インタビュー
スクエニ内外で話題を呼んだ(ザワっとした)マフィア梶田の「新生FFXIV」連載から1年。まさかの「吉田直樹×マフィア梶田」対談が実現
趣味嗜好から探る,吉田氏のクリエイター性
4Gamer:
ここまでMMORPGとしてのFFについて話してきましたが,個人的に吉田さんのファンタジー観もずっと気になっているんですよ。
FFといえば,間違いなく日本を代表するファンタジー作品の一つじゃないですか。人によってファンタジーのルーツはいろいろだと思うんですけれども,日本ではFFがそれにあたるという人も多いと思います。そして現在,FFを手がけている吉田さんにとっての,ファンタジーは何なんだろうと。
吉田氏:
僕はやはり,「指輪物語」やアーサー王伝説ですね。「指輪物語」は中学1年生のときに触れたのですが,最初は全然ワケが分からなくて,「日本語なのかこれ?」と。でも,細部は分からずとも強烈な魅力があったので,何回も読み返したんです。だからピーター・ジャクソン監督の映画版を観たときは,「よくぞここまでやってくれた!」と思いました。
4Gamer:
映画「The Lord of the Rings」の3部作は素晴らしい出来栄えでしたねぇ。
吉田氏:
そういうベースがありつつ,ドラクエの1〜3がゲームとして「イイとこ取り」していったのは,本当にすごいと思ったんです。ファンタジーのある意味難しい部分を噛み砕いて分かりやすくして,あれだけのストーリーをゲームとして体験させてくれたドラクエは,指輪物語と前後して僕の中で衝撃でした。それに加えて,初代FFで橋を渡ったときにタイトルが出てくる,あの映画的な演出。この二つが,僕の中に漠然とできあがりつつあった“ファンタジー”をまとめてくれたという印象です。
4Gamer:
やはり,ゲームで触れたファンタジーから大きな影響を受けているわけですね。
吉田氏:
そのあとは松野さんの「オウガバトルシリーズ」に触れて,「僕が最終的に求めていたのはこっちだ」と感じました。ドラクエやFFともまた違う,ガチなファンタジーというか……。
4Gamer:
いわゆる“ハイ・ファンタジー”ですか。
吉田氏:
オウガは「指輪物語」だったり,世界各国の神話やファンタジーの集大成になっていると感じて,「これはすごい」と。あとは,田中芳樹さんの作品もそうです。世界の歴史や戦争をうまく物語に取り込んでいけるのは,ファンタジーとして強いですね。
4Gamer:
なるほど。では,ファンタジーへの“こだわり”みたいなものはありますか?
吉田氏:
僕の好みですが,ファンタジー世界にはあまりメカを出したくないほうです。SFとの境界線が曖昧で。バランスで言うと,「天空の城ラピュタ」までが限界なのかな……。ラピュタはベースに古代文明という設定があり,ロボットにしても有機的に落とし込まれています。それにポムじいさんが飛行石のことをちゃんと解説してくれて,短い説明なのですが,その説得力が僕の中では大きかった。ラピュタはほとんどのセリフを空で言えるくらい観てます……。
だから新生FFXIVの世界観は,帝国の科学力が僕の中ではちょっと行き過ぎなんです(苦笑)。あれは,旧FFXIVから設定があった以上どうにもならないので,アシエンの存在を裏に置いて,FFシリーズでお馴染みのアルテマウェポンやオメガを絡ませることで緩和していくように気を使いました。
4Gamer:
真面目に考えると,あの文明格差は竹槍で戦闘機を落とすような状況ですよね(笑)。ゲームとはいえ,そこはやはり違和感が……?
吉田氏:
「戦艦アグリウス」だとか,エオルゼア勢はどう戦うんだコレ……と。だから……ややネタバレになってしまうかもしれませんが,帝国には内乱とか,皇帝交代とかいろいろ起きます(笑)。
4Gamer:
おっと,それはこの先の展開が気になりますね。
吉田氏:
あの魔導技術で一枚岩になられてしまうと,あまりにもリアリティがなくなって空しくなっちゃうと思いますので……。アラグ文明くらい古代で突き抜けたテクノロジーなら,設定として読めるのでアリかなと。
4Gamer:
ファンタジーはファンタジーとして,カッチリ世界観を固めたいということですか。
吉田氏:
はい。だからチーム内のアートスタッフから「吉田はSF嫌い」と言われるんですが,決して嫌いではないんです。むしろ「スターウォーズ」はマニアなくらい大好きなので。ただ,スターウォーズはSFとして世界観が固まっているから好きなんです。
4Gamer:
“説得力”ですよね。「あるべくしてあるんだ」と納得させてくれれば,問題ないはず。
吉田氏:
ええ。だから,「大迷宮バハムート:真成編」では,ダラガブの動力なんかについても触れたりしましたし。
4Gamer:
なんだかお話を聞いていると,吉田さんって“物語”に対するこだわりが強いですよね。MMORPGと仕事に一辺倒なイメージでしたが,それに関わる趣味などあるのでしょうか?
吉田氏:
昔から本と映画ですね。最近,映画館に行けていないのが切ないですけど。その分,大っ嫌いな飛行機に乗る機会がやたら増えてですね(笑)。
4Gamer:
ああ……(笑)。
吉田氏:
2014年は半分くらい海外にいました。移動中の飛行機では眠れないので,仕事をしているか,映画を観ているかの二択です。だから視聴本数はむしろ増えている気がします。でも……やっぱり観るなら映画館に行きたいですね。
あとは,ミステリ小説ですね。とくに超本格モノが好きです。ミステリ好きだった母親の影響ですが,家に3千冊くらいあるんじゃないかなと思います。
4Gamer:
それは相当な読書量ですね!
吉田氏:
ええ,部屋が一つ潰れています。
4Gamer:
自分も昔から読書が趣味なので,とくに好きな作家さんなどお聞きしたいんですけれども……。
吉田氏:
最近の方の本もたくさん読みますが,僕の時代のミステリといえば島田荘司さんや,綾辻行人さん……あとは,母親が古典好きでアガサやカー,ルルーとか……片っ端から全部読んでいます。森 博嗣さんも大好きで,あの方の本はデビュー作から全部初版で買っています。
4Gamer:
でも,言われてみれば新生FFXIVに関しても,ストーリーやイベントにミステリ的なギミックが多かったような気がします。
吉田氏:
そういっていただけると嬉しいです。旧FFXIVのメテオ計劃のあたりは素案を僕が書いて,当時のシナリオチームに詳細プロット化してもらい,最後にテキストに落ちた時点で総チェックして,徹底して伏線を仕込むことで“嘘”にしないよう気を付けていたんです。
ミステリは,最後のページを読んだときに「そんなの分かるワケねぇだろ!」と言われたら負け。結末で「やられた!」と感じさせないといけない。
だから,真相を知ったあとに細かなところを思い返すと,「ネールがメガフレアを使う」だとか,「技のエフェクトが竜の形をしていた」とか。「御身の力を我に」というセリフも,ダラガブの狂信者に見えて,実はその内側にいる“神”に祈りを捧げていたとか。スタッフもとても真剣にそうした伏線をゲームにしてくれました。
旧FFXIVを最後までプレイしてくれた方がバハムートの出現でビックリすると同時に,振り返ってみたときに「やられた!」という気持ちを味わっていただきたかったというのが大きいです。
4Gamer:
もしかして吉田さん,ミステリー小説でも自分が答えを導き出すまで結末を読まないタイプじゃないですか?
吉田氏:
はい。僕は解決編の直前で手を止めるタイプですね(笑)
4Gamer:
やっぱり(笑)。負けず嫌いだと言ってましたから。
吉田氏:
伏線やキーのおさらいを自分の中でやって,論理を積み上げて納得してから解決編を読んで答え合わせをします。そのあとでもう1回最初から読み直し,作者が仕掛けた伏線を全部確認します。
4Gamer:
しゃぶり尽くしますねぇ。
吉田氏:
東野圭吾さんの本に「どちらかが彼女を殺した」という小説があるんですが,最後まで犯人が明かされないんです。最後に「私が殺しました」というセリフがあるのに,誰が発言したのか分からない。明記されていません。のちに文庫化した際にも加筆はなく,せめてもということで「袋とじ解説」が付いたんですが,そこでも犯人の名前は直接明かされていないんです。ああいうチャレンジも好きですね。
4Gamer:
吉田さんも,かなり挑戦的ですよね。それが新生FFXIVの開発や運営スタイルにモロに出ているような(笑)。
吉田氏:
旧FFXIVは「FFらしくない」と言われましたし,自分でプレイしてみてもそう思いました。「じゃあFFXIVにしかやれないようなことをしよう!」というのが,メテオ計劃の発端です。あれもパッと思い付いたようなものではなくて,FFらしくないものをFFにするために……という方向性でとにかく分析して理詰めで考えて……最後は珍しくテレビの特番を見ながら仕事をしていたら,思いがけないヒントになって全部繋がった感じになりました。第七霊災で世界を壊し,それから再生するというアイデアが出てきたときには,独りで興奮してました(笑)。
4Gamer:
あれには本当にド肝を抜かれました。末期は世界が終わるという絶望的な雰囲気に満ちていて,街にモンスターが攻めこんでくるし,異常に強いし(笑)。
吉田氏:
でも……あれは,終了が決まっているMMORPGじゃないとできないですから。禁じ手ですね(笑)。
「ゼルダの伝説」をMMORPGにするという野望(?)
4Gamer:
それでは,時間も迫ってきましたので最後に一つだけ。現状,新生FFXIVは十分なプレイヤー数も確保できていますし,アップデートも充実していて絶好調と言っていい状態だと思います。なので,これから目指すべき到達点というか……どこまで成長するコンテンツなのか,吉田さんの展望をお聞きしたいです。
吉田氏:
少なくとも2回目の拡張パッケージである「4.0」までは見通しができていて,そこまでに広げた設定をキチンと回収することを目指しています。その先は,いまよりは「ブッ飛んだ」ことをしてみたいなと。
4Gamer:
ブッ飛んだこと……吉田さんが言うと,冗談じゃ済まないような(笑)。
吉田氏:
それこそPvPサーバーじゃないですが,もう少しワールド全体を使った遊びとか。「このワールドはダラガブが落ちてきて,リセットされます」とか(笑)。
4Gamer:
いやいや,そんなん炎上待ったなしじゃないっすか!(笑)。
吉田氏:
いや,たとえばの話です。僕はリセットのかかるMMORPGはアリなんじゃないかとずっと思っていて,もしも「ゼルダの伝説」をMMORPGにするんだったら,是非ともやらせてほしいなと思っていたりするんです。
具体的にはリンクやガノンもプレイヤーが操作するシステムで,それぞれのキャラクターがワールドに一人しかいない。それでログインするとランダムで,「やべえ,今日は俺がリンクだ!」となるような(笑)。
4Gamer:
おお,それは面白いかも……!
吉田氏:
一つのワールドには700人くらいしか入れないんですが,ログインするとみんな誰かしらのキャラクターに割り当てられている。ガノンならラストダンジョンでリンクがくるのを待っていてもいいし,いきなり出て行ってそのあたりのプレイヤーをなぎ倒してもいい。魔王なので(笑)。
そうなるとプレイヤー達はガノンを倒すため,自分たちでは無理だからリンクを探そうとする……。それで,みんなでリンクを呼びに行くんですが,リンクに会ったら会ったで「トライフォースが,まだあと一つ足りない!」という状況で……。「じゃあ,みんなで探そう! で,誰のクエストやればいいんだ?(笑)」と。
4Gamer:
(笑)。いやー,それは熱い展開ですねぇ。
吉田氏:
リンク役のプレイヤーが途中でログアウトしたら,次にログインした人がリンクを引き継ぐ。一定時間でキャラクターの強制交代もあって……。最終的にはガノンとリンクが戦って,ガノンが倒されればサーバーリセット。それからバージョンアップが行われ,世界の様子がちょっと変わってまた再スタート。これをMMORPGと呼んでいいのかどうか微妙ですけれども,ある意味で究極のRPGというか。
4Gamer:
その発想はなかったです。そしてやはり,PvP好きな吉田さんの性質がモロに反映されているシステムですね(笑)。
吉田氏:
オリジナルのゲームやシナリオでは,成立しにくいアイデアですね。プレイヤーがそもそも,ベースとなるゲームの設定を知っている方が,より深くロールプレイできるからです。ゼルダでたとえているのは,それがもっとも分かりやすいからです。オンラインゲームのネタはたくさんあって,叶えられるものは全部FFXIVにというつもりでやっていこうと思っています。
ただ,「World of Warcraft」を見ていると,MMORPGは“10年”という数字が一区切りになるのかもしれないなと思っています。同じユーザーがプレイを続けられる限界値というか,キャッチーな新作が出たり,MOBAみたいなものが流行してそちらへ流れていったりで。
4Gamer:
エンターテイメントである以上,流行り廃りからは逃れられないですよね……。
吉田氏:
新生FFXIVもそうなったとき,10年間運営したゲームの根幹を入れ替えるというのは現実的にはとても難しい。では,どうやって新鮮さを保ち続けていくか……いつか考える日が来るんだろうけど,今はまだやれることや,やりたいことがあるから,ま,いいかと割り切っています。ひとまずは後先を考えず,まずは10年目指して突っ走ろうと思います。そのあとは,それが近くなってから考えればいいかなと(笑)
4Gamer:
それだけ遊べたら,さすがに満足じゃないでしょうか(笑)。
吉田氏:
その先は,新生FFXIVで満足していただけたら,もっと驚きのあるものをやりたいです。「新生FFXIVがあったからこそ,この作品ができたんだ」というものをやりたいです。
4Gamer:
吉田さん,引退できないですね(笑)。
吉田氏:
まだ40歳ちょっとですし,引退する気はあまり……(笑)。「あらゆる面で,こいつには敵わん!」という開発者が出てくるまでは現役でいたいなと思います。
4Gamer:
少なくとも,新生FFXIVをやっている間はどうか!
吉田氏:
ありがとうございます。でも,ここまで軌道に乗ったらいついなくなっても,実は大して影響はないと思います。若手も含めて,開発チームは今,とてもしっかりしているので。
4Gamer:
それで「吉田あああああああああああああ!!!!」ってなるのは嫌ですよ(笑)。
吉田氏:
ゲーム内で名前をシャウトしていただけている間は,楽しく続けていこうと思います(笑)。でも,いついなくなっても思い残すことはないくらい,新生FFXIVに関しては,世界中のプレイヤーの方に支えていただきましたし,楽しく全力でやっていますので,自分は本当に幸せだと思っています。
4Gamer:
自分もプレイヤーとして,新生FFXIVとは末永く付き合っていければと思っています。本日はたいへん興味深いお話をありがとうございました!
今回の対談企画では,たっぷりと時間をかけて吉田氏と語らうことができて,筆者個人として非常に満ち足りた気持ちだ。
本文中でも語っているように,筆者はプロデューサーレターLIVEをきっかけに吉田氏の持つカリスマ性やユーザーフレンドリーな姿勢に強く興味を惹かれ,新生FFXIVがサービスを開始してからは「ライターとして,この人をもっと知りたい」という気持ちがますます強くなっていった。
実際に顔を合わせ,話してみて,嘘偽りのない気持ちとして,予想していたよりもずっと興味深く,魅力的なクリエイターだという印象を受けた。批判を恐れず,プレイヤーに自分の意図を伝えることに努力を惜しまない。確固たる信念を持つ一方で,極めて冷静に物事を分析しながら行動している。まさしく,ベテランの“冒険者”のような佇まいを感じる人物だった。
今後とも,吉田氏が新生FFXIVをどう舵取りしていくのか。“ライター”として,そして“光の戦士”の一人として注目していきたいところである。
「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」公式サイト
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