも,「こういうゲームを作りたい,けど踏み出せない」という人は大勢いると思うんです。でも普通にサラリーマンとして働いていると,そういう思いより生活が大事になったりして,なかなか……ね?
4Gamer:
そうですね……。
ちなみに社員を増やす計画などはないんですか?
中川氏:
人手はいつだって欲しいんですけど,現状,回ってしまっているというのもあって。で,僕らは身内みたいな感じでやっているんで,例えばすごく給料が安くても「まあいいや」ってなるんですよね。でも,新しく人を雇おうとなると,そういうわけにはいかないじゃないですか。
石川氏:
ちゃんとしないといけないんです。で,ちゃんとすると……けっこうお金がかかるんですよね。いや,現状ちゃんとしてないってわけじゃないですよ? ちゃんと帳簿もつけてますし。ただ,普通と比べて給料が安いとか,そういうレベルのお話で。
中川氏:
会社勤めしていた頃のほうが,給料は良かったんですよね。
ただ,今はひたすら好きなことをやって,それで暮らしていけるだけのお金をもらえて,しかもプレイヤーの方達にも近い場所で評価してもらえるような感じで,これが心地良いんです。
4Gamer:
本当に今の環境がお好きなんですね。
中川氏:
ええ。なので,例えば新卒採用をして,「この輪に入れよ!」みたいなことは言いづらいですよね。
石川氏:
僕だったら2か月で辞めますね。
でもまあ,そういう必要が今後生じるんであれば,せめてもうちょっとちゃんとした規模の会社にはしておかないといけないでしょうね。
4Gamer:
では例えば,インターンなどは……?
中川氏:
学ぶところあるかな……?
石川氏:
基本,自習。プログラマーは自習するしかないんです。
中川氏:
うちの社長の理念がこれです。
石川氏:
まあ,疲れない程度に,ですけどね。プログラマーは疲れると失敗が多くなりますから。
4Gamer:
まとめると,会社の目標は当面,現状維持ということでよろしいんでしょうか?
次は大作RPGで100万本を目指すぞ! とかでもなく。
中川氏:
まあ,売れたらいいけど,売りたいという感覚でゲームを作ったり企画を立てたりっていう発想はないんです。
石川氏:
社長としては「会社を成長させていかなければいけない!」と言わなきゃいけないんでしょうけど,個人的にはプログラマーとしてゲームを楽しく作れれば,それでいいんです。ほかの会社と一緒のことをしてもしょうがないですしね。
中川氏:
確かに,ほかとの差別化というのは,強く意識してますね。
思いついたことがほかと違ったら,これは行ける! って思いますから。
石川氏:
逆に,誰もが思いつくんだけど,あえてやらないようなことも「よし,やってやろう!」みたいな。
ゲームを作るのが好きだから,
できることなら一生続けていきたい
4Gamer:
ちなみにマンションパーカッションの次の作品は,もう作り始めているんでしょうか?
ちょうど考えてるところですね。
基本的に半年に1本はリリースしたいんですけど,企画によって開発期間は変わりますし。
4Gamer:
例えばこれまで,もの凄く壮大な作品を思いついてしまって,それを作る体力がないということで諦めてしまったことなどはありますか?
石川氏:
いや,幸いそういうのはないですね。制限の中で最高のものを作りたいという思いはあるんですが,一方で,制約がないと作りづらいというのもあって。
中川氏:
やっぱりどれだけのリソースで,どれだけの期間が必要になるかは計算しますしね。僕なんかはシミュレーションゲームが好きなので,あれをやりたいこれをやりたいという思いはありますけど,それが現実的じゃないというのも見えるんですよ。
極論ですけど,この人数で「グランド・セフト・オート」を作ろうとしたら,何年あっても足りないじゃないですか。
4Gamer:
確かに。
石川氏:
その代わり,王だぁ! はグランド・セフト・オートを王国に固定したらこういうことだ! という思いはあるんですけどね。王様は自分では動かないから,画面1枚でいいなと割り切ってますけど,裏側では……? という。
だから壮大なものを目指しても,なるべくサイズをコンパクトなものに落とし込もうということは考えています。
中川氏:
王だぁ! みたいなものをRTSのように……みたいな話は会議で出ますけど,僕らの規模じゃ無理だねというオチが必ずつくんで。
石川氏:
王様をクリックすると王様の視点で,GTAみたいに歩いて行って……とか。ああいうオープンワールドの世界でシミュレーションゲームが思い通りに動いたりしたら,きっと面白いだろうとは思うんですけど……無理なものは無理ですから!
4Gamer:
では例えば,そういう「王だぁ!2」を作らせてほしいという会社が出てきたら,どうしますか?
石川氏:
どうぞどうぞ!
4Gamer:
あ,あまりそこら辺にこだわりはないんですね。
石川氏:
まあ,「見せてね?」とは言いますけどね。でもそれぐらいが理想といえば理想かもしれない。
中川氏:
作りたいという人が出てくるのであれば,やっぱりそれは嬉しいと思いますしね。
石川氏:
理想を言えば,全部社内でできたほうがいいかもしれないですけどね。
例えば,売る売らないは別として,ダウンロード配信規模のゲームを今の人数+数人で年に1本ぐらい作って,それを見て社内にある別の大きなチームが広げるという作り方ができれば,と。うちに限らず,こういう方法が採れれば,大きなチームが成功しやすいんじゃないかな? と思うんです。普通,大きなチームだけで仕事をしていると,小さなチームと違って方向転換がしにくいから,行き詰まりが見えてきたとしても止まれなかったりしますし。
要は,僕らは種を作ろう,と。
幅広い発展性のある種だけを作っておいて,それを見た人が,広げて何か作ってくれてもいいんですよ? という気持ちは持っているんです。もちろん僕らに余力があれば,広げるほうをやってみたいとも思うんですけど。
石川氏:
それが社内でできるんであればね。
中川氏:
つまり理想は,種を育ててくれる部署をポイソフト内に作る,と。で,種を作る部署は今みたいな規模で,ひたすらダウンロードソフトを作り続けるという。
4Gamer:
実は4Gamerで連載を持っている,男色ディーノ選手が,「ポイソフトのゲームは,実際にゲームの中でできることは少なくても,妙に可能性を感じられる」という話をしていたことがあるんです。
石川氏:
ありがとうございます。そのとおりだと思います。
中川氏:
泣く泣く切ってる部分はいっぱいありますから。
石川氏:
意図的に,将来復活させるために今はここを切ろう! とか思っているわけではないんですけど。
4Gamer:
結果として生まれているのが種の部分だから,きっと名残りで花や実の部分まで見えるような気がするのかもしれないですね。
では,ポイソフトは最終的に,どんな形になっているのが理想なんでしょうか?
石川氏:
最終的には今のメンバーで小料理屋をやりたいですね。
4Gamer:
えっ?
中川氏:
そういう話も出ますね。あとは,自分達の育てた弟子に会社を継がせて,社長室で遊んでるような形とか(笑)。
自分達が欲しいゲームを,誰かが作ってくれると楽隠居できるんじゃないか? と。
石川氏:
でも結局,作るのが好きなんですよね,僕達は。
中川氏:
そうなんですよね。
だからできることなら,一生,何かを作り続けていたいんですよね。数十年後に若者達から,「じじいはもう現役を引退しろ」と言われたら,ポイソフトで老人ホームを作って,ゲーム開発に関わったことのある老人だけを集めて,老人向けのゲームを作りたいですもん。
4Gamer:
あ,それはなんだか楽しそうですね。年を取ったあとにもちゃんと楽しみが待っているような気もしますし。
石川氏:
まあ,そんな感じの会社なんです。
4Gamer:
それでは月並みですが,最後に読者へのメッセージをお願いします。
石川氏:
前のめりの経営で勝負に出ているんです! ……みたいな感じですか?
4Gamer:
それが本当に伝えたいことであれば……。
石川氏:
やめておきましょう(笑)。
そうですねぇ。少しでもポイソフトに興味を持ってもらえたら,嬉しいです。そして興味を持った暁には,僕達が作ったゲームをうっかり手にとってください! お安くなっておりますので……キミの財布もそんなに傷まないよ!
中川氏:
心に傷は残るかもね……(笑)。
4Gamer:
ありがとうございました(笑)。
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