インタビュー
シューティングゲームの未来に芽吹く種を植えたい。「カラドリウス」に込めた(脱衣だけではない)思いを開発スタッフに聞いた
開発スタッフのキーマンである駒澤敏亘氏と星野 仁氏に,現在のシューティングゲームが置かれた状況から,本作に込めた“願い”にも似た意気込みまでをたっぷりと聞いたインタビューの模様をお届けしよう。
モス代表取締役 駒澤敏亘氏。カラドリウスでは,プロデューサーとして大枠のコンセプト作りなどを担当 |
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。「カラドリウス」は,モスさんが久々に自社販売されるタイトルですよね。私ぐらいの世代には,モスさんというと「雷電」シリーズのイメージがあるのですが,若いプレイヤーの中には初めて名前を知ったという人もいるかと思います。まずは会社の歴史を改めてご紹介いただけますか。
駒澤敏亘氏(以下,駒澤氏):
はい。もともと私は,雷電シリーズを生んだセイブ開発の社員として開発に関わっていたんですが,退職して1993年にモスを設立しました。ですからもう創設20年ですね。
セイブ開発在籍時はアーケードゲーム全盛期で,数多くのタイトルを開発した経験がありましたから,モスを設立してからもしばらくは,アーケードゲームの開発がメインでした。
4Gamer:
モスの公式Webサイトを見ると,最近はアーケード以外のタイトルも多数手がけられていますよね。
駒澤氏:
モスはソフトハウスですから,受託開発,いわゆるデベロッパ業も行なっています。それがアーケードやコンシューマゲームの場合もあれば,メダルゲーム,モバイル,遊技機系などもあるという感じですね。受託業務というのは定期的に入る仕事ではないので,その合間をうまく使って自社製品を作っています。
4Gamer:
モスの名がプレイヤーに知れ渡ったのは,2005年リリースの「雷電III」だと記憶しています。セイブ開発を離れた駒澤さんが,10年以上の空白を置いて再び雷電を手掛けることになったきっかけは何だったのでしょうか。
駒澤氏:
もちろんモス設立当初から「シューティングゲームを作りたい」という気持ちはありましたが,当時はシューティングというジャンルが下り坂になっていたので,他社さんのタイトル開発を請け負うことになっても「シューティングやりましょう!」という感じにはなりづらかったですね。独立したことで,当面の稼ぎも考えないといけませんでしたから,強く主張するわけにもいかず……。
4Gamer:
まずは会社を継続させないと,作りたいものも作れなくなりますよね。それで時間が空いてしまったと。
駒澤氏:
ええ。再び「雷電」と出会うことになったのは,タイトーさんのTYPE-X基板を使ったタイトルを制作することになったからなんです。その前から,「雷電」の続編を作るなら,既存の作品と似通ってしまう2Dではなく,3Dで作るべきだ思っていました。TYPE-X基板なら3Dシューティングを開発するのに十分だろうということで,セイブ開発さんに企画を持ちかけて,それが実現したというわけです。
星野 仁氏(以下,星野氏):
私は15年ほど前にモスに加わったのですが,世代的にゲームと言えば(アーケードの)シューティングなんです。雷電シリーズはもちろん,東亜プランのタイトルなどもよく遊んでいましたから,入社時はやはりときめきましたし,「雷電III」「IV」に関わることができて嬉しかったですね。
“様式”に収まらないシューティグゲームを目指した結果が「カラドリウス」だった
4Gamer:
先ほども少し触れましたが,カラドリウスは,自社販売のタイトルとしてはかなり久々となりますね。
駒澤氏:
そうですね。自社タイトルとしては約5年ぶりです。企画が立ち上がったのは,4年くらい前のことですね。
星野氏:
スタートはXbox 360の「雷電IV」をリリースした直後だったと記憶しています。ずいぶん昔と思われるでしょうね(笑)。そこから少しづつ,作っては壊しを繰り返してきました。
4Gamer:
当初のゲームシステムや世界観は,どのようなものだったのでしょうか。
星野氏:
企画の初期段階から,ゲームのコンセプトはほぼ出来上がっていました。キャラクター性を前面に押し出すことや,多数の武器がレベルアップしていくシステム,ゴシックホラーという世界観などといった部分は現在と大きく変わってはいません。
自機のダメージがキャラクターに影響を与えるという仕組みも企画当初から入っていましたね……「羞恥ブレイク」という名称まではありませんでしたが。駒澤がコンセプトの大枠を作って,私が企画の細部に肉付けをしていったという感じですね。
4Gamer:
羞恥ブレイクのアイデアはどこから出てきたんでしょうか。シューティングゲームと脱衣がどう結びついたかには非常に興味があります(笑)。
駒澤氏:
“脱衣”ではなく,あくまで“ブレイク”ですので,そこはお間違えなく(笑)。でもシューティングの歴史を紐解くと,クリア時に水着の女の子のグラフィックスが見られるといった,プレイヤーに対する“ご褒美”は昔からあったと思うんですよね。オールドファンの方には,彩京さんやビデオシステムさんのゲームを思い出してもらうとわかりやすいでしょうか。
4Gamer:
あぁ,いくつか思い当たるタイトルがありますね。
ここはまじめな話ですが,脱衣云々が先にあったのではなくて,シューティングをプレイしてもらうため,興味を持ってもらうために,どんな要素を入れればいいかを考えた結果が羞恥ブレイクなんです。
私たちの世代がかつて夢中になってプレイしていたシューティングゲームは,新しい遊びでした。ですが今となっては,シューティングという遊びの様式自体がノスタルジックに見えてしまうんです。
もちろん時代の違いは理解していますが,他社さんからリリースされるシューティングゲームを見ていると,正直なところ,あまり響かない。そもそも完全新規のタイトルが少ないですし。「あの◯◯がHD版となって登場!」と聞いて,懐かしさを感じることはあっても,「おお,どんなゲーム内容なんだろう!」という気持ちにはならないですよね。
4Gamer:
私たちのようなゲーム好きを自認する人同士の会話ですら,最近ではシューティングが話題にあがること自体少ないと感じます。
駒澤氏:
そもそも,シューティングゲームのプレイヤーは,次のステージや武器のパワーアップの限界など,“この先が見たい!”という欲求からゲームを遊んでいたと思うんです。それを喚起するゲームの力強さが年々衰えていると感じていたので「形は変わるかもしれないけど,次の展開が見たくなる要素は何だ」と考えた結果,生まれた要素の1つが,羞恥ブレイクです。
4Gamer:
そのシューティングゲームの力強さが衰えてきた原因というのは何だと思いますか。先ほど,「時代の違い」という言葉は出ましたが。
駒澤氏:
時代もありますが,それに加えて作る側の姿勢でしょうね。シューティングゲームというのは,良くも悪くも手軽にコーディングできるジャンルだと思うんですよ。昔は手軽なだけいい作品がたくさん生まれましたが,ほかのジャンルでリッチなタイトルが増えるにつれて,雑な作りのタイトルが目立つようになってしまった。予算がほかのジャンルのタイトルに比べて少なく限られがちという理由もあるとは思いますが……。
4Gamer:
キャラクター性とか,初心者向け要素といった付加価値が避けられて,核となるシューティングシステムだけが進化していくという“清貧思想”みたいなものは感じますね。それがプレイヤーに支持されたりもしますし。
駒澤氏:
そこは私たちもシューティングゲームを作っている会社として否定できないところです。シューティングゲームという“様式”を買う人向けのマーケットになってしまった,ということですよね。いいか悪いかは別として。
でもカラドリウスでは,その枠から踏み出すことを目指しています。本来のシューティングファンにも楽しんでもらいつつ,別の場所にいる人,簡単にいうと若い人たちに遊んでもらうにはどうしたらいいかを考えて開発しました。
4Gamer:
新しい層のプレイヤーをターゲットにするためとはいえ,これまで開発してきた雷電とはかなり毛色が違うタイトルを手掛けることになったわけですが,違和感はなかったのでしょうか?
むしろ,雷電でできなかったことができる,ということが嬉しかったですね。伝統のあるタイトルですと,なかなか思い切った変革はできませんが,新規タイトルなら自由です。
シューティングゲームというジャンルは本来とっつきがいいはずなんですけど,これだけさまざまなゲームが世にある中ですから,まず手に取ってもらう工夫をしないと始まらない。そのフックとして,世界観やシナリオ,羞恥ブレイクといった,雷電にはない要素を考えていきました。
4Gamer:
なるほど。確かに人気シリーズの開発ほど窮屈になる面はあるのかもしれません。
星野氏:
もちろん,モスを知っている人にとっては「雷電のモス」がリリースする新作というイメージでしょうから,シューティングゲームとしてのクオリティを保たなくてはいけません。新規プレイヤーと既存プレイヤー向けの要素が両立する形を試行錯誤するうち,いつの間にか4年が過ぎていました(笑)。
駒澤氏:
ずっと武器を作っていたよね(笑)。
星野氏:
でしたね(笑)。実は,武器のシステムは3,4回作り直しているんです。コンセプト自体は固まっていたんですが,それをどう表現するかの模索に相当な時間がかかりました。武器の種類が多ければマニアックになるし,使い方が難しければハードルは高くなりますから。一度試してみたのは,武器のパラメータをいじることで,同じ武器なのにホーミング性能や爆風が付く,といった感じに変化するシステムですね。
4Gamer:
あ,それはちょっと面白そうですね。
星野氏:
アイデアだけ聞くと面白そうに思えますよね(笑)。でも実際に作ってみると,パラメータの差による性能の違いが出しにくかったり,判断材料が多すぎてプレイヤーが戸惑ったりで,うまくいかなかったんです。普段シューティングゲームを遊ばないユーザーからは,「何が違うのかわからない」という声もありました。
コアなシューティングゲーマーの場合は,武器の微妙な違いでスコアを稼ぐための攻略方法が変わってくるんですが,ライトな人はとにかく先に進みたい,という意識が強いんですね。機体ごとの個性付けや,やり応えのバランスには,かなり手間をかけています。
4Gamer:
4Gamerに掲載した記事の反応を見ると「興味はあるけど難しそう」と思っている読者が多いようです。
星野氏:
間口はできるだけ広くしたつもりなので,難度は気にせずにまず触ってほしいです。
現代のシューティングゲームというと,すべての弾を避けて,より高いスコアを稼ぐことが至上命題となりかけていますけど,そこには疑問を感じています。
先ほど駒澤も言ってましたが,シューティングに感じる最初の欲求って,「この先が見たい」だと思うんです。そこをゲームの仕組みで萎えさせてしまうことはコンセプトに反するので,難度設定は豊富に用意しました。中には敵が弾を撃たない,弾に当たってもミスにならないというレベルもあります。
それでクリアしたからダメだというつもりはまったくありません。先のステージを見たりボスの攻撃を見たりということだって,十分ゲームの面白さです。
4Gamer:
ここまでお話を伺って,幅広い層に向けて作られたタイトルということは強く感じられたのですが,そうなると,Xbox 360でのリリースという点には少し疑問が湧いてきます。
単純に日本での販売台数が少ないというのに加えて,Xbox 360ユーザーにはコアゲーマーというイメージがありますから。
駒澤氏:
弊社の開発エンジンのベースがXbox 360であることが一番の理由です。純粋にゲームのクオリティを考えた場合,一番いいものができるはずと判断しました。
それに加えて,まさしく質問にあったコアなシューティングゲームファンの存在があります。間口は広げつつも,そういったファンの方たちをないがしろにするのではなく,このタイトルを真っ先に遊んでもらいたいという思いがあるんです。
- 関連タイトル:
カラドリウス(Caladrius)
- 関連タイトル:
カラドリウス エル・シエル
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